木走日記

場末の時事評論

恥ずかしくないのか?新聞業界!〜不遜な朝日社説となりふり構わぬ新聞業界のロビー活動

 16日付けの朝日新聞社説は普段2本掲げる社説を一本に絞り、いつになく力強い論説です、「消費増税の先送り」を強く批判しています、久しぶりに朝日節炸裂ともうしましょうか、すごい力の入れようです。

消費増税の先送り―一体改革を漂流させるな
2014年11月16日(日)付
http://www.asahi.com/paper/editorial.html?iref=com_gnavi

 社説は安倍政権が「来年10月に予定している消費税率の10%への再引き上げを先送り」したことを冒頭から触れています。

 来年10月に予定している消費税率の10%への再引き上げを先送りする。安倍政権がこうした方針を固め、民主党も認めた。

 再増税は、7〜9月期の国内総生産(GDP)速報などの経済統計を見て、有識者の意見も聞きつつ、安倍首相が判断する。菅官房長官らはそう説明してきたはずだ。

 ところが、GDPの発表を待たず、有識者からの聞き取りが続いているさなかに、政府・与党内で増税先送りと年内の衆院解散が既定路線となった。民主党もこの流れに乗るという。

 消費税率アップ先送りは「議論なき政策変更」であり、「まず責められるべきは安倍政権」と政権を批判します。

■議論なき政策変更

 首相が公式にはひと言も発しないまま、重要な政策変更が固まる。もちろん、議論がないままに、である。

 2年半前に民主、自民、公明がかわした「社会保障と税の一体改革」に関する3党合意は、次のような趣旨だった。

 ――高齢化などで膨らみ続ける社会保障を安定させる必要がある。その費用をまかなう国債の発行、つまり将来世代へのつけ回しは減らしていくべきだ。負担を皆で分かち合うために消費税の税収をすべて社会保障に充て、税率を引き上げていく。

 負担増は国民に嫌われる。でも避けられない。だから、与野党の枠を超え、政治の意思として国民に求める――。

 そうした精神も議論の空白の中で吹き飛ぼうとしている。

 まず責められるべきは安倍政権だ。税率の再引き上げについては、増税を定めた法律に経済状況を勘案するとの「景気条項」がある。だからこそ、経済統計を待ち、有識者の意見を聞くのではなかったのか。

 「今後、数十年にわたって直面する高齢化と人口減少を見すえ、私たちは「給付と負担」という重い課題に向き合っていかざるをえない。それなのに政治は、「決断の重さ」からいち早く逃げだそうとしている」と断罪します。

 確かに、足もとの景気は力強さにかける。とはいえ、08年のリーマン・ショック時のような経済有事とは違う。一体改革は将来にわたる長期的な課題だ。景気が振るわないなら、必要な対策を施しつつ増税に踏み切るべきではなかったか。

 一方、民主党の野田前首相は「景気回復の遅れを政府が認めようとしている中で、増税しろとは言えない」と語る。選挙戦を念頭に、現政権の経済政策の失敗がこの状況を招いたと強調する狙いがあるのだろうか。

 今後、数十年にわたって直面する高齢化と人口減少を見すえ、私たちは「給付と負担」という重い課題に向き合っていかざるをえない。それなのに政治は、「決断の重さ」からいち早く逃げだそうとしている。

 首相は来月の総選挙を念頭に衆院を解散する意向だ。だがその前に、一体改革をどう考えているのか、安倍氏と野田氏は国民の前で一対一で議論する機会を設けてはどうか。

 日銀は、「国債購入の上積みを打ち出した」のに「その直後に政府が増税を先送りする。市場の不信を招きかねない」と批判します。

■福祉も財政も直撃

 消費増税の延期は、社会保障のあり方と、それと不可分の財政再建計画を直撃する。

 一体改革では、税率引き上げによる税収の増加分の使い道もおおむね決められている。

 計画していた給付を削るのか。削らないなら財源をどう手当てするのか。

 国債発行に頼れば財政再建は遠のく。政府は基礎的な財政収支の赤字について、GDPに対する比率を10年度の6・6%から15年度に半減させ、20年度には黒字化する計画だ。消費税率を予定通り10%にすれば15年度の目標はぎりぎり守れそうだが、20年度に向けてさらに増税や歳出削減が不可欠という厳しい状況にある。

