木走日記

場末の時事評論

マスメディアの無能と憂鬱〜朝日のNHK番組改変問題報告の「傲慢不遜」

 今日は昨日の見開き2ページに渡る朝日新聞NHK番組改変問題報告記事を通じて、この国のマスメディアの憂うべき現状について考察したいと思います。



●NHK番組改変問題、改めて報告します〜朝日新聞

 25日(昨日)の朝日新聞から

NHK番組改変問題、改めて報告します

 朝日新聞は今年1月、NHKの特集番組改変をめぐる問題を報道しました。これに対し、当事者や読者の方から批判や疑問、意見が寄せられたため、改めて取材をしてきました。その結果を読者の皆さんに報告します。新たに設置した「『NHK報道』委員会」で、この報告をもとに審議していただいたうえ、委員会の評価や意見は、読者の皆さんにもお伝えします。委員は、伊藤忠商事会長・丹羽宇一郎氏、元共同通信編集主幹・原寿雄氏、前日弁連会長・本林徹氏、東大大学院教授・長谷部恭男氏の4人。丹羽氏は本社「紙面審議会」委員、原、本林、長谷部の3氏は本社「報道と人権委員会」委員です。第1回は28日に開きます。

2005年07月25日06時00分 朝日新聞
http://www.asahi.com/national/update/0725/TKY200507240365.html

 この書き出しで始まる見開き2ページに渡る報告なのですが、WEB板としても以下に読むことが出来ますので、未読の読者はご一読されることをお奨めします。

NHK番組改変問題1―読者の皆様へ
http://www.asahi.com/national/update/0725/TKY200507250001.html
NHK番組改変問題2―取材の総括
http://www.asahi.com/national/update/0725/TKY200507250002.html
NHK番組改変問題3―検証・番組改変の経緯
http://www.asahi.com/national/update/0725/TKY200507250003.html
NHK番組改変問題4―NHKの見解 政治家の指示ない
http://www.asahi.com/national/update/0725/TKY200507250004.html
NHK番組改変問題5―当時の取材 松尾武元放送総局長
http://www.asahi.com/national/update/0725/TKY200507250005.html
NHK番組改変問題6―当時の取材 中川昭一議員
http://www.asahi.com/national/update/0725/TKY200507250006.html
NHK番組改変問題7―当時の取材 安倍晋三議員
http://www.asahi.com/national/update/0725/TKY200507250007.html
NHK番組改変問題8―取材・報道への指摘について
http://www.asahi.com/national/update/0725/TKY200507250008.html

●「読者の皆様へ」ににじみ出る朝日の「傲慢不遜」

 全文は長いので、冒頭の「読者の皆様へ」だけ引用してみましょう。

 NHK番組改変問題1―読者の皆様へ2005年07月25日06時00分

 朝日新聞は今年1月12日付朝刊で、政治家の発言が圧力になり、NHKが番組内容を改変したと報道しました。これに対しNHKや政治家が抗議し、記事の根拠の一つだったNHK幹部の証言の内容や、取材のあり方などをめぐり論議が続きました。朝日新聞はこの間、さまざまなご指摘を受け止め、取材についても検証を続けてきました。発端の報道から半年を経たのを機に、番組改変問題とその取材過程について、改めてまとめてご報告します。

       ◇

 この問題は、限られた関係者による密室での出来事が多く、現段階で、すべてが明らかになったとは言えません。しかし、公共放送のあり方に関する重要な課題を含み、かつ、責任あるメディア同士の論争になったことで高い関心が寄せられています。朝日新聞は過度に中傷的な報道に対し法的措置も辞さないとの姿勢も示しました。ただ、再取材を終えた今、まず選ぶべきは、紙面での報道と読者への説明であるとの思いから、今回の報告をまとめました。読者のご判断の一助となるように、NHK側の見解も併せて掲載しました。

 取材・報道に関して、朝日新聞は「取材のプロセスや取材内容の詳細は原則として明らかにしない」という姿勢をとってきました。相手が誰であれ、報道する側の都合で勝手にそれらを公表していては、取材行為全般が信頼を失い、将来の自由な報道に支障を来すからです。今回も、取材記録そのものや取材過程の全容について詳細には明らかにできないと考えています。

