朝鮮学校無償化停止を決めた民主党政権の深刻な論理破綻
24日付け時事通信記事から。
手続き停止「私が指示」=朝鮮学校の無償化−首相
菅直人首相は24日夜、朝鮮学校の高校授業料無償化に向けた手続きに関し、首相官邸で記者団に「私の方から(高木義明)文部科学相に、こういう状況なのでプロセスを停止してほしいと指示した」ことを明らかにした。手続き停止については、仙谷由人官房長官が同日午前、「いったん停止する方向に動く」と表明。高木文科相も無償化見直しの可能性に言及していた。(2010/11/24-20:08)
民主党政権は今回の事態を受けて朝鮮学校の高校授業料無償化に向けた手続きをいったん停止する方針を固めたようです。
私はそもそも朝鮮学校の無償化には反対の立場ですので手続き停止の方向性そのものには賛成なのですが、このタイミングでの民主党政権の方針転換はこれは重大な論理破綻を招きます。
このような北朝鮮による他国(韓国)への攻撃という外的要因で停止するならば、そもそも自国の問題である「拉致問題」を抱えているわけですから、なぜ今まで朝鮮学校無償化の方針を貫いてきたのか、政府のこれまでの「外交と子供たちが教育を受ける権利は関係ない」としてきた説明との整合性がとれません。
こういう「外交問題」で手続き停止するならば、北朝鮮と関係の深い朝鮮学校に関しては、「拉致問題」などの外交諸問題を最初から抱えていたわけですから端から手続きはすすめてはいけなかった論理になるはずです。
当ブログでは、9月にこの問題が浮上してきたときに、「朝鮮学校―日本社会の度量を示そう」と無償化賛成を主張した朝日社説にたいし「度量の問題ではなく私は反対」とする反論エントリーを起こしました。
2010-09-06 朝鮮学校無償化は日本人の度量の問題(朝日社説)なのか?
http://d.hatena.ne.jp/kibashiri/20100906
このエントリーの中で私はそもそも拉致問題などがなくても朝鮮学校無償化には反対であると主張しました。
上記エントリーから当該箇所を抜粋してご紹介。
(前略)
私は工学系専門校で20年教鞭をとっておりますが、国家は学校教育に過度に干渉すべきではないと思っております、特に思想教育などの国家による強制はもってのほかであり、公的教育は現場にまかせ国家としては「金は出すが口は出さない」が一番だと考えています。
朝鮮高等学校が民族教育をするのも母語教育をするのもそれはその人々の教育の自由でありますし、それを縛ることは認められないことでしょう。
教室内に将軍様の御写真が掲げられていたり歴史教育が反日的でおかしな内容になっているのは問題でしょうが、まあ日本は広く自由と平等が認められている民主主義国であります。
さて朝鮮高等学校ですが、現状でも東京都などの各地自治体が補助金を出しております。
この事実は重要です、この補助金を認めた上でですが、加えて新たに国からの高等学校等就学支援金を朝鮮高等学校に付与することには私は反対です。
産経は「拉致被害」と絡めての反対論を展開していますが、私はこの論法は話を混乱させるだけだと考えています。
たとえ「拉致被害」事件がなかったとしても、あるいは、解決したと仮定しても就学支援金を朝鮮高等学校に付与することには反対なのです。
私は反対である根拠は母語ではない公立学校とは異なる理念での教育を求める人のための学校に、公費で賄う義務が日本国にはあると思えないからです。
現在の朝鮮高等学校に修学している生徒達は、親の意思も含めてではありますが完全に自らの自由意思による選択で選んだわけです。
その国の公立学校への入学資格が与えられているにもかかわらず、あえてその国の言語以外の外国語で教育を受けたい生徒のための学校であります。
つまり公立学校とは異なる理念での教育を求める人のための学校です。
それをも公費で賄う義務が日本国にはあると思えません。
今まで同様、彼らの教育選択の自由はしっかりと守られるべきです。
また民族のアイデンティティや母国語と母国文化の継承なども尊重されてよろしいでしょう。
しかしそれと公費で賄うかどうかは同列で議論できないと思っています。
私の主張はもちろん、朝鮮学校だけではなく日本の一条校認定校以外の外国人学校全般をターゲットしています。
これは何も日本が例外ではないです、例えば逆のケースで海外の日本語学校の場合ですが、ヨーロッパなどで現地の自治体が日本の東京都などが朝鮮学校にしているように補助金を出しているケースはあるようですが、国として支援金を日本語学校の生徒に拠出しているという事例は聞いたことはありません。
海外赴任されて日本語学校にお子さんを預けられた方ならばご承知でしょうが、一般に現地の学校よりも日本語学校の教育費は高く付きます。
これは当然ですし、あえてその国の言語以外の外国語で教育を受けることは当然それなりの費用が発生すると考えていいでしょう。
ちなみに、アメリカでヒスパニック系移民が急増しているカリフォルニアで、公立学校の教師は、英語とスペイン語のバイリンガルであることを条件とする、という法案が持ち上がりましたとき、今回の日本と同様の論争が起こりました。
議会は当然のように棄却しました。
アメリカで国の援助で教育を受けるならば、将来アメリカ国民として望ましい人材を育てるべく母国語(=英語)を習得してくださいということだったのだと思います。
「日本人の度量の問題だから賛成」(朝日社説)とか「拉致問題などがあるから反対」(産経社説)などの情緒性漂う論理ではなく、税金の使い道としての問題であり、海外においても国費を外国人学校に投入しているケースを私は知りませんので、国際相互主義の観点からも日本国にそのような義務はない、というのが私の主張です。
今回の民主党政権の決定は方向性は私は支持しますが、それとは別に民主党政権は禍根を残したといえましょう。
そもそも当初から毅然と議論を尽くして無償化の対象からはずしておけばよかったのです。
朝鮮学校無償化停止を決めた民主党政権ですが、これは深刻な論理破綻を招いたと思います。
(木走まさみず)