木走日記

場末の時事評論

月刊現代スクープ記事を逆スクープする〜これは朝日の出来レースだ!

 以下のエントリーの追記です。

マスメディアの無能と憂鬱〜朝日のNHK番組改変問題報告の「傲慢不遜」
http://d.hatena.ne.jp/kibashiri/20050726/1122348060
マスメディアの無能と憂鬱〜朝日は証拠として録音テープを提示せよ!
http://d.hatena.ne.jp/kibashiri/20050728/1122522706

●「朝日新聞社自身が取材資料流出に深く関与しているのではないか」に反論する朝日

 昨日(1日付け)の朝日新聞から・・・

自民役員、本社への取材対応自粛 NHK巡る月刊誌問題

 NHKの番組改変を巡って、朝日新聞社の取材記録だとされる資料が月刊誌に掲載された問題で、自民党武部幹事長は1日、党役員会後の記者会見で、事実関係が明らかになるまで、党役員が本社への取材対応を公式の記者会見を除いて自粛することを明らかにした。

 党の調査プロジェクトチーム(佐田玄一郎座長)は同日、これに先だって、朝日新聞社に対し、党所属の国会議員が取材対応を自粛することになった、とする通知書を送った。役員会は、これを受けて、自粛の範囲を党役員にすることで了承した。

 同チームは、通知書の中で、流出問題について「あたかも取材のやりとりを記録した取材資料があるということを世間に強調したかっただけの『やらせ』ではないのか」「貴社自身が資料流出に深く関与しているのではないか」などと指摘。「取材被害を受けることがないように」との理由で自粛を決めたとしている。

 月刊現代9月号は、朝日新聞の取材記録だとする松尾武・NHK元放送総局長、中川昭一安倍晋三自民党議員との一問一答を掲載した。

 〈朝日新聞広報部の話〉 朝日新聞社は、社内資料の一部が何らかの形で外部に流出した疑いがあると考え、現在調査中です。調査結果については、公表するとともに、松尾氏、中川氏、安倍氏にも速やかに伝えます。なお、自民党の「調査プロジェクトチーム」の通知書で、朝日新聞社の記者会見の目的は「やらせ」ではないのか、朝日新聞社自身が取材資料流出に深く関与しているのではないか、などとしている点は事実に反しています。朝日新聞社は取材過程を明らかにしないという原則を堅持しており、今回のような党役員による取材対応自粛の必要はないと考えており、今後とも取材を続けます。

2005年08月01日22時21分 朝日新聞
http://www.asahi.com/special/nhk/TKY200508010437.html

 「朝日新聞社の記者会見の目的は「やらせ」ではないのか、朝日新聞社自身が取材資料流出に深く関与しているのではないか、などとしている点は事実に反しています」と反論に躍起な朝日なのですが、どうなんでしょう。

 マスメディアウオッチャー「木走日記」としては、月刊現代9月号を読まないわけにはまいりません。(笑



●『衝撃スクープ「政治介入」の決定的証拠』(月刊現代9月号)を検証する

 で早速、昨日(8月1日)発売の月刊現代9月号で、話題になっているスクープ記事、「政治介入」の決定的証拠〜中川昭一安倍晋三、松尾武元放送総局長はこれでもシラを切るのか、を読んでみました。ジャーナリスト魚住昭氏の手による21ページに渡る膨大な記事でありましたが、面白かったです。いろいろなことがはっきりと見えてきてスッキリしました。

 詳細は月刊現代をお読みいただくとして、不肖・木走なりに理解できたことをここで整理しておきます。

 しかし、この現代の記事は興味深い3つのことを教えてくれています。



 ①記事タイトルとは裏腹に新事実などは一切なかった

 はっきり言って、目新しい新事実は一切ありませんでした。すでにメディアで報道されている内容を裏付けるものばかりで、私が読み解いた限り衝撃的な新事実などはいっさいありませんでした。当記事のなかでも魚住氏自身が「朝日が想定した直接的で露骨な圧力」はなかったことを認めています。

 47ページからそこの下りを抜粋いたします。

 番組改編問題の最大のナゾは政治的な圧力があったかどうか、ということだった。松尾氏の証言記録などを読めば、その答えは明らかだ。そういう意味では朝日の報道は間違っていない。しかし実際に圧力がかかった経緯となると、朝日が想定した、直接的で露骨な圧力というより、もう少し複雑な構図があったのではないかと私は考えている。

 ②やはり録音テープは存在していた!

