木走日記

場末の時事評論

この国の「元号」について愚考する

 さて新元号であります。

 朝日新聞記事によれば、平成につぐ新元号は「248番目」なのだとか。

(関連記事)

「平成」の次、248番目の新元号いかに 同じ名はNG
斉藤寛子、多田晃子 佐藤恵
2017年1月14日07時49分
http://digital.asahi.com/articles/ASK1F5GJGK1FUTIL03G.html?rm=343

 記事より当該箇所を抜粋引用。

 日本で初めての元号は、歴史的に知られる大化の改新による「大化」。「平成」までの1300年余りの間に247の元号が誕生した。自然災害や慶事などでも元号が変えられ、一人の天皇の時代に複数の元号に変わったこともあった。

 明治以降は新天皇の即位に合わせて元号を変える「一世一元」に。

 なるほど、「日本で初めての元号は、歴史的に知られる大化の改新による『大化』」でありますか、飛鳥時代孝徳天皇時代に起こった「大化の改新」でありますが、大化2年(西暦646年)のことであります。

 単純に計算すれば、日本の元号は西暦645年から、実に1372年の長きにわたり続いてまいったのでございます。

 また一部には、「これを機会に元号の使用はもうやめた方がいい」と元号廃止論も多数あがっているようであります。

(関連記事)

キャリコネニュース
2017年01月13日 13:18
2019年に改元の可能性
「これを機会に元号の使用はもうやめた方がいい」という議論が盛り上がる
http://blogos.com/article/205570/

 上記記事によれば、池田信夫氏「もう元号を使うのはやめよう」と題された記事をアゴラに投稿、「官庁のデータは必ず西暦を併記し、NHKはすべて西暦で統一すべきだ」と訴えています。

 また小飼弾氏も、「これを機に元号と印鑑は廃止の方向で」と元号廃止を提唱、「西暦が嫌だっていうなら皇紀だってかまわない」ともツイートします。

 うーむ、元号廃止でありますか。

 ・・・

 今回は我が国の「元号」について、当ブログとして例によって脱線気味に考察してまいりたいと思います。

 まずは、「大化」から「平成」までの1372年間の247の元号を列記いたしましょう。

 西暦などどうでもよろしい、そのかわりおそらく本邦初、元号の「よみがな」と「ヘボン式のローマ字表記」付き(苦笑)でございます。

■表1:日本の247の元号一覧(ローマ字読み付き)

