羽田<=>福岡便、スカイマークの激安価格1万9800円を検証してみる
15日付け朝日新聞電子版速報記事から。
2010年3月15日15時0分
スカイマークで、操縦士が飛行中の操縦室内で客室乗務員と記念撮影をしたり、管制官が指定した高度よりも高い高度で飛行したりといった安全上の問題が相次いでいることから、国土交通省は15日、同社に安全監査に入ることを決めた。監査の結果次第では、航空法に基づき行政指導をする可能性がある。同社については、機長が体調不良の客室乗務員の交代を指示したにもかかわらず、経営陣が認めず、逆に機長を交代させて運航を強行した問題もあり、国交省が厳重注意している。
http://www.asahi.com/national/update/0315/TKY201003150195.html
激安価格で黒字化に成功していたスカイマークですがここにきてトラブルが続きついに国土交通省は同社に安全監査に入ることを決定しました。
記事にもありますが主なトラブルでもこんな感じですか。
・操縦士が飛行中の操縦室内で客室乗務員と記念撮影
・管制官が指定した高度よりも高い高度で飛行
・機長が体調不良の客室乗務員の交代を指示したにもかかわらず、経営陣が認めず、逆に機長を交代させて運航を強行
うむ、航空会社なのですから安全運行は第一であります、もし格安料金価格が無理なコスト削減につながりこのようなトラブルを生む温床となってしまっているのならば、これは本末転倒、利用者にとってもゆゆしきことでありますね。
で、今回はそもそも格安料金て何で可能なのか、航空料金ってどう決まるのか、そのあたりを読者のみなさまと素人考察してみましょう。
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スカイマークの公式ページによれば東京・羽田<=>福岡間の片道普通料金は19800円(3月15日時点)であります。
SKYMARK AIRLINES ご搭乗便情報
https://www.res.skymark.co.jp/reserve2/inputDateAirline
これはJALやANAの同区間片道定価39000円の半額近くなのであります。
もっともJALやANAのチケットは各種割引制度を利用すればかなり安くなりますし、安売りチケット屋では定価39000円が25000円前後で売買されていたりもしますので、単純に定価を持って比較は難しいところもあります、またゴールデンウィークなど時期によっても変動します、が、それにしても倍近くの大差の定価とは驚きの価格とはいえましょう。
スカイマークの19800円と言えば、新幹線の東京<=>博多の片道料金22320円(指定席料金含む)よりも安いわけです。
でこの料金設定がなぜ可能なのか、考察してみましょう。
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手段としては私は完全に素人なので少々アバウトですが強引な方法で試みます。
(1)1フライト当たりの機体代金(減価償却費)
航空料金の高額な旅客機の価格の償却費をまず求め、それを1フライト当たりに割り付けてましょう。
スカイマークは所属のすべての旅客機12機を昨年9月以来、B737−800という177人定員の中型機で統一しています。
で、B737−800のお値段はこちらのサイトを参考にすれば67.65〜76.45億円とあります。
飛行機のお値段HOW MUCH?
