木走日記

場末の時事評論

アングロサクソンは「歴史のダーク・サイド」を否定していいのか?〜国際連合(United Nations)における正義の議論の非対称性について検証

 国連の拷問禁止委員会の見解は、旧日本軍の慰安婦をめぐって「強制連行を示す証拠はなかった」という政治家らの発言を問題視し、日本政府に明快な対応を求めています。

 橋下発言批判、日本批判の急先鋒は同委員会のギアー副委員長、アメリカ人です。

 国連のサイトで拷問禁止委員会のメンバーは10人であることが確認できます。

Committee against Torture - Membership
http://www2.ohchr.org/english/bodies/cat/members.htm

 英語版wikipediaによればギアー副委員長は46年生まれの白人女性であります。

Felice D. Gaer (born 1946)
http://en.wikipedia.org/wiki/Felice_D._Gaer

 朝日新聞記事によれば彼女はかなりきつい調子で橋下発言を批判しています。

(前略)

ジュネーブで31日記者会見した委員会のギアー副委員長は、慰安婦制度について、橋下氏が他国の例を挙げながら「『戦時においては』『世界各国の軍が』女性を必要としていた」と釈明したことについて、「どんな状況下でも、虐待や人間性の否定が必要だということはありえない」と述べた。
 米国出身のギアー氏は日本審査の議長を務めた。5月21日の審査では、慰安婦制度について「必要だった」「強制連行を示す証拠はない」などとする橋下氏の発言を取り上げ、「商業的な人身売買のように見えるが、軍の管理下だった。施設を離れられず、司令官の命令に従う必要があったという歴史的証拠から(慰安婦たちに)このシステムへの同意はないことは明らか」「典型的な否定論者の説明だ」と批判していた。

(後略)

http://digital.asahi.com/articles/TKY201305310853.html?ref=comkiji_txt_end_s_kjid_TKY201305310853

 ・・・
 
 さて今回は国際連合(United Nations)における正義の議論の非対称性について、触れてみたいです。

 BLOGOSに木村正人氏の興味深い記事が掲載されています。

安倍首相はよりプラグマティックに、「右傾化」懸念を一掃せよ
http://blogos.com/article/63462/?axis=b:28585

 その中で英キングス・カレッジ・ロンドンの講師の発言を抜粋してご紹介。

 日本と同じく第二次大戦で敗戦国となったイタリア出身のパタラーノ氏は「国を愛するということは、歴史から目をそむけないことだ。歴史のダーク・サイドも直視する。否定することからは何も生まれない」と指摘する。

 うむ、「国を愛するということは、歴史から目をそむけないことだ。歴史のダーク・サイドも直視する。否定することからは何も生まれない」とは、大変重い言葉です。

 全面的に同意いたします。

 ただし、この言葉は日本だけでなくすべての国にあてはめられなければなりません。

 過去の「歴史のダーク・サイド」な問題は日本の従軍慰安婦問題だけではありません。

 ここに国連総会第61 会期 2007 年9 月13 日採択された「先住民族の権利に関する国際連合宣言」の(仮訳)があります。

 第1条だけご紹介。

第1条 【集団および個人としての人権の享有】
先住民族は、集団または個人として、国際連合憲章、世界人権宣言および国際人権法に認められたすべての人権と基本的自由の十分な享受に対する権利を有する。
http://www.un.org/esa/socdev/unpfii/documents/DRIPS_japanese.pdf

 この「先住民族の権利に関する国際連合宣言」は、上記第1条にうたわれているとおり、これまで歴史的に弾圧されてきた世界各地の先住民族に対してその「人権と基本的自由の十分な享受に対する権利」を保障する宣言であり、基本的には何ら法的拘束力を持つものではない、ただのメッセージであります。

 当然ながらこの宣言は圧倒的な賛成多数で採決されます。

 国連サイトで投票結果が確認できます。

UNITED NATIONS DECLARATION ON
THE RIGHTS OF INDIGENOUS PEOPLES

Adopted by the General Assembly 13 September 2007
The Declaration on the Rights of Indigenous Peoples was aopted by the General Assembly on Thursday September 13, by a vote of 144 in favour, 4 against and 11 abstensions.
United Nations Declaration on the Rights of Indigenous Peoples (A/RES/61/295)

http://www.un.org/esa/socdev/unpfii/en/declaration.html

 注目いただきたいのは、"by a vote of 144 in favour, 4 against and 11 abstensions"、つまり「先住民族の権利に関する宣言」に144票が賛成の中、4カ国だけ堂々と反対をしてる点です。

