木走日記

場末の時事評論

日本の議院内閣制は「活動限界」です!〜戦後歴代内閣の短すぎる平均寿命を憂える

 5日付け産経新聞電子版記事から。

政府が初閣議 首相は平成の開国に向け奮闘を指示 仙谷氏は野党を「党利党略」と批判
2011.1.5 11:43

 政府は5日午前、今年初の閣議を開いた。菅直人首相は「10数年来の課題を解決し、『平成の開国』を断固やるために各閣僚の奮闘、努力をお願いしたい」と指示した。今月中に召集される通常国会に向け、野党側は参院で問責決議を受けた仙谷由人官房長官の更迭を求めており、菅政権の行方は波乱含み。だが、仙谷氏は閣議後の記者会見で野党側の姿勢を批判し、強気の姿勢を見せた。
 仙谷由人官房長官は自民、公明両党などが仙谷氏の辞任を求め、通常国会で審議拒否する構えを見せていることについて「野党が私や馬淵澄夫国土交通相に対する問責決議を盾に国会審議に応じないという党利党略を自己目的化したような戦術を取るなら、国民の信頼を国会自身が失うことになる」と強く批判した。
 内閣改造に関しては「首相の専権事項であり、国会開会前に考えるだろう」と述べるにとどめた。

http://sankei.jp.msn.com/politics/policy/110105/plc1101051143005-n1.htm

 うむ、「10数年来の課題を解決し、『平成の開国』を断固やるために各閣僚の奮闘、努力をお願いしたい」と閣議で号令を出した菅直人首相なのであります。

 4日の年頭記者会見でTPP参加問題と消費税を含めた税制改革を6月までにとりまとめると公約したのを受けての発言であります。

 環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)への参加については、当然ながら必要な農業対策のとりまとめをしなければいけないのですが、全農や与野党の農林族などの抵抗を退ける決断が、果たしてこの政権にできるのでしょうか。

 はたまた、消費税増税を含む税制抜本改革では、超党派の議論が必要なわけですが、具体的に税率をどうするか。また子ども手当などのばらまき政策を盛り込んだ政権公約を見直すのかどうか、さらには破綻しつつあるこの国の社会保障制度をどう立て直すのか、歳入だけでなく歳出の議論も必須なわけですが、求心力を失っているこの政権でこれらの施策を遂行できるのでしょうか。

 菅直人首相には申し訳ないですが、ちまたではそもそもこの政権が6月まで持つのか、危ぶむ声が多いのであります。

 ねじれ国会では予算案以外ひとつとして法案を通すめどは立っていないのでいつ政権が倒れてもおかしくない状況ですし、仮に3月までなんとか持ったとしても、4月の統一地方選民主党惨敗ならば菅直人首相の責任問題となることは間違いないでしょう。

 TPP参加問題、それに伴う農政改革、消費税増税を含む税制抜本改革、破綻しつつあるこの国の社会保障制度の再構築、更に加えれば袋小路にはまった普天間基地移設問題に代表される防衛・外交問題、そして深刻な若年者失業率を含めた景気と雇用問題、解決しなければならない重大な政治課題が目白押し、まったなしの状態です。

