木走日記

場末の時事評論

だから産経社説が気絶するほど大好き〜各自尚イッソウ奮闘努力セヨ

●戦後国語政策の見直しは焦眉(しょうび)の問題〜吠える産経新聞社説

 今日(8日)の産経新聞社説から。

■【主張】国語力再生 漢字制限の見直しが急務

 全国都道府県教育長協議会の調査によると、児童・生徒の国語力が10年前に比べて落ちていると考える学校が小学校で6割、中学校で7割、高校では9割にも上ることが分かった。特に語彙(ごい)力、自分の考えをまとめて書く力などが低下しているという。このところ国語力、読解力、学力低下が次々に明らかになっている各種調査の結果が、また確認されたということである。

 国語表記の基本は読みやすく理解しやすい漢字仮名交じり文だ。それは日本人が漢字を受容して千数百年をかけて工夫を積み上げてきた経験知の集大成である。ところが、知識の大衆化や情報の民主化を旗印とする戦後国語政策、特に漢字制限政策はこの先人の知恵の結晶を損なう結果を招いた。

 片仮名語以外の国語語彙の大方は漢字で書ける。そのような豊かな語彙を持つ国語に常用漢字1945字の枠をはめると、表外字を含む語の大半が使えなくなり、使われなくなる。語彙力が貧困化するのは理の当然だ。

 語彙力の再生には漢字力が欠かせないのだ。現下の漢字教育は小学1年生には80字、2年生には160字などといった学年別配当表によって6年間で1000字強を教えることになっている。これでは、漱石、鴎外の作品も原文では読めまい。先人の知恵の恩恵に浴せなくなってしまうのである。

 本来漢字で書くべき語を仮名で書くのは望ましいとはいえない。仮名は助詞・助動詞や活用語の活用語尾を書く役割を担っている。仮名にはつづりというものがなく、同じ音声の語を書き分けられない。例えば、「かし」と書いたのでは菓子、歌詞、貸し、河岸、樫、瑕疵…何の「かし」なのか特定できない。国語表記に仮名が増えれば国語が曖昧(あいまい)化するのである。

 片仮名語の増大も漢字制限と無縁ではない。原語を知らない者には片仮名語は理解できないから、意思疎通の手段としても国語が劣化する。

 こうした国語環境で育てば、国語力が低下するだけでなく、思考力も粗雑になるのは火を見るよりも明らかである。ルビを活用して、小学生のうちにせめて今の2倍、3倍の漢字が読めるようにしなければ、国語力再生はおぼつかない。戦後国語政策の見直しは焦眉(しょうび)の問題だ。

http://www.sankei.co.jp/news/editoria.htm

 うーむ、何かに付け戦後の民主教育を完全否定する産経新聞社説ですが、今日のこの社説は読み応えがありますねえ、論説が産経らしくてもう不肖・木走はこういうちょっと強引な産経社説の主張を読むのが大好きなのであります(苦笑)

 この産経社説の論理は明快ですね。

 近年の子供達の「国語力、読解力、学力低下」は全て「知識の大衆化や情報の民主化を旗印とする戦後国語政策、特に漢字制限政策」が原因としています。

 国語表記の基本は読みやすく理解しやすい漢字仮名交じり文だ。それは日本人が漢字を受容して千数百年をかけて工夫を積み上げてきた経験知の集大成である。ところが、知識の大衆化や情報の民主化を旗印とする戦後国語政策、特に漢字制限政策はこの先人の知恵の結晶を損なう結果を招いた

 うん、わかりやすい。

 「語彙力の再生には漢字力が欠かせない」のに、今の小学校では1000字ぐらいしか漢字を学習させないのだから、「これでは、漱石、鴎外の作品も原文では読めまい。先人の知恵の恩恵に浴せなくなってしまう」と主張しています。

 実に明快で力強い論説であり読んでいて気分がいいです。

 結論もよいですね。

 こうした国語環境で育てば、国語力が低下するだけでなく、思考力も粗雑になるのは火を見るよりも明らかである。ルビを活用して、小学生のうちにせめて今の2倍、3倍の漢字が読めるようにしなければ、国語力再生はおぼつかない。戦後国語政策の見直しは焦眉(しょうび)の問題だ

 うんうん、このような状況を看過していれば「国語力が低下するだけでなく、思考力も粗雑になるのは火を見るよりも明らか」なのであり、「戦後国語政策の見直しは焦眉(しょうび)の問題」と結んでいます。

