木走日記

場末の時事評論

朝日新聞社社説と鳩山由紀夫発言に共通する恐ろしさ〜都合の悪い過去の発言は忘却し正論を吐く厚かましいほどの視野の狭さ

 19日付けFNNニュース記事から。

尖閣諸島上陸 鳩山氏「私が総理の時、こういう事件起きてない」

香港の活動家らによる尖閣諸島への上陸事件など、領土をめぐる問題が相次いでいることについて、自民党の谷垣総裁は、「民主党政権で外交を立て直すのは不可能だ」と厳しく批判した。
谷垣総裁は「これだけ北方領土だ、尖閣だ、そして竹島だと続くのは、甘く見られているというところがあるだろうと、私は思います。これもですね、もはや、民主党政権では立て直すことは不可能だろう」と述べた。
また、谷垣総裁は「民主党政権の外交の基本線がしっかりしていないから、こういう事態を招いた」と批判するとともに、9月8日までの国会会期内に「内閣不信任案や問責決議案をどう使うかも念頭に考えていく」と述べた。
一方、民主党の前原政調会長は、テレビ番組の中で、尖閣諸島への上陸事件で海上保安庁が撮影したビデオ映像について、「国民にしっかり事実を知らしめるためには、公開すべきだ」と述べ、政府・与党で、海上保安庁の強化策も検討する考えを示した。
一方、鳩山元首相は講演で、「わたしは東アジア共同体を主張し、中国も韓国も非常に納得していた」と振り返り、「わたしが辞めたあとに、これだけの事件が起きていることは大変残念だ」と述べた。
鳩山元首相は「少なくとも、私が総理の時には、こういう事件は一切、何も起きておりません」と述べた。

http://www.fnn-news.com/news/headlines/articles/CONN00229812.html

 鳩山氏が「少なくとも、私が総理の時には、こういう事件は一切、何も起きておりません」と自慢しています。

 エントリーとして取り上げるのもはばかられるレベルの呆れた発言ではあります。

 今日の事態を招いた一因に民主党政権になり日米同盟弱体化を招いたことが、北方領土のロシア大統領上陸、竹島における韓国大統領上陸、尖閣における度重なる中国の挑発、これら周辺国の強気な蛮行の誘引になっているとの分析があるわけです。

 しかるに、だとすれば普天間基地問題で「トラストミー」とアメリカ・オバマ大統領に2度も空手形を切り結局約束を守れず政権を投げ出しアメリカ政府の対日不信を極限まで深めてしまったご自身は今日の事態を招いた張本人ともいえるわけですのに、鳩山氏の発言にはそのような多元的な視座がまったくありません。

 そこには自らまいた種が今日の事態を招いてしまった要因のひとつであるという自責の念のかけらもありません。

 いえ、一歩譲って自責の念がなくてもそれはけっこうなんですが、少なくとも自己評価とは別に、己に対する批判があるわけですから、批判相手の視座に立った具体的反論をしなければならないはずですが、鳩山氏はあたかも「トラストミー」の一件を忘却してしまったかのように、ただ「わたしが辞めたあとに、これだけの事件が起きていることは大変残念だ」と驚くべきは、野田政権を批判しているわけです。

 少し考えれば、「私が総理の時には、こういう事件は一切、何も起きておりません」、「わたしが辞めたあとに、これだけの事件が起きている」のは当然で、鳩山氏が日米関係を弱体化してしまった結果、その後、ロシアや中国、韓国が領土で強気の姿勢に転じることの誘引になったわけで、鳩山氏がマッチをすっている(日米関係を壊している)ときには、まだ大火事(今回の一連の事件)にはなっていなかっただけという解釈も可能なわけです。

 どの口がこのような現政権批判を唱えることができるのでしょうとあきれるのですが、おそらく鳩山氏は心から「純粋」に自分を正しいと信じて発言しているのであろう点が私にはとても恐ろしいことです。

 このような人がこの国の総理大臣であった事実は我々国民は反省を込めて真摯に受け止めておく必要がありそうです。

 ・・・

 鳩山氏のような政治家だけではありません。

 この国のマスメディアにも、かつての自分達の報道姿勢に自責の念のかけらもなくあたかもそれを忘却したがごとく「正論」を書きなぐっている新聞社があります。

 29日付け朝日新聞社説です。

近隣外交―挑発に振り回されまい
http://www.asahi.com/paper/editorial.html

 社説は冒頭で「北京で丹羽宇一郎・駐中国大使の車が襲われた」ことにふれ、「両国の政治家には冷静な対応を望みたい」と始まります。

 北京で丹羽宇一郎・駐中国大使の車が襲われた。

 背景などは不明だが、一国の大使の身の安全が脅かされるなど、あってはならないことである。中国政府には、真相究明と再発防止を強く求める。

 日中関係はいま重要な局面にある。香港の活動家らが尖閣諸島に上陸したのに続き、中国各地で反日デモが起きている。こんなときこそ、両国の政治家には冷静な対応を望みたい。