 ただ、今回は責任ある立場の当事者が取材の様子や内容について公表し、本社の取材に対する証言を一部否定するなどの事情もあります。この報告では、取材過程を明らかにしないという原則は維持しつつも、メディアの信頼を保ち、今後の取材に差し支えないと思われるところまで一歩踏み込んで、明らかにできるものはすべて説明させていただいたつもりです。

 両立しない証言が存在し、報道から半年にわたる取材を積み上げてもなお、真相を解明できない部分が残っています。このことも、今回の報道をあいまいなまま放置しないために紙面に盛り込みました。ぎりぎりの状況で行われた報道の実情を率直にお伝えし、併せて、私たち自身としてしっかり総括したいと考えたからです。

 ここに至る朝日新聞の一連の対応については、ジャーナリズムのあり方に詳しい識者の方々に第三者機関「NHK報道」委員会を作っていただき、朝日新聞側からこの報告をもとに詳しく説明し、その評価や意見を求めます。

 審議の結果などについては、読者の皆様に改めて紙面でお伝えするとともに、朝日新聞として謙虚に耳を傾け今後に生かしたいと思っております。(編集担当〈常務取締役〉吉田慎一)

 ・・・

 やれやれです。

朝日新聞は過度に中傷的な報道に対し法的措置も辞さないとの姿勢も示しました。ただ、再取材を終えた今、まず選ぶべきは、紙面での報道と読者への説明であるとの思いから、今回の報告をまとめました。

 おやおや、あれほどNHKに対して「法的措置も辞さない」と息巻いていたのに方針変更ですか。

 両立しない証言が存在し、報道から半年にわたる取材を積み上げてもなお、真相を解明できない部分が残っています。このことも、今回の報道をあいまいなまま放置しないために紙面に盛り込みました。ぎりぎりの状況で行われた報道の実情を率直にお伝えし、併せて、私たち自身としてしっかり総括したいと考えたからです。

 あいたた、あれほど物議をかもした自社の記者の取材した記事に対する事後検証が、あっさりと「真相を解明できない」の一言で総括されるのですか?
 「三者機関「NHK報道」委員会を作って」「審議の結果などについては、読者の皆様に改めて紙面でお伝えする」とともに「朝日新聞として謙虚に耳を傾け今後に生かしたい」とは、ずいぶん低姿勢な謙虚なスタンスですね。

 はっきり指摘させていただきますが、この報告に見られる朝日の報道姿勢は、読者の声を「謙虚に耳を傾け」るメディアとしては、最低な「傲慢」なそして「不遜」な態度です。

 まず第一に自社の記事の実証性について、「真相を解明できな」かったことを認めるならば、ここは素直に謝罪記事を掲載すべきでしょう。

 第二に、NHKが朝日新聞に回答を求めた「1月21日朝日新聞社への公開質問状」および、「4月20日朝日新聞社への催告書」に対し具体的な回答をすべきでしょう。

 メディアとして求められるのはあくまでも言論には言論で立ち向かうという姿勢であります。、他のメディアから公式に18に及ぶ具体的な質問が突きつけられているのに対し、なんら具体的な反証をできず、実証できないのならば、当然、謝罪文を掲載すべきです。

 真実の検証をしNHKに対し堂々と反論するわけでもなく、さりとて、非を認めて記事の訂正も謝罪もせず、第三者機関「NHK報道」委員会を作って、専門家や読者の意見を謙虚に聞くなどというお茶の濁し方で収めようとするならば、メディアとしての検証能力の無さを天下にさらけ出しながらただ開き直っているとしか思えません。

 このような無責任な姿勢を「傲慢不遜」と表現せずになんと表現できるのでしょう。



●何故朝日はNHKの公開質問状を無視し続けるのか

 朝日新聞が具体的に検証しないなら、当ブログでしつこく徹底的に検証してみましょう。まず、NHKがサイトで公開している「1月21日朝日新聞社への公開質問状」から・・・

