木走日記

場末の時事評論

「世の中に起こる出来事はすべて安倍政権が悪いから」〜確かに「個人の頭の悪いのは処罰ではなく教化の対象」(内田樹氏)なのかも

 どうにも理屈が合わないと感じるので、2題取り上げます。

 当ブログでは前回、国際的な波紋を呼んでいる曽野綾子氏のコラムを取り上げました。

そもそも「移住だけは別にした方がいい」(曽野綾子コラム)は移民政策として正当か?
http://d.hatena.ne.jp/kibashiri/20150216

 このエントリーではこのコラムについて二つの点を考察いたしました。

 一点は「情報発信の方法としてはこの文章はアウトだ」という判断です。

 一言でいえば、日本への外国人の就労・移民問題を論じる文章の中で、不用意にも安易にご自身の南アの経験をまぜ、ご自身の想い「移住だけは別にした方がいい」が

あたかも南アの人種隔離政策とシンクロしてしまい、読む人間によっては「アパルトヘイトを擁護し、さらにそれを日本でも導入せよとの曽野氏の主張は言語道断」との解釈・批判を受けているわけです。

 論理的に考えればこのコラムは情報発信としては本人の意図しない誤解を与え国際的な批判を受けてしまった点で失敗でありましょう。

 もう一点は、そもそも移民受け入れ策としての「移住だけは別にした方がいい」との曽野氏の主張は正当なものなのか、という点です。

 さて考察したい二点目は、本来のこのコラムの問題提起である、もし日本が外国人の就労・移民を受け入れることを制度化するとしたならば「移住だけは別にした方がいい」との曽野氏の主張は正当なのか、という点です。

 当ブログは現時点での日本の移民受け入れには慎重ですが、仮に日本が外国人の移民を受け入れるとしたならば、仮定の問題ですが「移住だけは別にした方がいい」との曽野氏の主張には反対です。

 移民総数を完全に管理しつつ移民の日本文化への適切な「同化政策」こそが唯一の移民政策を成功裏に進める手段であると考えています。

 ・・・

 さて、この曽野氏のコラムの問題を安倍政権批判に結び付けるというアクロバティックな論を展開する人たちがいるのには、本当に驚きを隠せません。

 例えばBLOGOSのこの記事。

内田樹
2015年02月18日 10:59
アパルトヘイトをめぐるThe Daily Beast の記事から
http://blogos.com/article/105880/

 失礼して当該箇所をエントリーより抜粋。

そして、さらに問題なのは、このように低調な知性の持ち主に定期的なコラムを掲載していた新聞が存在し、そのような人物を教育政策の諮問機関に「有識者」として登用してきた政府が存在するという事実の方である。

個人の頭の悪いのは処罰ではなく教化の対象である。だが、公的機関が愚鈍であることについては、そのような教化的善意では応じることはできない。

 「そのような人物を教育政策の諮問機関に「有識者」として登用してきた政府が存在するという事実」が問題だというのです。

 「公的機関が愚鈍であることについては、そのような教化的善意では応じることはできない」と言うのです。

 このようなわずかな過去の接点のみで「公的機関が愚鈍である」と言い切ることは、内田氏も教育者なのに「個人の頭の悪いのは処罰ではなく教化の対象である」ことがブーメランにならないことを切に願う限りであります。

 ・・・

 もう1題、BLOGOSから。

天木直人
2015年02月18日 10:41
タリバンとの関係を深める中国外交の凄さ
http://blogos.com/article/105881/

タリバンが中国に接近しているという事実を報道で知ったことを述べたうえで「中国の外交力はものすごい」と絶賛します。 

 これらが事実なら、中国の外交力はものすごい。

 テロリストとも胸襟を開き、テロリストも中国に近づいているということだ。

 そのうちに、イスラム国が敵対しない大国は中国だけ、ということになるのかもしれない。

 イスラム国問題に中国が沈黙しているのも暗示的だ。

 うーむ、ここからなぜ「イスラム国が敵対しない大国は中国だけ、ということになるのかもしれない」という空想科学的な飛躍的推論が登場するのか、理解に苦しむわけです。

 国内に新彊ウイグル地区問題を抱えている中国は、間違っても「イスラム国」を認めるはずがありません、彼らは逆にISILに参加している自国のウィグル人たちが帰国してテロ行為に及ぶことを極度に恐れています。

 だからこそ普段は日本の安倍政権に対し厳しい姿勢で対峙することが多い中国ですが、今回は日本国への支持を鮮明にしているわけです。

 中国政府もイスラム武装勢力が後藤さんを殺害したことを強く非難、安倍晋三首相が中東におけるイスラム国と戦う国々への人道支援を約束通り進めていくことに対して支持を表明しています。

「私たちは、国際社会は、国連憲章の原則や、その他の広く受け入れられている国際関係についての基本原則を順守し、連携を強化し、ともに国際的なテロリズムの脅威と立ち向かい、世界の平和と安全を守っていくことを提唱したい」(中国政府)

中国政府、「日本を支持、テロは許さない」<動画>後藤さん殺害を受けて中国政府が表明
http://toyokeizai.net/articles/-/59674 

 うむ、しかしながらそのような客観的事実を無視するがごとく天木直人氏は中国がイスラム国と接近するとの「神の啓示」のごとくの予想を立て、なぜか安倍首相が「完敗する」と結んでいます。

 そうなれば、その時こそ、中国が米国を凌駕するときである。

 安倍首相の日本が習近平主席の中国にお株を奪われ、完敗するときである(了)

 ・・・

 なんだかな、曽野綾子コラムがアパルトヘイトに関して国際的批判を浴びるのも安倍政権がいけない、
中国がテロリストに近づいているのは安倍政権完敗の予兆、こんな論を展開されたら、世の中におこっているすべての事象、森羅万象、この宇宙に存在する一切のもの・事象は安倍政権のせいになってしまいます。

 内田氏は「そのような人物を教育政策の諮問機関に「有識者」として登用してきた政府が存在するという事実」は「国益を損なうふるまい」と言い切ります。

 それははっきりと国益を損なうふるまいであり、それが私たち日本人ひとりひとりに長期にわたって有形無形の損害をもたらすからである。

The Daily Beast の記事はその記事内容の適否とは違う水準で「このような記事が海外メディアで配信されているという事実がもたらす国益損失」がどういうものかを教えてくれる。

 ・・・

 結論。

 世の中に起こる出来事はすべて安倍政権が悪いからなのです。

 ふう。

 確かに内田氏の言うとおり「個人の頭の悪いのは処罰ではなく教化の対象」のようでありますね。



(木走まさみず)