木走日記

場末の時事評論

「決められない」民主党政権の劣化を数字で検証してみる〜日英独仏4カ国政府提出法案成立率徹底比較

 日本国憲法において、国会は「国権の最高機関」であって、「国の唯一の立法機関」と位置づけられています(41条)。

 「国民の代表機関」としての性格を有しております(43条1項)。

 今回は、日本の国会、なかでもここ3年の民主党政権がいかに重要な法案や条約承認案の処理が山積みのまま放置し、「決められない政治」を実践してきてしまったか、具体的な資料を基に国際比較して徹底的に検証いたします。

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 ここに2010年3月に「国立国会図書館調査及び立法考査局」が作成した『主要国の議会制度』と題するレポートがあります。

『主要国の議会制度』
http://www.ndl.go.jp/jp/data/publication/document/2010/200901b.pdf

 アメリカ、イギリス、ドイツ、フランスの4国の議会制度のあらましとその現状が詳しく報告されている59ページの小レポートです。

 このレポートの参考資料「表2 主要国議会の法案提出数・成立数」から、政府提出法案のイギリス、ドイツ、フランス各国の提出数・成立数について検証しましょう。(議員提出法案中心のアメリカは制度が異なるので比較から除外します)

■イギリス議会における政府提出法案成立率(1997-2008)

時期 法案提出数 成立数 成立率
1997-1998 53 52 98.1
1998-1999 31 27 87.1
1999-2000 40 39 97.5
2000-2001 26 21 80.8
2001-2002 39 39 100
2002-2003 36 33 91.7
2003-2004 35 33 94.3
2004-2005 34 20 58.8
2005-2006 58 54 93.1
2006-2007 33 29 87.9
2007-2008 32 30 93.8
417 377 90.4

■ドイツ議会における政府提出法案成立率(1987-2009)

時期 法案提出数 成立数 成立率
1987-1990 324 265 81.8
1990-1994 419 342 81.6
1994-1998 449 401 89.3
1998-2002 450 387 86
2002-2005 362 274 75.7
2005-2009 539 487 90.4
2543 2156 84.8

■フランス議会における政府提出法案成立率(2002-2007)

時期 法案提出数 成立数 成立率
2002 32 24 75.0
2002-2003 109 82 75.2
2003-2004 110 78 70.9
2004-2005 117 97 82.9
2005-2006 88 69 78.4
2006-2007 44 61 138.6
2007 47 32 68.1
2007-2008 98 89 90.8
645 532 82.5

 検証したとおり、政府提出法案の成立率ですが、イギリス93.8%、ドイツ84.8%、フランス82.5%と、3カ国とも80%を越える成立率を実績として残しております。

 政府提出法案成立率はひとつの指標に過ぎませんが、各国とも議会で審議する法案はこのほかに議員提出法案や重要な条約批准などがあります、限られた時間で立法機関が適時適切な法律を成立させるために、この成立率80%はひとつの目安となりましょう。
 
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 さて我が日本であります。

 ここに内閣法制局の公式の資料が公開されています。

最近における法律案の提出・成立件数
http://www.clb.go.jp/contents/all.html
第180回国会での法律案の提出(継続を含む)・成立件数(平成24年9月8日現在)
http://www.clb.go.jp/contents/new.html

 民主党政権になったここの三年の政府提出法案成立率を国会会期ごとにまとめてみましょう。

日本民主党政権における政府提出法案成立率(2009-2012)

時期 法案提出数 成立数 成立率
2009(平成21.10.26〜12.4) 12 10 83.3
2010(平成22.1.18〜6.16) 64 35 54.7
2010(平成22.7.30〜8.6) 0 0 0
2010(平成22.10.1〜12.3) 20 11 55.0
2011(平成23.1.24〜8.31) 90 72 80.0
2011(平成23.9.13〜23.9.30) 0 0 0
2011(平成23.10.20〜23.12.9) 16 10 62.5
2012(平成24.1.24〜24.9.8) 83 55 66.3
285 193 67.7


 実は、年ベースで戦後最悪の法案成立率を記録したのは鳩山・菅政権時代の2010(平成22)年であり、提出84件中成立46件と、わずか54.7%の成立率でありましたが、野田政権になって今国会では66.3%と持ち直していることがわかります。

 つまり野田首相の「決められる政治」を目指すと言うフレーズは、前政権、前々政権の戦後最悪期から比較すればあながち嘘ではないとは言えるのです、相当レベルの低い比較ではあるのですが。

 ちなみに参考までにですが、政権交代直前の自民党(麻生)政権における国会においては、提出69件中成立62件と、89.9%とイギリス並みの成立率でありました。

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 まとめです。

 国民に必要な法律を適時成立させるのが国会の務めであるのにも関わらずときの政権がこの国に必要な法案を成立させることを怠り、なしくずしに先延ばしをしている現状は国益を毀損せしめる深刻な事態であり、国民として看過できません。

 ここに世界86カ国が加入しているハーグ条約のひとつ、国際的な子の奪取の民事面に関する条約があります。

■2011年10月時点での締約国

http://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%9B%BD%E9%9A%9B%E7%9A%84%E3%81%AA%E5%AD%90%E3%81%AE%E5%A5%AA%E5%8F%96%E3%81%AE%E6%B0%91%E4%BA%8B%E9%9D%A2%E3%81%AB%E9%96%A2%E3%81%99%E3%82%8B%E6%9D%A1%E7%B4%84

 見ての通り主要先進国で未加入は日本だけです。

 14日付け読売新聞記事から。

G8で日本だけ…ハーグ条約未加盟、審議停滞で

 次期臨時国会では、特例公債法案をはじめ、先の通常国会で頓挫した重要な法案や条約承認案の処理が山積している。

 この中には、民主、自民、公明各党で既に成立の必要性に関し認識が一致しているものもあり、国会の早期召集に踏み切らない政府・民主党は、成立や承認を自ら停滞させている状況だ。こうした事態は、日本の国際的な立場や国民の生活にも影響を与えかねず、野田政権の対応は「責任放棄」との批判を免れそうにない。

 国際社会が険しい視線を注ぐのは、国際結婚が破綻した際の子どもの扱いを定めるハーグ条約承認案だ。主要8か国(G8)では日本だけが承認が遅れ、同条約に加盟していない。

(後略)
http://www.yomiuri.co.jp/politics/news/20121014-OYT1T00706.htm?from=ylist

 もともとこの国の国会運営は決して効率的ではありませんでしたが、民主党政権になって立法府が必要な法律を立法できないと言うあってはならない国会の「機能不全」が実に顕著になってきている、この国際条約審議停滞記事はなによりの証左であります。

 今回は、「決められない」民主党政権の劣化を数字で検証してみました。



(木走まさみず)