木走日記

場末の時事評論

鳩山首相と赤松農水大臣から世襲政治家問題を考える

 22日付け産経新聞記事から。

口蹄疫】早期解決を指示 鳩山首相、農相に
2010.5.22 17:23

 赤松広隆農相は22日、鳩山由紀夫首相と公邸で会い、宮崎県で発生した家畜伝染病、口蹄疫の拡大阻止のため、殺処分を前提に豚や牛へのワクチン接種を始めたと報告した。同席した小川勝也首相補佐官によると、鳩山首相は「スピード感が大事だから県や地元のみなさんと協力して、しっかり仕事をしてくれ」と述べ、問題の早期解決を指示した。
 接種対象は、同県川南町などを中心に発生地点から半径10キロ圏内の豚や牛全頭。農林水産省は計16万頭程度に上るとしている。

http://sankei.jp.msn.com/politics/policy/100522/plc1005221724008-n1.htm

 普天間問題で自ら期限を切った「五月末決着」の期限ぎりぎりになってドタバタと沖縄再訪して地元の怒号と顰蹙を買っただけの鳩山首相です、そんなことなら昨年のうちから真摯に地元に足を運んでおくべきだったのは自明なことですが、そんな鳩山氏がいまさら
赤松広隆農相に「スピード感が大事だから県や地元のみなさんと協力して、しっかり仕事をしてくれ」と指示するとは、これはブラックなジョークとしか国民には映らないでしょう。

 だいたい赤松広隆農相にしても、口蹄疫が宮崎県で発症した事実を知りながらゴールデンウィークに呑気に外遊して大批判を浴びています、彼が地元宮崎県入りしたのは、なんと第1例が発症してから3週間後にあたる5月10日であります。

 その席でも、東国原英夫知事に「(殺処分の補償を)全額、国と県で面倒見るから」と上から目線で見得を切っているわけですが、何度か記者会見を見るにどうにもこの大臣、自己弁護や責任回避には多弁ですが本当に地元民の意向を大事に思っているとは思えません。

 赤松広隆農相と鳩山由紀夫首相、問題は異なりますが政治家としてのその達振る舞いの稚拙さは通底しております、地元民のことより自己弁護や責任回避に多弁とうつる赤松氏の姿は、自己のメンツのために日米の合意が第一で、地元の意向は二の次でいい、そんなふうにしか見えない鳩山首相の今回の沖縄再訪と完全にだぶるのです。

 ・・・

 この二人には「世襲」政治家という共通点があります。

 ご承知の通り鳩山首相は4代続く政治一族であり祖父は鳩山一郎元首相という名門の出なのでありますが、赤松広隆農相も知る人ぞ知る衆議院議員日本社会党の副委員長だった赤松勇氏の長男であります。



 今回はこの政治家の「世襲」問題を取り上げます。



■3人に一人が世襲議員である衆議院議員の異様さ

 世襲政治家だからダメという決め付けは何も根拠がないわけですが、それにしても日本政界の世襲政治家達の多さはやはり大問題といえましょう。

 世襲政治家の問題を論じると必ず「世襲議員の中にも優秀な人はいる」という愚にもつかぬ反論が出るわけですが、そんなことは「日本人は勤勉だが中には犯罪者もいる」論と同列の話であり、事実を検証して数字をあげてこの日本の政界で起こっている現象がいかに歪んだ状況なのか、その総体で議論しなければ意味はありません。

 なぜこんなにも日本の政界には世襲政治家が増えてしまったのでしょうか。

 国会議員に絞って議論を進めてみましょう。

 公職選挙法4条によれば、衆議院は480人(小選挙区300人・比例代表180人)、参議院は242人(選挙区146人・比例代表96人)、現在日本には724人の国会議員がおるわけです。

 言うまでもなく彼らは選挙で国民から選ばれた「選良」なのであり、この国の政治的指導層であります。

 総務省統計局の人口推計月報【平成22年5月1日現在概算値】によればこの国の人口は1億2736万人とあります。

人 口 推 計 月 報
平 成 22 年 5 月
http://www.stat.go.jp/data/jinsui/pdf/201005.pdf

 国会議員は1億2736万人から選ばれし「724人」の政治エリートなわけで、単純にわり算すれば、17万6000人の中から一人の割合で選ばれた優秀な人材であるべきと言うことです。

 世襲議員の定義を「世襲議員の対象範囲:その議員と配偶者の三親等以内に国会議員、地方議員、地方首長のいずれかを経験した者がいる」とした場合の昨年の現役衆議院議員世襲率を計算しているサイトがありますので、参考までにそのサイトのデータをご紹介しましょう。

・現役衆議院議員

全議員数 世襲議員 世襲
自民党 304人 124人 40.8%
公明党 31人 2人 6.5%
民主党 113人 26人 23.0%
共産党 9人 1人 11.1%
社民党 7人 0人 0.0%
その他 16人 9人 56.3%
総合計 480人 162人 33.8%

