憲法九条は日本の平和のための「必要十分条件」ではないという話
ちょっと今回は論理的思考について、読者にお付き合い願いたいと考えます。
【命題】とは、「正しいか、正しくないかが明確に決まるもののこと」を言います。
で、命題が正しいことを「真」、正しくないことを「偽」であるといいます。
(例)Aさんはあまりお金を所持していない。
本当にあまりお金を持っていないかもしれませんが、どのくらいのお金を所持しているのが基準なのか定かではありません。だから、この例文は命題ではありません。(「真」「偽」の判断ができないため)
(例)Aさんの今現在の財布の中の所持金は1万円未満である。
このケースではサイフの中身を調べれば、明確に判断できます。したがって、この例は命題です。仮に10000円以上ならば「偽」、10000円未満だったなら「真」になります。
次に2つの【命題】の組み合わせを考えます。
【命題1】Aさんは東京在住である。
【命題2】Aさんは日本在住である。
Aさんが東京在住ならば【命題1】も【命題2】も成り立ちます、ともに「真」です。
しかしAさんが大阪在住ならば、【命題1】は「偽」、【命題2】は「真」となります。
もしAさんが今ハワイに住んでいたならば、【命題1】も【命題2】も成り立ちません、ともに「偽」です。
さて、この二つの【命題】から、つぎのような組み合わせた【命題】を作ることができます。
【命題】「Aさんは東京在住である。」 ならば、「Aさんは日本在住である。」
興味深いことにこの命題は「Aさんが東京在住ならば」と条件をつけているので(実際のAさんがどこに在住してようが)、常に「真」であります。
さてこのように二つの命題p、qがあって、pならばq(記号で表わせば,p→q)が成り立つとき,「pはqであるための十分条件」, 「qはpであるための必要条件」といいます.
この場合でしたら、「Aさんは東京在住である。」ことは、十分「Aさんは日本在住である。」の条件なので、「十分条件」であります。
また、「Aさんは日本在住である。」ことは、「Aさんは東京在住である。」ことの最低でも必要な条件なので、「必要条件」なのであります。
では、この命題の【逆】を考えてみます、逆とはp→qをq→pにするだけです。
【命題】「Aさんは東京在住である。」 ならば、「Aさんは日本在住である。」
↓
【命題の逆】「Aさんは日本在住である。」ならば、「Aさんは東京在住である。」
これは言い切ることはできませんから「偽」となります。
次にこの命題の【裏】を考えてみます、裏とは命題を否定することです。
【命題】「Aさんは東京在住である。」 ならば、「Aさんは日本在住である。」
↓
【命題の裏】「Aさんは東京在住でない。」 ならば、「Aさんは日本在住でない。」
これも言い切ることはできませんから「偽」となります。
最後にこの命題の【対偶】を考えます、対偶とは命題の【裏】の【逆】(もしくは【逆】の【裏】)のことです。
【命題】「Aさんは東京在住である。」 ならば、「Aさんは日本在住である。」
↓
【命題の対偶】「Aさんは日本在住でない。」 ならば、「Aさんは東京在住でない。」
Aさんが日本在住ではないならばもちろん東京在住のはずがありませんから、これは「真」であります。
このように一般に、ある【命題】が「真」ならば、その【命題】の対偶は必ず「真」になりますが、その【命題】の【逆】や【裏】は「真」になるとは限りません。
さて次の命題を考えてみましょう。
【命題】「日本は平和である。」 ならば、「憲法九条は守られる。」
戦後七十年間「日本は平和である。」状態が続いたわけですから、当然その間戦争放棄を謳った「憲法九条は守られ」てきたわけです。
この命題は「真」です。
ここから「真」を導き出せるのは、この命題の【対偶】です。
【命題の対偶】「憲法九条は守られない。」 ならば、「日本は平和ではない。」
これは自明ですね。
さてこの命題の【逆】は、成り立つとは限らないことは重要です。
【命題の逆】「憲法九条は守られる。」ならば、「日本は平和である。」
どんなに日本が憲法九条を守って、すなわち他国に日本から戦争を仕掛けることを放棄しても、その結果「日本は平和である。」状態が続くことが保証されるとは限らないのです。
早い話、他国から日本に戦争を仕掛けられれば、それまでです。
さておさらいです、二つの命題p、qがあって、pならばq(記号で表わせば,p→q)が成り立つとき,「pはqであるための十分条件」, 「qはpであるための必要条件」といいます.
p→qが成立してなおかつ、逆q→pも成立するとき、「qはpであるための必要十分条件」といいます。
【命題】「日本は平和である。」 ならば、「憲法九条は守られる。」
この命題は逆は必ずしも成り立ちません。
すなわち「憲法九条は守られる。」は「日本は平和である。」ための必要十分条件ではありません。
九条を守るだけでは日本の平和は保障されません。
極めて論理的な話です。
(木走まさみず)