木走日記

場末の時事評論

共産党「揚げ足取り」政治プロパガンダの策略にはまった安倍首相の「知性」が実は問われる件


 さて日本共産党およびその機関誌しんぶん赤旗の「ポツダム宣言憲法も知らない安倍総理は落第」という、安倍首相批判がヒートアップしております。

 便乗して共産党系以外のアンチ安倍政権グループも元気がよろしいようです。

 さて、今回はこの大変興味深い日本共産党による「安倍いじめ」について取り上げたいと思います。

 例によってまじめな論説は他の時事系の論客にお譲りして、当ブログとしては本件を「宣伝戦」の側面から分析してまいりたいとかんがえます。

 さて国会論戦はもちろん与野党が法案について国権の最高機関たる国会において真摯に議論をする場でありますが、TV中継も入るその場は、今日では世論を味方にするための一大宣伝戦、世論戦すなわちプロパガンダ(英: propaganda)の場となっていることはご存じのとおりです。

 アメリカ合衆国の宣伝分析研究所(Institute for Propaganda Analysis)は、プロパガンダ技術を分析し、次の7手法をあげています。

1.Name-calling
2.Glittering generalities
3.Transfer
4.Testimonial
5.Plain folks
6.Card stacking
7.Bandwagon

Institute for Propaganda Analysis
http://en.wikipedia.org/wiki/Institute_for_Propaganda_Analysis

 宣伝分析研究所によればプロパガンダ手法の第一は、"1.Name-calling"ネーム・コーリング すなわち「レッテル貼り」であります。

 攻撃対象に強烈なネガティブなイメージを結びつける手法です。

 たとえば今回国会では安全保障関連法案のことを、共産党社民党が「戦争法案」と呼称、明らかに法案に悪いイメージを付ける「印象操作」なわけですが、自民党の国際「平和」支援法という命名も、まあ、安直なイメージ操作であり、同じ穴のムジナなんですが、これなんかも典型的な"ネーム・コーリング すなわち「レッテル貼り」手法なのであります。

 さて、日本共産党志位委員長であります。

 わずか7分間の党首討論の時間の中で、今回政治的プロパガンダ戦において、結果として安倍総理に最も効果的な質問をしたわけです。

 核心部分を抜粋しておきましょう。

 志位委員長

(前略)
 こうして「ポツダム宣言」は、日本の戦争について、第6項と第8項の二つの項で、「間違った戦争」だという認識を明確に示しております。

 総理におたずねします。総理は、「ポツダム宣言」のこの認識をお認めにならないのですか。端的にお答えください。

 安倍首相

 この「ポツダム宣言」をですね、われわれは受諾をし、そして敗戦となったわけでございます。そしていま、えー、私もつまびらかに承知をしているわけでございませんが、「ポツダム宣言」のなかにあった連合国側の理解、たとえば日本が世界征服をたくらんでいたということ等も、いまご紹介になられました。

 私はまだ、その部分をつまびらかに読んでおりませんので、承知はしておりませんから(議場がざわめく)、いまここで直ちにそれに対して論評することは差し控えたいと思いますが、いずれにせよですね、いずれにせよ、まさにさきの大戦の痛切な反省によって今日の歩みがあるわけでありまして、われわれはそのことは忘れてはならないと、このように思っております。

 私もつまびらかに承知をしているわけでございません

 私はまだ、その部分をつまびらかに読んでおりませんので、承知はしておりません

 うむ、見事志位委員長は安倍首相がポツダム宣言を「まだ、その部分をつまびらかに読んでおりません」発言をゲットしたのであります。

 このあたりは志位委員長のうまいところで、戦後レジームからの脱却を唱える総理が、ポツダム宣言を読んでないとは言いにくいことを承知の上で、恐らく事前通告なしに、ポツダム宣言の連合国側の認識に重ねて総理の戦争観を訊ねたわけであります。

 これは何を尋ねるか事前に通告しておくという国会の紳士協定に触れかねないギリギリの癖玉(くせだま)なのでありますが、それはともかく、安倍首相がいまだポツダム宣言を読んでいないとの、国会における本人発言をゲットしたのであります。

 さあ宣伝戦です。

 その発言のあった国会(20日)の翌日から、共産党機関紙「しんぶん赤旗」はネットで確認できるだけで12本もの関連記事を投下いたします。

 発言の翌日21日には社説も含めて大量6本の記事が乱れ打たれます。

2015年5月21日(木)
日本の戦争を「間違った戦争」とさえ言えぬ首相
戦争法案を提出する資格なし
党首討論 志位委員長の発言
http://www.jcp.or.jp/akahata/aik15/2015-05-21/2015052103_02_1.html

