スカイマーク・サービスコンセプト〜無神経とも思える傲慢な文章表現は、おそらくしたたかに計算されたもの
スカイマークが5月18日から各席前のシートポケットに入れたB5判の紙1枚のサービスコンセプト8項目が話題沸騰です。
うむ、すごい内容ですので1項目ごと検証いたしましょう。
スカイマークでは従来の航空会社とは異なるスタイルで機内のサービスをしております。「より安全に、より安く」旅客輸送をするための新しい航空会社の形態です。つきましては皆様に以下の点をご理解頂きますようお願い申し上げます。
うちは「より安全により快適に」じゃなくて「より安全に、より安く」を企業ポリシーにしてますので、過度なサービス要求には応えられませんと先制パンチですな。
1.お客様の荷物はお客様の責任において収納をお願いいたします。客室乗務員は収納の援助をいたしません。
うちの客室乗務員は収納の援助をしないぞ、が第一番目のサービスコンセプト項目ですか、よほどクレームが多かった(苦笑)のでしょうか。
2.お客様に対しては従来の航空会社の客室乗務員のような丁寧な言葉使いを当社客室乗務員に義務付けておりません。客室乗務員の裁量に任せております。安全管理のために時には厳しい口調で注意することもあります。
うちの客室乗務員はほかと違って敬語は義務付けてないぞ、ときにため口もありだぞと。
3.客室乗務員のメイクやヘアスタイルやネイルアート等に関しては「自由」にしております。
うちの客室乗務員はメイクやヘアスタイルやネイルアートは自由だ、口出しするなと。
4.客室乗務員の服装については会社支給のポロシャツまたはウインドブレイカーの着用だけを義務付けており、それ以外は「自由」にしております。
服装だって自由だぞと。
5.客室乗務員の私語等について苦情を頂くことがありますが、客室乗務員は保安要員として搭乗勤務に就いており接客は補助的なものと位置づけております。お客様に直接関わりのない苦情についてはお受けいたしかねます。
で、うちの場合、客室乗務員の私語もじゆうなんだ、聞こえても我慢しろと。
6.幼児の泣き声等に関する苦情は一切受け付けません。航空機とは密封された空間でさまざまなお客様が乗っている乗り物であることをご理解の上で搭乗いただきますようお願いします。
機内でどんな騒音がしても我慢しろと。
7.地上係員の説明と異なる内容のことをお願いすることがありますが、そのような場合には客室乗務員の指示に従っていただきます。
機内では客室乗務員の指示は絶対だぞと。
8.機内での苦情は一切受け付けません。ご理解いただけないお客様には定時運行順守のため退出いただきます。ご不満のあるお客様は「スカイマークお客様相談センター」あるいは「消費生活センター」等に連絡されますようお願いいたします。
ようするに、うちは「機内での苦情は一切受け付け」ない、文句のあるやつは退出させる、と。
なんというか、これでは、顧客へのサービスコンセプトというよりも、いろいろな機内での自由を認めている点で自社の客室乗務員へのサービスコンセプト(苦笑)なんじゃないのか、と思わんばかりの内容なのであります。
「サービス業なんだから安くてもちゃんと接客しないとダメだろ」との論もありますが、このスカイマーク・サービスコンセプトの文章内容が高らかに宣言しているのは、彼らのビジネス・ポリシーは「より安全により快適に」ではなく、「より安全により安く」なのであり、「より安く」を追求しているんだ、勘違いして「より快適に」をスカイマークに要求してはならない、と宣言しているわけです。
嫌なら乗るな、ってことです。
この読み手に対し無神経とも思える傲慢な文章表現は、おそらくしたたかに計算されたものです。
このぐらいの文章で短気を起こすようなやつは乗らんでいい、このサービスコンセプトはそう宣言しているのです。
この傲慢な文章表現自体がスカイマークのサービスコンセプトを体現しているのです。
スカイマークにとって「旅客」は「貨物」であると。
「貨物」は「貨物」としておとなしく乗ってろと、サービスなんて要求するなと。
私はこのサービスコンセプトはありだと思います。
これによりスカイマークの客が増えるか減るかその結果責任も含めてですが、民間サービス会社が自社のコンセプトを自らの責任で、それも座席一席一席にフライトの度にすべての顧客に読んでもらうように置いているのです。
「お客様は神様」のサービス業において客の耳障りなことをきつい表現で示すことは、業者にとってこれは勇気のいることです。
そうではなく、スカイマークは本来なら「お客様は神様」なのは承知な上で、客にスカイマークを利用する限りは「お客様は貨物」に徹してください、と宣言しているのです。
私はこれは有りだと思います。
それはそれで堂々としていると思います。
もっとも相当数のユーザーの怒りを買うのは覚悟のうえなのでしょうけど。
この傲慢なサービスコンセプトで、はたしてスカイマークの客は増えるのか減るのか、結果はどうなるんでしょうか、興味深くしばらく見守りたいです。
(木走まさみず)