 具体的な改善策としては「ルビを活用して、小学生のうちにせめて今の2倍、3倍の漢字が読めるようにしなければ」と、2倍から3倍と急にアバウトになっちゃってます(苦笑)が、そんな些末なことはどうでもいいんです。

 「戦後国語政策の見直しは焦眉(しょうび)の問題」なのであります。

焦眉之急
[ショウビノキュウ]
眉が焦げるほど火が迫っている意から、非常に差し迫った危険や急務のこと。

 ・・・

 全国都道府県教育長協議会の調査結果を「戦後国語政策」に原因があるとし、さらにかなり強引に「特に漢字制限政策」がいけないのだと決め付けて、「小学生のうちにせめて今の2倍、3倍の漢字が読めるようにしなければ」ならぬと、反対派か読めば、こりゃ唯我独尊・独断専行の暴論と批判されそうな主張を、堂々と社説に掲げる。

 私はこういう産経社説が決して嫌いではありません。

 いやむしろ気絶するほど大好きなのです。(爆

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●旧仮名遣いによる郷愁そそる名文の数々

 私は別に国語学者でも何でもない素人ですが、産経社説がどうやら「旧仮名遣い」に郷愁の念を持っていることはよく理解できます。

 不肖・木走にとって旧仮名遣いによる郷愁そそる名文として真っ先に思い出すのは確か高校の時教科書に載っていた、中島敦の「山月記」です。

 隴(ろう)西の李徴は博學才穎(さいえい)、天寶の末年、若くして名を虎榜(こぼう)に連ね、ついで江南尉に補せられたが、性、狷介、自ら恃む所頗る厚く、賤吏に甘んずるを潔しとしなかつた。いくばくもなく官を退いた後は、故山、(くわく)略に歸臥し、人と交を絶つて、ひたすら詩作に耽つた。下吏となつて長く膝を俗惡な大官の前に屈するよりは、詩家としての名を死後百年に遺さうとしたのである。しかし、文名は容易に揚らず、生活は日を逐うて苦しくなる。李徴は漸く焦躁に驅られて來た。この頃から其の容貌も峭刻となり、肉落ち骨秀で、眼光のみ徒らに烱々として、曾て進士に登第した頃の豐頬の美少年の俤は、何處に求めやうもない。數年の後、貧窮に堪へず、妻子の衣食のために遂に節を屈して、再び東へ赴き、一地方官吏の職を奉ずることになつた。

 ・・・

http://www.aozora.gr.jp/cards/000119/files/623_18353.html

 もう内容よりもこのリズム感ある文章そのものが大好きで、夜布団の中でこっそり朗読していたものでした。

 あと戦記モノが大好きな私としては、45年1月第4護衛隊兼沖縄特別根拠地隊司令官となり1万人の部隊を率いて沖縄本島小禄(おろく)半島(現在の那覇空港周辺)での陸戦を指揮したが,米軍の攻撃のために6月13日海軍壕内で自決(54歳)した大田実(おおたみのる)中将の最後の大本営宛の電文です。