 4年前、NHKが放送した番組「ETV2001」に関する朝日新聞社の記事および記者の取材方法について、NHKは1月21日に、朝日新聞社に対し公開質問状を出し、数々の問題点について一つ一つ具体的に回答するよう求めました。
 朝日新聞社に送付したものは以下のとおりです。
平成17年1月21日
朝日新聞社
  代表取締役社長 箱島 信一 様
  編集局長 吉田 慎一 様

NHK放送総局長
関根 昭義

朝日新聞報道問題について
 御社は1月20日付け回答書においても、記事の事実関係についての間違いを認めず、「取材の積み重ねをもとに報じた根拠あるもの」とか「関係者に取材した結果を正確に報じたもの」と述べるにとどまり、記事の内容を裏付ける具体的な根拠を示さないまま、謝罪と訂正を拒否しました。

  御社は、1月12日付けの記事で報じた内容について「誤報」であるという指摘を受けたあとは、内容の真偽については一切言及せず、関係者が証言したことを正確に報じたと繰り返すだけで、責任逃れをしようとしていると言わざるを得ません。御社の記者が取材した関係者も御社記事に掲載された証言内容を明確に否定し、さらに御社記者の取材方法を強く批判しています。

 そこで、御社の記事および御社記者の取材方法についての数々の問題点を、公開質問状の形で一つ一つ具体的にお聞きします。

 御社が以下の質問に誠実に答え、説明責任を果たされ、記事を訂正するとともに、記事によって著しく名誉を傷つけられたNHKなど関係者に対して謝罪するよう、重ねて強く要求します。

 また、回答をする際には記者会見を開いて、「朝日新聞報道問題」についての説明責任を果たされるよう求めます。

公開質問状
1.記事の真偽について
  (1) 中川氏とNHK幹部が放送前日に面会したのは事実ですか。
  (2) 上記(1)の記事を掲載するにあたって、中川氏及びNHK松尾元放送総局長の「証言」以外に、何らかの裏付けや根拠となる事実確認をしたのですか。
  (3) 中川氏が放送中止を求めたのは事実ですか。
  (4) 上記(3)の記事を掲載するにあたって、中川氏の「証言」以外に、何らかの裏付けや根拠となる事実確認をしたのですか。
     
  (5) 安倍氏がNHK幹部を呼び出したのは事実ですか。
  (6) 安倍氏がNHK幹部に、番組は偏った内容だなどと指摘したのは事実ですか。
  (7) 上記(5)、(6)の記事を掲載するにあたって、安倍氏及び松尾元放送総局長の「証言」以外に、何らかの裏付けや根拠となる事実確認をしたのですか。
     
  (8) NHKの番組が政治的圧力を受けて「改変」されたのは事実ですか。
  (9) 上記(8)の記事を掲載するにあたって、内部告発した当時の番組担当者の「証言」以外に、何らかの裏付けや根拠となる事実確認をしたのですか。
  (10) 上記(8)の記事を掲載するにあたって、内部告発した当時の番組担当者の「証言」は伝聞情報にすぎないことを承知していたのですか。
     
  (11) 御社は記事で「いずれにしても結果的に、憲法が禁じる検閲に近い事態が起きていたことになり、憲法で保障された表現、報道の自由を無視したものといえる」と断定的に指摘しています。
現段階でもそのように考えていますか。
2.御社記者の取材について

  (12) 松尾元放送総局長は、1月9日昼過ぎに御社記者から取材を受けた際に、「安倍・中川両氏からもすでに取材している。全部わかっている」「政治的圧力を感じたでしょう」と執拗に問いただされた、と話しています。一方、御社の記事によると安倍・中川両氏への取材は翌日の10日となっています。御社記者が松尾元放送総局長に嘘をついて取材したとすれば、取材倫理上極めて重大な問題と考えます。
御社はこの点について、どのような調査を行いどのような見解を持っていますか。
     
  (13) 御社記者の取材が始まって20分ほど経過した段階で、松尾元放送総局長が、御社記者がメモを取り始めたことに気付いて「メモは取らないでください」と求め、それ以降、御社記者は一切メモをとらなかったということです。
それでは、2時間に及んだという取材での証言内容をどのような方法で正確に記録できたのですか。
     