http://blog.tabista.jp/airline/2005/10/how_much.html
スカイマークの購入価格の正確な金額は知りませんが、ここでは一機70億円と丸めておきます。
で、旅客機の減価償却期間ですが、平成20年度税制改正により、「減価償却資産の耐用年数等に関する省令」が改正され、機械及び装置を中心に、耐用年数の大幅な見直しが行われまして、10年となります。
機械及び装置の耐用年数表における新旧資産区分の対応表(PDF 230KB)
http://www.city.niihama.lg.jp/uploaded/life/2656_21151_misc.pdf
まあジャンボ機など10年以上使用してきたのもざらみたいですが、ここは潔く10年で元を取ることにしましょう。
70億円で購入した旅客機を10年で元に取る、ここは単純に毎年定額法で償却するとすると、1年7億円であります。
こうなると問題は1年間で何回フライトさせるかです。
これはスカイマークの公式サイトを調べて実際のフライト実績から割り出すしかありません。
公式サイトの以下の表から最近の月別便数を見ることができます。
運行実績
http://www.skymark.co.jp/ja/company/investor_operationfactor.html
表から第14期では月別では1782便から2046便で推移していることがわかります。
ならして月平均1900便だとしましょう。
この期間のスカイマークの保有機数は12機ですから、月30日稼働として1機につき1日当たりのフライト数・便数を概算すると、
1900便 / 30日 / 12機 = 5.27便/1日・1機
1年間で7億円償却する旅客機を、1日当たり5.27フライトで稼がせているわけです。
したがって1フライト当たりの機体代金(減価償却費)を算出すると、
7億円 / (365日 * 5.27フライト) = 36万4000円/1フライト
となります。
(2)1フライト当たりの着陸料金(羽田着の場合)
安い福岡着ではなく世界でも高い羽田着を基準に考えてみます。
羽田空港の着陸料等は、
着陸料 2,400円/トン、停留料 1800円/トンとあります。
スカイマークが保有するB737-800ですが、重量は『ウィキペディア(Wikipedia)』によれば最大離陸重量=79,010 kgとあります。
ボーイング737
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%9C%E3%83%BC%E3%82%A4%E3%83%B3%E3%82%B0737
よって、スカイマークが保有するB737-800ですが、約79.0tなので
79トン*2400円=18万9600円
これが着陸料金となります。
(3)1フライト当たりの燃料費
福岡<=>羽田の距離は566マイル約911キロであります。
札幌東京間約1000キロで10000リットル消費すると聞きましたので、100m/1リットルとして、91100リットル消費するとします。
ジェット燃料は軽油・灯油とほぼ同一料金なので、最近の軽油料金リットル100円を適用すれば、燃料費は、
91100リットル * 100円 = 91万1000円
となります。
(4)1フライト当たりの整備費
旧型のジャンボ機は年間整備費が15億円も掛かったそうです。
「ジャンボ」ボーイング747が引退 「39年間ありがとう」
http://sankei.jp.msn.com/life/trend/090731/trd0907312238014-n1.htm
B737-800の年間整備費の平均は正確には知りませんが、購入費の10分の1、年間7億円が掛かると仮定します。
当然無視できない費用ですから毎回のフライトにその費用を分割して計上しておく必要があります。
(1)で試算したとおり、スカイマークは1日当たり5.27フライトで稼がせているわけです。
したがって1フライト当たりの整備費を算出すると、
7億円 / (365日 * 5.27フライト) = 36万4000円/1フライト
となります。
(5)1フライト当たりのその他固定費(人件費等)
ここが数値化しづらいのですが一番重要な費用であります。
約1000人の社員の人件費、本社や整備場の家賃・維持費、その他広告宣伝費、これらの諸費用を1フライト当りどのように見積もっているのかがポイントになります。
幸いスカイマークは黒字ですので、東京・羽田<=>福岡線の料金19800円で少なくとも損益分岐している、赤字ではないと見なせます。
定員177人の損益分岐平均搭乗率が70%だとして、1フライト当りの平均売上高は、
177人 * 0.7 * 19800円 = 2453220円
上記(1)から(5)の費用がこの金額に一致するとすれば次の式が成り立ちます。
(1) + (2) + (3) + (4) + (5) = 2453220円
よって、
36万4千+18万9千6百+91万1千+36万4千+(5)=245万3千2百2十
これより
(5)その他固定費(人件費等)= 62万4620円
と逆算できます。
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かなり乱暴な試算を試みましたがまとめると、スカイマークが東京・羽田<=>福岡間の料金を19800円の価格で赤字にならないとすると、損益分岐搭乗率が70%と仮定して、費用を5つの分類して次のような金額を算出しました。