2015年5月21日(木)
“「ポツダム宣言」を読んでいない”――首相の資格なし
党首討論後 志位委員長が会見
http://www.jcp.or.jp/akahata/aik15/2015-05-21/2015052102_01_1.html

2015年5月21日(木)
主張
日本の戦争の善悪
間違い認めぬ首相の危険明白
http://www.jcp.or.jp/akahata/aik15/2015-05-21/2015052101_05_1.html

2015年5月21日(木)
党首討論 党本部に反響続々
考え抜かれた論理 ■ 戦争法案提案者の正体暴いた
http://www.jcp.or.jp/akahata/aik15/2015-05-21/2015052102_03_1.html

2015年5月21日(木)
ネット上で話題1位
http://www.jcp.or.jp/akahata/aik15/2015-05-21/2015052103_01_1.html

2015年5月21日(木)
戦争の善悪の区別がつかない首相に戦争法案提出の資格なし
党首討論で志位委員長が追及
“「ポツダム宣言」読んでいない”と首相
http://www.jcp.or.jp/akahata/aik15/2015-05-21/2015052101_01_1.html

 さらに22日以降も6本の記事が乱れ飛んでおります。

2015年5月22日(金)
きょうの潮流
http://www.jcp.or.jp/akahata/aik15/2015-05-22/2015052201_06_0.html

2015年5月22日(金)
戦争法案 阻止へ全力 国会前行動スタート
26日審議入り
ポツダム宣言憲法も知らない安倍総理は落第”
http://www.jcp.or.jp/akahata/aik15/2015-05-22/2015052201_01_1.html

2015年5月22日(金)
「一字一句正しいのか」と、首相補佐官ポツダム宣言“否定”
共産党の山下書記局長が批判
http://www.jcp.or.jp/akahata/aik15/2015-05-22/2015052201_03_1.html

2015年5月22日(金)
ポツダム宣言の歴史知らず「戦後レジームの打破」とは
志位委員長が指摘
http://www.jcp.or.jp/akahata/aik15/2015-05-22/2015052202_02_1.html

2015年5月23日(土)
2015 とくほう・特報
安倍首相の「ポツダム宣言読んでない」
党首討論 国内外に衝撃
“世界との関係ご破算”の深刻さ
http://www.jcp.or.jp/akahata/aik15/2015-05-23/2015052301_01_1.html

2015年5月24日(日)
地域経済協力テーマに
ICAPP特別会合
日本共産党 田川氏が参加
http://www.jcp.or.jp/akahata/aik15/2015-05-24/2015052402_03_1.html

 記事タイトルだけでも興味深いのは、当初“「ポツダム宣言」を読んでいない”と”読んでいない”という動詞だったのが、後半になるにつれ、“ポツダム宣言憲法も知らない安倍総理は落第””ポツダム宣言の歴史知らず”と”知らない”というより「反知性的」「おバカ的」表現が出現しているところです。

 見事な共産党による反安倍プロパガンダです。

 典型的な"ネーム・コーリング すなわち「レッテル貼り」手法であります。

 連日“安倍は「ポツダム宣言」を読んでいない”と連呼することにより、国民に安倍首相は「知性」がないとの印象操作を行い続け、そのうち「読んでいない」に加え動詞により強力な「知らない」を混ぜ初め、ついでに知らない対象に「憲法」まで加えて、“ポツダム宣言憲法も知らない安倍総理は落第”とのタイトルの完成です、ようは「安倍には知性がない」「戦争関連法案を語る資格・知性はない」との「レッテル貼り」なわけです。

 お見事です。

 ・・・

 さてポツダム宣言」なんてふつう読んでいないし、ましてやその詳細など覚えているわけなかろうが、という正論や、そもそもポツダム宣言の中に書かれている日本の「世界征服」の野望うんぬんに代表されるような当時の戦勝国・連合国側の歴史観がすべてただしいわけではないだろうが、という安倍首相擁護の意見がネット上では散見されています。

 そのような正論やご意見を認めたうえで、当ブログとしてあえて安倍首相およびその側近にダメ出しいたします。

 日本国総理大臣たる安倍首相が、共産党委員長のいじわる(?)な質問に国会で、ポツダム宣言よく読んでいませんなんて、宿題忘れた小学生みたいに認めてはダメでしょ!
 理由を2つのべます。

