木走日記

場末の時事評論

中国政府の愚かで無駄なネット検閲〜パケットに国境などないのに

 今日のインターネットの世界的普及は20年前には誰も想像していなかったことであります。

 インターネット普及の立て役者のひとつは間違いなくその通信規約であるTCP/IPプロトコルの優れた特徴でありましょう、情報をちぎって送信するパケット通信というアイディアと、各パケットが蜘蛛の巣のように張り巡らされた(それまで基幹局を有したものとは発想を異なる)中心のないネットワーク上を自ら経路制御しながら縦横無尽に駆けめぐる事によって、まさに"World Wide Web"つまり世界的規模の蜘蛛の巣ネットワークを可能にしたわけです。

 インターネットには中心はなく今この瞬間にもその網の目は増殖し続け参加ノードは増え続けていることでしょう。

 おかげで当初まず問題はないだろうと2の32乗個(約43億)も用意されていたIPアドレスと呼ばれる参加ノードに割り当てられる番号が枯渇しつつあるという悩ましい問題も発生しているわけですが。

 もうひとつ優れた点は経済面ですね、インターネット上を駆けめぐるパケットには、国境を越えても関税も掛からないし、しようと思えば日本からアメリカのサイトにも瞬時にアクセスできるわけですね、時間精算の国際電話や距離による料金体系が普通の国際郵便に比較しても、パケット量による課金は、料金体系から時間や距離の概念を事実上無くしたわけです、遙かに安く済むわけです。

 パケットには国境はないのであります。

 が、しかし。

 13日付けチャイナプレス記事から。

Google:中国事業からの撤退を示唆

2010年1月12日、Googleは同社が提供する電子メール(Gメール)サービスが大規模なサーバー攻撃を受けたため、中国事業から撤退する可能性を示した。
Googleによれば、昨年12月中旬より、中国国内から同社の電子メールシステムが高度に組織化されたサイバー攻撃を受け、人権活動家のメールアカウントが不正アクセスされたとのこと。
Googleはこれまで検索結果への一部フィルタリングなどに同意していたが、今回の事件を受け、中国政府との話し合いにも臨む意向であるという。
また、GoogleはWeb上の言論の自由についても言及、同社デビッド・ドラモンドCLOは「中国事業所閉鎖の可能性もある」とし、中国からの撤退も辞さない考えを明らかにした。
なお、Googleは攻撃の発生元は中国国内であるとする一方で、攻撃の発生源として中国政府を挙げていない。
(China Press 2010:KM)

http://www.chinapress.jp/it/19726/

 検索世界最大手グーグルが中国事業からの撤退を示唆するとした穏やかならぬ記事であります。

 「昨年12月中旬より、中国国内から同社の電子メールシステムが高度に組織化されたサイバー攻撃を受け、人権活動家のメールアカウントが不正アクセスされた」ことが直接の理由とありますが、「Googleは攻撃の発生元は中国国内であるとする一方で、攻撃の発生源として中国政府を挙げていない」とはあるものの、実際はグーグルとして「高度に組織化されたサイバー攻撃」と中国政府とのなんらかの関わりをも疑念するような不信感が募っていたわけです。

 そもそも中国政府は、中国内検索最王手の百度(バイドウ)やグーグルなどに、一部検索結果の検閲に「協力する」ことをなかば強制してきました。

 そのため同社はインターネットの制限に反対する人権団体やウェブ業界の幹部から激しく批判されてきた経緯があります。

 ビジネスのために中国政府に妥協を重ねてきたグーグルが中国市場からの撤退まで示唆するのは、今回の調査でこの犯罪的行為に中国政府の何らかの関与を示す直接的か間接的な証拠を得たのかも知れません。

 今回はよほど確信があるのだと思われます。

 ウォール・ストリート・ジャーナル日本版の13日記事では、グーグルの最高法務責任者(CLO)であるデビット・ドラモンド氏自らが「中国のグーグルサイトの閉鎖、さらには事務所の閉鎖に至る可能性もある」との声明を出したことを報じています。

 記事の該当部分を抜粋。

米グーグル、検閲めぐり中国当局に反旗
2010年 1月 13日 16:01 JST

 (前略)

 ある消息筋によると、グーグルの調査は、サイバー攻撃が中国政府や諜報部局と関係があるかどうかを明らかにすることが目的だったという。同筋は、米国家安全保障局などもサイバー攻撃に関心を示しているとしている。

 グーグルは、昨年12月半ばに判明した今回のサイバー攻撃について、中国の人権活動家のGメール・アカウントにアクセスすることが目的だったとみている。グーグルのスポークスマンは、他に影響を受けた企業については明らかにせず、同社はそれらの企業に通知を行っている過程であり、米当局と協力していると述べるにとどめた。

 グーグルの中国撤退は、世界で最も重要な市場のひとつである中国市場を欧米企業が拒否するという極めて珍しい事例といえる。撤退の可能性を示唆するだけでも中国当局を刺激する可能性が高い。

 グーグルは数週間中に中国政府との話し合いに臨む意向。欧米のウェブサイトが中国展開するうえで長年の頭痛の種である検閲を受けることなくサービスの提供を継続できるかどうかを話し合う。グーグルの最高法務責任者(CLO)であるデビット・ドラモンド氏は、12日にグーグルのブログ上で公表された声明で、「われわれは、グーグルでの検索結果に対する(中国当局の)検閲をこれ以上容認しないことを決定した。これによって中国のグーグルサイトの閉鎖、さらには事務所の閉鎖に至る可能性もあると認識している」と述べた。

 (後略)

http://jp.wsj.com/World/China/node_21759

 うむ、この中国政府VSグーグルの軋轢(あつれき)でありますが、短期的にはともかく、中長期的にはネットで検閲を維持し続けようとする中国政府に勝算はほぼゼロであると私は断言できます。

 TCP/IPプロトコルの優れた特徴である自由で柔軟なパケットの経路制御は、インターネットという蜘蛛の巣ネットワークから事実上国境を無くしています。

 検索会社の協力で検閲をいかに強化したところで、ネットから反中国政府的言論を完全に封印することなどそもそも不可能ですし、世界中のすべての情報発信をそのパケットを検閲することなども物理的に不可能なのであります。

 ・・・

 インターネットにおける検閲を維持しようとあがく中国政府のこの一連の政策は、私には風車に立ち向かうドンキホーテのようにも見えてしまいます。

 そもそも完全な勝利などありえませんでしょう。

 ネット検閲などで無駄な言論弾圧するぐらいなら、そもそも政府批判にも耐え得るような民主化を進めるべきでしょう。



(木走まさみず)