木走日記

場末の時事評論

「原子力規制委 断層調査の暴走が心配だ」(産経社説)に反論する〜「変動地形学」を避けてきた今までの調査方法こそ問題だったのではないか!?

 30日付け産経新聞社説から。

原子力規制委 断層調査の暴走が心配だ
2012.12.30 03:22
http://sankei.jp.msn.com/politics/news/121230/plc12123003230006-n1.htm

 この産経社説は原子力規制委員会の断層調査が「暴走」していると批判しています。

 社説は冒頭から原子力規制委員会には「再稼働を難しくしたり廃炉に追い込もうとしたりする意図」があるのではないかと疑問を呈します。

 原発の再稼働を難しくしたり廃炉に追い込もうとしたりする意図があるのではないだろうか。

 原子力発電所の敷地内の破砕帯が、活断層かどうかを調べている原子力規制委員会の専門家調査団の活動姿勢に対しては、思わずそうした危惧を抱かされてしまう。

 続いて「電力会社側の説明に十分耳を傾けようとする誠意や真摯(しんし)さが感じられない」とし、「あまりに強引で、独断的」と断じます。

 破砕帯の現地調査と評価は、関西電力大飯原子力発電所から始まったが、日本原子力発電敦賀原子力発電所福井県)や東北電力東通原子力発電所青森県)についての評価会合では、電力会社側の説明に十分耳を傾けようとする誠意や真摯(しんし)さが感じられない。

 敦賀原発に対しては、短時間の審議で活断層との断を下し、東通原発では、活断層の可能性を完全に否定し切れていないという論理で電力会社の主張を退けた。

 あまりに強引で、独断的にすぎないか。これでは、調査団に「原発潰し」の目的があるようにも見えてしまう。そうした意図がないのなら、ぜひとも方法を改めるべきだろう。

 排除されているかつての原発の地質調査に関わった研究者をメンバーに加えるべきと提案します。

 規制委は以前に原発の地質調査に関わった研究者をメンバーに加えていないが、参加してもらってはどうか。より深い議論ができるはずだ。「原子力ムラ」のレッテルを貼って排除すること自体、科学者として最も慎まなければならない行為である。

 排除されている側の研究者にも提案がある。同じ立場の専門家が連携し、破砕帯を再評価する調査団を結成してはどうだろう。

 それを妨げる理由は、ないはずだ。福島第1原子力発電所の事故調査でも民間事故調が活動した。破砕帯の評価に関しても多様な視点が歓迎されてしかるべきだ。

 社説は、調査団がよりどころの一つとしている感がある変動地形学は「おのずと精密度を異にする」と批判、「規制委には独立性が保証されているだけに暴走しかねない。一方的に電力会社の説明を退ける姿勢に、その兆候が表れ始めているのでないか」と警鐘を鳴らして結ばれています。

 規制委の調査団が、よりどころの一つとしている感がある変動地形学は航空写真や地表の形から断層などの存在を読み取る学問だ。調査用の溝を掘って地層の質や破砕帯そのものを扱う地質学とは、おのずと精密度を異にする。

 民間の調査団と規制委調査団がそれぞれの見解をもとに、活断層かどうかを議論すれば、国民の理解も深まるはずだ。そうした健全な展開が大切である。

 規制委には独立性が保証されているだけに暴走しかねない。一方的に電力会社の説明を退ける姿勢に、その兆候が表れ始めているのでないか。田中俊一委員長には良識ある手綱捌(さば)きを期待したい。

 ・・・

 今回はこの産経社説に反論をしたいと思います。

 今回の調査から導入された調査手法である活断層かどうか判断する際の「変動地形学」に関して産経社説はその精度に疑問符を付けていますが、これは本末転倒の暴論です。

 「変動地形学」の科学的精度はここ十数年の実績ですでに十分に認められているものであり、逆に今までの原発の地質調査に「変動地形学」が導入されていなかったことのほうが特異なのです、意図的なのです。

 「変動地形学」の手法では地下の断層の活動によって造られた地面の起伏(変動地形)やゆがみに注目します。航空写真や地表の調査などから地下の活断層を見付け出すのです。

 産業技術総合研究所活断層評価研究チームの吉岡敏和チーム長は「いずれも大地の成り立ちを探る学問だが、地質学が地下をみるのに対し、「変動地形学」は地表をみるため新しい時代の情報を得やすい」と解説しています。

 1995年の阪神大震災以降、活断層地震との関連が注目されるようになり、「変動地形学」を活用して日本列島で活断層を洗い出す作業が本格化しました。そして「変動地形学」によってこれまで見つかった活断層の数は全国で2千を超すといわれていますが、この結果は科学的検証に耐えうるのです、実際「変動地形学」で発見された断層のいくつかに、伝統的な地質学の手法で地中深くボーリング溝を掘って活断層であることが確認されている箇所もあります。

 このように活断層探しで多くの実績を残してきた「変動地形学」なのですが、電力業界と原子力規制当局はその流れに乗らなかったのです。

 地表面を扱うため、穴を掘って地下深くを調べる地質学的な手法と比べるとデータを得やすいので、その分、活断層が見つかりやすく、リスクを小さく見積もりたい人にとっては厄介な存在だからです。

 そして事実として、旧原子力安全・保安院原発の耐震指針を2006年に改定しましたが、新指針を定める審議会のメンバーに「変動地形学」の専門家は意図して一人もいれなかったのです、また各電力会社も独自の調査を「変動地形学」者に依頼することを一回もありません、避けたのです。

 今年9月の規制委発足とともに状況は一変しました。

 敦賀原発でも東通原発でも調査団5人のうち2〜3人が「変動地形学」の専門家になりました。

 その結果、多くの「活断層」が「発見」されたのです。

 産経社説は「変動地形学」から旧来のボーリング調査の専門家に戻せと本末転倒な主張を展開しています。

 旧来の調査方式では当たりを付けて穴を掘ってみる「点」の調査しかできないのでどうしても「活断層」を見落としやすいのです、「変動地形学」では「面」で捕らえるから当然ながら「活断層」を発見しやすいだけです。 


 産経社説は「再稼働を難しくしたり廃炉に追い込もうとしたりする意図があるのではないだろうか」と穿っていますが、まったく根拠はありません。

 調査手法に「活断層」発見に実績のある「変動地形学」をより科学的調査を行うために取り入れただけです。

 いままで「変動地形学」を調査手法から避けてきた旧原子力安全・保安院・電力各社のほうにこそ、意図して「活断層」を見つけない調査でわざとごまかしてきたのではないか、と疑われているのです。




(木走まさみず)