「刑事処分」逮捕見送りも当然なら「行政処分」不可避も当然〜組織人としてのガバナビリティが厳しく問われるのは当たり前
予想通り逮捕が見送られた海上保安官なのであります。
公判維持は極めて難しいとの判断もあるのでしょうか、おそらく起訴されず裁判も開かれないことでしょう。
あんな「ビデオ」が「国家機密」であるわけがない、国家公務員法の秘密漏えい罪(懲役1年以下)を適用するような「機密性」などまったくなかったわけで、それを機密でもなんでもないむしろ国民に公開すべきビデオを故意に「機密」扱いにした民主党政権の方が間違いだったのであります。
10日付けエントリーより。
予言します、sengoku38を逮捕しても公判維持はできないでしょう。
そして民主党政権は完全に国民からNOを突きつけられるでしょう。
2010-11-10 「sengoku38」海保職員逮捕は民主党政権の愚挙 より
http://d.hatena.ne.jp/kibashiri/20101110/1289369313
12日付けエントリーより。
再度、予言しましょう、sengoku38を国家公務員法の秘密漏えい罪容疑では、公判維持どころか逮捕すらできないことでしょう。
2010-11-12 笑止!1万2000人が見ることができた「国家機密」? より
http://d.hatena.ne.jp/kibashiri/20101112
過去2回に渡って民主党政権の姿勢を批判しつつ「予言」をしてきた当ブログとしては今回の「逮捕見送り」は当然の結果であると受け止めております。
正直溜飲を下げました。
さて、逮捕見送りを受けて16日の読売新聞記事から。
今回の行動、正しいと信じる…航海士コメント
尖閣諸島沖の中国漁船衝突を巡る映像流出事件で、弁護人は16日未明、「実名を出さないで、写真も配慮してほしい」とした上で主任航海士のコメントを公表した。
◆コメント全文◆
私が今回起こした事件により、国民の皆様、関係各位には、多大なるご迷惑をおかけしたことをお詫(わ)び申し上げます。海上保安庁の皆様、中でもお世話になった方々や今回の件でご苦労されている方々に対しては、申し訳ない気持ちで一杯です。
今回私が事件を起こしたのは、政治的主張や私利私欲に基づくものではありません。ただ広く一人でも多くの人に遠く離れた日本の海で起こっている出来事を見てもらい、一人ひとりが考え判断し、そして行動して欲しかっただけです。
私は、今回の行動が正しいと信じておりますが、反面、公務員のルールとしては許されないことであったと反省もしております。
私の心情をご理解いただければ幸いです。
(2010年11月16日15時19分 読売新聞)
http://www.yomiuri.co.jp/feature/20100924-728653/news/20101116-OYT1T00660.htm
うむ、この当該の海上保安官のコメントですが、不肖・木走が読み解くとこのコメントのポイントはここです。
「私は、今回の行動が正しいと信じておりますが、反面、公務員のルールとしては許されないことであったと反省もしております。」
「今回の行動が正しいと信じております」とあるのは、自分のした行為が国家公務員法の秘密漏えい罪(懲役1年以下)にはあたらない、つまり「刑事処分」の対象ではないという信念を発露しつつ、後段で「公務員のルールとしては許されないことであったと反省」とあり、組織人としての己の非を認めているわけです。
彼の言わんとすることが秘密漏えい罪(懲役1年以下)という「刑事処分」には信念を持ってあたらないが、「公務員のルールとしては許されないこと」、すなわち「行政処分」に対しては甘んじて自身の非を認める、という判断ならばこれは、まったく私の考えと同じであり、私はこの海上保安官氏の考えを強く支持したいと思います。
17日付け読売新聞記事から。
政府は16日、尖閣諸島沖の中国漁船衝突の映像を動画投稿サイトに投稿した神戸海上保安部の海上保安官の逮捕が見送られたことを踏まえ、刑事処分とは別に、行政処分を行う方向で検討に入った。
具体的な行政処分としては、国家公務員法に基づく「免職」「停職」「減給」「戒告」の懲戒処分が検討されている。
政府は「今回の事態を許せば公務員の綱紀が緩み、政権の土台まで揺るがしかねない」と警戒している。
海上保安官の逮捕見送りに関しては、仙谷官房長官が16日の記者会見で「捜査機関の一員が捜査関係書類を流出させるというのは驚天動地で、考えられもしない事態だ」と批判し、海上保安官の行為は正当化できないとの認識を強調した。
玄葉国家戦略相も同日の記者会見で、「武器を持つ組織の規律の乱れを重大視しなければ、世の中の秩序が成り立たない。適切な行政処分は科されるだろう」と語り、行政処分の確実な実施を求めた。
(2010年11月17日08時45分 読売新聞)
http://www.yomiuri.co.jp/feature/20100924-728653/news/20101116-OYT1T00865.htm
国家公務員法に基づく行政処分としては、「免職」「停職」「減給」「戒告」の4つの懲戒処分があるわけですが、この他に法的には根拠を持たない運用上の「訓告」「厳重注意」という軽めの処分もあります。
・・・
彼は国家機密を漏らしたという秘密漏えい罪(懲役1年以下)にはまったくあたりません。
彼の行為が「刑事処分」の対象には当たらないのは、今回の逮捕見送りで警察・検察側も間接的に裏付けたと思います。
そもそも今回の件を戦前の2.26事件などに例えて論じる論説も散見しましたがまったく本質が異なります、あのビデオに「機密性」などそもそもまったくないのです、「ただ広く一人でも多くの人に遠く離れた日本の海で起こっている出来事を見てもらい、一人ひとりが考え判断し、そして行動して欲しかった」という彼の発言は、国民の知る権利にかなった動機であり、はるかに軽微な話です。
しかし、いち海上保安官としての組織人としての「公務員のルールとしては許されないこと」(本人談)があったことは本人も認めているとおりであります。
海上保安庁の内規に照らして、かつ国家公務員法に基づく行政処分の過去の事例に照らして、公務員としての彼は粛々と「行政」処分を受けることを本人も覚悟していることでしょう。
組織人としての彼のガバナビリティが厳しく問われることは当然避けられないでしょう。
私個人の希望は行政処分が下される前に職を辞すのもよろしかろうと希望半分で思いますが、彼も幼い2児の父親と報道で聞いております、生活もあるでしょう、無責任な希望を押し付けようとは思いません。
政府にはくれぐれも「免職」などの厳しい厳罰主義を取らないようにせつにお願いいたしたいです。
(木走まさみず)