木走日記

場末の時事評論

菅談話を評価するのは日本の新聞社説だけ〜日・韓・朝・台で「総スカン」

 10日に発表された日韓併合100年に関する菅談話を受けての翌11日付け主要紙社説。

【朝日社説】併合100年談話―新しい日韓協働の礎に
http://www.asahi.com/paper/editorial20100811.html
【読売社説】日韓併合談話 未来志向の両国関係に弾みを
http://www.yomiuri.co.jp/editorial/news/20100810-OYT1T01151.htm
【毎日社説】併合100年談話 未来へ向け日韓の礎に
http://mainichi.jp/select/opinion/editorial/archive/news/20100811ddm005070113000c.html
【産経社説】日韓併合100年 「自虐」談話は歴史歪める
http://sankei.jp.msn.com/politics/policy/100811/plc1008110319002-n1.htm
【日経社説】未来志向の日韓関係へ行動を
http://www.nikkei.com/news/editorial/article/g=96958A96889DE3E0E7EBE2E5EAE2E3E3E2EAE0E2E3E28297EAE2E2E2;n=96948D819A938D96E38D8D8D8D8D

 社説タイトルで一目ですが例によって産経を除いては他四紙は今回の菅談話を概ね肯定的に評価しています。

 四紙それぞれの社説の結語から。

 両国は歴史や領土問題をめぐって、わだかまりをまだ抱えている。そんな問題をうまく管理し、和解と協働の新たな100年へ、この首相談話を礎石にしたい。(【朝日社説】)

 日本側に引き渡す義務はないが、韓国側から要望のあった文化財を譲渡することで、和解を進める狙いがあると見られる。
 首相談話を契機にして、経済、文化、人的交流などを含め、今後の日韓関係に弾みをつけることが肝要だ。(【読売社説】)

 外交・安全保障面では、北朝鮮の核開発や拉致問題に対処するため日韓の連携がこれまで以上に必要になっている。今回の首相談話を、未来に向けた日韓関係構築の出発点にしたい。(【毎日社説】)

 お互いの見解が異なっても、過剰に政治問題としない。主張すべきは主張し、後にしこりを残さない。何でも言い合える信頼があってこそ、真の未来志向の関係といえるのではないか。(【日経社説】)

 各紙とも「今回の首相談話を、未来に向けた日韓関係構築の出発点にしたい」(【毎日社説】)という視座で一致しています。

 一方、主要紙で一人今回の談話に批判的な産経新聞ですが、普段は2本掲げる社説を一本に絞り力のこもった社説を掲げております、社説冒頭から「談話発表が強行されたことは、極めて遺憾」とお怒りモード全開であります。

 与野党で異論が相次ぐ中、日韓併合100年に合わせた菅直人首相談話が閣議決定された。談話発表が強行されたことは、極めて遺憾である。
 首相談話は日本政府の公式な歴史的見解としての意味があり、後の内閣の行動などを事実上、拘束する。それだけに歴史を歪(ゆが)めた私的な見解は断じて許されない。必要なはずの国民的な合意づくりも一切、欠落していた。
 菅首相談話の最大の問題点は、一方的な歴史認識である。
 談話は「(日本の)植民地支配によって、(韓国の人々は)国と文化を奪われ、民族の誇りを深く傷付けられた」として、「多大の損害と苦痛」に対する「痛切な反省と心からのお詫(わ)びの気持ち」を表明している。
 日本の「植民地支配と侵略」を謝罪した平成7年の村山富市首相談話を踏襲したように見えるが、それ以上に踏み込んだ内容だ。菅談話は明治以降の日本の先人たちの努力をほぼ全否定し、韓国の立場だけを述べている。どこの国の首相か疑ってしまう。

 日本の主要新聞の中では孤立化している産経ですが、与党民主党内にもこのような「謝罪外交」に批判的な意見もあり一概に少数意見と片付けることはできないのですが、それはともかくせっかく謝罪した菅談話なのですが、肝心の韓国での評価がいまひとつ芳しくありません。

 11日付け朝鮮日報記事から。

日韓併合100年:菅談話に韓国政界「不十分」「誠意疑う」

 韓日併合100年に合わせた菅直人首相の談話に対し、韓国の政界では「一部進展はあった」という声がある一方で、「依然として不十分で、失望した」とも評されている。

 ハンナラ党の安亨奐(アン・ヒョンファン)報道官は10日、論評を通じ「菅首相が、韓日強制併合は韓国人の意に反していたと表現、朝鮮王室儀軌などを返還する意向を表明したことは、過去より一歩前進した動きと評価できる」と述べた。だが、「『強制併合条約の違法性』と『旧日本軍による慰安婦の強制連行』などについて具体的な言及がなかった点は、植民地支配を昨日のことのようにはっきりと記憶している韓国国民の気持ちを鎮めるには不十分」としている。そして、「歴史問題について虚心坦懐(たんかい)に話し合うことを土台に、未来志向的なパートナーシップを築くため、具体的に実践していかなければならない」と語った。

