木走日記

場末の時事評論

アナウンス効果はあるのか〜”暴風”と”負け犬”の関係

民主党への追い風がとてつもないことを報じるメディア各紙の衆院選情勢調査

 21日付け朝刊トップで読売新聞と日経新聞もそれぞれの衆院選情勢調査を報じています。

民主300議席超す勢い…衆院選情勢調査

 読売新聞社は30日投票の第45回衆院選を前に18日から20日までの3日間、全国の有権者約11万人を対象に世論調査を行い、全国総支局などの取材を加味して、序盤の情勢を探った。

 民主党小選挙区選、比例選ともに自民党を圧倒しており、単独で過半数を確保し、300議席を超す勢いだ。

 自民党は、都市部に加え、伝統的な保守地盤である農村部でも、民主党候補に支持を奪われ、公示前議席の300議席から激減する見込みだ。

 公明党は公示前議席を固めきれず、苦戦している。投票態度を明らかにしていない人が、小選挙区選、比例選ともに2割前後おり、情勢は終盤にかけて変わる可能性がある。

 衆院選には、小選挙区選(定数300)に1139人、11ブロックの比例選(定数180)に888人(比例単独候補は235人)の計1374人が立候補している。


 小選挙区選に271人を擁立した民主党は、全体の7割強を占める200人弱の候補者が当選有力になり、さらに40人前後が当落線上で優位に立つなど圧倒的な戦いぶりを展開している。

 小選挙区選に289人を擁立した自民党は、当選が有力な候補は限られており、大苦戦を強いられている。当選可能性のある候補が今後健闘すれば90人に近づく可能性がある。自民党は、社民、国民新の両党候補らと対決する選挙区では善戦しているが、対民主党では苦戦している。

 公明党も前議員8人が立候補したが、全員当選は難しい情勢だ。東京や大阪で厳しい接戦となっている。

 社民、国民新、みんなの党の3党は、いずれも小選挙区で2議席確保の可能性が高い。比例選も合わせて、公示前勢力を維持出来るかどうかの戦いとなりそうだ。共産党小選挙区で苦戦するが、重視する比例選で公示前勢力の9議席を固め、さらなる議席の上積みをうかがう。

 比例選では、民主党が、前回衆院選自民党が獲得した77議席を上回り、80議席台に乗る勢いだ。自民党は伸び悩み、50議席台の公算が大きい。

 国政選の世論調査では、具体的な投票先を明らかにしない人が3、4割を占めるケースが多いが、今回は小選挙区選、比例選ともに少なく、特に比例選では2割を切った。解散から投開票まで40日間の長期間だったこともあり、具体的な投票先をすでに決めている有権者が多いとみられる。

(2009年8月21日03時03分 読売新聞)
http://www.yomiuri.co.jp/election/shugiin2009/news2/20090821-OYT1T00050.htm

(8/21)民主、圧勝の勢い 300議席超が当選圏 情勢調査

 日本経済新聞社は30日に投票日を迎える第45回衆院選を前に全国世論調査を実施し、情勢を探った。全480議席のうち民主党小選挙区比例代表を合わせて単独過半数(241議席)を突破、300議席超が当選圏に入っている。自民党は100議席弱の当選圏にとどまっており、公示前勢力(300議席)に比べ議席を半数以下に減らすのは必至の情勢。民主党圧勝による政権交代の可能性が強まっている。

 全国の有権者約21万人を対象に約11万人から有効回答を得た。取材も加味して情勢を読み取ったが、300小選挙区で24%、180の比例代表で17%がまだ投票先を決めていない。投開票日に向け流動的要素も残っている。

http://www.nikkei.co.jp/senkyo/2009shuin/elecnews/20090820AS3S2001C20082009.html

 前日の朝日新聞調査に続いての民主300議席越えを予測する両紙なのであります。

民主300議席うかがう勢い 朝日新聞、序盤情勢調査(1/2ページ)
2009年8月20日4時30分
http://www.asahi.com/politics/update/0820/TKY200908190451.html

 3紙を読み比べてみますと、前日の朝日の「民主300議席うかがう勢い」が実は一番おとなしい控え目な予想で、21日のこの両紙は「民主300議席超す勢い」(読売)、「300議席超が当選圏」(日経)と、300越えは確実と思わせるタイトルが付いています。

 特に日経は電子化されていないようですが、紙面トップ記事での詳細説明では、民主党衆議院定員の3分の2に当たる320議席も視野に入ると説明しています。

 当該箇所をテキスト化してご紹介。

(前略)

 民主党小選挙区で200議席近くを固め、さらに40議席程度の獲得が有力。大都市圏に限らず苦手とされてきた地方でも先行している。比例代表は90議席を確保。小選挙区比例代表合わせると290議席をほぼ手中にした。
 小泉純一郎元首相による「郵政解散」で圧勝した2005年の前回衆院選当時の自民党を上回る勢いがある。国会運営を安定的に進める指標となる安定多数(252議席)、絶対安定多数(269議席)を単独で獲得。やや劣性な選挙区をすべて競り勝った場合は、参院で否決された法案を再可決できる衆院3分の2(320議席)以上の議席が視野に入る。

(後略)