陽月秘話
国会議員の世襲比率
http://imogayu.blogspot.com/2009/03/blog-post_21.html

 驚くべきことに全衆議院議員480人中162人33.8%、つまり3人に一人が世襲議員であるということです。

 自民党にいたっては40.8%であります。

 この数字は統計科学的にはいかにもおかしいことは自明でしょう。

 17万6000人の中から一人の割合で選ばれた優秀な人材であるべき「選良」の3人が一人が世襲であるという事実は、「政治家」という要職が本来それにふさわしい優秀な人材を選択するメカニズムである「選挙」がうまく機能せず、政治を代々「職業」とする「政治屋」のような層が生じ始めている証左とも言えましょう。 



■ほぼ同じ母数でも世襲現象がほとんど起こらないプロアスリートの世界

 分子分母がほぼ同じであるプロ野球選手というアスリートと比較してみましょう。

 現在日本にはセパ合わせて12球団がありますが1球団が支配下登録できる選手は最大70人です。

支配下登録
出典: フリー百科事典『ウィキペディアWikipedia)』
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%94%AF%E9%85%8D%E4%B8%8B%E7%99%BB%E9%8C%B2

 つまり日本のプロ野球選手は最大70人*12チーム=840名枠と考えることができましょう。

 日本国1億2736万人の中からスポーツエリートとして選び抜かれたプロ野球選手は、分子分母の割合は国会議員と同様の「非常に厳しき門」であると言えます。

 彼らは例外なく幼少期から野球を始めたもの達であり、高校野球大学野球や社会人野球という厳しい競争の中で淘汰されプロ野球選手として生き残ったまさに「アスリート」中の「アスリート」なわけです。

 現在プロ野球選手登録している800人の中で一体何人が「その選手と配偶者の三親等以内にプロ野球選手」がいる「世襲選手」(?)でありましょう。

 ちゃんとした統計資料があるわけではありませんが私はプロ野球にはうといのですがほとんどいないのではないでしょうか、すくなくとも衆議院議員のような3人に一人というありえない割合でないことは明白です。

 もちろん、長島親子や野村親子のような例外はありますが、失礼ながらこの2例でも父はスーパープレイヤーでしたが、息子さんのほうは選手としてはパッとしませんでした。

 プロスポーツの世界で世襲現象があまりみられないのはこれは競争原理が正しく機能しているからであり、つまり親がプロ野球選手であることはその厳しい競争の前ではほとんど何のメリットでもないことを意味しています。

 ・・・



■「親の後を継ぐ」ものにアドバンテージが働くならばそのグループが劣化するのは必然

 世襲議員の問題は、いきつくところ国会議員の地位を、立派な「政治家」(Statesman)からただの「政治屋」(Politician)におとしめていくことになりましょう。

 国会議員の3人に一人とか4人に一人とかの異常な割合で世襲議員が発生していると言うことは、世襲議員の優秀さと捉えるのはナンセンスであり、選挙の時に世襲である候補者になんらかの強いアドバンテージが働いている結果であると考えるのが普通です。

 本来能力本意で抽出すべきエリート層なのに、抽出段階で「親の後を継ぐ」ものにアドバンテージが働くならば、そのエリート層が劣化するのは必然です。

 そしてそれは老舗の食堂とか代々の酒蔵とか封建時代の農民とか親の後を継ぐのが当然の職業と変わりなくなる、政治エリートの性質の変質を招くわけです、「政治家」(Statesman)よりも「政治屋」(Politician)が幅を利かせるようになります。

 この国の世襲議員の問題点は根が深いです、単に「親の後を継ぐ」ものにアドバンテージが働くのが選挙だけではないからです、数の力で政局を動かすのにも世襲政治家は能力以上のアドバンテージを発揮して跋扈しています。

 現民主党政権鳩山首相小沢幹事長だけでなく、みんな党の渡辺代表、自民党の谷垣総裁、おしなべて世襲議員です。

 さらにここ14年のこの国の内閣総理大臣の顔ぶれを省みれば、九代前の村山富市(漁師の家の11人兄弟の6男)を最後に、橋本、小渕、森、小泉、安倍、福田、麻生、現鳩山内閣と、実に八代14年も「世襲」総理大臣が続いているわけです。

 ・・・

 鳩山首相や赤松農水大臣の問題は当然ながら政治家としての個々人の資質に由来するところで議論されるべきでしょう。

 しかしこれを日本政治そのものの劣化と捉えるのならば、私は党派に関係なくの世襲政治家が跋扈している現状から変えていかなければいけないと考えます。

 「親の後を継ぐ」ものに能力に関係なくアドバンテージが働くならばそのグループが劣化するのは必然です。

 私企業ならばそれも勝手ですが立法機関国会が劣化するのは国家・国民にとり不幸であります。



(木走まさみず)