木走日記

場末の時事評論

「日本政府はメディア報道に干渉しろ」(韓国政府)〜厚顔無恥で民主主義を否定するデタラメクレームは無視すればよい

 さて我が国においての刑事事件における実名報道の基準について押さえておきましょう。

 過去の二つのケースを示しますが、ひとつは公正証書原本等不実記載などの容疑で逮捕・勾留されたがその後不起訴となった原告が、容疑の内容を実名報道されたことにつき、新聞各社に対し、実名報道をしたことそれ自体の責任を追及したケースにおいて、平成2年3月23日、東京地方裁判所は、違法ではないとして原告の主張を退けています。

 また二つ目のケースは、名古屋高判平成2年12月13日において、原告が業務上過失致死容疑で書類送検されたことにつき、新聞社が実名報道したケースで、実名報道したことそれ自体が違法であると主張したことに対し、犯罪主体となった者にとっては匿名又は仮名で報道されることが望ましいことは裁判所も認めるところであるものの、実名報道を違法なものとはいえないとして原告の主張を退けています。

 警察が敢えて嘘の事実をマスコミに公表したのであれば名誉毀損になります。しかし、結果的に事実でなかったにすぎないという場合にはどうなるのでしょうか。

裁判所の判断は、この場合、警察としてその公表時点までに通常行うべき捜査を尽くし、収集すべき証拠を収集した上で、公表当時に有罪と認められる嫌疑があったのならば名誉毀損にはならないとしています。(東京高判平成11年10月21日)

 このように、実際には刑事事件で被疑者として逮捕されていることについて実名報道がなされてしまえば、報道の自由は広く認められており、人権侵害や名誉毀損となる場合のように明確に違法行為が許されないのは当然のこととして、それ以外はマスメディアによる自主規制でしかありません。

 ここで重要な点は、刑事事件で逮捕されても、起訴されても、裁判において有罪が確定するまでは本来無罪が推定されるはずですが、しかし、実名報道の自由は広く認められている点です。

 マスメディアが実名報道にするか、匿名報道にするか、実は明確な基準は存在せず、メディア各社の自主規制にまかされているのが実情ですが、その中でも次の何点かでは匿名報道がなされています。

 まず、少年事件については、少年法61条が実名報道を禁止している(参照:少年法61条「家庭裁判所の審判に付された少年又は少年のとき犯した罪により公訴を提起された者については、氏名、年齢、職業、住居、容ぼう等によりその者が当該事件の本人であることを推知することができるような記事又は写真を新聞紙その他の出版物に掲載してはならない。」)ため、匿名報道が原則です。

 次に、精神障害者については、刑事事件の捜査段階や公判で、被疑者や被告人が心神喪失で「刑事責任能力」が全くないと判断されたとき(不起訴処分、無罪判決)、またはそう判断されることが確実なときは、本人を特定する名前、住所などは記載しません。

 ただし、薬物中毒者が精神障害を起こし、被疑者(被告人)となった場合は実名もありえます。

 次に微罪事件については、報道する必要があり、実名を記載すると過度の制裁になる場合は、匿名も選択できるとされています。

(参考サイト)

刑事弁護士・東京法律事務所
報道のルール
http://criminal-bengo.com/information/10pt/cate6/index04.html

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 10日付け朝鮮日報記事から。 

韓国政府 顔公開など日本メディアの報道に抗議=靖国事件

【ソウル聯合ニュース】東京都内の靖国神社内の公衆トイレで爆発音がした事件の容疑者として韓国人男性(27)が逮捕されたことに関し、韓国政府は10日、個人情報を公開するなどした日本メディアの報道について、日本側に正式に抗議した。

 外交部の趙俊赫(チョ・ジュンヒョク)報道官は同日、「(韓国人男性の)写真や名前など個人情報を過度に詳しく公開した日本メディアの報道について、外交ルートを通じ、日本側に正式に抗議した」と報道陣に語った。

 外交部は同日午前、在韓日本大使館を通じ抗議したとされる。

 日本メディアは前日、警視庁に逮捕された韓国人男性の実名や顔写真などをそのまま報じた。事件・事故を報じる日本メディアの慣行ではあるものの、韓国では容疑者の個人情報公開に慎重を期している。韓国政府が日本側に抗議したのも、こうしたことを踏まえたとみられる。また、日本メディアの報道が韓日関係に響くことを事前に防ごうとする意図もあると受け止められる。

 一方、趙報道官は今回の事件が韓日関係に及ぼす影響について、「捜査の行方を見守るのが順序。結果が出ていない状況で予断はできない」と慎重な姿勢を示した。

http://www.chosunonline.com/site/data/html_dir/2015/12/10/2015121002668.html

 韓国政府が日本政府に「(韓国人男性の)写真や名前など個人情報を過度に詳しく公開した日本メディアの報道について、外交ルートを通じ、日本側に正式に抗議した」のだそうです。

 これは実におかしなクレームです。

 まず、韓国外務省はソウルの日本大使館を通じて日本政府に抗議したといいますが、メディア報道の内容を政府に抗議しても何の意味もありません、日本は報道の自由が広く認められている民主主義が成立している国なのであり、どこぞの国のように政府により言論統制を強いるようなことが可能なはずがありません。

 他国のメディア報道内容を他国の政府に抗議するという筋の悪さは、裏返せば韓国政府は、メディア報道の内容に政府が干渉してもよい、干渉するべきだと、いっているようなものです。

 そういえば、韓国政府は、自分たちに都合の悪い論説や報道には、乱暴な言論弾圧を繰り返していますものね。

(参考エントリ−)

2015-11-19 真実を指摘され自国の大学教授を逆ギレして起訴する韓国
http://d.hatena.ne.jp/kibashiri/20151119/1447931800

2014-08-13 産経記事のただの韓国報道紹介記事が韓国を激怒させた理由
http://d.hatena.ne.jp/kibashiri/20140813

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 日本大使館関係者は抗議について「メディアの報道様式の問題」として、否定も肯定もしていないそうですが、当然のことです、政府が顔を出す問題では全くありません。

 このような厚顔無恥で民主主義を否定するデタラメなクレームは無視していればよろしいのです。



(木走まさみず)