元号 かな ローマ字
大化 たいか TAIKA
白雉 はくち HAKUCHI
朱鳥 しゅちょう・すちょう・あかみどり SHUCHOU・SUCHOU・AKAMIDORI
大宝 たいほう・だいほう TAIHOU・DAIHOU
慶雲 けいうん・きょううん KEIUN・KYOUUN
和銅 わどう WADOU
霊亀 れいき REIKI
養老 ようろう YOUROU
神亀 じんき JINKI
天平 てんぴょう TENPYOU
天平感宝 てんぴょうかんぽう TENPYOUKANPOU
天平勝宝 てんぴょうしょうほう TENPYOUSHOUHOU
天平宝字 てんぴょうほうじ TENPYOUHOUJI
天平神護 てんぴょうじんご TENPYOUJINGO
神護景雲 じんごけいうん JINGOKEIUN
宝亀 ほうき HOUKI
天応 てんおう・てんのう TENOU・TENNOU
延暦 えんりゃく ENRYAKU
大同 だいどう DAIDOU
弘仁 こうにん KOUNIN
天長 てんちょう TENCHOU
承和 じょうわ・しょうわ JOUWA・SHOUWA
嘉祥 かしょう・かじょう KASHOU・KAJOU
仁寿 にんじゅ NINJU
斉衡 さいこう SAIKOU
天安 てんあん・てんなん TENAN・TENNAN
貞観 じょうがん JOUGAN
元慶 がんぎょう GANGYOU
仁和 にんな・にんわ NINNA・NINWA
寛平 かんぴょう・かんぺい・かんへい KANPYOU・KANPEI・KANHEI
昌泰 しょうたい SHOUTAI
延喜 えんぎ ENGI
延長 えんちょう ENCHOU
承平 じょうへい・しょうへい JOUHEI・SHOUHEI
天慶 てんぎょう・てんきょう TENGYOU・TENKYOU
天暦 てんりゃく TENRYAKU
天徳 てんとく TENTOKU
応和 おうわ OUWA
康保 こうほう KOUHOU
安和 あんな・あんわ ANNA・ANWA
天禄 てんろく TENROKU
天延 てんえん TENEN
貞元 じょうげん JOUGEN
天元 てんげん TENGEN
永観 えいかん EIKAN
寛和 かんな・かんわ KANNA・KANWA
永延 えいえん EIEN
永祚 えいそ EISO
正暦 しょうりゃく SHOURYAKU
長徳 ちょうとく CHOUTOKU
長保 ちょうほう CHOUHOU
寛弘 かんこう KANKOU
長和 ちょうわ CHOUWA
寛仁 かんにん KANNIN
治安 じあん JIAN
万寿 まんじゅ MANJU
長元 ちょうげん CHOUGEN
長暦 ちょうりゃく CHOURYAKU
長久 ちょうきゅう CHOUKYUU
寛徳 かんとく KANTOKU
永承 えいしょう・えいじょう EISHOU・EIJOU
天喜 てんき・てんぎ TENKI・TENGI
康平 こうへい KOUHEI
治暦 じりゃく JIRYAKU
延久 えんきゅう ENKYUU
承保 じょうほう・しょうほう JOUHOU・SHOUHOU
承暦 じょうりゃく・しょうりゃく JOURYAKU・SHOURYAKU
永保 えいほう EIHOU
応徳 おうとく OUTOKU
寛治 かんじ KANJI
嘉保 かほう KAHOU
永長 えいちょう EICHOU
承徳 じょうとく・しょうとく JOUTOKU・SHOUTOKU
康和 こうわ KOUWA
長治 ちょうじ CHOUJI
嘉承 かしょう・かじょう KASHOU・KAJOU
天仁 てんにん TENNIN
天永 てんえい TENEI
永久 えいきゅう EIKYUU
元永 げんえい GENEI
保安 ほうあん HOUAN
天治 てんじ TENJI
大治 だいじ DAIJI
天承 てんしょう・てんじょう TENSHOU・TENJOU
長承 ちょうしょう CHOUSHOU
保延 ほうえん HOUEN
永治 えいじ EIJI
康治 こうじ KOUJI
天養 てんよう TENYOU
久安 きゅうあん KYUUAN
仁平 にんぺい・にんぴょう NINPEI・NINPYOU
久寿 きゅうじゅ KYUUJU
保元 ほうげん HOUGEN
平治 へいじ HEIJI
永暦 えいりゃく EIRYAKU
応保 おうほう・おうほ OUHOU・OUHO
長寛 ちょうかん CHOUKAN
永万 えいまん EIMAN
仁安 にんあん NINAN
嘉応 かおう KAOU
承安 しょうあん SHOUAN
安元 あんげん ANGEN
治承 じしょう JISHOU
養和 ようわ YOUWA
寿永 じゅえい JUEI
元暦 げんりゃく GENRYAKU
文治 ぶんじ BUNJI
建久 けんきゅう KENKYUU
正治 しょうじ SHOUJI
建仁 けんにん KENNIN
元久 げんきゅう GENKYUU
建永 けんえい KENEI
承元 じょうげん JOUGEN
建暦 けんりゃく KENRYAKU