(1)1フライト当たりの機体代金(減価償却費)36万4000円
(2)1フライト当たりの着陸料金(羽田着の場合)18万9600円
(3)1フライト当たりの燃料費91万1000円
(4)1フライト当たりの整備費36万4000円
(5)1フライト当たりのその他固定費(人件費等)62万4620円
合計:2453220円
個々の数値はたとえば燃料費などあてずっぽうなところがありますが、この考え方自体はそんなに的をはずしてはいないと思います。
スカイマークの公表しているIR情報に以下のPDFファイルがあります。
平成22年3月期 第3四半期決算短信(非連結)
http://www.skymark.co.jp/ja/company/investor/100128_ir2.pdf
22年3月期第3四半期30,617 △4.5 2,421 ― 2,276 ― 1,811
この表によれば平成22年3月期第3四半期(3ヶ月)で、売り上げ306億17百万、経常利益22億76百万を計上しています。
経常利益22億7600万円に注目してみましょう。
この3ヶ月間で約5700便運行してますから、1便当り・1フライト当りの経常利益は
22億7600万円 / 5700便 = 約39万9200円
になります。
さきほどの私の試算で70%を損益分岐搭乗率としましたが、実際には1フライト当り約40万の利益が計上されているということは、この間のスカイマークの実績搭乗率は80%を超えていたものと推測できます。
実際、定員が少ないこともありスカイマークの搭乗率は大手に比較し高いことは1月20日付けJ−CASTニュース記事でも報じられています。
「高コスト体質」脱却戦略 日本航空はスカイマークに学べ
J-CASTニュース 01月20日19時26分
日本航空(JAL)の経営破たんばかりがクローズアップされがちな国内の航空業界だが、実は新興航空会社が意外な頑張りを見せている。特に1998年に参入したスカイマークは、業界内の需要が落ち込むなか、年末年始には大手2社とは違って乗客数を伸ばしており、2009年秋には、業績予想を上方修正すらしている。好調の理由はどこにあるのか。(後略)
http://news.biglobe.ne.jp/social/691/jc_100120_6919166427.html
この記事で注目したいのは、(1)1フライト当たりの整備費、(2)1フライト当たりのその他固定費も、スカイマークが徹底的に合理化を計っている点です。
機材は1機種だけ、人件費も半分程度
この主な理由が、効率的な航空機の運用だ。同社では、これまでボーイング767-300型機とボーイング737-800型機の2機種を使用してきたが、09年秋には767-300型機がすべて退役。09年10月からは、737-800型機のみ12機を使用している。737-800型機は燃費の面で優れている上、「1機種しか使用していない」ということは、整備、訓練コストの圧縮にもつながっている。さらに、同型機は177人乗りで、比較的小型だ。そのため、どの路線でも一定の搭乗率を期待できる、という面もある。JALが燃費の悪いボーイング747-400型やMD-90型機を多数抱え、「高コスト体質の元凶」と指摘されているのとは対照的だ。
また、人件費の面でも、スカイマークは有利なようだ。09年6月の有価証券報告書を見ると、日本航空インターナショナルの場合、地上職員(平均年齢44.3歳)の平均年収が676万4000円、パイロット(同43.7歳)が1834万4000円、客室乗務員(同36.1歳)が588万7000円。これに対して、スカイマークは、地上職員(平均年齢31.33歳)の平均年収が372万円、パイロット(同37.4歳)が638万円、客室乗務員(同27.26歳)が273万4000円。倍近い差があることが分かる。労組についてもJALは多数の労組が経営の「足かせ」になっているのは有名な一方、スカイマークの資料には「一部の職種で結成されておりましたが、現在はその存在の確認がとれません」とある。人事面で身軽な分、高収益体質に繋がっている面もありそうだ。
機種をすべて統一して整備、訓練コストの圧縮を徹底していることがわかります。
また、パイロットの人件費だけ注目してもJAL1834万4000円に対しスカイマークは638万円と実に3分の1まで落としています。
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JALなどが39000円の定価の路線で19800円と半額近くの定価を設定してしかも黒字を維持しているのは並みの努力でできることではありません。
私はこれまでスカイマークを評価してきました。
しかしながら今回の安全管理のトラブルは論外です。
破産し数千億の税金を投入したJALの高給・高経費体質は徹底的に改められなければならないですが、逆にスカイマークの場合、安全管理トラブルまで続発しているということは行き過ぎたコスト削減が安全面でマイナスに出たということなのでしょうか。
まったく遺憾としかいえません。
スカイマークは真摯に国土交通省の監査を受け徹底的な情報開示と説明責任を果たし、安全管理体制に不備があれば徹底的に見直すべきです。
ずさんな放漫経営のJAL倒産の影で、今度はブラック企業としてレッテルを貼られようとしているスカイマークなのであります。
機種の統一や搭乗率の向上などなど評価されるべき経営指針も多かっただけに残念であります。
(木走まさみず)