木走日記

場末の時事評論

原発施設爆発事象後の3時間半の政府の無対応・無説明は大問題だ!!(追記付き)

 ※)この記事のエントリー時刻は3月12日18時50分です。

 最悪の事態が想定される朝日新聞速報記事から。

福島第一原発1号機から爆発音 煙を確認、4人搬送

2011年3月12日16時52分

 東京電力福島事務所によると、福島第一原発1号機(福島県)で午後3時半ごろ、ドンという爆発音がし、約10分後に煙が確認された。社員が負傷したという。

 同事務所によると、煙が見えたのは原子炉建屋とタービン建屋の中間付近。実際にどこから煙が出たのかは把握できていないという。負傷者の人数やけがの程度、外部放射能の測定値の変化、格納容器が破損したかどうかは不明。原子炉の水位は異常な低下はしていない。

 社員2人と協力企業の2人が病院に運ばれた模様。
http://www.asahi.com/national/update/0312/TKY201103120437.html

 TV映像で見る限り、ひとつの建屋が爆発しているのが見て取れますので、「煙が見えたのは原子炉建屋とタービン建屋の中間付近」と記事にはありますが、これは「原子炉建屋」か「タービン建屋]のいづれかが何らかの理由で爆発したと考えるのが合理的であると思います。

 「タービン建屋]が爆発したとしても重大事ですが、もし「原子炉建屋」のほうが爆発したのだとすれば、炉心溶融による水蒸気爆発という最悪の事態も視野にいれなければなりません。

 デリケートな問題ですので状況の把握と分析がしっかり行わなければならないですが、一連の情報が示唆するものは深刻なものです。

高レベルの放射線量を確認 福島第一原発、爆発音の直前

2011年3月12日18時5分

 東京電力によると、福島第一原発1号機付近で、12日午後3時29分、1015マイクロシーベルト/時、午後3時31分に569マイクロシーベルト/時という高いレベルの放射線量を確認した。東京電力は同3時36分ごろ、1号機付近で大きな揺れと爆発音があったとしている。

http://www.asahi.com/national/update/0312/TKY201103120456.html

 これは異常値です。

 読者の皆様に説明が必要でしょう。

 東京電力では1号機の炉内の圧力を下げる必要があるため、弁を開放して炉内の蒸気を炉外に放出する作業を開始していました。

 その結果、15時の会見時には「14:00時点の0.755M(メガ)パスカルから14:58時点で0.555Mパスカルまで圧が低下した」と発表していました。

 そのとき同時に「モニタリングカー」での測定値が「13:40時点の4.8マイクロシーベルト/毎時から14:30時点では9.979マイクロシーベルトに上昇した」と、つまり順調に炉内の気体を放出できたために、外での放射能の値が想定どおり増加したのだと、回復処理が順調理に進んでいることを印象付けていました。

 しかしこの会見で炉内の温度情報と原子炉内部の冷水の水位情報の発表がないのが気になりました。

 もし炉心溶融が起きて核燃料の被覆管が損傷しているとすれば、そこに原子炉内部の水位を増水するとすれば、最悪の事態である水蒸気爆発が起こり原子炉自体が吹き飛んでしまった可能性があります。

 約10マイクロシーベルト/毎時(14:30)からわずか一時間後に100倍の1015マイクロシーベルト/時(15:29)を測定しているのは明らかに異常値です。

 そしてこの異常値を計測した7分後に謎の爆発が起こっています。

 この爆発的事象の原因が原子炉内の水蒸気爆発であったとすれば爆発があった時刻(15:36)から、今現在(18:50)3時間以上もたっていながら、政府からの発表は「現在確認中」というだけで、いっさい説明がありません。

 もし原子炉が爆発したのならば大問題であり、この3時間半の無処置・無説明(※1)は責任問題になるでしょう。

 またそうではなくタービン建屋の爆発など致命的ではない爆発ならば憶測を呼ぶ前に適切な説明をやはりするべきでしょう。

 爆発から3時間半たってもその点について何も具体的説明がない、この政府の対応の遅れは今後の展開がどうあれ、大問題だと思います。

※1:政府は18:00過ぎに官房長官が本件で記者会見してますが「確認中」として具体的な説明はありません。



<追記>※)この追記のエントリー時刻は3月12日23時00分です。

 12日21時06分掲載の産経新聞電子版記事から。

福島第1原発「格納容器の爆発ではない」 枝野官房長官
2011.3.12 21:06

 枝野幸男官房長官は12日夜、首相官邸で記者会見し、福島第1原子力発電所の爆発について「建屋の壁の崩壊であり、中の格納容器が爆発したものではないと確認した。外部の放射線物質は、爆発前より爆発後の方がむしろ少なくなっている」と述べた。

 また、福島第1原発1号機の現状について「格納容器自体の損傷は認められない」と説明した。枝野氏は、海江田経済産業相東京電力に対して格納容器を海水で満たすよう命じたことも明らかにした。

http://sankei.jp.msn.com/politics/news/110312/plc11031221070026-n1.htm

 20時32分から菅総理による記者会見が行われ「国民へのメッセージ」が語られました、それに続き枝野官房長官により福島第1原発1号機の爆発は建屋の崩壊であり「格納容器の爆発ではない」ことが発表されました。

