木走日記

場末の時事評論

媒体として勃興するネットに圧倒される斜陽新聞メディア〜電通2017レポートと2/21日経社説検証


 さて株式会社電通(本社:東京都港区、社長:山本 敏博)は、毎年2月22日になると、わが国の総広告費と、媒体別・業種別広告費を推定した前年の日本の広告費を発表します、今年は「2017年(平成29年)日本の広告費」を発表しました。

 2017年(1〜12月)の日本の総広告費は、継続する景気拡大に伴い、6兆3,907億円、前年比101.6%となり、6年連続でプラス成長となった模様です。

2017年 日本の広告費
http://www.dentsu.co.jp/news/release/2018/0222-009476.html

 この資料は、毎年前年の統計が発表されておりまして、広告媒体としてのテレビ、ラジオ、新聞、雑誌、ネットなどのメディアの動静、少しオーバーに表現すれば今世紀に入ってからのメディア興亡の軌跡を追うことができて、大変貴重なレポートであります。

 今世紀に入ってからの広告媒体としての各メディアの動静を検証してまいります。

 2001年には総広告費6兆0580億円でありました。

■表1:2001年媒体別広告費

媒体 広告費(億円)
総広告費 60580
新聞 12027
雑誌 4180
ラジオ 1998
テレビ 20681
インターネット広告費 735
その他 20959

 見やすくグラフ化してみます。

■図1:2001年媒体別広告費

 マス四媒体(新聞、雑誌、ラジオ、テレビ)を図で灰色にしていますが、2001年当時は、全広告費のうちマス四媒体(以下マスメディアと表記します)が占める割合はテレビ34%、新聞20%、雑誌7%、ラジオ3%と、実に64%を占めていました。

 例えば新聞広告は20%すなわち1兆2027億円であるのに対し、ネットはわずか1%735億円の広告媒体でありました。

 広告媒体市場規模としては、94対6と新聞が圧倒していました。

■図2:広告媒体としての新聞とネットの市場規模対比(2001年)

 今振り返るとひとつのターニングポイントであった年が2009年といえましょう。

■表2:2009年媒体別広告費

媒体 広告費(億円)
総広告費 59222
新聞 6739
雑誌 3034
ラジオ 1370
テレビ 17139
インターネット広告費 7069
その他 23871

 年々媒体としての市場規模が斜陽するマスメディアが48%とそのシェア5割を割り込んでしまったのです。

 一方ネット広告は12%7069億円と躍進いたします。

■図3:2009年媒体別広告費

 結果としてこの年、史上初めてネット広告が新聞広告を規模で逆転いたします。

■図4:広告媒体としての新聞とネットの市場規模対比(2009年)

 さて発表されたばかりの昨年2017年の数値を押さえます。

■表3:2017年媒体別広告費

媒体 広告費(億円)
総広告費 63907
新聞 5147
雑誌 2023
ラジオ 1290
テレビメディア 19478
インターネット広告費 15094
その他 20875

■図5:2017年媒体別広告費

 ごらんのように、ネット広告は1兆5094億と24%に躍進、対して既存マスメディアは43%にまでそのシェアを落とします。

 結果、ネットと新聞の市場規模は実に75対25にまで水が開いてしまいます。

■図6:広告媒体としての新聞とネットの市場規模対比(2017年)

 ここまでをまとめておきます。

 今世紀に入ってネットの台頭により、既存のマスメディア・マス四媒体(新聞、雑誌、ラジオ、テレビ)がいかに斜陽してしまったのか、ご理解いただけたと思います。

 2001年と2017年の対比で、ネットが735億から1兆5094億と広告市場規模を1兆以上拡大したのに対し、マス四媒体は総計で3兆8886億から2兆7938億と1兆以上市場規模が縮小してきているのです。

 中でも新聞は2001年の1兆2027億円から2017年には5147億円にまで縮小しています。

 この17年間に半減どころか57.2%減なのであります、広告媒体として新聞の極めて深刻な状況がよく理解できます。

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 このような背景を知れば、新聞・テレビなどの既存マスメディアがネット媒体およびネットユーザーを毛嫌いするのもわからなくもありません。

 ネットの勃興により斜陽する彼らは、媒体としてはなすすべもなく追い込まれています。

 そこで彼らマスメディアは、「ネット空間」の信頼性の無さ、差別や憎悪を助長するコンテンツの拡散、著作権の侵害など、その悪しき点だけを強調して報じがちになります。

 例えば13日に報じられた共同通信のこの記事です。

企業がグーグルへの広告中止検討
ユニリーバ、FBも対象

2018/2/13 10:03
©一般社団法人共同通信社

 【ロンドン共同】英・オランダの食品・家庭用品大手ユニリーバの幹部は、米交流サイトのフェイスブックや米ITグーグルなどが不適切なコンテンツに対する対応が不十分であれば、グーグルなどへの広告掲載の中止を検討すると語った。欧米メディアが12日、報じた。消費者の信頼を得られない可能性があるためという。

 ユニリーバソーシャルメディア上などの偽ニュースや差別、テロに関連する投稿を問題視。「社会の分断を招き、怒りや憎しみを助長させている」と指摘した。

 同社は昨年、広告などのマーケティング費用として77億ユーロを支出。このうちデジタル広告は約3分の1を占めたという。

https://this.kiji.is/335949672479769697

 これは日本ではなく海外の動きなのですが、家庭用品大手ユニリーバがデジタル広告を見直す、グーグルへの広告中止を検討しているというニュースです。

 これですが、まだ検討段階なのですが、既存マスメディアにとっては久しぶりの「吉報」なのでしょうか、日本経済新聞は嬉々として社説で取り上げるわけです。

ネットの健全化と広告の役割
社説
2018/2/21付
https://www.nikkei.com/article/DGXKZO27171090Q8A220C1EA1000/