 民主党の全賢姫(チョン・ヒョンヒ)報道官は「韓日強制併合は根本的に無効であるという宣言が抜け落ちているほか、植民地支配時期の数多くの犠牲や、旧日本軍による慰安婦問題などに対する言及が全くない。その誠意に対し、疑いの目を向けざるを得ない」と述べた。その上で、「強制連行や慰安婦の被害補償問題などについて、誠意ある後続措置が伴うべき」と指摘した。

 自由先進党の朴宣映(パク・ソンヨン)報道官は「少々不十分な点はあるが、『痛切な反省と心からのおわび』と明言したことは歓迎する」と述べた。しかし、「韓国人の遺骨返還問題などは、人道的なものではなく『法的な問題』として早急に解決しなければ」ともしている。

 民主労働党のウ・ウィヨン報道官は「中身が抜け落ちた談話で、謝罪表明はリップサービスにすぎない。日本による韓国強制併合は、韓国だけの問題ではない。謝罪は北朝鮮に対しても当てはめられるべき」と述べた。

趙儀俊(チョ・ウィジュン)記者

朝鮮日報朝鮮日報日本語版
http://www.chosunonline.com/news/20100811000024

 うむ、「韓国国民の気持ちを鎮めるには不十分」(ハンナラ党報道官)、「その誠意に対し、疑いの目を向けざるを得ない」(民主党報道官)、「中身が抜け落ちた談話で、謝罪表明はリップサービスにすぎない」(民主労働党報道官)と、まあさんざんな評価が並んでおります。

 中でも気になったのが民主労働党のウ・ウィヨン報道官のこの発言、「日本による韓国強制併合は、韓国だけの問題ではない。謝罪は北朝鮮に対しても当てはめられるべき」、たしかに韓国強制併合は北朝鮮も当事者なだけに、この韓国に特定した謝罪談話は彼の国も黙ってはいないだろうと当然予想されました。

 さらに日本の植民地支配というなら台湾もありますし、日本による戦争被害とすれば中国や東南アジア諸国も黙ってはいないでしょう。

 この日韓併合100年に関する菅談話ですが、韓国以外の他の国に対する言及がまったくないのは外交的配慮に欠けている点でその意図とは裏腹に一部の国の反日気配に「火に油」をそそぐ結果を招きかねません。

 ・・・

 案の定と言いますか、13日付けサーチナニュース記事から。 

菅首相の「談話」、日・韓・朝で「総スカン」―中国メディア
2010/08/13(金) 15:05

  環球時報はこのほど、菅直人首相(写真)によって発表された日韓併合100年に関する談話が、日本、韓国、朝鮮民主主義人民共和国北朝鮮)のいずれにおいても「不満を招いている」と報じた。

  同紙では、「日、韓、朝3カ国、菅直人首相の談話に不満」とのタイトルで菅首相の談話に対する3カ国の反応を紹介。「菅直人首相は、朝鮮半島を併合したことに対して、まさか、日本、韓国、北朝鮮の“3方向”から強烈な“お叱り”に遭うとは思っていなかっただろう」などとして、「(菅首相の談話は)誠意が足りない」といった韓国世論や、韓国の主要紙による「菅首相は談話において、日韓併合の違法性や、植民地支配の無効化、従軍慰安婦問題、強制連行した韓国人労働者に対する賠償問題など、韓国がはっきりさせたい問題に何も触れなかった」など、談話に対する厳しい論評を掲載した。

  また、北朝鮮でも、平壌で12日に開催された「日軍慰安婦および強制連行による被害者対策委員会」において、「日本は歴史を清算し、過去に犯した罪に対する謝罪と賠償を行うべき」との公開書簡が発表され、談話の内容を不十分とする声が上がっていると伝えた。

  同紙はこのほか、日本国内においても、政治家や政治ジャーナリストらを中心に、菅首相の談話を「後ろ向き」、「談話のタイミングが唐突すぎる」、「ひとつの国に何回も謝罪する国がほかにあるだろうか」、「謝罪外交」などとする酷評があることにも触れ、談話における関係国や周辺国での評価の低さを示した。(編集担当:金田知子)

http://news.searchina.ne.jp/disp.cgi?y=2010&d=0813&f=politics_0813_005.shtml

 さっそく北朝鮮でも「日本は歴史を清算し、過去に犯した罪に対する謝罪と賠償を行うべき」と談話の内容を不十分とする声が上がっていると伝えています。

 中国人民も黙ってはいません、11日付けレコードチャイナ記事から。

なぜ韓国だけ?「菅談話」、「中国にも謝罪を」の世論を誘発

2010年8月10日、中国紙・環球時報(電子版)は、菅直人首相が日韓併合100年に伴い「韓国に対する植民地支配を謝罪する」談話を発表した件で、これに対する中国ネットユーザーの反応を日本メディアが注目していると報じた。