 ところが、「石原慎太郎など一部の政治家は逆に相手を挑発するかのような言動を繰り返している」と批判しています。

 ところが、一部の政治家は逆に相手を挑発するかのような言動を繰り返している。

 石原慎太郎東京都知事が、都が購入を計画している尖閣諸島への上陸を求めている。実現すれば、中国との緊張がいっそう高まるのは明らかだ。

 政府が、都の上陸申請を却下したのは当然である。

 政治家の無分別な言動は、日本に限ったことではない。

 韓国の李明博(イ・ミョンバク)大統領の竹島上陸は、日韓両国を無用にきしませる行動だった。

 李大統領は、竹島上陸の理由に、旧日本軍の慰安婦問題に進展がないことを挙げた。これについても、石原氏は「(慰安婦は)いやいやじゃなくあの商売を選んだ。日本軍が朝鮮人に強制して売春させた証拠がどこにあるか」と、韓国国民の感情を逆なでするような発言をした。

 「こんな挑発の応酬が両国の国益に資するとは思えない」とし、「日本側の努力を粘り強く説明し、話しあいを通じて打開をさぐる」べきとします。

 さらに松原仁国家公安委員長は「(旧日本軍の関与を認め、謝罪した93年の)河野官房長官談話のあり方を閣僚間で議論すべきだ」と語った。

 非はまず李氏にある。だが、こんな挑発の応酬が両国の国益に資するとは思えない。

 日本政府はこれまで、民間主導のアジア女性基金を通じた償い事業などを通じ、この問題を乗り越えようと努めてきた。官民問わず多くの関係者が営々と心を砕いてきた。

 それでも克服できないのが歴史問題の難しさである。

 日本側の努力を粘り強く説明し、話しあいを通じて打開をさぐる。それが責任ある政治家のふるまいではないのか。

 「日中韓の3国の相互依存関係が、あらゆる分野で、もはや切っても切れない深まりと広がりをもっている」のだから、「一部の政治家の挑発に振り回されてはならない」と結んでいます。

 もちろん、各国の政治家の大半は、日中、日韓関係のこれ以上の悪化を望んではいまい。

 国民の多くも心を痛めていることだろう。

 日中韓の3国の相互依存関係が、あらゆる分野で、もはや切っても切れない深まりと広がりをもっているからだ。

 偏狭なナショナリズムが燃え上がり、相互不信が広がらないよう目を配る。それこそが政治の役割である。

 お互い、一部の政治家の挑発に振り回されてはならない。

 いろいろな点でこの朝日新聞社説の論法は鳩山発言と悲しいほど酷似しています。

 まず、今日の「従軍慰安婦問題」がここまで大きな国際問題に発展したきっかけは、朝日新聞の一連の捏造報道にあるとの分析があるわけですが、だとすれば朝日新聞は今日の事態を招いた張本人ともいえるわけですのに、鳩山氏の発言と同様、この社説にはそのような多元的な視座がまったくありません。

 そして鳩山発言と同様そこには自らまいた種が今日の事態を招いてしまった要因のひとつであるという自責の念のかけらもありません。

 いえ、一歩譲って自責の念がなくてもそれはけっこうなんですが、少なくとも自己評価とは別に、己に対する批判があるわけですから、批判相手の視座に立った具体的反論をしなければならないはずですが、自身の「慰安婦報道」に対する反論も総括も朝日新聞は過去に一回もしたことはありません、「トラストミー」の一件を忘却してしまった鳩山氏のように,ただ「一部の政治家の挑発に振り回されてはならない」と石原都知事など政治家をしれっと批判しているわけです。

 ・・・

 鳩山由紀夫氏発言と朝日新聞社社説、この2つの共通項は都合の悪い過去の発言は忘却し「正論」を吐く厚かましいほどの視野の狭さであり、なおかつ自分の現在の主張は絶対正しいと「純粋」に信じているだろうことです。

 かたや元日本国総理大臣、かたや日本を代表する大新聞。

 じつに恐ろしいことです。



 (木走まさみず)