「選挙はだまされる方が悪い」(産経記事)という主張を認めていいのか?
25日付け産経新聞から。
選挙はだまされる方が悪い 政治部長・乾正人
2010.6.25 03:54世の中にうまい話などない。
たとえば、「徳川幕府が明治維新のどさくさで隠した埋蔵金のありかがわかった。発掘費用の一部を投資してもらえば年利30%つけて償還する」という電話がかかってきたとしよう。みなさんは、すぐ電話を切るか警察に通報するはずだ。民主党が昨夏の衆院選で掲げたマニフェスト(政権公約)も「徳川埋蔵金」のたぐいだった。
廃止すると高らかに宣言したガソリン税の暫定税率は、小沢一郎幹事長(当時)の鶴の一声で維持され、高速道路の無料化も通行量の少ないごく一部の路線で実施されるだけ。1カ月2万6千円の子ども手当も半額は支給されたが、残りは「上積みする」(参院選向けのマニフェスト)とは言うものの、不履行に終わるのは確実だ。(後略)
http://sankei.jp.msn.com/politics/election/100625/elc1006250354003-n1.htm
「選挙はだまされる方が悪い」ですか。
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私のクライアントである東京に本社を構える電気器具メーカーでのミーティングでのこと。
「弱ってます、社長厳命の85%確保が厳しくって・・・」
この会社では製造は中国の子会社に委託、受注状況に応じて国内倉庫にコンテナで商品を入荷しているのですが、担当者が困っているのは、40フィートコンテナの積載率のことであります。
40フィートコンテナ一台船済みで中国から日本に送るにも当然ながら高額の輸送費が掛かります、どこもそうですが当然ながら商品を積み込むだけ積み込んで1商品当たりの輸送費を軽減しなければなりません、損益を考えてこの会社では積載率を90%目標にしているのですが、昨今の不況です、満足に商品を満たすことが難しく社長勅命の85%とすらキープできない、そのような担当者の嘆きなのであります。
小さいながらメーカーであるこの会社の顧客は消費者直販は無く、すべて卸し業者や大手スーパーが相手ですが、ここ数年、単価はギリギリまで押さえつけられており、利ざやは極めて薄くなっており、コンテナ輸送費によっては損益分岐を割ってしまう状態になっています、経営陣がコンテナ積載率にまで口を挟む理由がそこにはあるわけです。
日経新聞記事などで経済指標が上向きになった記事などが散見されています、確かに年率換算で成長率2%代まで回復してきた数字などがメディアでは報じられていますが、そのような景気回復感に浸れるのは大企業だけです、この国の法人の8割を占め日本経済を底辺で支えている中小零細企業の景況感は、いまだ厳冬のままです。
電気器具メーカーのミーティングを終え、私はその足で別のクライアントの事務所へ向かいました。
食堂を経営していたその会社は、現在少しでも売り上げをの伸ばそうと、昼間オフィス街で弁当販売を始めています。
「ここは280円で勝負してみよう」
彼らが弁当を販売している東京城北地区・池袋周辺では、昨年から「300円弁当」戦争が勃発しています。
この会社でも300円弁当を販売して売り上げを立ててきましたが、3ヶ月前、ライバルが290円弁当を販売、ついに200円台のサバイバル競争になってしまいました。
原価を維持できるのか、この会社では300円ですらすでに日によっては損益分岐を割っていたのですが、社長は専務(奥さん)の言葉に押されるように「280円」という新価格を決めました。
「300円も290円もこうなったら同じでしょ、我慢比べに負けたらダメ」
まさにチキンレースの様相であります。
その事務所で経営者ご夫妻と雑談をしていたところ、横のTVで記者クラブ主催の党首会見が報道されていました。
「10%ねえ・・・どこの国の話何だか・・・」
ご主人のTVを見るそのまなざしは憔悴しきっているようでした。
290円弁当をさらに10円値下げする決断をしたこの零細企業ですが、当然ながらこの地区の弁当はすべて内税扱いです、消費税を取っている弁当屋さんは一件もありません、そんな間の抜けた商売では生き残れないのです。
消費税が値上げされても価格に転嫁などできうるはずもありません。
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民主党政権の消費税10%表明ですが、多くの中小零細企業にとってこれはあまりに突然の仕打ちであります。
この日本の異常に続くデフレ経済の元で、消費税を上げた場合の影響を、永田町の住人達は真剣に考えているのでしょうか。
中小零細企業主を含めて多くの庶民は増税そのものに理解がないわけではありません。
しかし、物事には手順というものがあります。
民主党は、4年間消費税率のアップはおこなわないと約束して選挙に勝ちました。
増税の前にすべきことがある、景気の自律的回復と国民が納得できる行政改革の成果をまず挙げると約束したのです。
「消費税を4年間は上げない」とし、税金の無駄使いを根絶することを約束したのです。
菅首相も、昨年財務相に就任した当時、無駄使いは「逆立ちしても鼻血も出ないほど絞り取る」と喝破していたのです。
しかし、行政改革はほんの入り口に立っただけで、本格的に着手されたとも言えますまい。
これでどう庶民が納得するのでしょうか。
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「選挙はだまされる方が悪い」と主張する産経新聞記事を乾正人政治部長はこう結んでいます。
うまい話がないように、満点の政党などない、と断言できる。参院選ではどの政党や候補者がよりましか、読者の皆さんには「ベター」な選択をお願いしたい。その際、小紙がだまされないためのお手伝いをできれば幸いである。
確かにうまい話がないように、「選挙はだまされる方が悪い」面もあるのでしょう、しかしそれも程度の問題です。
政策の柱として、消費税を4年間は上げないとし税金の無駄使いを根絶することが先であると約束した政党が、投票後1年も立たないうちに、完全に180度方向転換してしまいそれを信じて投票した有権者を結果としてだましたことになります、それを「選挙はだまされる方が悪い」と有権者に非を求めるならば、代議員制間接民主主義を取る日本の民主主義は崩壊してしまいます、この先有権者は政党のマニフェストを信じることはできなくなります。
「有権者」を悪いと言い切る論調にはとても違和感があります。
(木走まさみず)