菅首相は10日午前、韓国に対する植民地支配への謝罪と当時日本に渡った文化財の引き渡しなどを盛り込んだ談話を発表、このニュースは中国でも同日正午あたりからインターネットニュースで報じられた。

記事によれば、日本の大手ポータルサイトが「菅談話」に対する中国ユーザーの反応を紹介したが、多くは「中国にも同様に謝罪し、奪った文化財を返すべき」といったもの。これに対し、記事は、菅首相の韓国への謝罪はかえって中国人の愛国感情に火をつける結果となったと指摘した。

中国ユーザーからはこのほか、「『菅談話』の真の目的は韓国を丸めこみ、台頭する中国に対抗することにある」「中国はもっと強硬な姿勢を取るべき。そうすれば、日本が謝ってくる」「今や韓国は米国の半植民地。日本が謝る必要はない」との声が上がっていた。(翻訳・編集/NN)
2010-08-11 11:34:00 配信
http://www.recordchina.co.jp/group.php?groupid=44486

 「中国はもっと強硬な姿勢を取るべき。そうすれば、日本が謝ってくる」(中国ユーザー)という痛い指摘もあったようですが、日本の戦争被害は朝鮮だけじゃないだろと、こちらもオカンムリであります。

 まあこれは中国政府の公式見解ではなくネットユーザーの反応なのでありますが、一方こちらは政府の公式見解も含まれています、13日付けレコードチャイナ記事から。

中華民国」にも謝罪しろ!「菅談話」に台湾でも不満の声―仏メディア

2010年08月13日09時00分 / 提供:Record China

2010年8月12日、台湾外務省の陳銘政(チェン・ミンジョン)報道官は、菅直人首相が日韓併合100年に伴い「韓国に対する植民地支配を謝罪する」談話を発表した件について、「『中華民国』および第2次世界大戦に日本の迫害を受けたすべての国に謝罪すべきだ」と述べた。仏国営ラジオ局ラジオ・フランス・インターナショナル(RFI)の報道として中国紙・環球時報(電子版)が伝えた。

陳報道官は「菅談話」について、「日本の第2次世界大戦に対する反省であり、地域の平和と安全維持にとって非常に重要な効果をもたらす」と評価したものの、「日本に本当に誠意があるのなら、『中華民国』および大戦中に日本の迫害を受けたすべての国に謝罪すべきだ」と述べた。

報道によれば、台湾ではこれ以外にも日本の首相による謝罪が韓国にのみ向けられたことに不満を表す声が多い。「日本に植民地にされたのは韓国だけではない、なぜ『中華民国』に謝らない?」「すべての国に謝らなければ、日本の誠意や善意は感じられない」と言った声が水面下で高まっているという。

記事によれば、日清戦争後の1895年に調印された日清講和条約下関条約)で、清朝が領有していた遼東半島(中国遼寧省)、台湾全島、澎湖諸島の主権を永遠に日本に割与することなどが定められ、台湾は1945年まで日本の植民地支配を受けた。(翻訳・編集/NN)

http://news.livedoor.com/article/detail/4943596/

 うーむ、「日本に本当に誠意があるのなら、『中華民国』および大戦中に日本の迫害を受けたすべての国に謝罪すべきだ」(台湾外務省報道官)ですか、なにやら予想通りではありますが、その真摯な意図とは裏腹に今回の菅談話、「こっちにも謝罪しろ」との謝罪要求のドミノ倒し現象を招いてしまっているようであります。

 ・・・

 ふう。

 なんでこうなるんだろう。

 せっかく謝罪しても国内からも少なからず批判され、肝心の韓国からもその内容を評価されず、北朝鮮や台湾や中国からは「こっちへの謝罪はどうした」と要求を受けてしまった今回の菅談話なのであります。

 こうして見ると評価しているのは産経を除く日本の大新聞社説だけか・・・

 「謝る行為」そのものがダメなのか、「謝り方」に問題があるのか、よくわかりませんが、あわれ、今回の菅談話、四面楚歌、「総スカン」(中国メディア)の様相を呈しています、積極的に評価するのは日本の大新聞社説だけなのであります。

 いったい何のための誰のための「談話」だったのか、これでは自己満足のそしりは免れませんでしょう。

 憂鬱な話であります。



(木走まさみず)