木走日記

場末の時事評論

中国が怒りだした本当の理由

 今日は、中国が怒りだした本当の理由を少し考察したいと思います。



●中国の軍事力 台湾への武力行使放棄を

 今日の産経新聞社説から・・・

■【主張】中国の軍事力 台湾への武力行使放棄を

 米国防総省が議会に提出した二〇〇五年版の「中国の軍事力に関する年次報告書」は、これまでになく中国の軍事力拡大の脅威を指摘する内容となった。中国の軍事費は公表数字の二−三倍にのぼり、いまや米露に次ぐ世界三位の規模になっており、中国の軍拡がこのまま進めば、長期的には確実に中国は地域、世界の脅威になると警告した。

 とりわけ、最大の危険性を秘める台湾問題では、中国は台湾対岸にすでに七百基前後の短距離弾道ミサイルを配備し、年百基のペースで増強しているとした。昨年の報告書より二百基前後もの増加だ。そして、中国と台湾の軍事バランスは初めて中国優位に傾きつつあるとの重大な指摘もした。

 中国外務省はこれに対し、「事実無根。中国脅威論をまき散らし内政に粗暴に干渉しようとしている」として米側に強く抗議したが、中国の軍事力は極めて不透明で、国際社会の対中不信と警戒感は増すばかりだ。

 中国側が事実無根というのなら、透明性の確保と、信頼醸成へ向け、具体的な行動を起こす必要がある。なによりも、最大の危険要因である台湾問題で、中国は無条件で武力行使の放棄を宣言すべきである。

 人民解放軍の強い抵抗があるだろうが、それだけで、地域の安全保障環境は劇的に改善され、中国脅威論などはすぐに弱まる。中国の繁栄と安定だけでなく、アジア地域や世界全体の繁栄と安定をもたらし、中国が世界から称賛を浴びるのは間違いない。

 自由民主主義の社会を確立した台湾住民二千三百万人は、日常的に中国から数百発のミサイルを含む軍事攻撃の脅威にさらされている。これほどの不条理、人権侵害もあるまい。同じ自由民主の価値観を持つ国々が無関心でいられるはずがない。

 今年二月の日米安保協議委員会(いわゆる2プラス2)会合で、日米が「台湾海峡問題の平和的解決」を初めて共通戦略目標に入れたのもそのためだ。中国の異常な軍拡が日米同盟強化をもたらしているのである。

 報告書は、中国がいま、「国際社会に平和的に統合されるか、覇権主義の道を行くかの戦略的岐路に直面している」と述べた。中国指導部に賢明な戦略的判断を期待したい。

平成17(2005)年7月23日[土] 産経新聞社説
http://www.sankei.co.jp/news/editoria.htm

 「中国の軍事費は公表数字の二−三倍にのぼり、いまや米露に次ぐ世界三位の規模になっており、中国の軍拡がこのまま進めば、長期的には確実に中国は地域、世界の脅威になると警告した」とありますが、確かに問題なのは「中国の軍事力は極めて不透明で、国際社会の対中不信と警戒感は増すばかり」な点でありましょう。

 当ブログにおいても、以前から指摘していた点ですが、産経社説が主張する軍事予算の透明性の確保は全く同感であり、この点で中国は国際ルールを守るべきでありましょう。 

 しかし、産経が主張するもうひとつの点、「なによりも、最大の危険要因である台湾問題で、中国は無条件で武力行使の放棄を宣言すべきである。」という提言ですが、現状の中国がこれを呑むとはとても思えません。

 さらに、「中国の異常な軍拡が日米同盟強化をもたらしているので」あり、「今年二月の日米安保協議委員会(いわゆる2プラス2)会合で、日米が「台湾海峡問題の平和的解決」を初めて共通戦略目標に入れた」のも、中国に対抗するためにやむを得ないものであるとしていますが、ここのところはどうなのでしょう。



●中国が怒りだした本当の理由〜田原総一朗責任編集「オフレコ」から

 ジャーナリストの田原総一朗氏が責任編集して創刊した雑誌「オフレコ」ですが、とても興味深い記事がたくさんあり、当ブログでも回を改めてご紹介したいと思いますが、その中にワシントン発ジャパンウォッチャー匿名座談会という特集記事があります。

 そこで、シンクタンク上級研究員(元外交官、日本政治)のBなる人物が、「靖国」なんかは中国の方便であり、中国が本気で日本を怒っている理由は別にあると興味深い発言をしています。

