木走日記

場末の時事評論

「坂本龍馬」になれない鳩山邦夫氏の残念〜リーダーの人望の有無は「口」ではなく「背中」が生み出すもの

 17日付け朝日新聞電子版記事から。

孤立感漂う鳩山邦夫氏 頼みの平沼氏も反応今ひとつ

2010年3月17日8時30分

 自民党に離党届を提出した鳩山邦夫総務相は16日、無所属の平沼赳夫経済産業相との連携に意欲を示した。ただ、平沼氏をはじめ、頼みとする与謝野馨財務相舛添要一厚生労働相の反応は芳しくなく、新党結成を目指す鳩山氏には孤立感も漂っている。

 鳩山氏はこの日朝、「日本はこのままでは奈落の底に行く。平沼氏とは8割方は一致している」と強調。衆院本会議場で鳩山氏と話した平沼氏は記者団に、「機会があったらお会いしてもいいが、約束はしていない」と述べるにとどめた。

 鳩山氏との会談について16日朝、「話を聞いてみたい」と積極姿勢を見せた与謝野氏。昼の衆院本会議場で鳩山氏から再三話しかけられたものの、結局、あらたまった会談は開かれずじまい。与謝野氏周辺は「鳩山氏はしゃべりすぎる」と警戒。与謝野氏の変化に鳩山氏は「ちょっとよくわからない」と戸惑いを見せた。

 また、舛添氏も国会内で記者団に「何も決めていない。新党が目的ではない。あらゆる選択肢があり、状況をみて判断する。政治は生き物だ」と語った。

 一方、自民党内では鳩山氏への厳しい声が相次いだ。同日の役員会などでは「母親からの献金疑惑が浮上した時に厳しく対処しておくべきだった」と、鳩山氏への追及ムードも強まった。参院の若手議員からは「証人喚問を要求する」との意見も出た。

 小泉進次郎衆院議員は記者団に「1人抜けたとか、支持率がいくつとかに一喜一憂しているヒマはない。谷垣(禎一)総裁の苦しみは党がよりよくなるための産みの苦しみ。一生懸命支える」と、新党騒ぎと距離を置く姿勢を鮮明にした。

 鳩山氏に対する党内の空気について、谷川秀善参院幹事長は記者会見でこう皮肉った。「鳩山さんは渡り鳥みたいなもん。ちょっと季節外れに飛び立ったなあと心配しとります」

http://www.asahi.com/politics/update/0317/TKY201003170112.html

 うむ、与謝野氏グループからも「鳩山氏はしゃべりすぎる」と警戒され、舛添氏グループからも「新党が目的ではない」と突き放され、無所属の平沼グループからも会合を持つことさえ「約束はしていない」と冷たくあしらわれている鳩山邦夫氏なのであります。

 ご本人の「坂本龍馬になる」の意気込みも空しく、なんか孤立感漂ってしまっている鳩山弟さんなのであります。

 つくづく人望のないお人なんですな・・・

 ふう。

 人望とは文字通り人が望むものでありご当人がいかにご自身を「坂本龍馬」に喩えようともそんなものは何の意味をもなさないのであります、ここ一番で重要なのはそんな独りよがりの自己評価ではなくあくまでも他者評価であります。

 大志をいだき人が行動を起こすとき、一番重要なのは、回りの人がその人の人格と行動をどう評価するか、この人となら一緒に行動をしていきたい、オーバーな表現を持ち出せば「この人ならば人生を預けたい」と何人が思うか、ここがポイントなのであります。

 ・・・

 本業で不肖・木走は経営コンサルをさせていただいております、また各種経営者セミナーの講師などもさせていただいておりまして、中小企業の経営者の相談事を数多く聞かせていただく立場にあります。

 で、相談の定番のひとつが「私は社員に人望がない」という悩み事であります。

 おもしろいなあと思うのはこの悩みを相談する社長さん達には一つの傾向があるようで、いわゆる社名に創業者の名字が含まれるようなオーナー企業の2代目、3代目社長が多いのであります。

 彼らには共通の悩みがあります、いわゆるたたきあげで創業したカリスマ性を有する先代に何かに付け比較され、「苦労知らず」、「ぼんぼん」などの偏見に日々悩んでいるという図式であります。