 このスクープ記事には、理由はわかりませんが興味深いことに「証言記録」を入手とあり21ページに渡る記事文章の中で、「テープ」とは一切書かれてはおりません。 おそらくリークした朝日側との約束事でもあったのでしょうが、魚住氏は完璧に「録音」とか「テープ」という言葉を慎重に避けています。
 しかし、魚住氏は一カ所だけミスを犯しています。

 46ページからそこの下りを抜粋いたします。

 だが、取材記録を読んでおわかりのように、彼が安倍氏の言うようなひどい取材をした形跡はまったくない。
 この件で社内調査に携わった朝日新聞の幹部はこう語っている。
 「安倍さんの発言は事実に反することだらけです。まず、本田記者の取材が『夜遅』かったというのは嘘です。実際には6時すぎで、これは取材に使った車の運行記録でも確認されています。それに取材経過を録音したものを聞くと、安倍夫人が『主人は風邪で寝込んでいます』と言った事実はありません。」『ちょっとお待ちを』とごく普通に取り次いでもらっています。もちろん本田記者も『会ってもらえなければ取材拒否』だとか『右翼団体と関係あるんですね』『街宣車を回すように指示したんですか』なんてことは一切言ってません。」

 朝日新聞の幹部の発言の中で、「取材経過を録音したものを聞く」という表現がされて「取材テープ」の存在を裏付けてしまっています。「テープ」の存在を示しいるのは膨大な記事の中でここだけなのです。これは魚住氏のミスなのか意図的なものなのか興味深いところです。



 朝日新聞幹部が取材に協力していた

 これは驚くべきことなのですが、上述したとおり、この魚住氏のスクープ記事の取材自体に、朝日新聞の幹部が全面的に協力しているのです。

 これは実に重大な事実です。なぜならば、取材した本田記者以外のそれもかなり詳細に渡り取材経緯を把握しているしかるべき立場の人がこのスクープ記事に協力しているという事実は、この幹部が取材記録をリークした当人かはわかりませんが、少なくとも朝日新聞中枢部の人間がこのスクープ記事の掲載を知っていたことの証しとなるからです。

 ・・・

 そういうことなんですね、からくりが見えてきました。



●月刊現代スクープ記事を逆スクープする〜これは朝日の出来レースだ!

 もう一度〈朝日新聞広報部の話〉を見ておきましょう。

 〈朝日新聞広報部の話〉 朝日新聞社は、社内資料の一部が何らかの形で外部に流出した疑いがあると考え、現在調査中です。調査結果については、公表するとともに、松尾氏、中川氏、安倍氏にも速やかに伝えます。なお、自民党の「調査プロジェクトチーム」の通知書で、朝日新聞社の記者会見の目的は「やらせ」ではないのか、朝日新聞社自身が取材資料流出に深く関与しているのではないか、などとしている点は事実に反しています。朝日新聞社は取材過程を明らかにしないという原則を堅持しており、今回のような党役員による取材対応自粛の必要はないと考えており、今後とも取材を続けます。

 ・・・

 ふう。

 見苦しくないでしょうか。

 以下は、この月刊現代9月号のスクープ記事を検証した結果の木走の個人的心証です。

 まず、あれほど問題となった取材テープが実在していることが証明されたわけで、この事実は松尾氏が取材協力時に「メモを取るな」という要望に対して本人無許可で録音していたことを示しています。

 これは松尾氏本人と朝日読者を2重に欺くもので、この一点からだけでも朝日は謝罪しなければならないでしょう。

 また、「朝日新聞社は取材過程を明らかにしないという原則を堅持」などとお行儀のいいことを主張していますが、記事検証したとおり、本田記者以外に朝日新聞幹部もこのリーク記事に協力しているのは明らかであり、騒動後半年たってからの例の朝日の報告記事(7月25日朝刊)から一週間後の月刊誌スクープ記事発売はタイミングも良すぎます。

 はっきり疑えるのは、朝日は自分のところで記事にできないネタを別のメディアである講談社にリークして故意に記事にさせる手法をとったのではないのか、ということです。

 これは朝日の出来レースじゃないのでしょうか!

 朝日新聞社自身が関与しているかは知りません。しかし担当記者以外の幹部も関与しているのは明白です。

 「逆スクープする」などともったいつけてエントリータイトルにしましたが、冷静に現代の記事を検証すれば、誰でもが持つ疑問だと思います。

 愛・藏太さんもすでに発売前からこの「自分のところで記事にできないネタをマスメディア関係者がリークして記事にさせる手法について 」鋭く批判されていました。

「愛・蔵太の気ままな日記」
自分のところで記事にできないネタをマスメディア関係者がリークして記事にさせる手法について
http://d.hatena.ne.jp/lovelovedog/20050731#p2

 さすが、愛さんです。

 当ブログも遅まきながらスクープ記事を検証した上で強く疑問を呈しておきます。

 これは朝日の出来レースじゃないのですか?



(木走まさみず)



<関連テキスト>
●マスメディアの無能と憂鬱〜朝日のNHK番組改変問題報告の「傲慢不遜」
http://d.hatena.ne.jp/kibashiri/20050726/1122348060
●マスメディアの無能と憂鬱〜朝日は証拠として録音テープを提示せよ!
http://d.hatena.ne.jp/kibashiri/20050728/1122522706
朝日新聞の真の大罪〜エールを込めて
http://d.hatena.ne.jp/kibashiri/20050803/1123057606