2009年8月21日付け日本経済新聞 東京本社版紙面トップ記事 より抜粋

 この記事は、昨日当ブログでご紹介した民主党関係者(政策秘書)が教えてくれた民主党の目標値320議席があながち不可能な数値ではないことを裏付けているようにも思えます。

(前略)

木「朝日は「民主300議席うかがう勢い」と少しあいまいだが、君たちの予測のMAX値はズバリ何議席当たりなの?」
秘「これは予測と言うより願望に近い目標だが320」
木「何だって!? 320!?」
秘「いや、現在苦戦中の小選挙区がことごとく逆転してなおかつ比例区の得票が予想以上にのびた場合の考えられる最大値としてだよ、希望的願望みたいな数値だからまともにあつかわないでほしい」
木「320・・・」

(後略)

2009-08-20 民主単独政権も可能な地滑り的勝利を目指す民主党 より抜粋
http://d.hatena.ne.jp/kibashiri/20090820

 まあ320に達するには「現在苦戦中の小選挙区がことごとく逆転」(民主党関係者)、「やや劣性な選挙区をすべて競り勝った場合」(日経紙面)と、全く同じ厳しい条件がありますので、このハードルを越えるのはたやすくはないでしょうが・・・

 320とかこういうあり得そうにない数字が大新聞のトップ紙面に予測として堂々と書かれていること、それ自体が驚愕であり、今の民主党への追い風がとてつもないモノであることを示しているのであります。

 今後、明日にでも毎日新聞産経新聞・通信社の調査結果が掲載されるでしょうが、民主大躍進の傾向はおそらく変わらない予測がまたはでに報道されることでしょう。

 ・・・

 ふう、やれやれ。



●はたしてアナウンス効果はあるのか

 こうも民主圧勝の予測がメディアで大々的に繰り返し報じられるとすると、当然ながらその報道が有権者に影響を与える可能性が出てきますよね、いわゆるアナウンス効果であります。

 フリー百科事典『ウィキペディアWikipedia)』から。

バンドワゴン効果
出典: フリー百科事典『ウィキペディアWikipedia)』

バンドワゴン効果(バンドワゴンこうか、bandwagon effect)とは、ある選択が多数に受け入れられている、流行しているという情報が流れることで、その選択への支持が一層強くなることを指す。「バンドワゴン」とは行列の先頭の楽隊車のことであり、「バンドワゴンに乗る」とは、時流に乗るとか、多勢に与するという意味である。政治学社会学と経済学で使われる。対義語は「アンダードッグ効果」(underdog とは「負け犬」のこと)。
バンドワゴン効果は、「バンドワゴンの誤謬」(衆人に訴える論証)が成功したときに発生する効果である。

http://ja.wikipedia.org/wiki/バンドワゴン効果

 一般にアナウンス効果には、優勢な方にさらに有利に働くバンドワゴン効果(bandwagon effect)(いわゆる勝ち馬にのる現象)と、劣勢な方に有利に働くアンダードッグ効果」(underdog effect)判官贔屓みたいな弱いほうをひいきする現象)があります。

 今回の場合、すべてのメディアがおそらく有権者の想像以上の民主の大勝利を予測していますので、日本人有権者のこれまでの動向から、アナウンス効果としては民主にさらに有利にはたらくバンドワゴン効果(bandwagon effect)は考えづらく、おそらく弱者自民に有利に働く「アンダードッグ効果」(underdog effect)のほうが可能性としては大きいことでしょう。

 その意味では、朝日を筆頭に大メディアこぞって、自民政権存亡の危機に最後のご奉公でむき出しの自民党擁護戦略を展開していると穿って見ることもできそうです(結果論ですが)

 しかし今回はアナウンス効果としてたとえ自民に有利な「アンダードッグ効果」(underdog effect)がはたらいたとしても大勢に影響を及ぼすことはおこらないと考えます。

 理由は2つ。

 ひとつは単純に数値上の問題で、今回の各紙の予測値があまりにすごいことになっており、ちょっとやそっとの変動値では自民の逆転は難しい点です。

 もうひとつは、実はこちらの事実のほうが大きいと思えるのですが。読売や日経の調査結果を見てみると、通常の選挙よりも有権者の関心が異様に今回高く、すでに投票行動を決定している割合がいつになく高いことが示されている点です。

 読売記事から再掲。

 国政選の世論調査では、具体的な投票先を明らかにしない人が3、4割を占めるケースが多いが、今回は小選挙区選、比例選ともに少なく、特に比例選では2割を切った。解散から投開票まで40日間の長期間だったこともあり、具体的な投票先をすでに決めている有権者が多いとみられる。

 いうまでもなく有権者の投票行動に影響を与えるアナウンス効果は、特に投票行動をまだ決めかねている層に浸透しやすく、コアな決意の有権者には響きにくい特徴があります。

 今回は多くの有権者がすでに覚悟を決めている状態であるといっていいでしょう。

 この点でもアナウンス効果が拡大しにくい状況にあると思われます。

 ・・・

 各メディアの調査から民主党への追い風がとてつもない”暴風”であることが明らかになってきました。

 この暴風の前に、自民に有利な「アンダードッグ効果」(underdog effect)がはたらいたとしても大勢に影響を及ぼすことはむずかしいでしょう。

 今回は、”負け犬”(underdog)は見捨てられる可能性が大きいと思われます。

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(木走まさみず)