木走日記

場末の時事評論

「依存症産業」を税収確保に利用してきた一部地方自治体のインチキ体質

●「たばこ税欧州並みに」 長妻氏、価格2倍想定か〜産経新聞記事から。

 1日付け産経新聞電子版記事から。

「たばこ税欧州並みに」 長妻氏、価格2倍想定か
2009.11.1 11:12

 長妻昭厚生労働相は1日のフジテレビ番組で、2010年度の税制改正で要望したたばこ税引き上げに関し「たばこは健康の問題がある。ヨーロッパ並みの金額にする必要があるのではないか」と述べ、実現に意欲を示した。
 たばこ税に関しては、長浜博行厚労副大臣が先に「先進国の平均はだいたい1箱600円」と述べており、主力商品で現在1箱300円のたばこ価格が2倍近くになるような税率を想定した発言とみられる。
 長妻氏は同時に「税収が増えると思っても売り上げの問題がある。葉タバコ農家への影響もある」と指摘。引き上げ実現には関係者の理解を得るため、政府一体の取り組みが不可欠だとの考えを示した。
 その後、都内で記者団に、引き上げ幅について「金額の目標は持っていない。諸外国の価格を参考にしながら議論すべきだ」と強調。実現した場合は「厚労行政に使わせてもらえればありがたい」と述べた。

http://sankei.jp.msn.com/politics/situation/091101/stt0911011112001-n1.htm

 うむ、現在一箱300円のたばこをヨーロッパ並みの600円にする想定だそうですが、そもそもの禁煙主義者は歓迎でしょうし、国民の主流が非喫煙者になっている現代日本の民意は賛同するでしょうね、もっとも、愛煙家や葉タバコ農家、たばこ屋さん含めJT関係者からは猛烈な反対が起こりそうですが。

 不肖・木走はスモーカーですが、この問題については静観を決め込んでおります。

 しいていえばどうせ値上げするならば一箱1000円ぐらいに設定していただきたいものです。

 当方意志が強く、禁煙などこの歳になるまで一度も考えたことがありませんでしたが、もし一箱1000円ならば、意思の問題ではなく経済的問題としてキリッときれいに禁煙に踏み込めると思います。(←言ってることがすでに完全に他力本願でキリッとしていない意思の弱さを証明している(苦笑)ようですが・・・)

 それはともかく、このニコチン依存症に支えられたたばこ産業に税制改革のメスが入るとすれば、へその緒みたいにパチンコ依存症に支えられたパチンコ産業とのドス黒い関係と情けないけどその「依存症産業へその緒関係」を税収確保に利用して黙認してきた一部地方自治体のインチキ体質が浮き彫りになることになり、これはJTだけでなくパチンコ産業、地方自治体も巻き込んだ大騒動になること必至であります。

 今日はちょっとこの依存症産業の暗部に触れてみたいです。

 ・・・



●例え県民がパチンコ店でたばこを景品交換したとしても、地方たばこ税が県に入らなくなっているからくり

 アル中に限らず依存症ってのはもう病気ですから本人の意思では辞められない中毒症状なわけですが、よく消費者金融で借りてまでパチンコをする人の話が社会問題になりますが、どうにもその依存症には強い相関があることが知られています。

 たばこの煙がもうもうとしている競馬場・競艇場パチンコホールのお客の喫煙率が高いことは有名な話で、ニコチン依存症とギャンブル依存症は強い相関が見られます。

 中でもパチンコホールは全国津々浦々の町中・あるいは郊外に展開しておりまして、この国の一大たばこ消費地・喫煙場と化しておるのであります。

 ですからパチンコホールの景品にたばこの銘柄がズラリと並んでいるのは当然であります。

 ところで、たばこには地方たばこ税が付加されています。

 たばこ1本あたり約4.4円課税され、私の愛飲しています1箱20本入りの「マイルドセブンライト」の場合、小売定価300円のうち約87円が都道府県と市区町村に納められることになっております。

 ギャンブル依存症でニコチン依存症の人がパチンコホールでガンガン景品のたばこを消費するのは、実は地方自治体にとって地方たばこ税の取りどころとしては実に大きいのであります。

 ところがです、このパチンコホールにおける地方たばこ税が地元の自治体に正しく落ちていないというのです。

 少し古いですが6月23日付けのJ−CASTニュース記事から。

秋田県パチンコ店に「お願い」 「たばこは県内で買ってください」
2009/6/23 20:13

秋田県がパチンコ店に対して、「景品のたばこは県内で買ってください」という異例の呼びかけを行う。地方たばこ税の増収を目的としたもので、県の担当者も「貴重な財源なので、地方たばこ税本来の主旨に沿って税金が収まるようにしていただければ」と話している。

