木走日記

場末の時事評論

東京電力をかばう産経新聞社説

 食塩水と濃度の問題は、通常小学校5年生の算数で習いますが、苦手とする子が非常に多いそうです。

 抽象的なためと食塩は溶けると見えなくなってしまうからですが、その見えない食塩を見える形にして説明してあげれば、理解を促すことができるそうです。

 簡単な食塩水と濃度の問題を考えて見ましょう。

【問題】
 フタがされ密閉されている水槽に10%食塩水が1ℓ(1000g)入っている。
 今、この食塩水が隣接する容器に100mℓ(100g)流出したとする。
 隣接する容器はフタがされていなかったため、雨水が流入したのか、塩分濃度は5%に稀釈された。
 さて、もとの水槽から流出した食塩は何グラムか?

 理解を助けるために図示してみましょう。

 この問題を解く鍵は、元々の食塩水の濃度(10%)と流出した量(100ml)にだけ着目し、流出後の隣接する容器の濃度などは無視することです。

 すねわち、正解は、流失した食塩水の量(100ml)に濃度(10%)を掛ければ、流出した食塩の量が求まりますね。

 答えは10gとなります。

 多くの子供達が、流出後の隣接する容器の濃度を計算に使用して誤答してしまいますが、これは典型的なヒッカケなのであります。

 ・・・

 さて、次の問題を考えて見ましょう。

【問題】
 フタがされ密閉されている水槽に濃度29万(ベクレル/cm3)の高濃度汚染水が入っている。
 今、この汚染水が外部に120トン流出したとする。
 外部では、汚染水濃度は6千(ベクレル/cm3)に稀釈された。
 さて、もとの水槽から流出した放射性物質の総量は何億ベクレルか?

 理解を助けるために図示してみましょう。

 この問題を解く鍵は、元々の汚染水の濃度29万(ベクレル/cm3)と流出した量120トンにだけ着目し、流出後の濃度などは無視することです。

 すねわち、正解は、流失した汚染水の量(120トン)に濃度29万(ベクレル/cm3)を掛ければ、流出した放射性物質の総量が求まりますね。

 答えは約35兆ベクレルとなります。

 東京電力さんが、流出後の濃度を計算に使用して誤答してしまっています。

 6日付け産経新聞記事から。

120トン漏洩か 「収束宣言」後最大 別の貯水層に移送開始

 福島第1原発敷地内にある地下貯水槽から、放射性物質に汚染された水が漏れた問題で、東京電力は6日、漏れた汚染水は推定で最大約120トンと発表した。政府が平成23年12月に原発事故の「収束宣言」を出して以来、放射性物質の漏洩(ろうえい)量は最大になる見込み。同日朝、貯水槽にある約1万3千トンの汚染水を隣接する別の貯水槽に移す緊急の作業を始めた。

 東電によると、地下貯水層の水位計の値が、当初の95%から94・3%まで下がったことで漏洩量を推定。最大で120トンが漏洩した場合、放射性物資の総量は約7100億ベクレルになるとみている。事故前の福島第1原発では、液体の放射性廃棄物の年間排出上限が2200億ベクレルと定められており、3倍以上に相当する。

(後略)

http://sankei.jp.msn.com/affairs/news/130406/dst13040617480014-n1.htm

 うむ、産経記事に「最大で120トンが漏洩した場合、放射性物資の総量は約7100億ベクレルになるとみている。事故前の福島第1原発では、液体の放射性廃棄物の年間排出上限が2200億ベクレルと定められており、3倍以上に相当する」とありますが、これは先ほど指摘したとおり、「約7100億ベクレル」は「約35兆ベクレル」の誤りであり、「3倍以上に相当する」は「150倍以上に相当する」の誤りであります。

 東電のこの計算が「甘い」のは読売記事も指摘しています、参考までに。

福島第一汚染水漏れ、東電の計算「評価甘い」
http://www.yomiuri.co.jp/feature/20110316-866921/news/20130408-OYT1T00262.htm?from=popin

 さて、なぜ、このような小学生の算数の問題レベルの単純なミスを天下の東京電力さんがしてしまうのか。

 産経新聞社説によれば、それは東京電力さんが「お疲れ」だからなのだそうです。

【産経社説】汚染水漏れ 「現場の疲弊」を解消せよ
2013.4.9 03:08
http://sankei.jp.msn.com/affairs/news/130409/dst13040903080005-n1.htm

 産経社説の結語から。

 こうしたトラブルの背景には、「現場の疲弊」があるとみるべきだろう。東電の負担が限界を超え、作業員らの士気が低下すると、大きな事故にもつながりかねない。

 40年かかるとされる廃炉への道のりは、始まったばかりだ。その工程を持続可能なものとするためには、「現場の疲弊」を解消するしかない。

 例えば、長期的な電源確保や汚染水処理計画などでは、あらゆる技術を結集する「オール・ジャパン体制」を築くことで、現場の負担は軽減できるのではないか。

 うむ、産経新聞によれば、「こうしたトラブルの背景には、「現場の疲弊」があるとみるべき」であり、「東電の負担が限界を超え、作業員らの士気が低下」しているというのです。

 だから、「あらゆる技術を結集する「オール・ジャパン体制」を築」いて、汚染水処理計画などで疲れている東京電力さんを、国をあげて助けて差し上げようというのです。

 ・・・

 ふう。

 産経社説子さん、前から気になっていたのですが、少し頭が不自由ではないんですか。

 「東電の負担が限界を超え」ているのは「現場の疲弊」が主因との指摘ですが、上記の流出汚染物質の計算ミスは「疲弊」ではなく本当に公表数値を人為的にミスしたのなら「計算能力不足」の問題であり、ある意図をもって数値を国民から隠ぺいしたのならば、「企業倫理欠落」の問題であります。

 東京電力は、小学生算数レベルの数字を、ミスしている、もしくは、誤魔化しているのです。

 これは普通に判断して、東京電力のその「危機管理能力」や「企業倫理」が厳しく問われる局面です。

 少なくとも、「疲れているんだ」レベルのかわいいミスではないと思います。



(木走まさみず)