木走日記

場末の時事評論

「友好国」韓国の非常識は「仮想敵国」中国の訓練よりも挑発的だということ

報道によれば、東シナ海の公海上で5月、中国軍の戦闘機が海上自衛隊護衛艦を標的に見立てて攻撃訓練をしていた疑いの強いことが18日、分かりました。

複数の日本政府関係者が証言しました。

政府関係者の話を総合すると、日中中間線の中国側にあるガス田周辺海域で五月下旬、複数の中国軍のJH7戦闘爆撃機が航行中の海自護衛艦二隻に対艦ミサイルの射程範囲まで接近しました。

中国機は攻撃目標に射撃管制レーダーの照準を合わせ自動追尾する「ロックオン(固定)」をしなかったため、海自艦側は中国機の意図には気付かなかったのです。

別に陸、海、空自衛隊の複数の電波傍受部隊が中国機の「海自艦を標的に攻撃訓練する」との無線交信を傍受。その後、この交信内容とレーダーが捉えた中国機の航跡、中国機が発する電波情報を分析した結果、政府は空対艦の攻撃訓練だったと判断しました。

日本政府は直後に「極めて危険な軍事行動」と判断し、海自と空自の部隊に警戒監視の強化を指示しましたが、情報を探知し、分析する能力を隠すため、中国側への抗議や事案の公表を差し控えたとのことです。

(関連記事)

中国機、海自の護衛艦標的に訓練 探知能力秘匿を優先し政府非公表
https://www.tokyo-np.co.jp/s/article/2019081801001585.html

中国機、海自標的に訓練 東シナ海 政府、抗議せず非公表
https://www.tokyo-np.co.jp/article/politics/list/201908/CK2019081902000144.html

さて、本件のこの報道にはいくつかの不可解な疑問点があります。

日本政府は直後に「極めて危険な軍事行動」と判断し、海自と空自の部隊に警戒監視の強化を指示しましたが、情報を探知し、分析する能力を隠すため、中国側への抗議や事案の公表を差し控えたとのことです。

では、なぜ今、政府関係者はメディアにリークしたのでしょうか。

情報を探知し、分析する能力を隠すため、中国側への抗議や事案の公表を差し控えたならば、最後まで事実を漏らす必要はなかったはずです。

また中国機が海自の護衛艦標的に訓練したのは五月下旬です、なぜ3ヶ月後のこの時期を選んで日本政府はリークしたのでしょうか。

つまり、日本政府は、事が発生してから3ヶ月後に「事案の公表を差し控えた」ことをメディアを通じてなぜか事実上「公表」したわけです。

日本政府がこのタイミングで情報を漏らした政治的目的は2つあると推測します。

ひとつは良好な関係になりつつある中国へのメッセージです。

安倍外交により日中関係が正常化したことにより、中国の習近平国家主席は来年初め日本を国賓として訪問する予定、王岐山副主席は今年10月に天皇陛下即位の礼に出席が予定されています。

良好な日中関係に配慮して、中国に日本は海自標的訓練を探知していたことを3ヶ月の間をあけて知らしめたと推測します。

外交的に配慮した中国へのぎりぎりの警告だったのではないでしょうか。

もうひとつの目的は韓国へのメッセージです。

仮想敵国である中国に対して、今回は、射撃管制レーダーの照準を合わせ自動追尾する「ロックオン(固定)」をしなかったこともあり、日本政府は、発生直後、中国側への抗議や事案の公表を差し控えたわけです。

2018年12月、韓国は日本の「友好国」であったにも関わらず、海上自衛隊の哨戒機が、韓国軍の艦艇からレーダー照射「ロックオン(固定)」を受けた件です。

本件で韓国国防省は「日本側が脅威と感じるいかなる措置もなかった」と、レーダーを照射したとの見方を改めて否定しました。

韓国側は、当初射撃統制レーダー「STIR-180」の使用を一旦は否定(20日)、しかし翌日には射撃統制レーダー「STIR-180」を北朝鮮漁船探索に使用と表明、さらに24日には再び否定、光学カメラだけを自衛隊機に向けたのだと主張、その主張を二転三転させます。

自衛隊機からの3種類の無線問い合わせに返信しなかった理由として、「電波が弱くて聞き取れなかった」と軍艦にあるまじき低能力(?)を露呈したり、途中から実は「威嚇飛行をしたのは、むしろ日本の海上哨戒機」「無線で国籍と正体を明らかにしなかった」など、日本側こそ挑発行為を先にしたのだと言い出す始末です。

仮想敵の中国ですら今回は「ロックオン(固定)」をしなかったのに、「友好国」であったはずの韓国は日本に対して昨年「ロックオン(固定)」をしてきた事実、それがいかに軍事的に危うい挑発行為だったのか。

今回のリークで改めて韓国にその非常識な軍事的行動に対して再認識を促す狙いがあったのではないでしょうか。

今回の日本政府の情報リークに対して、韓国メディアがさっそく敏感に反応しています。

(関連記事)

朝鮮日報
韓国と哨戒機レーダー確執時には大騒ぎの日本、中国軍の「自衛隊標的訓練」には抗議もせず
http://www.chosunonline.com/site/data/html_dir/2019/08/20/2019082080001.html
中央日報
韓国には哨戒機で大騒ぎした日本、中国軍の自衛隊標的訓練は公表せず
https://japanese.joins.com/article/676/256676.html

韓国メディアは本件を「韓国の時は大騒ぎしたくせに中国には抗議もしない日本」というニュアンスで報じているわけです。

案の定、たいへん残念な浅い報道になっています。

日本も中国に対し「ロックオン(固定)」されたら厳重抗議しています。

現に2013年に中国海軍の艦船が海自の護衛艦に射撃管制レーダーを照射したとして日本政府が中国に厳重抗議しています。

「友好国」韓国の「ロックオン(固定)」行為は「仮想敵国」中国の訓練行為よりも日本にとって軍事的に有り得ない挑発的行為だったということでしょう。



(木走まさみず)