最後の誕生日
今回は私小説風未来小説です。
お楽しみください。
・・・
西暦20××年5月、東京。
今日は私の65才の誕生日だ。
現在失業中の私にとって、家族もいない(妻とは熟年離婚し二人の子供は妻側についた)し、誰も誕生日など祝ってはくれないが、そもそもこの年で誕生日など嬉しくもないわけだ。
天気は朝から鬱陶しい雨もようだ、ここ最近の東京の五月は暑い、すでに梅雨のように不快な湿気に汗っかきの私はボロアパートの自室の万年布団から半身を起こす。
11時半過ぎか。
布団の近くには、コンビニで昨日買った日本酒のパックが空になっており、湯呑み茶碗がそばに転がっている。
そうか、昨日は久しぶりに酒を買って一人深酒してしまったんだった。
ということは財布にはもう小銭しかないか。
フフフ、一人私は自嘲気味の笑いを浮かべる。
「もはやここまでってやつか・・・」
かたわらのタバコの箱からタバコを一本取り出し、ゆっくりと紫煙を吐き出す。
「ふん、こっちも最後の一本か、出来すぎだな・・・」
若い頃から工事現場作業員として真面目に働いてきたが、数年前右ひざを痛めてからは、きつい現場の作業には耐えられず、おのずと仕事の声が掛からなくなってしまった。
他にこれといった技術もなく年も年なので転職もおもうに任せず、結局生活は困窮し、家族にも逃げられ、このていたらくだ。
さてと。
そろそろかな。
12時。
ドンドンドン。
自治体職員がドアを無遠慮にたたく。
「コバヤシさん、いっらしゃいますよね」
「はい、今開けます」
ドアを開けるとまだ若い自治体職員が紙切れ一枚を手に持ってあいそうもなく立っていた。
「コバヤシさん、お迎えです」
「はい」
「この書類にサインしてください」
「はい」
久しぶりに自分の名前を書いたな、何年ぶりだろう。
「ではまいりましょう」
「はい」
アパートを出れば自治体の車が待っていた。
「乗ってください」
「はい」
車は自治体が運営している「処分場」目指して動き出した。
雨の振りはますます激しくなっている。
こんな雨の日に逝くのか・・・
私にお似合いかな。
フフフ・・・
・・・
満65才の誕生日を迎えた「生活保護基準相当の収入以下で暮らす困窮した高齢者」に対しては、強制的に行政により「安楽死」させる法律である。
膨らむ一方の社会保障費や生活保護費を抑え財政破綻を免れるための法律である。
・・・
(おしまい)
(参考サイト)
小林よしのり
2016年05月15日 13:52
下流老人の解決方法
http://blogos.com/article/175579/
(木走まさみず)