木走日記

場末の時事評論

「繋がぬ沖の捨小舟」と化す民進と希望〜残念ながら、当面日本の野党は絶望的に駄目だと思う

 さて今回は少し時事を離れたネタからお付き合いください。

 『苦海浄土 わが水俣病』(1969年、講談社文庫1972年)は、石牟礼道子(いしむれ みちこ、1927年3月11日)氏による、第1回大宅壮一ノンフィクション賞を与えられたが、受賞を辞退したという、日本の公害病の悪しき先例となった熊本県水俣病を扱ったルポルタージュ作品です。

 私はこの『苦海浄土』を中学生のときに学習塾の先生から与えられ読みまして、その石牟礼道子氏の筆致の迫力に圧倒され、まさに鳥肌が立つようなおもいで一気に読み終えたことを覚えています。

 『苦海浄土』の文章が持つ迫力は、その熊本方言による登場人物たちのあるがままの膨大なインタビュー発言にこそあります。そこには作者石牟礼道子氏の事実をあるがままに伝えんとする鬼気迫る覚悟が感じられるほどの迫力があるのです。

 たとえば、発病した女性の一人は、手が震えて着物の前をあわせられなくてそれを夫に手伝ってもらう女としてのつらさを、次のように語るのです。

 インターネット公開授業のサイトより、一部引用してご紹介。 

 「うちは、こげん体になってしもうてから、いっそうじいちゃん(夫のこと)のことがもぞか(いとしい)とばい。見舞にいただくもんなみんな、じいちゃんにやると。うちは口も震ゆるけん、こぼれて食べられんもん。そっでじいちゃんにあげると。じいちゃんに世話になるもね。うちゃ、今のじいちゃんの後入れに嫁に来たとばい、天草から。
 嫁に来て三年もたたんうちに、こげん奇病になってしもた。残念か。うちはひとりじゃ前も合わせきらん。手も体も、いつもこげんふるいよるっでっしょが。自分の頭がいいつけんとに、ひとりでふるうとじゃもん。それでじいちゃんが、仕様ンなかおなごになったわいちゅうて、着物の前をあわせてくれらす。ぬしゃモモ引き着とれゆううてモモ引き着せて。そこでうちはいう。(ほ、ほん、に、じ、じい、ちゃん、しよの、な、か、お、おな、ご、に、なった、な、あ。) うちは、もういっぺん、元の体になろうごたるばい。親さまに、働いて食えといただいた体じゃもね。病むちゅうこたなかった。うちゃ、まえは手も足も、どこもかしこも、ぎんぎんしとったよ。」

インターネット公開授業
石牟礼道子著  苦海浄土 わが水俣病     by 池田博
http://spider.art.coocan.jp/biology2/isimure.htm

 全編を通じて、事実を事実としてあくまでも被害を受けた人たちの視線でもって『水俣病』の実態に迫っていくのでありました。

 このルポルタージュは中学生の私にはかなりきつい内容でしたが、事実が持つ迫力に圧倒されつつ、しかしジャーナリズムのもつ力のすばらしさにもまた同時に感動を覚えたのでした。

 さて、このルポ作品には、小さな詩歌が添えられています。

繋がぬ沖の捨小舟(つながぬおきの すておぶね)
生死の苦海果もなし(しょうじのくがい はてもなし)

 これは、元は「真言宗檀信徒勤行経典」よりの引用だそうですが、当時の水俣病患者の絶望的な立ち位置がよく表現されているではないですか。

 綱で繋がれていない沖を漂う捨てられた小舟は、あちらにゆらり、こちらにゆらり、目的もなく、たださまようがごとく浮かんでいる。

 その小舟の姿は、明日の命もわからぬ、明日への希望を何も見出せない、水俣病をわずらう患者の、絶望的な苦しみの日々の生活に、だぶるわけです。

 ・・・

 ・・・

 さて読者に時事を離れたネタからお付き合いいただいたのは、18日付けのこのどうしようもない体たらくの野党の記事を目にしたからです。

民進と希望、統一会派白紙 民進内に反対相次ぐ
2018年1月18日05時00分
https://www.asahi.com/articles/DA3S13318148.html 

 くっついたり、はなれたり、私はこの野党の惨状を見て、なぜか上記『苦海浄土』の小さな詩歌、「繋がぬ沖の捨小舟、生死の苦海果もなし」を思い出してしまったのであります。

 いったい、民進党希望の党無所属の会立憲民主党、の旧民進党の政治家諸氏は、政治家として、何を目指し、どこへ向かおうとしているのか、これではまったく見えません。

 その姿は「繋がぬ沖の捨小舟」のごとく、あちらにゆらり、こちらにゆらり、目的もなく、たださまようがごとく浮かんでいるように見えます。

 いったいこのような分裂と合体騒動を後何回繰り返せば気が済むのでしょう。

 まさにこれでは「生死の苦海果もなし」ではありませんか。

 今の私には、今の野党の惨状をもはや冷笑する気持ちもありません。

 「繋がぬ沖の捨小舟」を絶望的に眺める者のように、この国のこの野党の政策論にの次のくっついたりはなれたり、この有権者無視の果てのない愚行を憂うのみであります。

 残念ながら、当面日本の野党は絶望的に駄目だと思います。



(木走まさみず)