  (14) 松尾元放送総局長は、19日に自ら記者会見して「朝日新聞の記事は私の証言を歪曲し、全く逆の内容になっている」と批判しましたが、その前日に御社記者に電話をかけています。その中で、松尾元放送総局長は、「取材に答えた内容と記事の内容が違っている。記事にあるNHK幹部とは私のことか」と聞き、御社記者が認めると、「私は記事のような証言はしていない。取材の内容を確認したいので、録音テープがあれば、私にも聞く権利があるので聞かせて欲しい」と要求しました。これに対し御社記者は、録音テープがあるかどうかについて明言しませんでした。
取材相手から録音テープの存在の有無を聞かれた際に、御社記者は、なぜそれに答えなかったのですか。
     
  (15) 松尾元放送総局長への取材を録音したテープはあるのですか。

     
  (16) 去年8月に明らかになった、御社記者が起こした「無断録音テープ流出問題」についての御社見解によれば、「取材内容の録音は相手の了解を得るのが原則であり、取材相手との信頼関係を損なうことがあってはならない」としています。
御社記者は、松尾元放送総局長に取材した際に録音する許可を得ていませんでしたので、仮に録音テープがあるのであれば、御社見解に照らした場合、取材倫理に反する行為にあたると考えますがいかがでしょうか。
  (17) また、録音テープの有無に関わらず、記者会見前日に松尾元放送総局長が電話で質問した際に、録音テープの存在の有無をはっきり答えなかった御社記者の行為は、「取材相手との信頼関係を損なうことがあってはならない」としている御社の取材倫理に、やはり反するものと考えますがいかがですか。
     
  (18) さらに記者会見前日の電話で、松尾元放送総局長が、御社記者に対して「私の証言と記事の内容が違っている」と抗議をした際に、御社記者は「NHKにはもう話してしまいましたか」「どこかでひそかに会えませんか」「証言の内容について腹を割って調整しませんか」「摺り合わせができるでしょうから」などと繰り返しました。
 御社によると御社の記事は、「2人の記者が松尾元放送総局長に長時間会って取材した結果などを正確に報じた、根拠あるもの」だということです。
それではなぜ記事を掲載した後になって、証言の内容を「調整」したり「摺り合わせ」たりする必要があったのでしょうか。
明確で納得のゆく回答を求めます。
   
  以上18項目の質問について、御社が報道機関としての矜持を保ち、言い訳や論点のすり替えをせず、きちんとした内部調査をしてその結果を記者会見で公表するとともに、記事を訂正しNHKなど関係者に謝罪することを改めて求めます。
    以上

NHK「1月21日朝日新聞社への公開質問状」
http://www3.nhk.or.jp/pr/keiei/news/007.html

 大事な点は、こういう場合は1つ1つの質問に対して1つ1つ誠実に答えることが大事であることです。それによって論点も絞られるし、事実関係をそれこそ「腹を割って調整」できるものでしょう。

 朝日は、個別具体的に反論を書けないことでもあるのでしょうか。朝日側の取材が甘く、事実関係が不確定なのではないか、といった疑問が当然出てきてしまいます。具体的な反論が出来ない場合の常套手段として、ボロが出ないように総花的な反論を書いたり、あるいは、論点を他にずらす工夫をほどこしたりするものですが、今回の報告記事で読む限り『朝日』の回答は後者のケースにかぎりなく近く、メディアとしては「負け」ではないのですか。



●2つしかない「番組改変」ポイント

 私も記者登録させていただいています、インターネット新聞JANJANにおいて、当時、元「週間金曜日」編集長であった松尾信之記者がこのあたりをするどく分析されています。

「マスコミ料理教室」(4)『朝日』のテンプラ回答 2005/02/21

 (前略)

2つしかない「番組改変」ポイント

 『朝日』は回答書で「記事は、当事者、周辺関係者に対する取材を総合して執筆・掲載したもので、具体的な取材に基づいた根拠のあるものです」と主張している。

 「根拠あり」と判断したから1月12日の記事を掲載したのだろうが、これだけ、書かれた方が「ウソだ」と言っているのだから裁判なんて意識しないで紙面及び回答書で具体的な根拠を示すべきじゃないか。

