木走日記

場末の時事評論

マスメディアがまったく無視している稚拙なデモについて考える〜日本の旭日旗とナチスのハーケンクロイツを並べて掲げる愚行

 今回は日本のマスメディアがまったく無視している問題について取り上げたいです。
 23日付けJ-CASTニュース記事から。

日曜の池袋に白昼堂々「ハーケンクロイツ」 ヒトラー誕生日に「ナチス賛美」デモ
2014/4/23 18:56

中国や韓国を批判しながら「大東亜共栄圏」の復興を主張する集団が2014年4月20日午後、東京・池袋でデモ行進を行った。
中国や韓国を批判するデモは、しばしば「ヘイトスピーチ」だとして問題にされるが、今回のデモで特異なのは、先頭集団がナチスドイツの象徴として知られるハーケンクロイツ(カギ十字)の旗を掲げ、ナチスドイツの再評価を主張したことだ。ドイツでは公の場でハーケンクロイツを掲げることは原則として違法だとされており、波紋を広げそうだ。

大日本帝国ナチスドイツも、敗戦したからこそ悪者にされてしまった」

デモは、「支那朝鮮のいない大東亜共栄圏実現・国民大行進!」と題して、「護国志士の会」を名乗る団体が主催。集合場所には、東條英機元首相らA級戦犯7人の死刑が執行された巣鴨プリズンの跡地にあたる、東池袋中央公園を選んだ。
主催者の男性は、
「先人の功績を無駄にせず、過ちを繰り返さないために我々ができることは、支那・朝鮮を抜きにした大東亜共栄圏を実現すること」
とあいさつ。4月20日ヒトラーの125回目の誕生日にあたり、ナチスドイツについても、
大日本帝国ナチスドイツも、敗戦したからこそ悪者にされてしまったのであり、ドイツに関しては、ナチスを賛美するだけで投獄されてしまうという状況になっている。かつて共に戦った日本が、言論の自由がある日本が、河野談話の再検証とともにナチスドイツの再検証もして、いい部分は取り入れて、名誉を挽回しようではないか」
と主張した。日本が大東亜共栄圏構想を提唱した時期に同盟国だったナチスドイツを称賛する狙いがあるようだ。主催者が主張するナチスドイツの「いい部分」が何かは必ずしも明らかではないが、シュプレヒコールの内容から判断すると、アウトバーンの建設など、主にインフラ整備の面を念頭に置いているようだ。

(後略)

http://www.j-cast.com/2014/04/23203031.html

 うむ、ヒトラー誕生日に先頭集団がナチスドイツの象徴として知られるハーケンクロイツ(カギ十字)の旗を掲げ、ナチスドイツの再評価を主張したデモが、東京池袋の繁華街で白昼堂々行われました。

 記事の写真でも確認できますが、特異な印象が否めないのが、ハーケンクロイツ、日の丸、旭日旗が並んではためいている様子であります。

 日章旗旭日旗に並んでナチスドイツの「ハーケンクロイツ」がはためいて日本の首都東京で日本人によりデモ行進がなされたわけです、絵的には極めて話題を呼びやすい事象と言えましょう。

 「護国志士の会」を名乗る団体が主催とありますが、いわゆる「行動する保守運動」に属するグループのようです。

護国志士の会(会長ブログ)
http://blog.livedoor.jp/shishinokai/
行動する保守運動
http://calendar.zaitokukai.info/index.html

 「行動する保守運動」は大久保のヘイトスピーチデモなどで何かと議論されている「在特会」(在日特権を許さない市民の会)などの「排外的主張を掲げ執拗な糾弾活動を展開する右派系グループ」(公安調査庁)の共闘団体であります。

 このデモ自体は参加者数約40人と小規模でもあり、上記ネットメディア記事以外に、国内マスメディアは完全に無視しております。

 報道する価値・ニュースバリューはゼロとの認識でしょう、新聞やTVなど国内マスメディアではまったく報道されていません。

 日章旗旭日旗に並んでナチスドイツの「ハーケンクロイツ」を掲げて行進するというこの稚拙なデモは、しかし、国内メディアがすべて無視する中で、韓国のメディアが写真や動画付きで大きく取り上げます。

