木走日記

場末の時事評論

海保による尖閣諸島仮設ヘリポート再利用の検討をすべき

 3日付け毎日新聞記事から。

尖閣領有は「核心的利益」 中国、台湾など同列に
2010年10月3日 朝刊

 【上海=小坂井文彦】二日付の香港紙サウスチャイナ・モーニング・ポストは中国外交筋の話として、中国政府が今年に入って、沖縄県尖閣諸島(中国名・釣魚島)を含む東シナ海の領有権を、台湾やチベット、新疆ウイグル自治区と同列で、国家の領土保全にとって最も重要な「核心的利益」に位置付けたと報じた。
 九月七日に尖閣諸島付近で起きた海上保安庁の巡視船と中国漁船の衝突事件をめぐって、中国側が強硬姿勢を示した背景には、この政策変更があるとする専門家の見方も伝えている。
 同紙によると、中国指導部は昨年末に開いた会議で、領土などに関する問題を「国家の利益」と「国家の核心的利益」の二種類に分類すると決定。今年に入り、尖閣諸島を含む東シナ海の問題を、国家の本質的利益に直結することを意味し、妥協を拒む「核心的利益」とした。
 東南アジア各国と領有権問題を抱える南シナ海について中国は三月、米国側に「核心的利益」に属すると表明したと伝えられるが、東シナ海については、これまで具体的な位置付けを明言していない。

http://www.tokyo-np.co.jp/article/world/news/CK2010100302000036.html

 記事によれば、香港紙が伝える中国外交筋の話として、中国政府が、尖閣諸島を含む東シナ海の領有権を、国家の領土保全にとって最も重要な「核心的利益」に位置付けたと報じています。

 うむ、この記事のポイントは中国がいかなる地域を国家の領土保全にとって最も重要な「核心的利益」とみなしているのか、という点であります。

 中国政府は、昨年までは、台湾、チベット、新疆ウイグル自治区を「核心的利益」に位置付けていました。

 中国からの独立を目指す台湾、独立運動が続くチベット、新疆ウイグル、これらの地域はいうまでもなく中国政府の掲げる「一つの中国」政策にとって目の上のたんこぶの地域です。

 中国政府は、中国にとって「核心的利益」であるこの地域での主権を守る上で一切の妥協を許さないとの立場を取ってきました。

 それが今回、東シナ海が同じ位置づけに格上げされたとすれば、尖閣諸島での漁船衝突事件で見せた中国側の強硬な態度を裏付けることになります。

 また、南シナ海については3月、戴秉国・国務委員(副首相級)が、米政府高官との会談で同海域での権益確保などを主張した際に、「核心的利益」に属するという言葉を使用したと伝えられています。

 南シナ海には領有権の対立が激しい西沙と南沙諸島があります、西沙は中国、台湾、ベトナムが、南沙は中国、台湾、ベトナム、フィリピン、マレーシア、ブルネイが領有権を主張しています。

 特に、南沙は海底石油資源の存在が有力視され、88年に中越の海軍が武力衝突し、100人を超える死者、行方不明者が出しました。

 今回、中国政府が、新たに西沙・南沙諸島を含む南シナ海尖閣諸島を含む東シナ海を、国家の領土保全にとって最も重要な「核心的利益」に位置づけを格上げした理由は、両地域が海底資源の存在が有力視されているからに違いありません。

 尖閣諸島を含む東シナ海は、中国政府にとり「主権を守る上で一切の妥協を許さない」地域となっていたのであります。

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 3日付け産経新聞紙面トップ記事から。

日米軍事演習で「尖閣奪還作戦」 中国の不法占拠想定 (1/2ページ)
2010.10.3 11:23

 ■11月の大統領来日直後に
 【ワシントン=佐々木類】日米両防衛当局が、11月のオバマ米大統領の来日直後から、米海軍と海上自衛隊を中心に空母ジョージ・ワシントンも参加しての大規模な統合演習を実施することが明らかになった。作戦の柱は、沖縄・尖閣諸島近海での中国漁船衝突事件を受けた「尖閣奪還作戦」。大統領来日のタイミングに合わせ統合演習を実施することにより、強固な日米同盟を国際社会に印象付け、東シナ海での活動を活発化させる中国軍を牽制(けんせい)する狙いがある。
 日米統合演習は2004年11月に中国軍の潜水艦が沖縄県石垣島の領海を侵犯して以来、不定期に実施されている。複数の日米関係筋によると、今回は、中国軍が尖閣諸島を不法占拠する可能性をより明確化し同島の奪還に力点を置いた。
 演習の中核は、神奈川・横須賀を母港とする米第7艦隊所属の空母「ジョージ・ワシントン」を中心とする航空打撃部隊。イージス艦をはじめ、レーダーに捕捉されにくい最新鋭ステルス戦闘機F22、9月1日から米領グアムのアンダーセン基地に配備されたばかりの無人偵察機グローバルホークも参加する予定だ。

