政府自民党は無責任な「今回の安保法制によって自衛隊のリスクが増えることない」という主張を撤回すべき〜海外派遣の自衛隊員帰還後の自殺率民間の10倍の事実を直視せよ
28日付けの読売新聞記事から。
海外派遣の自衛隊員、帰国後の自殺者54人
2015年05月29日 07時36分菅官房長官は28日の記者会見で、自衛隊の海外活動に関するイラク復興支援特措法とテロ対策特別措置法に基づいて現地に派遣された自衛官のうち、帰国後の自殺者が54人に上ると説明した。
防衛省によると、両法に基づき派遣された自衛官は約2万3000人。このうち自殺者は、イラク特措法では陸上自衛官21人、航空自衛官8人。テロ特措法では海上自衛官25人。
菅氏は、自殺と海外派遣との因果関係の特定は困難だとした上で、「カウンセリング態勢の強化に加え、海外派遣の際にストレス軽減に必要な知識を付与する措置を講じる」と述べた。
国会論戦で共産党志位委員長の質問に応えた内容をあらためて菅官房長官が説明した模様です。
うむ、海外派遣の自衛隊員、帰国後の自殺者54人という数字ですが、分母が約2万3000人だとすれば、極めて高い数値と言えましょう。
よく国際比較される10万人当たりの自殺者数に単純に換算すれば234.8人となります。
WHOの資料によれば日本は10万人当たりの自殺者数が多い国第9位とそもそも自殺者が多いのですが、それでもその値は10万人当たり23.1人であります。
■自殺率(人口10万人当たり自殺者数)世界ランキング
順位 国名 値 1 北朝鮮 39.5 2 韓国 36.6 3 ガイアナ 34.8 4 リトアニア 33.3 5 スリランカ 29.2 6 スリナム 27.2 7 ハンガリー 25.3 8 カザフスタン 24.0 9 日本 23.1 10 ロシア 22.4 (資料)WHO(2014)Preventing suicide:A global imperative
単純に今回の数値を比較すれば、民間の自殺者数の10.16倍であります。
菅氏は、自殺と海外派遣との因果関係の特定は困難だとした上で、「カウンセリング態勢の強化に加え、海外派遣の際にストレス軽減に必要な知識を付与する措置を講じる」と述べたそうですが、どうでしょう、統計上分母2万3千人のデータでこれだけの一般自殺率の約10倍の自殺が発生しているのですから、因果関係が有ると疑うべきではないでしょうか。
政府として「自殺と海外派遣との因果関係の特定は困難」との見解は理解できるのですが、今後自衛隊の海外活動が活発になるとするならばこの問題は看過すべきではありません、この問題で真摯な取り組みをするうえで、「因果関係の特定は困難」などと消極的姿勢はいただけません。
この問題もそうなのですが、今回の一連の国会論戦において、政府の答弁姿勢の偽善性がどうにも気になります。
27日の議論では、野党側は「自衛隊の活動範囲が広がれば、当然、リスクが広がっていく」と政府側を追及しました。
もちろん、野党側としては、リスクを認めさせて、安保法制は危険だというイメージに結び付けたい狙いがあります。
しかし、政府側は「危険な任務を行う自衛隊にリスクは残る」とは認めましたが、今回の安保法制によってリスクが増えることは最後まで認めませんでした。
「いったん認めれば、『リスク増大』が独り歩きして一気に潰される」という警戒感があるからです。
しかし「今回の安保法制によって自衛隊のリスクが増えることない」との答弁は、これは二重に無責任な発言だと思います。
もし実際に今回の法改正で自衛隊員のリスクが高まると予測されるとするならば、正直に国会にて国民にその事実を知らしめるべきです。
そしてそれでも私たちは日本の平和を守るために自衛隊の活動範囲を広げる必要があるのだと堂々と主張すべきです。
さらに実際にはリスクが高まるのにその事実を国会論戦で隠ぺいするとなれば、派遣される自衛隊員のモチベーションにも悪影響があると懸念します。
上記記事の自殺率を真摯に深刻に捉えるならば、今後イラク復興支援特措法とテロ対策特別措置法以上の活躍を自衛隊員に求める法改正を唱えている以上、政府自民党は無責任な「今回の安保法制によって自衛隊のリスクが増えることない」という主張を撤回すべきでしょう。
嘘までついて国民の支持を取り付けるべきではありません。
自民党は堂々と国会論戦してほしい、保守の矜持を持て、と言いたい。
(木走まさみず)