 21日付け朝鮮日報記事から。

日本の極右、池袋でナチス旗掲げデモ行進

戦犯7人処刑の拘置所跡地で「大東亜共栄圏」の復活を訴える集会
ユダヤ人虐殺はでっち上げ」 朴大統領を中傷するプラカードも
警察は「事前に届け出があった」との理由でデモ隊守る

 東京の代表的繁華街の一つである池袋に、見るだけでぞっとする赤い旗がはためいた。ナチスの旗であるハーケンクロイツかぎ十字)の旗だ。ナチス・ドイツの独裁者アドルフ・ヒトラーの誕生日である20日、日本の極右のデモ行進に、旭日旗だけでなく、ナチスを象徴するハーケンクロイツまで登場したのだ。

 この日午後、東池袋中央公園では「護国志士の会」という団体が主催する集会が行われ、極右団体のメンバー約50人が集まった。同公園はかつて、東條英機など日本の戦犯7人の死刑が執行された巣鴨プリズン拘置所)があった場所だ。ジーンズ姿の20代から、登山帽をかぶった70代までの極右団体メンバーは、追悼碑に向かって黙とうをした後「大東亜共栄圏実現国民大行進」と称するデモ行進を池袋の大通りで行った。

(後略)

http://www.chosunonline.com/site/data/html_dir/2014/04/21/2014042100528.html

 ・・・

 さて、このデモを主催したグループの主張の正誤を問う以前の問題として、日本の日の丸・旭日旗ナチスドイツのハーケンクロイツを同列に掲げてデモをする行為のその稚拙さを指摘しておきましょう。

 日本の国旗である日の丸そして軍旗である旭日旗を掲げることと、ナチスドイツのハーケンクロイツを掲げることは、決定的にその意味することが異なっています。

 以下、画像をパブリックドメインとして使用フリーで公開しているウィキペディアとアンクロペディアから引用してご紹介。

 旭日旗はいくつか種類がありますが「大日本帝国海軍軍艦旗」が代表的であります。

大日本帝国海軍軍艦旗

http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%95%E3%82%A1%E3%82%A4%E3%83%AB:Naval_Ensign_of_Japan.svg

 旭から伸びる線の数が16本なので「16条旭日旗」と言われているそうですが、まあ「旭日旗」といえばこの旗が想起される正統派なのであります。

 そして旧海軍軍艦旗の「16条旭日旗」をそのまま継承したのが海上自衛隊の「自衛艦旗」であります。

海上自衛隊

http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%95%E3%82%A1%E3%82%A4%E3%83%AB:%E6%B5%B7%E4%B8%8A%E8%87%AA%E8%A1%9B%E9%9A%8A%E6%97%97.jpg

 海自の旗として公式に採用されていることからも、いかなる国際法規に照らし合わせても旭日旗を掲げることに違法性はありません。

 一方ナチスドイツのハーケンクロイツであります。

ナチスドイツのハーケンクロイツ

http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%95%E3%82%A1%E3%82%A4%E3%83%AB:Flag_of_the_NSDAP_(1920%E2%80%931945).svg

 確かにナチスドイツのハーケンクロイツ戦勝国により使用禁止になっていますし。他ならぬドイツの法律でも使用を固く禁止されています。

 また、ハーケンクロイツナチスドイツが考案したナチスの旗であるのに対し、旭日旗軍国主義日本のシンボルである以前から文明開化直後の西南戦争西郷隆盛が率いる反乱軍に対峙する明治新政府が政府軍の証として掲げており、その起源は「侵略戦争」うんぬんより古いわけです。

西南戦争(1877年)に登場している「旭日旗

http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%95%E3%82%A1%E3%82%A4%E3%83%AB:ShiroyamaBattle.jpg