 まず第一に安倍首相並びに側近は、今回共産党ポツダム宣言の文面の中身に突っ込んだ質問をすることに全く無防備であったことこそ問題なのであります。

 少しだけ脱線いたしますが、当ブログでは6年前の8月15日に「実は日本は無条件降伏していない」というエントリーを起こして、ポツダム宣言について取り上げていますが、ポツダム宣言自体は非常に手短な宣言であります。

(参考エントリー)

2009-08-15■「日本は無条件降伏していない」〜終戦記念日の産経の少しノスタルジックでメランコリックな記事
http://d.hatena.ne.jp/kibashiri/20090815

 上記エントリーは「ポツダム宣言は実は日本国の「無条件降伏文書」ではなく、「日本政府は日本軍を無条件降伏させるという条件付き降伏文書だった」という、70年代にあった神学論争的な議論を取り上げています、時間のある読者はご一読あれ。

 それはともかく、日本共産党が「ポツダム宣言」を「戦後の原点」と見なし、日本は降伏のさい「世界征服の挙に出づるの過誤を犯さしめたる者の権力及勢力は永久に除去」とするポツダム宣言を受諾し、戦争指導者を断罪した東京裁判も受け入れた事実を、極めて重視してきているのは、共産党機関紙「しんぶん赤旗」の論調を押さえていれば明白であったはずだからです。

 例えば、今年元旦の「しんぶん赤旗」の社説はポツダム宣言を受諾しておきながら、「歴代自民党政権は、この戦争を「侵略」と認めることを避け続け、アジア諸国への謝罪・補償もまともに行っていません」と強く批判しています。

2015年1月1日(木)
主張
戦後70年の年明け
歴史に向き合い未来開く責任
http://www.jcp.or.jp/akahata/aik14/2015-01-01/2015010102_01_1.html

 元旦早々ポツダム宣言の内容に触れている当該部分を抜粋引用。

戦後の原点に逆らう暴走

 1945年の8月、アジア・太平洋戦争での日本の無条件降伏により、第2次世界大戦は終結しました。ドイツの降伏は先立つ5月です。この年は、アメリカ、イギリスなど連合諸国と世界の民主勢力が、日独など侵略国家を破った記念すべき年として世界史に刻まれています。6月に国際連合が発足し、世界の平和秩序形成に道を開いた年とも記録されています。

 昨年6月、第2次大戦のヨーロッパ戦線での帰趨(きすう)を決めた連合国軍のノルマンディー上陸作戦70年式典には敵同士としてたたかった米英ロシアと独の首脳らが一堂に会しました。欧州ではこのような記念日に各国首脳が顔を合わせ、戦争犠牲者の追悼ができる―。矛盾を抱えながらも、ドイツ自身を含めナチス・ドイツの行為にたいする明確な否定が国家の指導者の共通の土台にあるからです。

 アジア・太平洋地域はどうか。日本の侵略戦争と植民地支配によって310万人の日本国民とともに2000万人を超すアジアの人々を犠牲にしたにもかかわらず、日本を含むアジア・太平洋の首脳が過去の戦争での式典に集まることなど考えられない状況です。

 なぜか。日本は降伏のさい「世界征服の挙に出づるの過誤を犯さしめたる者の権力及勢力は永久に除去」とするポツダム宣言を受諾し、戦争指導者を断罪した東京裁判も受け入れました。しかし歴代自民党政権は、この戦争を「侵略」と認めることを避け続け、アジア諸国への謝罪・補償もまともに行っていません。過去の戦争を直視しない自民党政権の姿勢が、アジア諸国との和解や対話のうえで障害になってきたからです。

 今日事態をさらに深刻にしているのが、歴代自民党政権とも異質な、侵略戦争を正当化する立場の安倍首相が政権についていることです。侵略戦争賛美の靖国神社参拝を強行し、米政府からも「失望」を表明される安倍首相では、中国や韓国とのきちんとした外交関係も築けません。侵略戦争の断罪の上に築かれた戦後国際秩序を根本から覆す安倍政権のもとでは、日本がアジアでも世界でもまともに生きていけないのは明らかです。

 今回、事前の質問主意書がどのようなあいまいさがあったにせよ、安倍首相は、いや少なくとも側近は、質問の癖玉(くせだま)常習者である志位委員長がポツダム宣言の中身に踏み込むことを予見できなかったとすれば、お粗末です。

 場末のブログでさえ何度も取りあげてきた、こんな小文押さえとかなきゃダメでしょ!