(前略)

「私は100%そうは思わない。国際関係論の立場から冷静に観察すると、中国にとっての「靖国」はあくまでも方便にすぎない。」

高濱「日本語で言う『敵は本能寺』ということですね。」

「その通り。中国が怒り出した本当の理由は、04年12月に閣議決定した新『防衛計画の大綱』(名指しこそしないが、中国をはっきりと敵として意義づけた)に始まり、05年2月の日米間の2プラス2(外務・防衛首脳協議)での共同声明(『台湾海峡問題の対話による平和的解決を日米双方共通の戦略目標』と明言)だよ。中国から見れば、日本がいよいよアメリカと組んで東アジアの派遣争いに本腰を入れ出したと映っても不思議ではない。その勢いに乗って今度は国連安保理常任理事国に入り、政治的発言を強めようとしてきた。これは中国にとっては許しがたいわけだ。
 そこで先ほど出た反日デモ反日スタンスを前面に出してきた。「靖国」は日米緊密関係に楔を打ち込む格好の材料と見たのだろう。おまけに『日米軍事同盟強化一本やりの小泉』は靖国問題では札付きの『確信犯』だ。そこで小泉さんのわき腹を蹴り上げているんだよ。」

高濱「なるほど、わかりやすい解説だ。確かにホルブルック元国連大使も『中国は絶対に日本の安保理常任理事国入りを阻止するのだというシグナルを日本に送るために靖国をその道具にしたんだ』と指摘している。なぜ日本の大新聞はそのへんについてもっと突っ込んだ分析をしないんだろう・・・」

(後略)
雑誌「オフレコ」 ワシントン発ジャパンウォッチャー匿名座談会より 抜粋

 うーん、興味深い発言ですよね。
 B氏に言わせれば、中国は靖国問題を利用して「小泉さんのわき腹を蹴り上げている」そうなのですが、アメリカ人らしいハッキリとした物言いですよね(苦笑

 さてこのB氏の主張に従えば、日米同盟強化が中国を刺激して過激な反日行動を引き起こしていることになります。つまり、今日の産経新聞の主張「中国の異常な軍拡が日米同盟強化をもたらしている」とは、原因と結果の関係が逆転しているわけでありますね。



●輝かしい日本の戦後民主主義の実績を示すべき

 卵が先か鶏が先か、なにやら水掛け論になりそうな話ではありますが、冷静に分析すれば時系列に矛盾なくまとめることはできそうです。

 つまり、長年中国は情報開示もろくにせず軍備を拡張してきており周辺諸国、特に台湾に対して軍事的圧力を強めてきた、そこで日米は連携して台湾を守る意思を確認しあった、それに中国が反応し、靖国問題反対や安保理入り阻止行動に打って出てきたという筋書きが見えてきます。

 さて、中国の急速な軍拡を警戒する米国防総省報告が発表され、日本国内でも「中国脅威論」が高まりを見せています。今年は「抗日戦争勝利60周年」の中国からは、この夏「靖国参拝」や「歴史問題」がひときわ大きく提起されることでしょう。

 かたや日本ではこのような中国脅威論を媒介にして反中世論が形成されようとしています。日本は謝罪していないという理不尽な中国からの批判に「何度謝ったら済むんだ」と世論は苛立っています。

 この不毛な感情的対立を断ち切るためにはどのような解決策があるのでしょうか。

 もし、B氏がいうように「靖国」が中国の方便であるのならば、日本は何も外交レベルを中国に合わせる必要はないのであり、日本は60年間守られてきた日本の戦後平和主義と戦後の日本の輝かしい国際貢献実績を、声を大きくして主張していけばよいのではないでしょうか?

 輝かしい日本の戦後民主主義の実績を国際世論に示せば日本が軍国主義に向かうなどという暴論に充分に対抗できることでしょう。「靖国」問題や「歴史認識問題」など、中国が提起してくる戦前がらみの必ずしも国際的に日本にとり有利でない話題(中国は十分にそれを計算しているのであればなおさら)に乗っかって同じ土俵でもめることは、中国の策にはまるだけで、日本の国益にかなうことであるとは思えないのです。

 小泉首相にしてみれば「わき腹を蹴り上げられた」ので引くに引けなくなっているのでしょうが、国際政治というものは、感情や信念のみで解決できるわけではないのであります。

 みなさまは、どのようにお考えでしょうか?



(木走まさみず)