木走日記

場末の時事評論

日経・朝日・読売の共同サイト運営〜ネットの特性とは逆流している時代錯誤も甚だしい愚かな戦略

 昨日(1日)の主要紙記事から。

朝日新聞
新聞ネット事業、新サービス展開 朝日・読売・日経提携
2007年10月01日21時37分
http://www.asahi.com/business/update/1001/TKY200710010381.html
【読売新聞】
日経・朝日・読売が提携…共同配達、共同サイト運営で
http://www.yomiuri.co.jp/national/news/20071001i113.htm
毎日新聞
毎日jp 10月1日オープン
http://www.mainichi.co.jp/information/news/20071001-122940.html
産経新聞
MSN産経ニュース、新公式サイトがサービス開始
http://sankei.jp.msn.com/economy/it/070930/its0709302359004-n1.htm
日経新聞
日経、朝日、読売が業務提携・ネット事業などで協力
http://www.nikkei.co.jp/news/main/im20071001AS1D0101A01102007.html

 マイクロソフトが業務提携先を毎日から産経に切り替えたために、毎日はMSN毎日インタラクティブから毎日jpに、産経は逆に産経ニュースからMSN産経ニュースと冠にマイクロソフトが付いてそれぞれURLも変わったその同じ10月1日に、朝日・読売・日経が共同会見してネットで3社共通サイトを創設すると発表したのであります。

 3社共通サイトですか、ほんと、なんだかなあ、わけわからんのですが(苦笑

 ・・・

 これでネット上のメディア相関は、『産経+マイクロソフト』連合、『毎日+ヤフー』連合、『朝日・読売・日経』新聞社連合という図式になりそうであります。

 注目の『朝日・読売・日経』新聞社連合ですが、既存のポータルサイトであるグーグルやヤフー等との連携は当面考えていないようで、どうやらネットノウハウで朝日・読売よりはるかに先行している日経が技術的には主導的役割をはたすことになるのでしょう。

 しかしなあ、広く世界を見渡しても前代未聞の主要新聞同志の3社共通サイト創設なのでありますが、紙の発行部数の公称を3紙足せば2000万部に届かんとする大連合であります。

 いや、しかし時代錯誤も甚だしい大連合であります(苦笑

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●ネットでは要約記事を載せ、詳細やまとめは紙面でと誘導したい

 ネットの普及により新聞業界は世界規模で苦況に陥っており、紙の発行部数の低迷が止まらない中、どうネット戦略を打ち立てるか、緊急的課題となっておるわけです。

 今回の3社共通サイト創設の動きも、その背景には、若年層の活字離れや人口減などで日本の新聞の誇る戸別配達網が特に過疎地を中心に維持ができない、採算がとれないといった切実な事情がありそうです。

 とりあえず株式化しないで「組合」とするそうですが、それはそうでしょうね、新聞メディアのネット事業の収益性は先行するアメリカメディアを見ても苦戦中であり、確立された手法はなく手探りな状態ですからいきなり株式にするリスクを避けたかったのでしょう。

 それに今後展開するビジネスによってはこの3社連合、発行部数からいって間違いなく独占禁止法に抵触する可能性大でありますから、とりあえずややこしい批判を避ける狙いもあって「組合」という形式を取ったのでありましょう。

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 それにつけても、時代錯誤も甚だしいこの大連合、その意図がよくわかりません。

 「各社の主要記事や社説を読み比べられるニュースサイトを08年初めに開設」だなんて、何をいまさら目指そうとしているのでしょうか。

 社説や記事の読み比べなんて場末のブログ『木走日記』だってできるちゅうに(苦笑

 それにどうも同日会見した日本経済新聞社の杉田亮毅社長は「提携は3社間の健全な競争を阻害しない」と説明し、読売新聞グループ本社内山斉社長は「ペーパーとしての新聞を断固維持するためのネットの活用であり、販売網の強化だ」と強調したそうですが、どうやらネットでは要約記事を載せ、詳細やまとめは紙面でと誘導したいようなんですが、どうなんでしょうね。

