木走日記

場末の時事評論

米大統領選で主要候補者たちに伝播している対日批判は一過性のものか

 さてと、アメリカ大統領選であります。

 10日付け産経新聞記事から。

トランプ氏の“日本たたき” 80年代の日米摩擦を彷彿 「旧時代をしのばせる」

 【ワシントン=加納宏幸】米大統領選の候補指名争いで8日、自動車産業の集積地、デトロイトを抱える中西部ミシガン州を制した共和党の不動産王、トランプ氏、民主党のサンダース上院議員は、いずれも米製造業の雇用を奪うとして自由貿易を強く批判している。こうした論法には、日米貿易摩擦が激しかった1980年代を彷彿(ほうふつ)させるとの指摘も出ている。

 トランプ氏はフロリダ州での勝利宣言で「日本からは数百万台の自動車が来るのに、米国はほとんど売っていない。(建機大手)コマツのトラクターにキャタピラーが痛めつけられているのも為替操作のせいだ」と日本をやり玉に挙げた。

 米国の日本専門家、トバイアス・ハリス、ジェフリー・ホーナン両氏は米誌ナショナル・インタレスト(電子版)でトランプ氏の論法を「日本から米国への累積直接投資は英国に次ぐ2位。日本の自動車メーカーは米国各地に工場を作り数千人の米国人労働者を雇用している」と批判した。

 また、米紙ニューヨーク・タイムズはトランプ氏の日本たたきが「旧時代をしのばせる」と指摘するとともに、識者の「トランプ氏は80年代を生きている」との見方を紹介した。

 サンダース氏もライバルのクリントン国務長官が積極的だった北米自由貿易協定(NAFTA)や環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)を批判し、雇用を守ると強調。クリントン氏も一転してTPPに反対を表明し、最近は国内の工場をメキシコに移した企業を名指し批判している。

 ミシガン州予備選に関する米CNNテレビの出口調査によると、共和党では55%が貿易で雇用が奪われていると答え、そのうちトランプ氏への支持が45%でトップだった。民主党は58%が同様に答え、うち58%がサンダース氏支持だった。

 予備選・党員集会は今後、オハイオイリノイ両州など「ラストベルト」(さびた工業地帯)と呼ばれる米中西部から東部の製造業が衰退している地域での戦いが活発化するため、貿易をめぐる孤立主義的な議論が続くとみられる。

http://www.sankei.com/world/news/160309/wor1603090044-n1.html

 うーん、なんだろうこのトランプ氏の「日本からは数百万台の自動車が来るのに、米国はほとんど売っていない。(建機大手)コマツのトラクターにキャタピラーが痛めつけられているのも為替操作のせいだ」などという一連の日本批判でありますが、いつの時代の話だよと思うわけであります。

 アメリカにおけるコマツの重機は、米国内の工場で製造した米国製であります。

 円安の影響なんてあるはずはありません。

 まあ、トランプ氏の日本批判は何十年も前の過去の時代錯誤な、現代では根拠のない「ホラ話」に近いのですが、これが米国民、特に白人低所得者層に大受けしているわけですから、困ったものであります。

 報道によればトランプ氏の日本嫌いは筋金入りのようで、80年代に日本企業がニューヨークなどのビルやホテルを買いまくっていた頃からだそうであります。

 当時某日本企業からホテルを買い戻したとき、トランプ氏は日本メディアと単独インタビューに応じたのも、日本に対する見せしめの意味合いがあったのではと穿った推測もあるようです。

 基本的に彼の日本観は当時からぶれていないという事なのでしょう。

 こんな輩がアメリカ大統領の主要候補でありしかも現段階でぶっちぎりの支持をたもっているのですから、ある意味アメリカ国民の鬱屈した既存政治家への不満はそうとう根強いのでしょうね。

 まあ、アメリカ大統領選は当然ながら毎回内向きな議論になりがちで、衆愚的人気取りに陥りやすいものですが、今回のトランプ氏による日本を含めた外国批判は強烈なのであります。

 で、悩ましいのは一人がこのような対日批判を派手に展開すると、これが他候補に伝播してしまう点であります。

 上記記事でもクリントン氏が「一転してTPPに反対を表明」しだしましたが、日本に対しても「何年も通貨の価値を下げて輸出品を人為的に安くしてきた」と批判をしだしました。

 25日付け日経新聞記事から。

クリントン氏、「円安誘導」と日本批判
2016/2/25 0:01

 【ワシントン=共同】米大統領選で民主党の候補指名を目指すクリントン国務長官は23日、米紙への寄稿で「日本は輸出を増やすために円安に誘導している」との認識を示し、大統領になれば対抗措置を取る方針を明らかにした。環太平洋経済連携協定(TPP)への反対もあらためて表明した。

 米東部メーン州の地方紙への寄稿で「中国や日本、他のアジアの国々は通貨の価値を低くし、商品の価格を人為的に安く抑えてきた」と指摘。不公正な行為で米国への輸入が増え、国内の労働者は職を失うなどの被害に遭うと説明した。

 「為替操作には断固たる措置を取る必要がある」とし、効果的な具体策として為替操作への報復関税の導入を挙げた。

 TPPについては、雇用を増やし、賃金を上昇させ、国内の安全確保につながるならば支持するが「こうした基準を満たしていないので反対だ」とも強調した。

 共和党の大統領候補指名を狙う実業家トランプ氏も日本の為替政策を「円安誘導」と批判している。

http://www.nikkei.com/article/DGXLASGM24H7N_U6A220C1FF2000/

 非常に興味深いのは、トランプ氏にしろこのクリントン氏にしろ、同盟国日本を中国と同列に並べて批判を展開している点です。

 さて、大統領選で反日批判を展開するトランプ氏とクリントン氏でありますが、両者には日本のメディアではあまり報じられない興味深い共通点があります。

 トランプ氏は若い頃民主党党員であり、クリントン氏は逆に若い頃共和党党員であり、ともに後年になり(トランプ氏は2009年までは民主党員)政治的に転向している点であります。

 当ブログとしてはそこにこの二人の共通項を見出すのであります。

 トランプ氏にしろクリントン氏にしろ、おそらく掲げる政策に拘泥することなく、現実主義的に対処しうる柔軟性を有していると感じます、ポリシーが軟弱といいますか、いい表現をあえて使えば現実に即して対応する適応力に秀でていると思われます。

 特にトランプ氏はその政治的手法はまったく未知数ですが、長年企業経営者として「不動産王」の地位まで成功させた手腕は、教条的な固い頭では不可能なのであり、超がつく現実主義的経営手法をとってきたはずです。

 ですから、この二人は今でこそTPPにも反対を表明していますが、実際もし大統領に当選した暁には、TPP支持を打ち出す可能性は大きいと推測します。

 同様に対日批判も大統領選が終われば収束すると考えるのですが、少し甘い見通しでしょうか。

 大統領選で主要候補者たちに伝播している対日批判なのであります。

 一過性のものなのか、あるいは、今後の日米関係に影響を与えるのか、誰が勝利するのかも含めて、ここは成り行きを注視していきましょう。



(木走まさみず)