建保 けんぽう KENPOU
承久 じょうきゅう JOUKYUU
貞応 じょうおう JOUOU
元仁 げんにん GENNIN
嘉禄 かろく KAROKU
安貞 あんてい ANTEI
寛喜 かんき KANKI
貞永 じょうえい JOUEI
天福 てんぷく TENPUKU
文暦 ぶんりゃく BUNRYAKU
嘉禎 かてい KATEI
暦仁 りゃくにん RYAKUNIN
延応 えんおう ENOU
仁治 にんじ NINJI
寛元 かんげん KANGEN
宝治 ほうじ HOUJI
建長 けんちょう KENCHOU
康元 こうげん KOUGEN
正嘉 しょうか SHOUKA
正元 しょうげん SHOUGEN
文応 ぶんおう BUNOU
弘長 こうちょう KOUCHOU
文永 ぶんえい BUNEI
建治 けんじ KENJI
弘安 こうあん KOUAN
正応 しょうおう SHOUOU
永仁 えいにん EININ
正安 しょうあん SHOUAN
乾元 けんげん KENGEN
嘉元 かげん KAGEN
徳治 とくじ TOKUJI
延慶 えんきょう ENKYOU
応長 おうちょう OUCHOU
正和 しょうわ SHOUWA
文保 ぶんぽう BUNPOU
元応 げんおう GENOU
元亨 げんこう GENKOU
正中 しょうちゅう SHOUCHUU
嘉暦 かりゃく KARYAKU
元徳 げんとく GENTOKU
元弘 げんこう GENKOU
正慶 しょうきょう・しょうけい SHOUKYOU・SHOUKEI
建武 けんむ KENMU
延元 えんげん ENGEN
興国 こうこく KOUKOKU
正平 しょうへい SHOUHEI
建徳 けんとく KENTOKU
文中 ぶんちゅう BUNCHUU
天授 てんじゅ TENJU
弘和 こうわ KOUWA
元中 げんちゅう GENCHUU
暦応 りゃくおう・れきおう RYAKUOU・REKIOU
康永 こうえい KOUEI
貞和 じょうわ・ていわ JOUWA・TEIWA
観応 かんのう・かんおう KANNOU・KANOU
文和 ぶんな・ぶんわ BUNNA・BUNWA
延文 えんぶん ENBUN
康安 こうあん KOUAN
貞治 じょうじ・ていじ JOUJI・TEIJI
応安 おうあん OUAN
永和 えいわ EIWA
康暦 こうりゃく KOURYAKU
永徳 えいとく EITOKU
至徳 しとく SHITOKU
嘉慶 かきょう・かけい KAKYOU・KAKEI
康応 こうおう KOUOU
明徳 めいと MEITOKU
応永 おうえい OUEI
正長 しょうちょう SHOUCHOU
永享 えいきょう EIKYOU
嘉吉 かきつ KAKITSU
文安 ぶんあん BUNAN
宝徳 ほうとく HOUTOKU
享徳 きょうとく KYOUTOKU
康正 こうしょう KOUSHOU
長禄 ちょうろく CHOUROKU
寛正 かんしょう KANSHOU
文正 ぶんしょう BUNSHOU
応仁 おうにん OUNIN
文明 ぶんめい BUNMEI
長享 ちょうきょう CHOUKYOU
延徳 えんとく ENTOKU
明応 めいおう MEIOU
文亀 ぶんき BUNKI
永正 えいしょう EISHOU
大永 だいえい DAIEI
享禄 きょうろく KYOUROKU
天文 てんぶん TENBUN
弘治 こうじ KOUJI
永禄 えいろく EIROKU
元亀 げんき GENKI
天正 てんしょう TENSHOU
文禄 ぶんろく BUNROKU
慶長 けいちょう KEICHOU
元和 げんな GENNA
寛永 かんえい KANEI
正保 しょうほう SHOUHOU
慶安 けいあん KEIAN
承応 じょうおう JOUOU
明暦 めいれき MEIREKI
万治 まんじ MANJI
寛文 かんぶん KANBUN
延宝 えんぽう ENPOU
天和 てんな TENNA
貞享 じょうきょう JOUKYOU
元禄 げんろく GENROKU
宝永 ほうえい HOUEI
正徳 しょうとく SHOUTOKU
享保 きょうほう KYOUHOU
元文 げんぶん GENBUN
寛保 かんぽう KANPOU
延享 えんきょう ENKYOU
寛延 かんえん KANEN
宝暦 ほうれき HOUREKI
明和 めいわ MEIWA
安永 あんえい ANEI
天明 てんめい TENMEI
寛政 かんせい KANSEI
享和 きょうわ KYOUWA
文化 ぶんか BUNKA
文政 ぶんせい BUNSEI
天保 てんぽう TENPOU
弘化 こうか KOUKA
嘉永 かえい KAEI
安政 あんせい ANSEI
万延 まんえん MANEN
文久 ぶんきゅう BUNKYUU
元治 げんじ GENJI
慶応 けいおう KEIOU
明治 めいじ MEIJI
大正 たいしょう TAISHOU
昭和 しょうわ SHOUWA
平成 へいせい HEISEI

