木走日記

場末の時事評論

がんばれ台湾〜台湾について少し考えてみる

kibashiri2005-04-07


 今日は台湾関連の記事が目に付きました。

台湾総統が法王葬儀出席へ イタリアがビザ発給に同意

 台湾の外交部(外務省)スポークスマンは6日、陳水扁総統が8日にバチカンで行われるローマ法王ヨハネ・パウロ2世の葬儀に出席すると述べた。

 ローマ市内にあるバチカン市国は欧州で唯一、台湾と外交関係があるが、台湾の総統が訪問するのは初めて。イタリア政府が6日、陳氏の入国査証(ビザ)発給に同意したという。

 台湾にとっては外交的成果といえるが、中国が反発するのは必至だ。

 外交部によると、陳氏は7日、専用機で台湾を出発。葬儀終了後、間もなくイタリアを離れるという。バチカン側は葬儀に陳氏を招待する意向を示していた。

 陳氏には陳唐山外交部長(外相)らが同行するという。

 外交部は「イタリア政府が中国の圧力に屈せず、陳氏の入国を認めたことに感謝する」と謝意を表明した。

(共同)

(04/07 00:20) 産経新聞
http://www.sankei.co.jp/news/050407/kok001.htm

 みなさまも既知のことではありましょうが、この記事には前段がありまして、昨日ですが、バチカン側が今回の法王葬儀を機に台湾と断交し中国と国交を結ぶ方針を決定したという報道がされていたのでした。

バチカン 「台湾との断交方針決定」 香港主教「中国との関係改善」

 【北京=福島香織】香港主要紙は五日、カトリック香港教区の陳日君(ヨセフ・ツェン)主教の発言として、バチカン市国が中国との関係改善に向けて、外交関係を維持してきた台湾と断交する方針を「決定している」と伝えた。主教発言について、中国外務省の秦剛報道官は五日、「関係の報道を注視している」と述べ、バチカンとの関係改善に意欲を表明した。

 中国はこれまで、欧州で唯一台湾を外交承認するバチカンとの関係切り崩しを図る一方、ローマ法王の支配から隔絶してきた中国国内のカトリック教徒に法王の影響力が及ぶことを強く警戒してきた。ヨハネ・パウロ二世の在位期間中にも中国との間で水面下接触が伝えられてきただけに、今回の発言内容の行方が注目される。

 明報などの香港紙によれば、陳主教は四日に香港で行われたローマ法王の追悼ミサのあとで記者団に対し「バチカンはすでに台湾放棄を決定している。中国との正式な会談を待って、互いに譲歩するかを決めるだろう」と述べた。

 ただ、「決定」を実行する上で、(1)バチカンはいかなる国とも一方的に断交した経験がない(2)中国の信徒に本当の信仰の自由がない−の二点を障害として指摘した。

 中国側はローマ法王の死去後、「新法王の指導下でバチカンとの関係改善の条件をつくりたい」と表明。公認のカトリック組織を通じて弔意を伝えていた。

 今回の発言について、秦報道官は重ねて関係改善の意欲を表明する一方、改善条件として(1)台湾との断交(2)宗教問題を含む中国内政への不干渉−の二大条件では譲歩できないとの姿勢を強調した。

 中国のカトリック教徒は、公認組織に属する約五百万人のほか、当局に抵抗しながら信仰の自由を守ろうとする地下教会にも五百万人以上が属するとされ、厳しい迫害を受けている。

 これら非公認信者を力づけるような法王の影響力強化は避けたいに違いなく、今後の展開は、後継法王がどのような姿勢を打ち出すかにかかっているといえる。

平成17(2005)年4月6日[水] 産経新聞
http://www.sankei.co.jp/news/050406/morning/06int001.htm

 バチカンが中国・北朝鮮等、共産主義諸国と今日まで国交を持たなかったのは、ローマ法王ヨハネ・パウロ2世の見識というものだったのでしょう。

 ことあるごとの中国の国際舞台における「台湾締め出し」「台湾いじめ」には、経済でも台頭著しい大国中国に各国が媚びへつらう側面が露骨に見えて、極めて不快なことでありますが、かく言う日本も、すでに中華人民共和国のみを認める政策をとるようになってますので、一日本人としてはこの件で大きいことは言えないのでありますが・・・

 とはいえ、台湾にとり、イタリア政府が台湾総統に対しビザ発給を認めたことは朗報ではありましょう。今後、中国の反発は必至でありますが、後継法王がどのような姿勢を打ち出すか、まずは見守りたいです。

●いじめっこ中国といじめられっこ台湾

 そもそも、現在台湾と国交を結んでいる国はわずか26カ国にすぎず、その多くはバチカン市国同様、以下の示しますが小国なのであります。

オセアニアキリバス ソロモン諸島 ツバル パラオ マーシャル諸島
アフリカ:ガンビア サントメ・プリンシペ スワジランド セネガル チャド ブルキナファソ マラウイ
ラテンアメリカエルサルバドル グアテマラ グレナダ コスタリカ セントクリストファー・ネービス セントビンセントおよびグレナディーン諸島 ドミニカ共和国 ニカラグア ハイチ パナマ パラグアイ ベリーズ ホンジュラス
ヨーロッパ:バチカン

出典: フリー百科事典『ウィキペディアWikipedia)』http://ja.wikipedia.org/wiki/%E4%B8%AD%E8%8F%AF%E6%B0%91%E5%9B%BD%E3%81%AE%E6%94%BF%E6%B2%BB