 日本銀行は、大胆な金融緩和のために国債を大量に買っている。日銀が政府の予算を穴埋めしていると見なされれば、国債や円への信頼がゆらぎ、相場急落に伴う「悪い金利上昇」や「悪い円安」を招きかねない。

 日銀は、10月末に金融緩和策第2弾を決め、国債購入の上積みを打ち出した。その直後に政府が増税を先送りする。市場の不信を招きかねない。

 社説は「法律の景気条項を削除するべき」とし、これ以上先送りせず「再増税の時期を明確に示すこと」を求めています、そして「不人気政策を避ける方便に使われるあいまいな規定は百害あって一利なし」と結ばれています。

■先送り論に歯止めを

 この間の経緯を見れば、今後も先送りを繰り返すことにならないか、疑念が募る。歯止めが不可欠だ。

 まずは再増税の時期を明確に示すことだ。1年半先送りして17年4月とする案が有力のようだが、なぜ1年半か、社会保障財政再建をどうするのか、説明する責任が首相にはある。

 そして、給付をまかなうために負担増が避けられないことを語らねばならない。

 そのためにも、法律の景気条項を削除するべきだ。この条項は経済の混乱時に増税を見送る趣旨だとされるが、増税反対派への配慮もあって「経済の好転」を条件とし、目標とする経済成長率が盛り込まれている。

 経済の混乱時に増税を見送るのは当然であり、規定の有無にかかわらず政治の責任で判断すればよい。不人気政策を避ける方便に使われるあいまいな規定は百害あって一利なしだ。

 いま、考えるべきは、全ての世代にわたる助け合いのあり方だ。政治も、私たち国民も、相互扶助の礎である「給付と負担」を熟考する時である。

 ・・・

 時期をあいまいにせず、断固消費税アップを実行すべし、ということです。

 うむ、実に明快な主張であります。

 結びの「いま、考えるべきは、全ての世代にわたる助け合いのあり方だ。政治も、私たち国民も、相互扶助の礎である「給付と負担」を熟考する時である」とは名文です、「正論」でありましょう。

 しかしです。

 朝日社説が力強く「断固消費税アップを実行すべし」と主張している同じ紙面で、朝日新聞も加盟している日本新聞協会並びに「日本新聞販売協会」が244万人分の署名とともに強力なロビー活動を行い「新聞に軽減税率」を求めているわけです。

新聞に軽減税率、自公が適用要望 官房長官に署名提出
2014年11月15日05時00分

 自民党新聞販売懇話会の丹羽雄哉会長と公明党新聞問題議員懇話会の漆原良夫会長が14日、首相官邸菅義偉官房長官と会談し、消費税率を10%に引き上げる際、新聞購読料に軽減税率を導入するよう求める244万人分の署名を手渡した。日本新聞販売協会の河邑康緒会長も同席した。

 会談後、丹羽氏は記者団に「我が国の活字や新聞に対する認識が問われる問題だ。生鮮食料品と並んでこの問題を強く要望していきたい」と述べ、漆原氏は「(新聞は)民主主義の基礎になる国民の知る権利に資する」と指摘した。
 
http://digital.asahi.com/articles/DA3S11456331.html?iref=comkiji_txt_end_s_kjid_DA3S11456331

 自民党新聞販売懇話会の丹羽雄哉会長と公明党新聞問題議員懇話会の漆原良夫会長は完全に新聞業界のYESマンなのは有名ですが、「(新聞は)民主主義の基礎になる国民の知る権利に資する」とは日本新聞協会の主張そのものでお腹で茶が沸くってもんです。

 日本新聞協会のサイトより、Q/A集が笑いを誘います。

なぜ新聞に軽減税率が必要なのですか?
Q:消費税の軽減税率とは何ですか?