※当ブログ作成

 ふう。

 うむ、いかがでしょうか。

 次に使用されている漢字に注目してまいりましょう。

 247の元号のうち、漢字4文字が天平時代の一時期の5元号、残りの242元号はすべて漢字2文字であります、すなわち延べ504字の漢字が使用されているのでございます。

 延べ504字の漢字が使用されてはいますが、一覧を見ても明らかなように使用されている漢字には明らかに偏りがあります。

 それでは歴代元号247で使われている漢字の出現頻度を調べてみましょう。

 調べたみれば、使われている漢字の種類はわずか72種類であります、1372年間の247の元号でたった72の漢字ですよ、読者の皆さん。

 では出現頻度順に全漢字をまとめてみましょう。

■表2:「日本の元号」使用漢字ベスト10

※当ブログ作成

■表3:「日本の元号」使用漢字ベスト10(11位以下)

※当ブログ作成

 うーむ、やはりよく使われている漢字は趣(おもむき)がありますな。

 ベスト10の漢字はいかがでしょう、列記して声を出せば、

 「永、天、元、治、応、和、長、正、文、安」

 「えいてんげんじ、おうわちょうせい、ぶんあん!!」

 あら不思議、何やら高貴な祝いのお言葉のような、南総里見八犬伝の水晶の八玉の「仁義礼智忠信孝悌」に似た、霊験新たかな響きが醸し出されるではありませんか。

 さて、今は21世紀であります。

 元号も「記号化」されてしまう時代です、明治・大正・昭和・平成と直近の元号もそのイニシャルは「M」「T」「S」「H」と異なります。

 では、過去の元号のイニシャルを徹底的にヘボン式にて洗い出してみましょう。

■表4:「日本の元号」イニシャルベスト10

※当ブログ作成

■表5:「日本の元号」イニシャルベスト10(11位以下)

※当ブログ作成

 うーむ、意外なことにトップはイニシャル「K」なのでありますね、247元号中63元号、イニシャルKは実に25.5%であります。

 また逆に母音でもあるにもかかわらず、イニシャル「U」と「I」の元号は存在しないのでございます、読者のみなさん。

 なぜだろう、「う」とか「い」で始まる元号はこの国の過去にひとつもない、ということでございます。

 ・・・

 ・・・

 さてまとめです。

 元号法は、この国で法文が一番短い法律であります。

元号法
(昭和五十四年六月十二日法律第四十三号)

1  元号は、政令で定める。
2  元号は、皇位の継承があつた場合に限り改める。

   附 則
1  この法律は、公布の日から施行する。
2  昭和の元号は、本則第一項の規定に基づき定められたものとする。

http://law.e-gov.go.jp/htmldata/S54/S54HO043.html

 これだけです。

 法律が短いということは、関わる決め事が少ないということです、決め事が少ないということはその運用の自由度が高いということでありましょう。
 
 そもそも1372年前、飛鳥時代、「大化」という元号が日本に初めて生まれた時代的背景を考えましょう。

 「元号」、君主が特定の時代に名前を付ける行為は、古来中国の王朝が、君主が空間と共に時間まで支配するという思想に基づいて考案したことであります、そこで周辺国は、「正朔を奉ずる」(天子の定めた元号暦法を用いる)ことがその王権への服従の要件となっていたのであります。

 したがって独自の元号が政治的支配の正統性を象徴するという観念は、独自の元号を建てることにより、中国王朝よりも自らの正統性が優越しているか、少なくとも対等であることを示すことができるという意識に基づくことは自明です。

 つまり独自の「元号」制定は、時の中国王朝に対するレジスタンス・反抗の意思表示だったのであります。

 逆に、中国王朝の政治制度を受容した周囲の王権は元号制度もともに取り入れています、

 例えば朝鮮半島では、ときに制定される独自元号はひとつも続くことがありませんでした、独自元号の使用と冊封は両立しない要素であったのです。

 実際、中国周辺国で独自元号の使用を実現したのは、中国王朝との戦争に勝ったベトナム冊封すら受けなくなった日本2国のみだったと言われています。

 このような歴史ある我が国の「元号」制度を、はたして経済合理性からだけで廃止することが、許されましょうか?

 ・・・

 時代にいかにそぐわなかろうが、元号制度は断固維持すべきであります。

 そこにはこの国の尊厳に関わる歴史的必然が存在するのでございます。

 そうは思いませんか。

 読者のみなさん。



(木走まさみず)