木走日記

場末の時事評論

不思議な「新安保法案で日本が有志連合に参加してテロを招く」という論法はいただけない

 世の中には「風が吹けば桶屋が儲かる」のような不思議な論法がありますが、

 「安倍政権の安保法案で日本が有志連合に参加してテロを招く」

 これなんかもそのたぐいでしょうかね、論理的に破綻していますが、論じている人たちが本気なのがどうにもこうにもです。

 この手の不思議な主張をしている論客は、基本的な前提知識が破綻しているのが常なんですよね。

 例えば、BLOGOSのこのエントリー。

田中龍作
【パリ発】「対IS有志連合」日本も引きずり込まれる
http://blogos.com/article/146165/

 失礼して当該箇所を抜粋。

 本記事2段落目の『給油』に脊髄反射された方も少なくないのではないだろうか。新安保法制では、爆撃に向けて発進準備中の同盟国の戦闘機にも給油できるのだ。

 戦線が拡大し泥沼化すれば、日本も引き入れられる可能性は高い。アベ首相はむしろ積極的に参加したがりそうだ。

 「有志連合」は、いかにもアベちゃんが酔いそうな言葉だからだ。

 「新安保法制」で日本が「有志連合」に巻き込まれると。

 これですね、報道ステーションの2015年1月23日放映における古賀茂明氏による安倍外交批判発言とまったく同様のデタラメな間違いをしているのですよね。

 当時、当ブログで古賀茂明氏を徹底批判いたしましたが、未読の読者はお時間あればご一読あれ。

2015-02-12「翼賛体制」とは、片腹痛い、古賀茂明氏のデタラメ発言を検証〜ジャーナリストが根拠のないでたらめの解説をしたら批判されて当然
http://d.hatena.ne.jp/kibashiri/20150212

 当時のエントリーより抜粋。

 いろいろ問題のある発言なのですが、ここの発言はもう前提となっている事実関係が滅茶苦茶です。

 安倍さんは、有志連合に入りたいんだ、あるいはそういう国なんだって言いたいかもしれないけど、でもそんなことは、日本は憲法もあるしできない、はずなんですよ。

 まず日本はとっくに有志連合主要国に認知されていますし、有志連合は何も直接空爆に参加する国だけで構成されているわけではありません。

 日本のように人道支援だけを行う参加国もたくさんあります。

 そして「イスラム国」は国でもなんでもありません、ただのテロリスト集団であり犯罪者グループに過ぎません。

 「でもそんなことは、日本は憲法もあるしできない、はずなんです」などの暴論がどこから出てくるのか、何重にも前提事実と現状認識を間違えているから、とんでもない根拠ない安倍批判となっているわけです。 

 基本的な事実を押さえておきます。

 昨年9月19日に米国務省の公式ページに米国主導の対ISIL有志連合参加国が公表されています。

Building International Support to Counter ISIL
Media Note
Office of the Spokesperson
Washington, DC
September 19, 2014
http://www.state.gov/r/pa/prs/ps/2014/09/231886.htm

 その初期のメンバーである57の国・機関には日本国が参加していることがリストアップされていることが確認できます。

 これはアメリカ政府の一方的発表ではもちろんありません。

 例えば、アルジャジーラの特集記事(2014年12月16日英文ウェブ版「Countries countering ISIL」)によると有志連合の主要参加国は35カ国で、次のように分類されています。

・軍事支援と人道支援を実施する有志連合:17カ国
 アメリカ、イギリス、オーストラリア、カナダ、フランス、オランダ、ベルギー、ドイツ、イタリア、デンマークカタールアラブ首長国連邦サウジアラビアエストニアハンガリーチェコブルガリア
・軍事支援だけを実施する有志連合:4カ国
 ヨルダン、バーレーンアルバニアクロアチア
人道支援だけを実施する有志連合:14カ国
 日本(シリアとイラク領内の難民に対しておよそ2550万ドルの人道支援)、韓国、クウェート、トルコ、ニュージーランドノルウェースウェーデン、スペイン、アイルランド、スイス、オーストリアルクセンブルグスロバキアグルジア

 日本のように人道支援だけを実施する有志連合参加国もたくさんあるわけです。

 「安倍政権の安保法案で日本が有志連合に参加してテロを招く」

 なにを馬鹿なことを論じているのか。

 昨年9月の段階でとっくに日本は有志連合に参加していますから。

 それは国際的に認知されていますから。

 当のISILは、ネットサイトで、彼らが言うところの「十字軍」すなわちテロ対象の「対イスラム国グローバル同盟」60ヶ国を公表しています。

 日本も立派(?)に、ISILのテロ対象国に既に指定されているわけですよ。

(参考記事)

飯山陽
2015年11月25日 12:58
「かっこいいイスラム国」の怖さ
http://blogos.com/article/146480/

 ・・・

 「安倍政権の安保法案で日本が有志連合に参加してテロを招く」

 世の中には不思議な論法があるものです。

 今検証したとおり、日本は昨年の段階ですでに有志連合に参加しており、ISILのテロ対象国に既に指定されています。

 従って、安倍政権の安保法案とISILのテロ活動には何の因果関係もありません。

 日本は、毅然として、「人道支援だけを実施する有志連合参加国」として対ISIL国際社会の安全保障に貢献しつつ、海外にいる邦人の安全確保と、来年のサミット、20年の東京オリンピックに備えて、国内のテロ活動対策を粛々と整えていくべきです。

 安倍政権批判はよろしいです。

 しかしです。デタラメな前提で、ISILのテロをもって安倍政権の安保法案批判という、「風が吹けば桶屋が儲かる」にもなっていない論法はいただけません。

 ふう。



(木走まさみず)