木走日記

場末の時事評論

はたして『ゴーンは英雄カエサル』(仏紙)なのか?〜断固、否。しかし日産にもお世辞にも「正義」などないのは確か

 はたしてカルロス・ゴーン古代ローマの英雄カエサル(シーザー)なのでしょうか?

 21日付のフランス経済紙レゼコーは、カルロス・ゴーン容疑者の逮捕について、容疑者に近いフランスの人々の間に「日本人の陰謀」との見方があると伝えています。


https://www.lesechos.fr/industrie-services/automobile/0600180142306-hiroto-saikawa-le-brutus-de-nissan-2223218.php

 同じく経済紙レゼコーは、日産の西川社長について、ゴーン容疑者の信頼が厚かったにもかかわらず、記者会見で容疑者を「失墜させた」と指摘し、古代ローマの将軍カエサルを裏切った「ブルータス」と評します。


https://www.lesechos.fr/industrie-services/automobile/0600189033067-carlos-ghosn-la-theorie-du-complot-est-elle-credible-2223655.php

 21日付のルモンド紙も「ゴーン氏を追放するための陰謀の薫りがする」とするフランス側の声を紹介しています。

(関連記事)

日産会長逮捕
「日本人の陰謀」 仏経済紙が報道
https://mainichi.jp/articles/20181122/k00/00e/020/235000c

 さて、フランスメディアで渦巻く『ゴーン逮捕は日本人陰謀説』ですが、各記事のコメント欄が興味深いのです。

 コメントの多くが、フランスメディアを批判し日本を支持している逆転の現象が現れています。

 以下のサイトがコメントを邦訳してくださっています。

海外「俺は日本人を信じる」 仏紙による『日産クーデター説』に現地から呆れの声http://kaigainohannoublog.blog55.fc2.com/blog-entry-2893.html

 失礼していくつかのコメントをご紹介。

 クーデター説は正しいという意見も少数ながらあります。

■ クーデター説は正しいと思う……。
  だって逮捕後のニッサンの対応が不思議なくらい早かったもん……。

■ 実は俺も友達と、ニッサンのクーデターじゃないかって話をしてた……。 +1

 しかし、より多くの意見として「法律に抵触する行為をした」のはゴーンのほうだと陰謀説を否定しています。

■ えっ、不正行為を働いてたのに被害者ですか?????

■ とりあえず、ニッサンのお金で家を買い漁ってたのは事実じゃん。

■ 実際不正に多額の報酬を受け取ってたのに「陰謀論」かよ!!!
  こういう報道を見て笑わない人っているの? +4

■ 何だ、ニッサンのクーデターだったのか!
  ……で、法律に抵触する行為をしたのは誰でしたっけ? +15

 いくつかの意見は、フランスメディアが権力側(フランス政府側)に味方していると批判しています。

■ メディアはゴーン氏を無実に仕立て上げたいんだね……w
  まぁマクロン大統領のお友達だからなんだろうけど……。 +4 ??+1

■ フランスの一部メディアからすれば彼は被害者なのか……。
  逆さまの世界にいるみたいだ!
  メディアにとって大事なのはお金だけ。
  だから自分たちの利益になるようにいつだって国民を煽動するんだ! +2

■ 普段ジャーナリストたちはSNS上の「陰謀論」を非難してるのに、
  こういう時は自分たちが陰謀論に走るんだな……。 +5

 またいくつかの意見は、日本は(フランスと違って)権力者でも逮捕する司法の健全性があるとする、司法の面で日本を支持する意見もありました。

■ クーデターか……。
  あるいは特権階級に対しても日本の司法は厳格なだけとか?
  後者の方が正解のような気がするのだが……。 +15

■ ノンノン、彼はクーデターとやらの被害者じゃない。
  正義が正しく執行されてしまう国の被害者なのさ……。
  フランスとは違って日本にはダブルスタンダードな司法がないから! +8

■ お金を得れば得るほど人は貪欲になっていくものだ。
  今回の逮捕は当然だと思う。
  俺は陰謀論なんかよりも、日本人を信じるよ。 +1

 ・・・

 はたしてカルロス・ゴーン古代ローマの英雄カエサル(シーザー)なのでしょうか?

 陰謀の末、日産の西川社長は英雄カエサルを裏切り謀殺した腹心ブルータスなのでしょうか?

 経済紙レゼコーは、電子版にて連日本件に関わる複数の記事を掲載してその関心の高さを示していますが、『英雄カエサル=ゴーン、裏切りの腹心ブルータス=西川社長』とのレゼコーの見立ては、ルモンド紙など他のフランス紙にも似た論調が散見されるわけです、「これは日本の陰謀ではないのか」と。

 幸いにしてこれらの記事を読んでいる読者のコメントは、メディアよりはるかに冷静に事件を評価しています。

 付け加えると、マクロン大統領の不人気が、政権よりのメディア記事への反発を呼んでいるとも言えそうです。

 政権発足当初66%だったマクロン氏の支持率は、この9月には31%にまで落ち込んでしまっています。

(関連記事)

マクロン氏、かつての人気どこへ 支持率急落、閣僚辞任
パリ=疋田多揚2018年10月4日16時48分
https://www.asahi.com/articles/ASLB335ZQLB3UHBI010.html

 ・・・

 まとめます。

 本件で、カルロス・ゴーンは当然ながら英雄ではありません。

 いかに19年間の日産への貢献がすばらしいものがあったとしても、不正の報道が事実ならば彼に「正義」はありません。

(関連記事)

ゴーン氏 私的流用か 住宅取得、日産が負担 ケリー氏、報酬決定に影響力 .https://www.nikkei.com/article/DGKKZO37962740Q8A121C1EA2000/

 だがしかし、日産・三菱側にでは「正義」があるのかといえば、はなはだ疑問です。

 長年にわたるゴーンの不正を見過ごしてきた日産のコーポレートガバナンスの劣化は目に余ります、この点は必ず今後司法の場で問われることでしょう。

 さらにいまさらですが、日産にしろ三菱自にしろ、一度は潰れかかってしまい自力再生を放棄し、結果としてルノーに救われたという事実は重いです。

(関連記事)

一度潰れかけた日産が、再び「行き着くところまで行く」気配…不正「日常化」企業の共通点https://biz-journal.jp/2018/07/post_24180.html
三菱自、倒産が現実味高まる…名門没落の元凶「A級戦犯」の院政、御曹子社長の失態https://biz-journal.jp/2016/05/post_14982.html

 はたしてカルロス・ゴーン古代ローマの英雄カエサル(シーザー)なのでしょうか?

 断固、否です。

 しかしだからといって日産側にも、過去も現在もお世辞にも「正義」などないわけです。

 本件は「正義」なき戦いなのでありましょう。



(木走まさみず)