 記者会見では、日経の杉田社長がこんなこと言っています。

 −−ニュースをすべてネットで配信すればいいのではないか。現在のポータルサイトでも、複数媒体を比較できるが、3社の記事しか読めない新サイトのメリットは

 杉田「簡単に割り切れれば、経営というのはこんなに簡単なことはない。そうできないところに世界中の新聞社が苦しんでいる。米国でもウェブの重みが高まっても、ニューヨークタイムズもダウジョーンズも紙をやめないで新聞経営をやっている。紙とネットを噛み合わせて、読者の最大満足を引き出していこうとしている。

 われわれもネットを活用しながら、紙の便利さを維持する。紙の優れた部分も非常に多い。若い人たちには、ニュース価値をつけないで、平板な露出で構わないという人もいるが、一覧性効果は、紙の方がはるかに優れている。映像や速報性はウェブがはるかに優れている。この両方をうまく駆使しながら、読者の最大満足を引き出していく」

 確かに「一覧性効果は、紙の方がはるかに優れている」のは認めますが、ネットのほうがメディアとして優れている特性を「映像や速報性」に限定している点はいただけません。



●「20:80の法則」を打破したロングテール商品が売れるという現象

 この朝日・読売・日経大連合による3社共通サイトですが、どうもネットでは要約記事で詳細やまとめは紙面購読に誘導したいという社長達の思惑ですが、Web2.0のこの時代を正しく理解しているとは思えません。

 WEB2.0提唱者であるティム・オライリー氏のインタビューで勉強したほうがいいんじゃないかと思いました’(苦笑

ティム・オライリー:WEB2.0提唱者に聞く----独占インタビュー
http://mainichi.jp/life/electronics/news/20070930mog00m040013000c.html

 今日のインターネットビジネスで起こっていることは、アマゾンや価格.comのネットショッピングの興隆を見れば一目瞭然です。

 それは「20:80の法則」を打破したロングテール商品が売れるという現象をもたらしたのです。

 通常のリアルな商売では、「20%の売れ筋商品が売り上げの80%を占める」という常識がありました。

 そこでコンビニなどでは、売れ筋商品を目立つ棚に陳列させ、ほとんど売れない商品は隅に追いやられ、しばしば倉庫に返されるということも起こるわけです。

 高い家賃の中で限られたスペースに商品を陳列する限り、これは当然の選択です。

 ところがネットショッピングでは状況は一変しました。

 バーチャルな空間では家賃など発生しないのですから、滅多に売れない80%の商品達(売り上げグラフで示すと恐竜のしっぽのような形状になるのでこれらの商品をロング・テールと呼ぶわけです)も、売れ筋商品と対等にサイトに掲載可能になりました。

 さらに検索機能等の充実によりそれらのロングテール商品もよく売れるようになったのです。

 アマゾンで本やCDを購入した経験のある人ならば、このロングテール商品の購入できるネットショッピングの特性の恩恵に浴した人も多いでしょう。

 どんな大きな書店に行ってもほしい専門書を探すのは面倒ですし、棚になかったら取り寄せるしかありません。

 それがネットショッピングならば、在庫さえあれば苦労なく購入できるのです。

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 Web2.0時代のネットの優れた特性のひとつは、この「大量情報のローコスト公開性と優れた検索性」にあります。

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●ネット特性を無視した時代錯誤の戦略

 メディアにとって記事とは「商品」とみなすことができるでしょう。

 3社連合は、リアルの限られた紙面のほうに詳細やまとめを載せ、ネットでは一部記事しか載せない、もしくは要約を載せる、という方針のようです。

 ネット特性を無視した時代錯誤の戦略というしかありません。

 どう考えても物理的に面積の限られた紙面のほうが、情報選択、情報要約の必要があり、バーチャルなネットのほうが、大量の情報や詳細の情報の管理・閲覧には向いています。

 どう収益性を確保するのかその手段を構築するのは、たしかに難題なのでしょうが、少なくとも、情報を3社に特化ししかも要約や載せる記事を選択するという朝日・読売・日経の3社共通サイトは、今日のネットの特性とは逆流している愚かな戦略であるという点で、時代錯誤も甚だしい大連合なのであります。
 Web2.0時代のネットの優れた特性のひとつは、「大量情報のローコスト公開性と優れた検索性」にあります。

 そのネットの特性を正しく理解せず、いつまでも紙の発行部数にこだわるからこういう戦略ミスをするのです。



(木走まさみず)