 私もTVにて拝見していましたので、要点をまとめておきます。

 ・建屋の崩壊であり原子炉の爆発ではなく、従って放射線物質の大量放出は起こっていない。

 ・この爆発で崩壊したのはコンクリートと鉄筋でできている建屋であり、合金でできている原子炉格納容器は無傷である。

 ・爆発の原因は原子炉で発生した水素がもれ酸素と反応したモノで 原子炉内では酸素がないのでこの種の爆発は起こらない。

 ・原子炉格納容器を海水で満たし炉心の冷却を計る、ホウ酸も用いて再臨界を防ぐ。

 ・この作業には5時間+αかかると予想される。(これは原子炉圧力容器を対象にする時間で、外側の原子炉格納容器では10日間ほどの時間がかかる)

 ・初めての対策でもあり万が一にも住民に健康被害等がないように非難区域を半径20km以内に拡大する。

 なるほど、損傷したのは建物だけであり、原子炉格納容器は無傷であり、爆発前の15時29分に1015マイクロシーボルト/毎時あった放射線物質濃度が、爆発後の15時40分には860マイクロシーボルト/毎時、18時58分には70.5マイクロシーボルト/毎時に下がったことも明らかににしています。

 15時36分の原発建屋の爆発発生から、約5時間後の会見なのであります。

 まずこの起こったことの説明に5時間もかかった点で私は大変危惧します。

 最悪の原子炉の爆発ではなくて不幸中の幸いとも言えますが、起こったことの分析に5時間も掛かるわけはありません。

 破損した建物が原子炉建屋だったこと、原子炉格納容器は無事でむしろ放射線物質濃度は下がっていること、これらの事実の確認に5時間も要するとは極めて考えづらいのです。

 おそらく「起こったこと」と「対策」を同時に発表するために5時間という時間が必要だったのだと推測されます。

 しかしながら、「起こったこと」つまり事実を速やかに国民に説明するのはもっと早くできたのではないでしょうか。

 「目下、原子力の専門家間で善後策を検討中」と併せて発表し、その後で対策が確定した段階で対策を説明すればいいだけです。

 この非常時に危機意識・時間の感覚が、いかにもお役所的ご都合主義になっていて決定的にスピード感がないのです。

 本質的に国民が求めているのは起こっている真実であり、一歩譲って国民の不安心理を煽らないように配慮したとしたら、それは大きな勘違いだと指摘したいです。

 起こったことを冷静に説明してくれたほうが国民は冷静に対処できるでしょう。

 ・・・

 私が心配するのは、一瞬とはいえ1015マイクロシーボルト/毎時と、法律で報告義務が発生する1000マイクロシーボルト/毎時を越える異常値がなぜ測定されたのか、その根本的な重要な事象に対して、まったく説明がされていないことです。

 さらに本当に原子炉格納容器内、もっとはっきり言えばいわゆる原子炉のコア部分、原子炉圧力容器内で「炉心溶融」が起こってしまっているのではないか、真水でのポンプによる放水が水蒸気発散に間に合わず、「廃炉」覚悟で内部腐食や不純物混入のリスクを負っても、海水を満たす方法しか選択肢がなかったのではないか、そのような当然の危惧があるわけです。

 本日夜20時過ぎ、「炉心溶融」の可能性を東電もついに認めているのです。

炉心溶融の可能性、東電も認める 福島第一原発1号機

東京電力の小森明生常務は12日夜の記者会見で、爆発があった福島第一原子力発電所1号機から放出されたとみられるセシウムが検出されたことを認め、「炉心そのものが通常とは違う状況になっている可能性はある」と述べた。原子力安全・保安院が指摘した「炉心溶融の可能性」を認めた。

 1号機の建屋の現状については「上の方は壁がない状況になっているのは、目視で確認できる。下の部分は形はしっかり残っている」と説明。「なるべく見える範囲のものを見ようとしているが、建物の中をくまなく見ることが難しい状況。放射線量がかなり高い」とも述べた。また今後の対処については、圧力容器を冷やすために海水の注入を始めたことを明らかにした。

 一方、原子炉容器内の状態について、高橋毅・原子力運営管理部長は「明確につかめていない」と述べた。会見を始めた午後7時半時点での炉内の圧力や水位はわからない状態という。

http://www.asahi.com/special/10005/TKY201103120510.html

 世界でも原子炉圧力容器内と原子炉格納容器内をホウ酸も用いて「海水」で満たすという対処は前例がないことでしょう。

 起こっていることを国民に正しく説明することが一番大切です。

 私がスピードにこだわるのは、このように5時間も掛けて発表内容で体裁を整えていては、あってはならないことですが万が一緊急に避難しなければならないような最悪のケースが発生した場合、国民側が即座に対応できなくなることです。

 事態が悪化しつつあるなら、正しい情報を正直に迅速に国民に開示すべきです。

(木走まさみず)