 ちなみに、ナチスドイツ軍の勲章でよく使われた「鉄十字」マークは、ナチス以前からドイツで使われていたために今でもドイツ軍は使用しています、これに対して旧連合国含めて国際的批判が起こったことはありません。

■鉄十字マーク

http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%95%E3%82%A1%E3%82%A4%E3%83%AB:IC1870.jpg

 いかなる国際法規に照らし合わせても、また国際慣習上のマナーとしても、「日の丸」や「旭日旗」を掲げることは全く問題はありません。

 対してナチスドイツのハーケンクロイツは多くの国で法律でその使用を禁じられており、それを掲げてデモ行進すること自体、少なからずの国で犯罪と見なされてる行為なわけです。

 ・・・

 日本の日の丸・旭日旗ナチスドイツのハーケンクロイツを同列に掲げてデモをする行為は、彼らの「大日本帝国ナチスドイツも、敗戦したからこそ悪者にされてしまった」という主張に基づいているわけですが、このような稚拙な行為は、彼らの意図とは逆に、日本の国旗や旭日旗を、その使用を多くの国で法律で禁止されているハーケンクロイツと同等にまで貶めている、稚拙な行動と言えましょう。

・・・

 まとめです。

 「旗(はた)」の起源はどこから来ているのでしょうか。

 当ブログには旗の起源に関する正確な知識はありませんが、想像するにおそらく古代から洋の東西を問わず戦さのときの敵・味方の区別に使用されてきたことに由来するのではないでしょうか。

 そもそも旗の役割は、ある価値観(ときに部族、ときに民族、ときに宗教、ときに国家、ときにイデオロギー)に基づく味方集団の象徴的な印・記号としての役目だったのでしょう。

 ある人間集団を特徴付け、その集団の内なるモノと外なるモノ、敵・味方を区別するための閉鎖的側面を「旗」自体が有しているのでしょう。

 作家、城山三郎氏の次の詩は、まさにそのような旗の持つ「閉鎖性」を喝破しています。

「旗」

旗振るな 旗振らすな 旗伏せよ 旗たため

社旗も 校旗も 国々の旗も 国策なる旗も 運動という名の旗も

ひとみなひとり ひとりには ひとつの命

走る雲 冴える月 こぼれる星 奏でる虫 みなひとり ひとつの輝き

花の白さ 杉の青さ 肚の黒さ 愛の軽さ みなひとり ひとつの光

狂い 狂え 狂わん 狂わず みなひとり ひとつの世界 さまざまに 果てなき世界

山ねぼけ 湖しらけ 森かげり 人は老いゆ

生きるには 旗要らず

旗振るな 旗振らすな 旗伏せよ 旗たため

限りある命のために

「支店長の曲り角」城山三郎著より

http://www.bk1.co.jp/product/863099

 ここでは「国旗」も「社旗」も「運動という名の旗」もすべて否定されています。

 具体的に例えば、「日の丸」も「朝日新聞社旗」も「あか旗」もと言い換えるとまたおしかりいただきそうですが・・・

 「旭日旗」や「ハーケンクロイツ」だけではなく、それぞれの「軍旗」には負の歴史もあり、またそれを掲げるという行為には、ある種の集団を記号化した旗のもつ宿命的属性としてのその閉鎖性を指摘することは間違ってはいないでしょう。

 しかし現実的には、日の丸や旭日旗に対する批判は韓国や中国など一部アジアの国に限定されており、もちろんそれを掲げる行為は、韓国や中国を含め広く万国で法律で認められているものです。

 対してナチスドイツのハーケンクロイツは多くの国で法律でその使用を禁じられており、それを掲げてデモ行進すること自体、少なからずの国で犯罪と見なされてる行為なわけです。

 日本の日の丸・旭日旗ナチスドイツのハーケンクロイツを同列に掲げてデモをする行為は、彼らの意図とは逆に、日本の国旗や旭日旗を、その使用を多くの国で法律で禁止されているハーケンクロイツと同等にまで貶めている、稚拙な行動と言えましょう。



(木走まさみず)