木走日記

場末の時事評論

ガバナビリティは高いがリーダーシップがとれない不思議な国ニッポン

 7日付け産経新聞記事から。

「命を最優先に」テレビ各局が避難呼びかけ
2012.12.7 19:15 [地震

 東北地方で7日午後5時18分ごろに震度5弱を観測した地震で、NHKや主要民放各局は、津波警報発令直後から視聴者に対して「命を最優先に」などと強い口調で津波からの避難を呼びかけた。

 NHKは、画面上に赤枠内に白抜き文字で「津波!避難!」と大きく表示。アナウンサーが「東日本大震災を思い出してください」「命を最優先にしてください」などと切迫した口調で避難を呼びかけた。

http://sankei.jp.msn.com/affairs/news/121207/dst12120719160026-n1.htm

 地震発生時、私は都内のビルの11階に居ましたが、東京も震度4とけっこう揺れました、多くの人が3.11のことを思い出したことでしょう。

 私もTVのニュースを見てましたが、さすがに津波警報が出されたこともあり各局とも津波情報中心の報道でした。

 まずは大きな被害は出てなさそうなのでなによりでございました。

 3.11で思い出されるのは、被災された東北の人々が略奪や暴動もほとんどなく、互いに力を合わせて寄り添い助け合っている姿が、欧米メディアで大称賛されたことです。

 アメリカメディアなどはハリケーンカトリーナ」のときに起きた自国の略奪や暴行と自虐的に比較する論調が多かったです。

 ネットでも海外掲示板サイトで「日本人は誠実で忍耐強い誇り高き人々」といった称賛の言葉で溢れていました。

 中でも一番は、東日本大震災で、津波で流された5700個もの金庫が警察に届けられ、23億円近い現金が持ち主に返されたことには、欧米のメディアがこぞって驚いていました。

 例えばイギリスの新聞「デイリーメール」は、「イギリスが略奪に頭を抱えているなか、日本人の誠実さが証明された」と自己批判を交えながら絶賛しています。アメリカのオンラインニュースサイトも「災害の後は略奪がつきものだが、日本ではその逆のことが起きている」と報じていました。

Honest Japanese return $78million in cash found in earthquake rubble
By DAVID GARDNER
UPDATED: 17:54 GMT, 17 August 2011
http://www.dailymail.co.uk/news/article-2027129/Honest-Japanese-return-78million-cash-earthquake-rubble.html#ixzz1VJRn7Twr

Japan Earthquake: Ethical Residents Return $78 Million From Rubble
http://www.huffingtonpost.com/2011/08/18/japan-earthquake-ethical-_n_930808.html?ncid=webmail1

 「やはり日本人のガバナビリティは、ずば抜けて高いのだ」といったコメントもありました。

ガバナビリティー【governability】
国民が自主的に統治されうる能力。被統治能力。
http://kotobank.jp/word/%E3%82%AC%E3%83%90%E3%83%8A%E3%83%93%E3%83%AA%E3%83%86%E3%82%A3%E3%83%BC

 ガバナビリティは日本では「統治能力」と誤った使い方をされることが少なくないのですが、その正確な意味は逆で「統治されうる能力」すなわち「被統治能力」のことです。

 「被統治能力」つまり支配される能力であり、日本では「従順さ」のようなイメージから「社畜」などの負のイメージが連想されがちですが、欧米での使われ方はかなり肯定的な正のイメージです。

 海外では、日本人のガバナビリティの高さは、3.11での被災された人々への称賛という形で再認識されましたが、それ以前から日本の治安の良さ、人々の礼儀正しさなど、が議論される際にこの言葉がしばしば使われていました。

 一方で日本人は「統治能力」、リーダーシップを取ることは苦手と指摘されています。

 考えてみれば被災地でも誰かがリーダーシップを発揮するというわけでもなく、みなが互いに助け合うことがごく自然に発生していたと思われます。

 海外から尊敬の念を集めている日本国民のこのガバナビリティの高さは美徳といっていいでしょう。

 だが日本のリーダー達はいただけません。

 政治家達です。

 今回も12の政党が乱立していますが、政治家の中には一月で4つの政党を転々とした「ツワモノ」もいたようです。

 日本の政治家は「統治能力」すなわちリーダーシップが弱いだけでなく、どうも同じ日本人のはずなのにガバナビリティ「被統治能力」も弱いようで、ひととこで我慢することができないようです。

 今回も海外メディアはなかば呆れながら日本の政党乱立選挙のことを報道しています。

 3.11のときガバナビリティの高さを海外から称賛された日本。

 何年も続く政治のリーダーシップ不在に海外から呆れられている日本。

 どちらも同じ国ニッポンなのです。

 海外から見れば、ガバナビリティは高いがリーダーシップはとれない不思議な国ニッポンなのです。



(木走まさみず)