木走日記

場末の時事評論

米国政府が厳しく中国を非難する中、共産国家中国に何も言えない鳩山チキン政権

 今回は、なぜか日本ではあまり大きく報道されていない、しかし極めて重要な中国の裁判について取り上げたいです。

 中国情報局サーチナニュース25日付け記事から。

中国:反体制作家に政権転覆煽動罪を適用、「懲役11年」の判決

  新浪香港などによると、北京市中級人民法院(裁判所)は25日、反体制作家の劉暁波氏に対して、共産党独裁を批判し三権分立を求めた「08憲章」を起草したことが「国家政権転覆煽動罪」の適用対象に相当するとして、懲役11年、政治権利剥奪(はくだつ)2年の判決を言い渡した。

  「08憲章」は、中国人学者や作家など303人の連名で、2008年12月9日にインターネット上で発表された。文書日付は12月10日で、国連の人権宣言60周年に合わせたとされている。

  同憲章は、「中国で個人の経済の自由と社会的権利も部分的に回復した」と評価する一方で、憲法に盛りこまれた「人権の尊重と保障」などは「紙の上にとどまっている状態」と批判。◆民主的立法と司法の独立など三権分立◆民意反映の最高機関である人権委員会の設立◆公職選挙制の採用◆戸籍制度改革による都市と農村の差別撤廃◆結社・集会・言論・宗教の自由◆財産保護、創業の自由と行政による業界独占の撤廃――などを求めた。

(後略)

http://news.searchina.ne.jp/disp.cgi?y=2009&d=1225&f=politics_1225_009.shtml

 一党独裁共産党政府の「言論の自由」の限界なでしょう。

 反体制作家の劉暁波氏が、共産党独裁を批判し三権分立を求めた「08憲章」を起草したことで「国家政権転覆煽動罪」懲役11年、政治権利剥奪(はくだつ)2年の実刑判決が言い渡されたわけです。

 まず平和的手段でネットで共産党独裁批判した文書を公表しただけで「国家政権転覆煽動罪」なる時代錯誤な「罪」による11年という重刑を課すこのこと自体、いかに中国当局が1989年の天安門事件のリーダー格の一人で、人権活動家たちに強い影響力を持つ劉氏を見せしめにすることにこだわりがあるかが理解できます。

 民主化運動全体を封じ込める意図があることが推測されます。

 この裁判では現在の中国に「言論の自由」などまったく保証されていないことを世界に改めて示したと言えますが、「言論の自由」の他に「報道の自由」もまったく保証されていないことが計らずして海外メディアからの報道で明らかになります。

 例えば27日付け朝日新聞記事。

民主化運動の封じ込め、鮮明に 中国、作家に重い量刑
2009年12月27日10時42分
http://www.asahi.com/international/update/1227/TKY200912270078.html
http://www.asahi.com/international/update/1227/TKY200912270078_01.html

 この記事によれば、当局は外国メディアの取材も厳しく制限、また国営新華社通信は中国国内向けには本件をいっさい報道しておらず、逆にネット上の劉氏に関する記事やブログを削除しているようです。

 当局は外国メディアの取材も制限。朝日新聞は23日の初公判と25日の判決の傍聴を申請したが、拒否された。裁判所の一角に臨時に設けられた「取材区」から出られず、裁判所では傍聴した家族や弁護士にも接触できなかった。米国などの大使館員も傍聴を求めたが、いずれも認められなかった。

 その一方で新華社通信は25日、「裁判は一般にも公開しており、被告の権利は守られている」とする記事を英文だけで配信し、裁判の正当性をアピールした。社会の不安定化につながらないよう国内向けには報道しておらず、ネット上の劉氏に関する記事やブログは削除されている。

     ◇

 〈08憲章〉 2008年末に学者や弁護士らがネット上で一党独裁の見直しや三権分立のほか、共産党に属している軍の国有化や言論の自由を求めた。まもなく閉鎖されたが、転載され続け、署名数は1万人に達している。

 海外向け英文では「裁判は一般にも公開しており、被告の権利は守られている」(新華社通信)などと詭弁を弄しているようですが、本件に関心がある米国は大使館員傍聴を求めたにもかかわらず認められませんでした。

 米国政府は厳しく中国を非難します。

 25日付け産経新聞記事から。 

 米国、国際規約違反と中国を非難 反体制作家への判決
2009.12.25 13:38

 米国務省は24日、中国で国家政権転覆扇動罪に問われた著名民主活動家、劉暁波氏が実刑判決を受けたことについて「政治的信条を平和的に表現することを罰するのは、中国も署名した『市民的・政治的権利に関する国際規約』(国際人権B規約)に違反する」との声明を出して中国政府を非難した。
 声明は、劉氏の妻や米大使館員らが公判の傍聴を拒否されたことも批判。中国に劉氏の即時釈放と、すべての市民の言論の自由を認めるよう求めた。(共同)

http://sankei.jp.msn.com/world/america/091225/amr0912251339005-n1.htm

 本件はまさに「政治的信条を平和的に表現することを罰するのは、中国も署名した『市民的・政治的権利に関する国際規約』(国際人権B規約)に違反する」(米国務省声明)、愚劣な人権侵害裁判であります。

 最初に紹介したサーチナ記事によれば、この米国の裁判を傍聴しようとしたり裁判の判決を批判する行為に対し、中国政府・外交部の姜瑜報道官は、「一部の外国大使館員が、中国の司法と内政に粗暴にも干渉している。中国政府は強い不満を表明する。関連国家は中国の司法と人権を尊重し、中国への内部干渉をやめてほしい」と「内政干渉」であると逆切れしているようです。

 そもそも先のオバマ大統領の訪中で、経済問題などを重視して、ろくに中国の抱えるチベット問題や人権問題を取り上げなかった大統領の弱腰が、中国政府をして今回の裁判強行を促したという観測もあるわけですが、それにしても米国政府は時を置かずに「中国は国際人権規約違反」だと堂々と非難したことは評価したいと思います。

 ・・・

 対して日本政府は本件で完全に沈黙しています。

 東アジア共同体構想を持つ鳩山総理、140人もの国会議員を引き連れて朝貢外交したばかりの民主党小沢幹事長、中国重視もけっこうですが、本件のような明らかな人権侵害裁判において中国政府に正しく日本政府として物申すことが対等な外交をするためには極めて重要なのであります。

 同じ民主主義という価値観を共有しておる同盟国アメリカには「対等な関係」を望み国際的約束事を反故にしようとしているのに、「言論の自由」「報道の自由」さえ保証されていない共産国家中国には何も正当な批判を言えない鳩山政権。

 まさにチキン政権であります。



(木走まさみず)