木走日記

場末の時事評論

真実の報道に極めて不誠実な朝日新聞〜朝日新聞の6月16日付朝刊1面トップ記事は「事実無根」

 朝日新聞は6月16日付朝刊1面トップ(東京本社発行)で「『米艦で邦人救出』米拒む」との見出しでセンセーショナルなスクープ記事を掲載しました。

 ネット上でも確認できます。

朝日新聞デジタル>記事
「米艦で邦人救出」想定、過去に米は拒否 集団的自衛権
土居貴輝
2014年6月16日08時20分

 大詰めを迎えた集団的自衛権の行使をめぐる与党協議で、朝鮮半島での有事(戦争)で「避難する日本人を乗せた米艦を自衛隊が守る」との想定が、注目を集めている。しかし、過去の日米交渉で米側はこの場合の日本人救出を断っていた。首相がこだわり、行使に慎重な公明党もこれなら容認できるとみる想定だが、現実には「日本人の米艦乗船」は極めて困難だ。

(後略)

http://digital.asahi.com/articles/ASG6G1FCYG6FUTIL06L.html

 このスクープ記事のポイントはここです。

 しかし実際には、朝鮮半島の有事で現地から日本の民間人らを米軍が避難させる計画は日米間で一度議論されたものの、最終的に米側に断られた経緯がある。

 両国は1997年、78年につくられた「日米防衛協力のための指針」(ガイドライン)を改定する際、朝鮮半島有事で日本が米軍を支援する見返りとして、避難する日本人を米軍が運ぶ「非戦闘員救出作戦」(NEO)を協力分野に加えることで合意。対日協力の目玉になるはずだった。

 しかし98年にガイドラインに基づく協力内容を定める周辺事態法をつくる際、米側の強い意向でNEOはメニューから外された。

 うむ、日米ガイドラインにおいて唱われた、避難する日本人を米軍が運ぶ「非戦闘員救出作戦」(NEO)を協力分野に加えることが、周辺事態法をつくる際、米側の強い意向でNEOはメニューから外されたとしています。

 ところが、これは全く事実に反しています。

 まず、現行のガイドラインは、周辺事態における「非戦闘員の退避」に関し「日米両国はおのおのの能力を相互補完的に使用しつつ、輸送手段の確保、輸送にかかるものを含め、非戦闘員の退避の実施で協力する」としています。そしてガイドラインを受けて、日米両国は在外邦人の輸送訓練を毎年のように行っているのです。

 まず外務省公式サイトより日米ガイドライン(「日米防衛協力のための指針」)の内容を確認しておきましょう。

共同発表
日米安全保障協議委員会
日米防衛協力のための指針の見直しの終了
http://www.mofa.go.jp/mofaj/area/usa/hosho/kyoryoku.html

 この中の第五節「日本周辺地域における事態で日本の平和と安全に重要な影響を与える場合(周辺事態)の協力」の第二項「2 周辺事態への対応」の「(1)日米両国政府が各々主体的に行う活動における協力」の「(ハ)  非戦闘員を退避させるための活動」には以下のように明記されています。

(ハ)  非戦闘員を退避させるための活動
 日本国民又は米国国民である非戦闘員を第三国から安全な地域に退避させる必要が生じる場合には、日米両国政府は、自国の国民の退避及び現地当局との関係について各々責任を有する。日米両国政府は、各々が適切であると判断する場合には、各々の有する能力を相互補完的に使用しつつ、輸送手段の確保、輸送及び施設の使用に係るものを含め、これらの非戦闘員の退避に関して、計画に際して調整し、また、実施に際して協力する。日本国民又は米国国民以外の非戦闘員について同様の必要が生じる場合には、日米両国が、各々の基準に従って、第三国の国民に対して退避に係る援助を行うことを検討することもある。

 朝日が報じたこのスクープ記事は事実無根であることを、防衛省の辰己昌良報道官も記者会見で公式に表明しています。

朝日の「邦人輸送を米軍拒否」報道否定 米艦防護「現実的な重要課題」と防衛省

(前略)

 防衛省の辰己昌良報道官は17日の記者会見で「ガイドラインに関連して自衛隊法に(邦人輸送の)規定が整備された。米側の意向で周辺事態法に盛り込まれなかった事実はない」と朝日新聞の報道を否定した。

 防衛省幹部は「米艦の邦人輸送は有り得る事態だ。現実に対応すべき重要課題だ」と指摘する。
 
http://sankei.jp.msn.com/politics/news/140618/plc14061823340023-n2.htm

 朝日記事は記事冒頭で次のように「過去の日米交渉で米側はこの場合の日本人救出を断っていた」と断定しています。

 大詰めを迎えた集団的自衛権の行使をめぐる与党協議で、朝鮮半島での有事(戦争)で「避難する日本人を乗せた米艦を自衛隊が守る」との想定が、注目を集めている。しかし、過去の日米交渉で米側はこの場合の日本人救出を断っていた。首相がこだわり、行使に慎重な公明党もこれなら容認できるとみる想定だが、現実には「日本人の米艦乗船」は極めて困難だ。

 そして、「現実には「日本人の米艦乗船」は極めて困難」と決めつけていますが、これは全くの事実無根の捏造報道であります。
 
 今検証したとおり、明確に現行の日米ガイドラインには「非戦闘員を退避させるための活動」が日米両軍による共同活動として義務化されていますし、それに基づいて日米両国は在外邦人の輸送訓練を毎年のように行っているのが現実です。
 
 防衛省の辰己昌良報道官が強く否定しているように、「米側の意向で周辺事態法に盛り込まれなかった事実はない」のです。

 ・・・
 
 日本には言論の自由があります、朝日新聞が安倍政権の集団的自衛権に関する憲法解釈変更に強く反対することは、基本的に自由であります。
 
 我々日本国民は、基本的人権が尊重された開かれた民主主義社会にあります、いかなる主張であれ「あなたの意見には強く反対する。しかし、あなたが発言する権利は全力で守る」姿勢は保持し続けるべきです。
 
 しかしながらです、捏造報道は犯罪です、これは事実をねじ曲げてまで自己の主張を押し通すことは、「社会の木鐸(ぼくたく)」を自認する責任あるマスメディアとして断じて許されることではありません。
 
 朝日新聞の全国版紙面一面トップ記事の内容が、防衛省から公式に「事実無根」と否定されたのに、今現在、朝日新聞は反論はもちろん、記事の訂正も謝罪も行っていません。
 
 自身の報道に責任をとらないとするならば、朝日新聞は自己の主張を押し通すためなら、都合のよい「事実」を作り上げる、真実の報道に極めて不誠実なメディアだと断定いたしましょう。



(木走まさみず)