 今回の「番組改変問題」そのもののポイントは、2つある。

 1つは、安倍晋三中川昭一両代議士が放送前に番組内容を知り、NHK幹部に対して内容批判をしたのかどうか。

 もう1つは、1月9日の取材で松尾武放送総局長(当時)は本田雅和氏ら『朝日』記者に「政治的圧力を感じた」と言ったか言わなかったのか、だ。

 1つ目のポイントで言えば、番組が改変されたことは真実。だから政治家が放送前にイチャモンをつけたなら「政治介入による番組改変」である。放送後につけたイチャモンなら「番組改変」は自民党の意向を先取りした「海老沢派幹部」による自主規制であり、安倍・中川発言は「予算・事業計画を人質にとったピーンボール」といえるだろう。

「間違い」と分かったらすぐに謝る

 『朝日』は手の内を隠さず、真実を公表すべきだ。「電話取材の時、中川氏は放送前にNHK幹部と会ったと言った」ことは事実であっても、本人が後から「記憶違いだった」と言うのだ。中川サイドは国会議員会館の過去の入館証を調べた結果、それが裏付けられたという。

 国会の通行証を持たない人が議員会館に入るときは、いちいち面会票に自分の名前、肩書、住所、訪問先などを書き、その部屋にしか行ってはならないことになっている。だから汚職事件などで面会票を調べれば、いつ誰が、誰の事務所を訪問したかの動かぬ証拠になる。

 ところが実際には、一度入ってしまえば「廊下トンビ」よろしくいろいろな議員の部屋を訪問している人は多い。こうすれば訪問先を隠せる。また、記者バッチと通行証を大量に持っている大マスコミなら、面会の証拠を残さずに面会する違法行為もできなくはない。
 
 それはともかく、『朝日』は「真実は放送前」と言うならこれまで書いていない他の事実を持ち出して、「放送前面会」を裏付ければいいだけの話。もしも「記者の勘違いだった」ならば、率直に事実関係の誤りを認めるべきだろう。『朝日』だってNHKだって人間のやること。思い込みや勘違いで間違うことはいくらでもある。再取材の結果、間違えが分かったらいさぎよく謝るのが社会常識だ。『朝日』はそういう社会の建設を主張していたのではないのか。

 それでも「政治圧力があった」いえる事実があるならば、そのことを書けばいい。「第4権力」と呼ばれるマスコミなのだから人一倍、そうした誠実さを忘れてはならないと思う。
 
録音テープ公開は裁判所の命令待ち?

 2番目のポイントは、「無断録音をしたのかしなかったのか」に尽きる。松尾元総局長への2時間に渡る取材は、メモを拒否されたため記者の取材メモがない。メモなしであれだけ「語りを生かしたやり取り」を再現することは、いくら『朝日』のベテラン記者といえども不可能に近い。職業記者であろうと市民記者であろうと、誰しもそう思うはずだ。

 また「具体的な取材に基づいた根拠のあるものです」(『朝日』の回答書)の強気は、逆に録音テープの存在を問わず語りに語っているとも見える。『朝日』としては、「報道と言論にたずさわる者にとって、あってはならないこと」(8月7日付「社説」)と言い切った無断録音を自ら告白する勇気がない。裁判になって「裁判所の命令があれは弁護士と相談の上、嫌々ながら提出する」ことしか「松尾発言の変節」を証明する手立てはない。

 もしも刑事事件となって、朝日新聞本社を家宅捜索して金庫のスミから録音テープを押収するような事態になれば別だ。だが、そこまでやれば「言論弾圧」と世論を敵にまわすから捜査当局もそこまでしないと読む。となると、「ここは何を言われてもじって我慢の子」で、世間の目を「ライブドアとフジテレビの攻防」「寝屋川教員殺傷事件」にそらすしかない、ということではないか。

(後略)

