木走日記

場末の時事評論

大阪で民主党の議席が「蒸発」した理由〜それを理解できない岡田民主党のお先は真っ暗

 民主党は17日、全国幹事長会議を党本部で開きました

 岡田克也代表はあいさつで、前原誠司元外相らが主張する年内の解党について「全くあり得ない」と否定し、維新の党と国会で統一会派結成を目指す方針を説明、共闘に向け「各県連レベルでも維新の党と信頼関係を築いてほしい」と呼び掛けています。

 岡田氏は、来年夏の参院選について「国政選挙3連敗中のわが党にとって、極めて重要な選挙だ」と強調。1人区での野党候補の競合を避けるため、共産党と協議を続ける考えを示しました。

 また22日には、岡田代表は、愛知県豊橋市で、来年夏の参議院選挙で与党に対抗するため、民主党がまだ候補者を擁立していない選挙区などで、安全保障関連法に反対する市民団体や学生団体が独自に候補者を擁立した際には、党として支援を検討する考えを示しました。

 そのうえで、岡田氏は「安全保障法制でしっかり活動された市民活動の皆さんと連携が出来つつあり、そうした方々を中心に候補者を立てようとする動きがある。民主党が応援していく形があちこちで出て来ると思う」と述べ、与党に対抗するため、民主党がまだ候補者を擁立していない選挙区などで、安全保障関連法に反対する市民団体や学生団体が独自に候補者を擁立した際には、党として支援を検討する考えを示しました。

 もちろんこれは共産党を含めての野党共闘を意識した発言で、「安全保障関連法反対」というたった一本の御旗で参議院選挙で「野合」を図ろうとの戦術でありましょう。

(参考記事)

岡田氏「年内解党あり得ぬ」=民主幹事長会議、県連からは批判
(2015/11/17-17:09)
http://www.jiji.com/jc/zc?k=201511/2015111700702

民主 岡田代表 参院選で市民団体候補者を支援も
11月22日 21時59分

http://www3.nhk.or.jp/news/html/20151122/k10010316201000.html

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 岡田克也氏は、ときの政局を俯瞰(ふかん)して読み解く能力に欠けていると思えてなりません。

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 当ブログが野党の立場ならば、民主党岡田代表の立場ならば、自民党に対抗するには、政権を奪取するためには、共産党と協力するのとは真逆のベクトルを取ります。

 ズバリ、『保守回帰』であります。

 以前もその理由をエントリーしましたが、少しお付き合いください。

 今の選挙制度のもとでは、野党が自民党に代わり政権奪取するためには、唯一の戦略であります。

 野党の『保守回帰』こそが政権奪取の唯一の戦略であること、その理由は、2大政党制を目指しこの国に小選挙区制を導入されたことを今一度よく考えて見れば自明なのであります。

 限られた小さな選挙地区を2大政党で議席を競うとすると、選挙に勝つためには両党の主張は競うように中庸(ちゅうよう)に寄り合うことになるからです。
 
 ゲーム理論で理論的な説明を試みます。

 ゲーム理論を思いついた人はハンガリー出身の数学者で近代コンピュータの父祖とも言われるジョン・フォン・ノイマンであります。

 それを発展させたのは、アメリカ出身の数学者ジョン・F・ナッシュでありました。

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 ビーチのアイスクリーム屋の話です、少しの間お付き合いください。

 ある浜辺で商品も価格も同じアイスクリームを売ろうとしているAとBがいて、いま浜辺のどこに店を構えれば一番売り上げが伸びるかを考えています。

 浜辺は直線で客は均等に存在しています、夏の炎天下の浜辺のことです、客はもっとも近い場所にあるアイスクリーム屋から買うことが想定されます。

 さてA,Bはお店をどこに立地すれば相手より売り上げを上げることができるか思案します。

 結論から言うとA,Bともに浜辺の中央、ど真ん中に並ぶように店を構えることになります。

 最初Aは浜辺の左側4分の1ほどの位置に、逆にBは浜辺の右側4分の1ほどの位置に店を構えたとしましょう。

 この状態では、浜辺の左半分にいる客たちはAの店に、右半分にいる客たちはBの店にいくことでしょう、客は均等に存在していますから売り上げも均等、AとBの店は仲良く棲み分けられます。