左ノ電文ヲ次官ニ御通報方取計(とりはからい)ヲ得度(えたし)
沖縄県民ノ実情ニ関シテハ県知事ヨリ報告セラルベキモ県ニハ既二通信力ナク 第32軍司令部又通信ノ余力ナシト認メラルニ付 本職県知事ノ依頼ヲ受ケタルニ非(あら)ザレドモ現状ヲ看過(かんか)スルニ忍ビズ 之ニ代ツテ緊急御通知申上グ 沖縄島ニ敵攻略ヲ開始以来 陸海軍方面防衛戦闘ニ専念シ県民ニ関シテハ殆(ほとん)ド顧ルニ暇ナカリキ 然(しか)レドモ本職ノ知レル範囲ニ於テハ県民ハ青壮年ノ全部ヲ防衛召集ニ捧ゲ 残ル老幼婦女子ノミガ相次グ砲爆撃ニ 家屋ト財産ノ全部ヲ焼却セラレ 僅ニ身ヲ以テ軍ノ作戦ニ差支ナキ場所ノ小防空壕ニ避難 尚 砲爆撃下 ‥‥(不明) 風雨ニ曝サレツツ 乏シキ生活ニ甘ンジアリタリ 而(しか)モ若キ婦人ハ率先軍ニ身ヲ捧ゲ 看護婦烹飯(ほうはん)婦ハモトヨリ 砲弾運ビ、挺身斬込隊スラ申出ルモノアリ 所詮(しょせん) 、敵来リナバ老人子供ハ殺サルベク 婦女子ハ後方ニ運ビ去ラレテ毒牙(どくが)ニ供セラルベシトテ 親子生別レ 娘ヲ軍衛門(ぐんえいもん)ニ捨ツル親アリ 看護婦ニ至リテハ軍移動ニ際シ衛生兵既ニ出発シ 身寄無キ重傷者ヲ助ケテ‥‥(不明)真面目ニシテ一時ノ感情ニ馳(は)セラレタルモノトハ思ワレズ更ニ軍ニ於テ作戦ノ大転換アルヤ自給自足夜ノ中ニ遥ニ遠隔地方ノ住民地区ヲ指定セラレ 輸送力皆無ノ者 黙々トシテ雨中ヲ移動スルアリ 之ヲ要スルニ陸海軍沖縄ニ進駐以来 終始一貫 勤労奉仕、物資節約ヲ強要セラレテ 御奉公ノ‥‥(不明)ヲ胸ニ抱キツツ遂ニ‥‥(不明)コトナクシテ本戦闘ノ末期ト沖縄島実情形‥‥(不明)一木一草焦土ト化セン 糧食6月一杯ヲ支フルノミナリト謂フ 沖縄縣民斯(か)ク戦ヘリ
 県民ニ対シ後世特別ノ御高配ヲ賜ランコトヲ

 この「県民ニ対シ後世特別ノ御高配ヲ賜ランコトヲ」で結ばれている電文は、とても有名なのですが、「沖縄県民は斯く(このように)戦ったのだから,後世沖縄を決しておろそかにはせず,平和になったあかつきには,沖縄県民に格別の配慮をして欲しい」との願望で締めくくっているわけですね。

6月6日(この日天皇臨席の最高戦争指導会議が開かれ,今後採るべき戦争指導の基本大綱である「本土決戦方針」を採択,あくまで戦争を完遂することを決定)海軍次官にあてた電文(玉砕の決別電)は,「沖縄県民斯く戦へり。県民に対し後世特別の御高配を賜ることを」と結んだ。この電文には,これまでの決別電の典型であった『天皇陛下万歳』も,『皇国ノ弥栄(いやさか=いよいよ栄えること)ヲ祈ル』という文言は皆無であった。勇ましい戦いの報告もなかった。指揮官としての作戦報告もなかった。そこにはただひたすら,第2次大戦唯一の地上戦となった沖縄戦の惨状(住民をまもるべき軍が住民を楯に戦い,集団自決を強要したことに「捨て石」戦であった沖縄戦死闘の悲劇があった)と沖縄県民の筆舌しがたい苦難を述べたものであった。さらに,軍はそれらを顧みる余裕がなかったと悔いた後,沖縄県民は斯く(このように)戦ったのだから,後世沖縄を決しておろそかにはせず,平和になったあかつきには,沖縄県民に格別の配慮をして欲しい」との願望で締めくくっている。

旧海軍司令壕と大田実中将 より抜粋
http://www.cc.matsuyama-u.ac.jp/~tamura/kaigunngou.htm

 戦時のことであり電文の途中が解読不能であったのはまことに残念ですがそれにしても名文なのであります。

一木一草焦土ト化セン
糧食6月一杯ヲ支フルノミナリト謂フ
沖縄縣民斯(か)ク戦ヘリ
県民ニ対シ後世特別ノ御高配ヲ賜ランコトヲ

 沖縄地上戦の悲惨さと大田実中将の日本軍に忠誠を尽くし犠牲になった沖縄県民への熱い想いが少ない文字の中に見事に表現されていますよね。

 ・・・

 産経社説も小学生の漢字学習量を「2倍から3倍」なんてちゃちなこと言わないで、どうせ社説で強硬論載せるなら、「ひらがな廃止」でも主張したらどうでしょうか。

 そうしたら、不肖・木走は以下のような電報を打って、産経編集部を激励することでしょう。

 我、産経社説ヲ断固支持ス
 産経編集部総員ノ健闘ヲ祈ル
 興国ノ教育、コノ一戦ニアリ
 各自尚イッソウ奮闘努力セヨ

(木走まさみず)