A:みなさんが消費した物やサービスに課税される消費税は、誰にでも同じ税率が適用されるため、低所得者の負担が大きくなります。そのため、消費税に複数の税率を導入し、食料品などの生活必需品には、その他の商品より低い税率を適用して消費者の負担を軽くする制度です。

Q:なぜ新聞に軽減税率が必要なのですか?

A:みなさんがニュースや知識を得るための負担を減らすためです。新聞界が軽減税率を求めているのは購読料金に対してです。読者の負担を軽くすることは、活字文化の維持、普及にとって不可欠だと考えています。新聞協会が実施した調査でも、8割を超える国民が軽減税率の導入を求めていて、そのうち4分の3が新聞や書籍にも軽減税率を適用するよう望んでいます。新聞協会は、書籍や雑誌への適用も併せて求めています。

Q:軽減税率という制度は外国にもありますか?

A:欧米をはじめ先進諸国では、食料品などの生活必需品や活字媒体への税負担を減免する制度があります。

Q:新聞・雑誌にも適用されているのですか?

A:書籍、雑誌も含めて、活字文化は単なる消費財ではなく「思索のための食料」という考え方がヨーロッパにはあります。新聞をゼロ税率にしている国もイギリス、ベルギー、デンマークノルウェーの4か国あります。EU加盟国では、標準税率が20%を超える国がほとんどで、その多くが新聞に対する適用税率を10%以下にしています。

欧州諸国付加価値税一覧

国名 標準税率 新聞の税率
オーストリア 20 10
ベルギー 21 0
ブルガリア 20 20
クロアチア 25 5
キプロス 19 5
チェコ 21 15
デンマーク 25 0
エストニア 20 9
フィンランド 24 10
フランス 20 2.1
ドイツ 19 7
ギリシャ 23 6.5
ハンガリー 27 5
アイルランド 23 9
イタリア 22 4
ラトビア 21 12
国名 標準税率 新聞の税率
リトアニア 21 21
ルクセンブルグ 15 3
マルタ 18 5
オランダ 21 6
ポーランド 23 8
ポルトガル 23 6
ルーマニア 24 9
スロバキア 20 20
スロベニア 22 9.5
スペイン 21 4
スウェーデン 25 6
イギリス 20 0
アイスランド 25.5 7
ノルウェー 25 0
スイス 8 2.5
日本新聞協会調べ。2014年1月現在
※日刊紙の定期購読の場合
アイスランドノルウェー、スイスはEU非加盟国

Q:有料の電子新聞も軽減税率の対象になりますか?

A:対象になるよう求めています。新聞社が提供する電子新聞の信頼性は紙の新聞と同じです。紙でもネットでも、新聞社が長年培ってきた取材、編集の手法により、多くの人手をかけて記事を作成しています。フランスでは、2014年2月からオンラインプレスにも軽減税率が適用されています。

http://www.pressnet.or.jp/keigen/qa/#q2

 なるほど、「書籍、雑誌も含めて、活字文化は単なる消費財ではなく「思索のための食料」という考え方がヨーロッパにはあります。新聞をゼロ税率にしている国もイギリス、ベルギー、デンマークノルウェーの4か国あります。EU加盟国では、標準税率が20%を超える国がほとんどで、その多くが新聞に対する適用税率を10%以下にしています。」のだそうです。

 そうか、紙の新聞は「思索のための食料」だったのか、生活必需品と同等なわけですか。

 つまりです。

 消費税10%アップは必ず実行せよ、ただし新聞は除け、というのが新聞業界の主張なわけです。

 強力なロビー活動で新聞に軽減税率適用を政府に働きかけつつ、返す刀で早く消費税アップせよと社説で主張する。

 「社会の木鐸」を自称する大新聞よ、それでも公正な庶民の味方と言えるのか?

 今あなた方がしていることは、なりふり構わぬ特定業界のロビー活動はあなた方がさんざん批判してきたことではないのか?

 恥ずかしくないのか?



(木走まさみず)