 調べれば、国連サイトのこのページの後ろの方で各国の投票行為の詳細が載っております。

http://www.un.org/News/Press/docs//2007/ga10612.doc.htm

 まず、賛成国。

In favour: Afghanistan, Albania, Algeria, Andorra, Angola, Antigua and Barbuda, Argentina, Armenia, Austria, Bahamas, Bahrain, Barbados, Belarus, Belgium, Belize, Benin, Bolivia, Bosnia and Herzegovina, Botswana, Brazil, Brunei Darussalam, Bulgaria, Burkina Faso, Cambodia, Cameroon, Cape Verde, Central African Republic, Chile, China, Comoros, Congo, Costa Rica, Croatia, Cuba, Cyprus, Czech Republic, Democratic People’s Republic of Korea, Democratic Republic of the Congo, Denmark, Djibouti, Dominica, Dominican Republic, Ecuador, Egypt, El Salvador, Estonia, Finland, France, Gabon, Germany, Ghana, Greece, Guatemala, Guinea, Guyana, Haiti, Honduras, Hungary, Iceland, India, Indonesia, Iran, Iraq, Ireland, Italy, Jamaica, Japan, Jordan, Kazakhstan, Kuwait, Lao People’s Democratic Republic, Latvia, Lebanon, Lesotho, Liberia, Libya, Liechtenstein, Lithuania, Luxembourg, Madagascar, Malawi, Malaysia, Maldives, Mali, Malta, Mauritius, Mexico, Micronesia (Federated States of), Moldova, Monaco, Mongolia, Mozambique, Myanmar, Namibia, Nepal, Netherlands, Nicaragua, Niger, Norway, Oman, Pakistan, Panama, Paraguay, Peru, Philippines, Poland, Portugal, Qatar, Republic of Korea, Saint Lucia, Saint Vincent and the Grenadines, San Marino, Saudi Arabia, Senegal, Serbia, Sierra Leone, Singapore, Slovakia, Slovenia, South Africa, Spain, Sri Lanka, Sudan, Suriname, Swaziland, Sweden, Switzerland, Syria, Thailand, The former Yugoslav Republic of Macedonia, Timor-Leste, Trinidad and Tobago, Tunisia, Turkey, United Arab Emirates, United Kingdom, United Republic of Tanzania, Uruguay, Venezuela, Viet Nam, Yemen, Zambia, Zimbabwe.

 で反対の4カ国です。

Against: Australia, Canada, New Zealand, United States.

 ご覧ください、オーストラリアにカナダにニュージーランドアメリカ合衆国です。

 全て大英帝国宗主国とした大英連邦構成国、旧植民地です。

 アングロサクソンが大量移民してきて、先住民族を大虐殺しわずかに生き残った者は移住地区に押し込め、強引に白人国家を建国した国々です。

 法的拘束力の無い「先住民族の権利に関する宣言」に彼らオーストラリア、カナダ、ニュージーランドアメリカ合衆国4カ国は堂々と国際連合で反対しているのです。

 この宣言を認めれば国の成り立ちが崩壊してしまう国ばかりです。

 この事実は日本ではまったく報道されていません。

 さてオーストラリア、カナダ、ニュージーランドアメリカ合衆国がすべて第二次世界大戦時の連合国(United Nations)であることに注目してください。

 日本語では「連合国」と「国際連合」は違いますが、英語ではどちらも同じ"United Nations"です。

 そして国連において日本はドイツとともに今も「敵国条項」対象国です。

 パタラーノ氏は「国を愛するということは、歴史から目をそむけないことだ。歴史のダーク・サイドも直視する。否定することからは何も生まれない」と指摘していますが、今検証したとおり、オーストラリア、カナダ、ニュージーランドアメリカ合衆国4カ国は堂々と「歴史のダーク・サイド」を否定しています。

 それも国際連合(United Nations)の議場でです。

 しかし彼らのこの投票行為は批難されません。

 ・・・

 人権問題などで国際連合は敗戦国日本にとってアウェーといっても過言ではありません。

 国際連合(United Nations)における正義の議論の非対称性について検証しておきました。



(木走まさみず)