 この国のためには政府の奮闘を期待したいのですが、私を含め多くの国民は菅さんの実行力を悲観的に捉えていることでしょう。 

 正直、これがこの政権の「能力の限界」なのではないでしょうか。

 ・・・

 考えてみればこれらの問題は、確かに菅直人首相の発言にあるとおり、どれをとっても「10数年来の課題」なのであります。

 民主党政権の能力の問題でありながら、歴代自民党政権が未解決にしてきた問題でもあります。

 政権の「能力の限界」と失礼な表現を使用しましたが、もしかしたら日本の歴代政権も総じて「能力の限界」を露呈していなかったか。

 過去の日本の政権におしなべて力がなかったから、このような深刻な政治課題が累々と残されているのではないでしょうか。

 今回はそこで民主党自民党という党派で論じるのではなく、制度として日本の議会制民主主義を、戦後歴代内閣と在任年数などを検討しながら俯瞰してみたいです。

 そもそも日本の議院内閣制はうまく機能してきたのでしょうか。

 戦後65年、菅直人首相は33人目の内閣総理大臣なのであります。

 戦後歴代内閣と在任年数を一覧表にまとめてみました。

■表1:戦後歴代内閣と在任年数一覧

No 内閣名 在任期間 在任年数
01 東久邇宮稔彦王内閣 (昭和20年8月17日〜昭和20年10月9日) 0年2ヶ月
02 幣原喜重郎内閣 (昭和20年10月9日〜昭和21年5月22日) 0年7ヶ月
03 吉田 茂内閣 (昭和21年5月22日〜昭和22年5月24日) 1年0ヶ月
04 片山 哲内閣 (昭和22年5月24日〜昭和23年3月10日) 0年10ヶ月
05 芦田 均内閣 (昭和23年3月10日〜昭和23年10月15日) 0年7ヶ月
06 吉田 茂内閣 (昭和23年10月15日〜昭和29年12月10日) 6年2ヶ月
07 鳩山一郎内閣 (昭和29年12月10日〜昭和31年12月23日) 2年0ヶ月
08 石橋湛山内閣 (昭和31年12月23日〜昭和32年2月25日) 0年2ヶ月
09 岸 信介内閣 (昭和32年2月25日〜昭和35年7月19日) 3年5ヶ月
10 池田勇人内閣 (昭和35年7月19日〜昭和39年11月9日) 4年4ヶ月
11 佐藤榮作内閣 (昭和39年11月9日〜昭和47年7月7日) 7年8ヶ月
12 田中角榮内閣 (昭和47年7月7日〜昭和49年12月9日) 2年5ヶ月
13 三木武夫内閣 (昭和49年12月9日〜昭和51年12月24日) 2年0ヶ月
14 福田赳夫内閣 (昭和51年12月24日〜昭和53年12月7日) 2年0ヶ月
15 大平正芳内閣 (昭和53年12月7日〜昭和55年7月17日) 1年7ヶ月
16 鈴木善幸内閣 (昭和55年7月17日〜昭和57年11月27日) 2年4ヶ月
17 中曽根康弘内閣 (昭和57年11月27日〜昭和62年11月6日) 5年0ヶ月
18 竹下 登内閣 (昭和62年11月6日〜平成元年6月3日) 1年7ヶ月
19 宇野宗佑内閣 (平成元年6月3日〜平成元年8月10日) 0年2ヶ月
20 海部俊樹内閣 (平成元年8月10日〜平成3年11月5日) 2年3ヶ月
21 宮澤喜一内閣 (平成3年11月5日〜平成5年8月9日) 1年9ヶ月
22 細川護煕内閣 (平成5年8月9日〜6年4月28日) 0年8ヶ月
23 羽田 孜内閣 (平成6年4月28日〜6年6月30日) 0年2ヶ月
24 村山富市内閣 (平成6年6月30日〜8年1月11日) 1年7ヶ月
25 橋本龍太郎内閣 (平成8年1月11日〜平成10年7月30日) 2年6ヶ月
26 小渕恵三内閣 (平成10年7月30日〜平成12年4月5日) 1年9ヶ月
27 森 喜朗内閣 (平成12年4月5日〜平成13年4月26日) 1年0ヶ月
28 小泉純一郎内閣 (平成13年4月26日〜平成18年9月26日) 5年5ヶ月
29 安倍晋三内閣 (平成18年9月26日〜平成19年9月26日) 1年0ヶ月
30 福田康夫内閣 (平成19年9月26日〜平成20年9月24日) 1年0ヶ月
31 麻生太郎内閣 (平成20年9月24日〜平成21年9月16日) 1年0ヶ月
32 鳩山由紀夫内閣 (平成21年9月16日〜平成22年6月8日) 0年9ヶ月
33 菅 直人内閣 (平成22年6月8日〜) 現在6ヶ月

注意:吉田茂氏は返り咲きがあるので第一次と第二次で2回カウントされています。

 ご覧いただければ一目瞭然なのでありますが、33の内閣のうち過半数の19の内閣が2年持ちこたえていません。

 当然ながら戦後歴代内閣の平均寿命も2年を割っています。

 日本以外で、世界のどこの国で国の最高責任者が2年を待たずにコロコロと替わる国があるでしょう。

 これでは長期的政治課題が累々と未解決のまま放置されてきたのも頷けるというものです。

 アメリカの大統領の任期は4年制、ブッシュ元大統領のように2期つとめれば8年に渡り統治いたします。

 フランスや韓国でも4年ではなく5年、6年ですが同様の任期なのであります。

 大きな改革を成し遂げるには日本の内閣は寿命が短すぎると言えませんでしょうか。

 これは「能力の限界」というよりも「制度の限界」なのではないでしょうか。

 日本の首相も、例えば直接選挙制による2期までの4年任期制などを検討すべきではないのでしょうか。

 今のままでは民主党政権がこのまま続いたとしても、たとえ自民党政権が返り咲いたとしても、おそらくその政権も何もできずに短命で終わってしまうのではないでしょうか。

 私の好きなアニメの決めゼリフ、「エヴァ、活動限界です!」になぞって表現すれば、制度として「日本の議院内閣制は活動限界です!」と言えないでしょうか。



(木走まさみず)