 社説は冒頭からユニリーバがネット広告を全面的にやめる方針だと取り上げます。

 食品や日用品の大手、英蘭ユニリーバが不適切なコンテンツを放置する交流サイト(SNS)などとの広告の取引を全面的にやめる方針を決め、フェイスブックやグーグルといった米国の大手ネット企業に対応を促した。

 「ネット空間では差別や憎悪を助長するコンテンツの拡散や、著作権の侵害などが深刻な問題」とネットの批判が始まります。

 ネット空間では差別や憎悪を助長するコンテンツの拡散や、著作権の侵害などが深刻な問題になっている。年間1兆円規模の広告費を投じるユニリーバの決断が、ネットの健全な発展につながるか注目したい。

 しかし「ネット広告の市場規模」はテレビをも追い越しそうだとその勢いは認めます、自分たち(新聞広告)はとうに圧倒されてしまったことにはふれていませんが。

 消費者がネットを使う時間が長くなっていることを背景に、ネット広告の市場規模は急速に拡大してきた。2018年には長年にわたって中心だったテレビを上回るとの予想もある。

 ネット広告には最新技術が使用されているが「配信システムが複雑になり、企業の意図に反するサイトに広告が載る危険性が高まっている」と警鐘を鳴らします。

 ここ数年は一人ひとりの消費者の好みや行動に合った広告を自動的に配信する技術が発達し、ネット広告の市場拡大を後押しした。一方、配信システムが複雑になり、企業の意図に反するサイトに広告が載る危険性が高まっている。

 こうした広告は企業のブランド価値を損なうだけでなく、質の低いサイトを運営する企業に収益を得る手段を与える。

 社説の最後がいい味を出しています。

 「広告費を払う大手企業の果たす役割も大きい」とし、「広告会社に任せている」のではなく、「自らの影響力の大きさを認識して積極的に動くべき」だと結んでいます。

 広告費を払う大手企業の果たす役割も大きい。ネット企業は収益の多くを広告に依存しているためだ。ネット企業に対して質を保つための技術開発を強く求める必要がある。自動的に広告を配信するシステムに頼らず、信頼性が高いサイトに広告を直接出稿することも検討課題となる。

 こうした動きは大統領選で偽ニュース問題が注目を浴びた米国や、個人の権利に対する意識が高い欧州が先行している。日本の大手企業の間では「広告会社に任せている」との姿勢が目立っているが、自らの影響力の大きさを認識して積極的に動くべきだ。

 さすがに、「広告主よ、ネット広告よりも信頼性の高い新聞広告はいかがか」とは露骨に書かれていませんが、ネット広告はあやういぞとの論説、新聞メディアの広告規模の斜陽を考えると、なかなか味わいのある社説ではありませんか。

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 まとめます。

 今検証したように、今世紀に入ってからの広告市場規模ではネットの躍進と既存メディアの斜陽傾向が止まりません。

 おそらく近々ネット広告はテレビをも抜いて広告媒体のトップとなることでしょう。

 日経新聞など既存マスメディアはネットの媒体としてのその真の特性を理解していません。

 ネットの媒体としての最大の特徴はそのインタラクティブ性にこそあります。

 このSNSが普及した時代。情報発信はマス四媒体(新聞、雑誌、ラジオ、テレビ)の独占物ではなくなりつつあります。

 考えてみれば一般大衆に情報発信するマスメディアのジャーナリズムなど、教員や医師のように免許がいるわけでもなく、何の資格も必要としない職業なのであり、本来社会の誰でも情報発信可能なものである性質だったのが、新聞・ラジオ・TVと既存のマスメディアは、放送電波の免許や独禁法例外の新聞再販制度などで、幾重にも法により守られた選ばれた「特権階級」として情報発信を独占してきただけです。

 旧来のメディアは限られた情報発信手段を独占し、新聞は「大衆」に情報を一方的に発行、TV・ラジオは「大衆」に情報を一方的に放送、情報は「特権階級」であるメディア・「ジャーナリスト」から一般大衆に一方通行に発信されるものでありました。

 ネットの普及により情報の流れは革命的な変化をいたしました。

 今日のネットの技術革新は、ネット上の情報発信を完全にインタラクティブな双方向性、すなわちネット参加者のすべての人に情報発信能力を与えたのです。

 ネットメディアでは、情報発信者が起こした記事は、コメント欄やツイッターなどのSNS、ブックマーク、トラックバック、あらゆる手段で読者の意見がぶつけられていきます。

 アマゾンの商品レビューしかり、ネットメディアの記事ページしかり、ネット情報は完全に双方向性を有しており、リアルタイムに会話的に情報のキャッチボールが可能となった初めての媒体、それがネットなのです。

 ネットでは情報発信はマスメディアの独占物ではなくなった、唯一の情報発信者としての「特権階級」だったマスメディアのその独占的利権が、インターネットにより今崩れ去ろうとしているわけです。

 このような大きな流れの中で、必然的に媒体としてネットが勃興し旧マスメディアが衰退しつつあるのであり、その広告市場が逆転するのも必然なのであります。

 新聞がネット広告の危険性を社説で取り上げるのは勝手でしょう。

 しかし起こっていることの本質は「ネット広告の危険性」などのさまつな事象ではありませんでしょう。

 かつてデジタルカメラが登場して町から写真フィルム市場がなくなったように、おそらく媒体から媒体への「相転移」が起きているのでしょう。

 黒電話からPCやスマホへ、紙の新聞からネットサイトへ、大きなデジタル化の波は不可逆的な動きでありましょう。



(木走まさみず)