 そして第二のより本質的なダメ出しの理由です。

 安倍さんは戦後初めての大改革を着手しようとしているんでしょ。

 だって、先の米議会演説で安倍首相は高らかに「戦後、初めての大改革をこの夏までに成就させる」と宣言したじゃないですか。

 日本はいま、安保法制の充実に取り組んでいます。実現のあかつき、日本は、危機の程度に応じ、切れ目のない対応が、はるかによくできるようになります。

 この法整備によって、自衛隊と米軍の協力関係は強化され、日米同盟は、より一層堅固になります。それは地域の平和のため、確かな抑止力をもたらすでしょう。

 戦後、初めての大改革です。この夏までに、成就させます。

 だったら、ポツダム宣言を「まだ、その部分を「ポツダム宣言というのは、アメリカが原子爆弾を二発も落として日本に大変な惨状を与えたあと、『どうだ』とばかり叩(たた)きつけたものです」って間違いは、格好悪すぎでしょう。

 これは確かに「知性」の問題なのです。

 陰湿な日本共産党志位委員長は、上記一連の赤旗記事の中で過去の安倍首相のポツダム宣言関連の間違いも指摘しています。

(前略)

 これに関連して志位委員長は21日の記者会見で、安倍首相が自民党幹事長代理だった2005年当時、『Voice』7月号の誌上対談で「ポツダム宣言というのは、アメリカが原子爆弾を二発も落として日本に大変な惨状を与えたあと、『どうだ』とばかり叩(たた)きつけたものです」とのべていたことを示し、「政治家として根本的な資質が疑われます」と語りました。

 問題の発言は、「ポツダム宣言」にふれて小泉純一郎首相(当時)の靖国神社参拝をただした民主党衆院議員を批判するくだり。「ポツダム宣言」について先のようにのべたあと、「そんなものをもちだし、あたかも自分自身が戦勝国であるかのような態度で、日本の総理を責めあげる。大変な違和感を覚えました」と語っています。

(後略)

ポツダム宣言の歴史知らず「戦後レジームの打破」とは
志位委員長が指摘
http://www.jcp.or.jp/akahata/aik15/2015-05-22/2015052202_02_1.html

 「ポツダム宣言というのは、アメリカが原子爆弾を二発も落として日本に大変な惨状を与えたあと、『どうだ』とばかり叩(たた)きつけたものです」(安倍首相)

 これは志位委員長指摘の通り、時系列的にはまったく安倍首相の誤りであります。

 正確には、ポツダム宣言は「1945年7月26日」に布告、そこで降伏せねば容赦のないか壊滅的な攻撃が日本に向けられる、回答には実感的猶予は認められないと、日本政府に圧力をかけ、10日あまり過ぎた8月6日、9日に広島・長崎に原爆が投下されたわけです。

 その結果もはやここまでと8月14日、日本はポツダム宣言を受諾、翌15日に天皇自ら国民に日本敗北を玉音放送にて知らしめたわけです。

 これは実に歴史的に重要なことだと当ブログは考えるのですが、ポツダム宣言は原爆投下の前なのです。

 ・・・

 安倍首相および側近は今回のポツダム宣言「読んでない」答弁を恥ずべきです。
 共産党委員長ごときに“ポツダム宣言憲法も知らない安倍総理は落第”プロパガンダを展開されてしまうこと自体、危機管理がなっていません。
 安倍さんを擁護する論調にも一石を投じておきたいです。
 志位委員長の意地悪な質問は確かに印象操作するためのプロパガンダ手法です。
 しかし簡単にその策略にはまる安倍首相の「知性」にも大いに問題があるのです。
 「戦後初めての大改革」を唱えるなら、共産党からの党首討論(たかだか7分)の前に、ポツダム宣言ぐらい開催準備の勉強会で答弁前に読んでおかんかい、とそれだけのことです。
 普通の読解力があれば、ものの三分で読み切れる小文のことなのです。
 これが「揚げ足取り」とか荷が重いことならば、それこそこの政権の「知性」の問題なのであります。

 ふう。

 


(木走まさみず)



※ブックマーク・コメント欄の指摘より文中、「代表質疑」「代表質問」の二か所を「党首討論」に修正いたしました。BUNTEN様、ご指摘感謝です(2015/05/25 16:30)