 しかし、どちらか少し賢ければどうでしょう、必ず店を中央よりに移し始めるはずです。

 たとえばBの店が中央に移り、Aの店が左4分の1の場所のままだったら、Bの店が浜辺の8分の5の客にとって最寄の店となり売り上げを伸ばすことでしょう。

 こうしてこの条件では、A,B両方の店は浜辺の真ん中中央に並ぶようにくっついて店を立地することになります。

 売り上げを重視しライバルに負けないためのこれしかない戦略です。

 これがこのゲームにおける均衡点なのです、このような均衡点をナッシュ均衡と呼びます。

 それぞれ左右のイデオロギーを有する2つの政党が、閉じた地域で1議席を争う場合、ライバルより1人でも多くの有権者を引き付けるために、最初は左右に分かれていたその主張が中庸(ちゅうよう)にシフトしていく、戦略上浜辺のど真ん中に店が並ぶように、ゲーム理論によれば議席獲得のために2つの政党は小選挙区制では似たような中庸の政策を掲げざるを得なくなるわけです。

 議席獲得のためには最も多くの支持を得られる政策を取らざるを得ないわけで、2大政党の政策は似たもの同士にならざるを得ないのです。

 さて現状ですが、護憲派リベラルの論客諸氏は自民党安倍政権を「極右」との現状評価をしていますが、この現状認識こそが根本的に誤りなのです。

 自民党安倍政権の政策は、欧米の極右政党の主張と比べれば極めて「リベラル」なのであり、今回の安保法制にしても大きな「自衛権」のくくりの中での法制化にすぎません。

 安倍政権は安全保障政策で支持を得ているわけではなく、「アベノミクス」などの経済政策などが中心に支持を集めているわけです、その何よりの証拠として安保法案が国会で可決されても政権の支持率は大きく落ち込むことはありませんでした。

 日本に極右政党など存在しないのです、すなわち安倍政権は保守の範疇の中でも政策的には極めてリベラルよりであると言えるのです。

 つまり、現状は保守自民党が多くの支持を得ている状況なのです。

 浜辺でいえばこの感じです。

 この状況を野党が挽回するには、自民党と見紛うばかりの政策の『保守回帰』しかありません。

 自民党政権が最も恐れているのは、自民党と見紛うばかりの現実主義で対抗する責任野党の存在です。

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 これは机上の空論ではありません。

 例えば大阪です。

 大阪では賛否はありますが「都構想」などの現実的改革を唱える維新の伸長が著しいわけです。

 維新のその主張は自民党のそれとかなり親和性を有しているのはご承知のとおりです。

 自民党と見紛うばかりの現実主義で対抗する責任野党が登場した結果、大阪府議会、大阪市議会における政党別議席数の構成は劇的な変化を遂げました。

 まず府議会。

大阪府議会会派別議員名簿

会派名称 人数
大阪維新の会 43人
自由民主党 25人
公明党 15人
日本共産党 3人
民主党 1人


http://www.pref.osaka.lg.jp/gikai_giji/giininfo/kaiha18.html

 次に市議会。

大阪市議会会派別議員名簿

会派名称 人数
大阪維新の会 37人
自由民主党 19人
公明党 19人
日本共産党 9人
OSAKAみらい 2人


http://www.city.osaka.lg.jp/shikai/page/0000002245.html

 それぞれ維新が自公を押さえて第一党なのですが、注目したいのは民主党の惨状です。

 府議会では一人のみ、市議会では0人です。

 もちろん、ここには大阪という地域の特殊事情も有りましょうが、現実政党維新の台頭により、何よりも影響を受けたのは民主党です、事実上大阪では民主党は「蒸発」、消えてなくなりそうなわけです。

 この国には自由民主党という保守政党があります。

 その自民党支持層の中の多数派であろう穏健保守層の何割かの支持を獲得できれば、大阪のように大きく「山」は動きます。

 かつて民主党政権が誕生した理由も、別に共産党などとの共闘などありませんでした、そうではなく自民党政権の経済政策の行き詰まりを主な理由に、穏健保守層の何割かが自民から民主に支持を変えたことが最大の理由です。

 大阪府議会・市議会の民主党の惨状、これから全国で起こるであろうことの先ぶれだとも言えましょう。

 共産党と野合すれば、穏健保守層から見放され民主党のお先は真っ暗だと予言しておきます。



(木走まさみず)