(後略)
http://sankei.jp.msn.com/politics/policy/101003/plc1010031124004-n2.htm

 うむ、産経渾身(こんしん)のトップ記事であります。

 11月のオバマ米大統領の来日直後から、米海軍と海上自衛隊を中心に空母ジョージ・ワシントンも参加しての大規模な統合演習を実施することが明らかになったのですが、日米軍事演習の柱は、ズバリ「尖閣奪還作戦」、「強固な日米同盟を国際社会に印象付け、東シナ海での活動を活発化させる中国軍を牽制(けんせい)する狙い」であります。

 記事によれば演習は極めて実践的であり、「尖閣諸島が不法占拠された場合を想定」、「日米両軍で制空権、制海権を瞬時に確保後、尖閣諸島を包囲し中国軍の上陸部隊の補給路を断ち、兵糧攻め」する第1段階から、「日米両軍の援護射撃を受けながら、陸上自衛隊の空挺(くうてい)部隊が尖閣諸島に降下し、投降しない中国軍を殲滅(せんめつ)する」第2段階まで演習を行うとしています。

 第1段階では、あらゆる外交上の応酬を想定しながら、尖閣諸島が不法占拠された場合を想定。日米両軍で制空権、制海権を瞬時に確保後、尖閣諸島を包囲し中国軍の上陸部隊の補給路を断ち、兵糧攻めにする。

 第2段階は、圧倒的な航空戦力と海上戦力を背景に、日米両軍の援護射撃を受けながら、陸上自衛隊の空挺(くうてい)部隊が尖閣諸島に降下し、投降しない中国軍を殲滅(せんめつ)する。

 南シナ海の西沙・南沙諸島において中国が島を実効支配したやり方は、すでに日米両国では詳しく研究されています。

 step1)漁船などを仕立てて存在を誇示し、

 step2)調査船などを繰り出し既成事実を積み上げながら、

 step3)最後には軍艦を出して領有権を主張、

 step4)制海権を押さえた中で、漁業関連施設建設の名目で島に中国人を上陸、結果実効支配する

 という4段階のやり方です。

 現在の尖閣諸島周辺における中国の態度はstep1)からstep2)への移行を図ろうとしている段階と推測されます。

 強行上陸という手段までにはまだ時間がありそうです。

 従ってこの段階での「尖閣奪還作戦」なる日米軍事演習は、中国を「牽制(けんせい)する狙い」としてはタイムリーで効果的であり評価できます。

 さてstep3)以降の実際の尖閣諸島実効支配にまで中国が強行するのか、ここは日本国内でも意見が分かれていますが、上記の報道で、中国政府が尖閣諸島を含む東シナ海を「主権を守る上で一切の妥協を許さない」すなわち「核心的利益」地域に今年になって昇格させていた事実は重要だと思われます。

 彼らを無謀な上陸作戦に走らせない、事前にあきらめさせるためにも、ここは日本として日米同盟を基軸とした軍事的備えをしっかりとしておかなければならないと思います。

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 尖閣諸島には、かつて中国の反対で一度も使用されたことのない仮設ヘリポートがあります。

 ここの海上保安庁による再利用を提案します。

 これは実現性の意味で自衛隊本体常駐よりもハードルは低いです。

 予算さえ付けば実行がすぐに可能です。

 あわせて海保巡視船の接岸施設構築の調査検討を始めます。

 まずそれに必要な予備的施設を建設、必要な海保人員を常駐させます。  

 その間、自衛隊本体が常駐するかは結論を出さず、関連法の改正も含めた軍事的・外交的検討を慎重におこないます。

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 クリントン国務長官は、尖閣諸島日米安全保障条約第5条の適用対象だと明言しています。

 しかしこれは日本が個別的自衛権を行使し敵国排除の努力をまずすることが前提であり、それに対し米国が集団的自衛権を行使して支援するという意味であります。

 その意味のためにも、尖閣諸島に海保施設を構築する必要があります。

 中国政府が尖閣諸島を含む東シナ海を「主権を守る上で一切の妥協を許さない」すなわち「核心的利益」地域に今年になって昇格させた以上、彼らを強行上陸作戦可能と誤った判断をさせないためにも、その行動を抑制するためにヘリポート再利用が効果的です。

 日本政府は、海保による尖閣諸島仮設ヘリポート再利用の検討を始めるべきです。

 その上で、自衛隊常駐は、関連法の改正も含めた軍事的・外交的検討を慎重におこなうべきです。

 

(木走まさみず)