 これら台湾承認国は、バチカンを除いては例外なく次の特徴を有しています。

 1.途上国である。
 2.何らかの形で台湾から経済援助を受けている。
 3.経済が未発展であり、中国市場に魅力を感じていない。
 つまり、これらの小国の大半も、実際は、大義を持って台湾を支持しているわけでもないのであります。

 承認国外交においては、中国に対し極めて劣勢な台湾ではありますが、日本をはじめ他にも59カ国と香港に代表処や弁事処(実質的に大使館や領事館の役割を果たしている民間機構)を設置しているのでありまして、それなりに国際関係を維持しております。

●なぜ台湾は独立にこだわるのか?〜歴史的背景

 台湾は、現在も事実上は独立国であり正式国名は中華民国なのですが、そもそも独立主権国家としての地位になぜここまでこだわるのでしょうか?

 現在、台湾国内において、複雑な歴史的背景から異なる二つの独立論があるようですが、これらの理解を深めるためにすこし歴史を振り返ってみましょう。

 1912年、中国本土において中華民国が建国されました。

 1945年、日本が敗戦すると、毛沢東率いる中国共産党軍と中華民国政府軍である蒋介石率いる国民党軍の間で、中国全土で内戦状態となります。

 1949年、戦いを圧倒的に優位に進めた毛沢東率いる中国共産党は、中国本土を制圧し中華人民共和国を成立させます。

 中国本土の戦いに敗れた蒋介石は、多くの国民党軍やそのシンパを伴い台湾に逃げ延び、中華民国は台湾で存続していくことになります。

 ちなみに現在でも台湾では、蒋介石とともに中国本土から来た人々を『外省人』、もともと台湾に住んでいた人々を『本省人』と、区別しています。

 戦後国連が創設されたとき、国連の常任理事国になったのは、大きな共産中国ではなく、小さいほうの台湾でした。

 しかし、当時の冷戦の中で、アメリカが対ソ連用チャイナカードを確保するために、大きく中国外交で180度方針を変えていきます。この米中接近により、国際外交上の台湾「中華民国」の運命は決まりました。

 1971年、国連は中華人民共和国の加入を認めたため、中華民国は脱退しました。

 1972年、田中首相の日本政府は日中国交正常化を成し遂げました。それ以来中華人民共和国を唯一の「中国」として承認し、台湾、「中華民国」とは国交を断絶いたしました。

●『外省人』の中華民国独立論と『本省人』の台湾独立論

 当時からの国民党軍とともに中国本土から台湾にきた『外省人』たちにとって、台湾独立の意味は複雑です。 彼等の心理の根底には現在も「共産党に国土の大部分を占領されている」状態であるだけで、最終的には、台湾と中国は統一されるべきであるという、強烈な思いがあるからです。

 したがって、彼等『外省人』がいう台湾独立は、中国統一を諦めて「中華民国」として独立するという立場です。

 これに対して、もともと台湾に先住していた『本省人』の一部には、「中華民国」として独立するのでなく、「台湾」として独立するという考えがあります。

 つまり台湾は、大陸とは異なる文化圏であり、もともと台湾として独立していたが、国民党によって占領されたという考えです。

 この考え方は最近台頭してきたのですが、それもそのはずで、台湾政府は李登輝前総統以前はずっと、国民党政権(『外省人』系)であり、言論の自由も認められていなかったからです。

 この件で金美齢氏はこう主張されます。

 私も長年使ってきた「独立」という言葉も不適切な含意を人に伝える。台湾はいまだかつて、1日たりとも中華人民共和国の一部であったことはなく、台湾人はかの国に対して1円の税金たりとも納めたことはない。台湾とかの国はそもそも最初から別の国なのだ。「分裂」の事実もないので、「統一」などまったくのナンセンス。

 戦後50数年間にわたって恐怖政治による植民地支配体制を続けてきた中華民国政府は、30年前に「中国正統政府」の虚構を国際的に否定され、21世紀に入ってからは、2度に渡る全民直接投票によって、台湾における政権をも失ってしまった。

 李登輝氏が言うように、中華民国はすでに存在しないのであるが、その虚構体制の残滓はいまなお台湾人を苦しめている。台湾人が「独立」と言うのは、端的にいってこの残滓の清算を指している。げに台湾問題とは「中国の内政問題」などではなく、台湾自体の内政問題なのだ。

「ロジックから台湾独立を考える」http://www.kin-birei.jp/suggest/rondan/200412.html

●がんばれ台湾

 同じ旧植民地でも、台湾の人たちと朝鮮半島の人たちでは日本に対する反感の度合いが違うのも、以上のように歴史的背景を考えてみるとうなずけるところも多いわけです。

 木走としては、台湾と中国の問題で日本としてどう関わって行くべきかを考えるとき、日本政府の台湾に対する一貫性のない日和見的な政策は、とても問題があると考えています。

 私は嫌中派でも親中派でもありませんので、中国が嫌いで申しているわけではありません。しかし、台湾の国際政治上の今の窮状を考えるとき、旧宗主国でもある日本が、経済的側面や対米追従的に中華人民共和国にばかり配慮して事実上台湾を無視する政策をとり続けることには、なんとも不義理といいましょうか、不人情といいましょうか、納得のいかないものがあるのです。

 がんばれ台湾!

 みなさまはどうお考えでしょうか?



(木走まさみず)