 彼らは例外なく自らの人望の無さを自分の出自つまり「創業者の子」とか「オーナー一族」であることを理由にします。

 私はそのような社長さんにはいつもある単純なアドバイスをして差し上げます。

 「社員の誰よりも早く出社しなさい」

 アドバイスはこれだけです。

 オーナー企業の2代目3代目社長で「私は社員に人望がない」という悩みを抱えている人たちは、ほぼ例外なく「重役出勤」しております。

 始業が9時ならば10時とかひどい例では午後出社も当たり前のようなケースも少なくありません。

 ただでさえ親が築いた会社を血筋だけで引き継いだ「ボンボン」社長という偏見を持たれているのに、そんな「苦労知らず」社長が重役出勤などをしていたら、どうして一般社員が「この人に付いていきたい」と発想できうるでしょうか。

 始業が9時ならば誰よりも早く例えば8時には出社する、この習慣を持つことをアドバイスします。

 狙いは2つです。

 ひとつは社員の持つ偏見に対するイメージチェンジ効果を狙ったものです。

 単純ですが「いつもうちの社長は誰よりも早く出社している」事実の持つ効果は絶大です。

 会社の規模にもよりましょうが、事務所が狭く社長と社員が顔を見合わせることが普通であり、社長の存在が身近である規模の零細企業ほどこの効果は大きいようです。

 で、本当の狙いは本人の意識改革です。

 ある社長さんの具体例を紹介しましょう。

 その社長さんはある老舗ブランドの3代目で典型的な「ぼんぼん」社長でありました。

 ある年の会社の忘年会で、自分の席の回りにだれも社員が座ろうとしないことに気づき、自分の社内での人望の無さに気づいたそうです。

 そこで私に相談してきたので私は「社員の誰よりも早く出社しなさい」とアドバイスしました。

 彼は素直にアドバイスを受け入れ、それまでまちまちだった出社時刻を、始業1時間前の8時とし実践しました。

 8時に出社し、自ら事務所の電気を付け、自分の席に座り、誰もいない事務所の中で一人座ります。

 当然ながら最初の頃は眠気もあるのでしょう、一人ボーっとして何することもなく座っていたそうです。

 そのうち習慣に慣れてくると彼はこの1時間が無駄になることは惜しいと考えるようになりました。

 どうせなら会社のためにこの時間を活用しよう、もともと本来はマメな性格だった彼は事務所のゴミ拾いとか清掃をするようになったのだそうです。

 で、清掃しながら会社の業務のことやこれからの経営戦略について考えます。

 一人一人の机と座席の間を清掃しながらそこに座る社員一人一人の顔を思い浮かべます。

 このようなことはそれまでの彼の生活習慣にはなかったことです。

 いつのまにか彼は朝早く会社に出社することがいきがいになり、いまでは汚れていればトイレの清掃までするようになりました。

 ここなのです。

 社員が見ているからそうしているわけではありません、また義務感からそうしているわけでもない、誰よりもこの会社を考え自ら自然に彼自身がそのような行動をしたいからしているのです。

 彼は嬉しい変化を私に報告してくれました。

 「1時間早く出社するようになって、おかげで多くの気づきがありました。誰の座席の背もたれが壊れていて気の毒だといった些細なことも気付けるようになりまして働き安い職場環境を心がけようと思うきっかけにもなりました。また、これまでの『社員の人望がない』と悩んでいた自分が実にちっぽけな存在だったことにも気づきました。経営者とは、会社のため、社員のための行動を自ら率先して実践する、それが大切なことであり、他者がどう評価するかは副次的なことにすぎないことが理解できました」

 素晴らしいと思いました。

 「人望がない」と悩んでいるリーダーは自らを評価するモノサシを他人に依存しすぎている傾向にあります。

 そこで「どうすれば人望を得ることができるか」、他人評価を高めるノウハウにばかり気を取られがちです。

 しかしどんなに上辺のノウハウを身につけようとも、ご本人の甘ったるい本質が変化しなければ人などついてくるはずは無いのであります。

 自分のうち側に実践を通じてリーダーとしての厳しいモノサシを身につけるべきなのです。

 自ら実践することが必須なのであります。

 そうすればリーダーが何も語らなくとも、その背中が人を引きつけることになりましょう。

 ・・・

 鳩山邦夫氏は大物政治家が四代続く名門鳩山家の出身であります。

 政界再編を目指し新党設立を宣言し自民党を離党した彼ですが、残念ながら彼の大志につきあおうとする政治家があらわれません、孤立感漂ってしまっているのであります。

 彼の口は「坂本龍馬になる」など相変わらず多弁なのですが、その背中は無口のようであります。

 「坂本龍馬」になれない鳩山邦夫氏の残念な状況を見るに付け、リーダーの人望の有無は「口」ではなく「背中」が生み出すものであるとあらためて思うのであります。



(木走まさみず)