インターネット新聞JANJAN
「マスコミ料理教室」(4)『朝日』のテンプラ回答 より引用
http://www.janjan.jp/media/0502/0502203773/1.php

 朝日は当初「記事は、当事者、周辺関係者に対する取材を総合して執筆・掲載したもので、具体的な取材に基づいた根拠のあるものです」と主張していました。

 「根拠あり」と判断したから1月12日の記事を掲載したのでしょうが、これだけ、NHK側から書かれた方が「ウソだ」と言われているのだから紙面で具体的な根拠を示すべきじゃないのでしょうか。

 朝日が断定的に報じた当初の記事が「真実を実証できず」、「根拠を示す」ことができない単なる憶測記事であることをしぶしぶ認めるならば、実は憶測記事だった事実だけでも訂正及び謝罪するのが筋でしょう。



●他のマスメディアだって誉められたものではない〜NHKなんかいっそ国営放送にしちゃえばいい

 そもそも、ビデオリサーチの調べで0.5%(関東地区)の視聴率に過ぎなかったNHK教育テレビETV2001「シリーズ 戦争をどう裁く――第2回 問われる戦時性暴力」が、放送後4年たってから大騒動となっているわけです。これは、日本のマスメディアの憂うべき現状を象徴的に示しているのだと言えます。

 4年前、「みなさまのNHK」をめぐるこれだけの大問題が起きていたのに朝日新聞以外のマスメディアはほとんど無視していました。朝日新聞ではは2001年3月2日付朝刊の第3社会面に「本田雅和、柏木友紀」の署名で、【慰安婦制度を取り上げたNHKの番組が放映直前に大幅改変され、出演者らが抗議する事態になっている】との記事を掲載しています。

 だが、いま異常に張り切っている産経は、当時本件で記憶に残るような記事を載せた印象はありません。。
 
 10日ほど前の7月13日付の社説で産経は「朝日NHK問題 「頬かむり」は許されない」と、例によって朝日新聞を糾弾していますが、少なくとも1月15日付の社説で「まず何より、番組が構成で中立的な内容だったか否かの再検証が必要だ」などと偉そうに主張する資格は産経にはないのです。

 4年後の今、朝日がほじくり返したことに対して、安倍晋三自民党幹事長代理が「政治的思惑を感じる」としたり顔でコメントしていましたが、産経が、「法廷」問題を本当に「中立的な内容だったか否かの再検証が必要だ」と考えるのだったら、なぜ4年前に今のような大論陣を張らなかったのか。不思議でなりません。

 最後になりましたが、私はことの発端となったNHKを擁護するものでは断じてありません。
 いくら膨大な内部留保があるといっても、このご時世に1万1000人の職員で、年間43億円のタクシー券を使ってしまう原価意識のない組織があること自体信じられません。 NHK民営化論もありますが、そんな集団をムリヤリ民営化したって見通しは暗いのでしょう。

 政府自民党の顔色を伺いながら表の顔だけは「みなさまのNHK」として公正・中立の公共放送を装うこと自体矛盾があるわけで、それならばいっそのこと国営放送にしてしまえばよいのです。そうすれば、国民も「どうせ政府べったりのNHKの報道だから」とちゃんと色眼鏡でリテラシーできるようになります。

 ・・・

 朝日新聞の昨日の報告は事実検証を放棄している点で「傲慢不遜」で最低なレベルなのでありますが、本件では登場するメディアがNHKにしても産経にしても、何ともお寂しいレベルであり、この国の現在のマスメディアの無能さを象徴しているなんとも憂鬱な事象なのでありました。

 読者のみなさまはいかがお考えになりますでしょうか?



(木走まさみず)



<関連テキスト>
●マスメディアの無能と憂鬱〜朝日は証拠として録音テープを提示せよ!
http://d.hatena.ne.jp/kibashiri/20050728/1122522706
●月刊現代スクープ記事を逆スクープする〜これは朝日の出来レースだ!
http://d.hatena.ne.jp/kibashiri/20050802/1122961309
朝日新聞の真の大罪〜エールを込めて
http://d.hatena.ne.jp/kibashiri/20050803/1123057606