木走日記

場末の時事評論

「鏡の国のミンス(民主)」

 21日付け毎日新聞コラム「余録」は秀逸であります、題して「鏡の国の与野党対立」。

余録:鏡の国の与野党対立

 アリスは暖炉の上の鏡をのぞきながら子猫のキティに語りかける。「あの鏡のお家(うち)に住んでみる気はない?」。こっちから見えるところはこちらとそっくりさかさまだけど、見えないところはまるで違うかもね。さぞ、すてきなものがあるに違いないわ▲L・キャロルの「鏡の国のアリス」で、アリスは鏡の向こう側の世界に入り込む。見えなかった死角は確かに大違いで、暖炉脇の絵は生きているみたいだし、裏しか見えなかった時計の文字盤ではおじいさんの顔がにっこり笑っていたのだ▲ファンタジーの作家は、日常の暮らしのちょっとした死角からいくらでも不思議な物語と世界をつむぎだす。だが与野党が逆転し、攻守所を変えたわが永田町の「鏡の国」は、がっかりするほど何から何まで「そっくりさかさま」であった▲与党の採決強行と野党の委員長解任決議案の連発や審議拒否−−見なれた光景だが、むろん与野党が逆転した鏡の国だ。審議不十分を理由に採決を「暴挙」とする野党の非難も、野党の審議引き延ばしを批判して「粛々と採決する」との与党の主張も、そっくり入れ替わっただけだ▲政権のみならず、政治の形そのものの変化に期待が寄せられた政権交代である。国会審議でも官僚依存から政治主導へという看板にふさわしい質の高い論戦を期待していたら、のっけからこれだ。会期末をにらんでの恒例の駆け引きである▲与野党それぞれに言い分はあろう。だが、共に政治家なら鏡の国の与野党対立にあきれる国民の失望をこそ心底おそれてもらいたい。政策論争最優先の国会改革はファンタジー作家の何百分の一かの想像力があればできるはずだ。

毎日新聞 2009年11月21日 0時00分
http://mainichi.jp/select/opinion/yoroku/news/20091121k0000m070155000c.html

 与野党が逆転し、攻守所を変えたわが永田町の「鏡の国」は、がっかりするほど何から何まで「そっくりさかさま」であった

 与党の採決強行と野党の委員長解任決議案の連発や審議拒否−−見なれた光景だが、むろん与野党が逆転した鏡の国だ

 審議不十分を理由に採決を「暴挙」とする野党の非難も、野党の審議引き延ばしを批判して「粛々と採決する」との与党の主張も、そっくり入れ替わっただけだ

 ・・・

 うーむ、うまいこと表現しますな。

 「余録」子は、「与党の採決強行と野党の委員長解任決議案の連発や審議拒否」を同列に並べて批判しているわけですが、どうなんでしょう、私から言わせていただければ、やはり与党民主党のほうの「悪しき与党化」とでもいいましょうか、民主党政権の情けない状況のほうが罪は深いと思わざるを得ません。

 野党時代あれだけ与党の強行採決に反発してきたのにいきなりモラトリアム法案を審議わずか8時間で強行採決、ってどうなんでしょう。

 特に呆れるのは、この毎日コラムでは取り上げられていませんが、国会における党首討論を逃げまくっている民主党の逃げ腰ぶりです。

 主要紙各紙社説でも批判されてきました。

【朝日社説(19日付)】党首討論―情けない首相の逃げ腰
http://www.asahi.com/paper/editorial20091119.html
【読売社説(20日付)】党首討論見送り 首相の決断で応じるべきだ
http://www.yomiuri.co.jp/editorial/news/20091119-OYT1T01462.htm
【毎日社説(19日付)】党首討論 まだ一度も開かぬとは 
http://mainichi.jp/select/opinion/editorial/news/20091119ddm005070062000c.html
【産経社説(18日付)】党首討論 見送りは国会改革が泣く
http://sankei.jp.msn.com/politics/policy/091118/plc0911180254007-n1.htm
【日経社説(17日付)】首相は党首討論に応じよ(11/17)
http://www.nikkei.co.jp/news/shasetsu/20091116AS1K1600216112009.html

 「情けない首相の逃げ腰」(朝日社説)、「国会改革が泣く」(産経社説)ときついタイトルが並んでいるわけですが、はっきりいって野党時代、あれだけ与党自民党党首討論を要求していた民主党が、そして所信表明演説で「真に国民のためになる議論を力の限り、この国会でぶつけ合っていこうではありませんか」と呼びかけたはずの鳩山首相が、「法案審議を優先する」だとか、「国務大臣は原則として陪席する」という合同幹事会の申し合わせがあるだとか、どうでもいい御託を並べて党首討論を延期しているのは、逃げているとしか考えられません

 毎日社説もこう疑っています。

 実はもっとほかに理由があるのではないかと疑いたくなる。

 首相自身の「故人」献金問題は今も決着していない。その後も08年に株売却で得た所得を税務申告していなかった問題が発覚したのに続き、最近では首相の資産報告書などの記載漏れが判明し、総額5億円余相当に上る訂正をしたばかりだ。民主党党首討論に消極的なのは、この問題を避けたいからではないのか。

 ・・・

 情けないことです。

 「鏡の国のアリス」の作者L・キャロルは、主人公アリスを鏡の向こう側の不思議な世界に送り込みます。

 鏡の国、そこは今までの日常の暮らしとは似て非なる不思議なしかし魅力的神秘的な世界でありました。

 このファンタジー作家の想像力には遠く及びませんが、今回の政権交代で、多くの国民は国会に対しても「国会審議でも官僚依存から政治主導へという看板にふさわしい質の高い論戦を期待していた」(毎日コラム)はずです。

 ところがどうでしょう、与党の採決強行と野党の委員長解任決議案の連発や審議拒否、挙げ句の果てには、自身の疑惑追及を恐れての鳩山首相の情けない党首討論見送り・・・

 ・・・

 不思議な鏡の世界では、上下は逆転しませんが左右は逆転します。

 この国の国会は不思議な鏡の世界に入り込んだようです。

 逆転したのは「左」と「右」だけです。

 与党としての不誠実な対応はちっとも変わらなかった。

 情けない「鏡の国のミンス(民主)」なのであります。



(木走まさみず)