広報誌で「たばこは県内で買いましょう」などとPR

きっかけは2009年6月18日に行われた県議会6月定例会議の一般質問。県議の1人が、現在県内には、県外の企業が運営するパチンコ店が38店舗あり、そのほとんどが各企業の本社所在地から景品用たばこを配給される仕組みになっていると指摘。それにより、例え県民がパチンコ店でたばこを景品交換したとしても、地方たばこ税が県に入らなくなっていると主張した。

これに対し、佐竹敬久県知事は「平成21年度の地方たばこ税の歳入予算額は、県が約20億円、県内の市町村合計では約62億円となっており貴重な財源と位置づけられている」と説明。広報誌などで「たばこは県内で買いましょう」などとPRしていたが、指摘を受けて「事業社団体などを通じ、その数量などの流通実態を把握したいと思います」と語った。

「強制力はありませんが、呼びかけ、お願いしていきます」

総務省によると、地方たばこ税は、「できるだけ消費地に近いところに納められるように」という主旨で定められた税制度。卸売業者が小売店に販売するときに、小売店の所在する都道府県と市区町村に納税される。たばこ1本あたり約4.4円課税され、1箱20本入りの「マイルドセブン」の場合、小売定価300円のうち約87円が都道府県と市区町村に納められる。

秋田県の税務課の担当者は、「どの程度の税収が見込めるかはわからない」としながらも、
「まず、パチンコの景品たばことして、どのくらいの数量が県外から入っているか、県の遊技業協同組合と協力して把握します。地方たばこ税秋田県の貴重な財源です。強制力はありませんが、たばこは県内で購入するよう呼びかけ、地方たばこ税の本来の主旨に沿う形で税金が収まるようにしていただければと、お願いしていきます」
と話している。

http://www.j-cast.com/2009/06/23043832.html

 記事によれば、秋田県議会において議員の一人が、「現在県内には、県外の企業が運営するパチンコ店が38店舗あり、そのほとんどが各企業の本社所在地から景品用たばこを配給される仕組みになっている」と指摘、結果として「例え県民がパチンコ店でたばこを景品交換したとしても、地方たばこ税が県に入らなくなっていると主張」しました。

 秋田県としては「地方たばこ税秋田県の貴重な財源です。強制力はありませんが、たばこは県内で購入するよう呼びかけ、地方たばこ税の本来の主旨に沿う形で税金が収まるようにしていただければと、お願いしていきます」(税務課の担当者)と、強制力はないだけにホール側にお願いするスタンスしか取れないようです。

 この問題、実は税金が絡んでいるだけに複雑なんです。

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●たばこが消費されていないにも関わらず税金をぼった喰っている自治体と悪徳業者のからくり

 読者の皆さん、この秋田県のようにたばこが消費されているのに税金が取れない自治体があるということはですよ、逆にたばこが消費されていないにも関わらず税金をぼった喰っている自治体があるということです。

 そんな確信犯自治体の氷山の一角が1日付けで朝日新聞がスクープしてます。

 少し長文ですが、全文引用。

たばこ税収入、自販機1台で15億円 市が「奨励金」

 大阪府泉佐野市にある1台のたばこ自動販売機が今年度、15億円規模の市町村たばこ税を市にもたらすことが関係者への取材でわかった。1日に20本入りが6万箱以上売れた計算で、実態と大きくかけ離れている。市外で大量にたばこを販売する小売業者が書類上の操作で納税を集中させ、市は見返りに業者へ奨励金を支払っている。

 同じ手法でたばこ税収を増やしている自治体は、朝日新聞の調べで他に大阪府摂津市滋賀県竜王町、同県高月町の少なくとも三つある。消費地に納税されるのが原則の市町村たばこ税を、奨励金制度によって他の自治体から奪っている格好だ。総務省市町村税課の担当者は「法律の趣旨を逸脱していると言わざるを得ない。実態を把握したい」と話した。

 関係者によると、泉佐野市の問題の自販機は08年秋、大阪府豊中市の小売業者が商店前に設置。客は多くて1日に10人程度という。泉佐野市のたばこ税収は07年度に約7億6千万円だったが、自販機が年度途中に設置された08年度は約14億6千万円に倍増し、09年度は約23億円の見込み。他に大きな変動要因はなく、この自販機だけで年間15億円程度の税収を生んでいる。

 たばこ税は1本あたり8.7円余りで、国に約4.4円、市町村に約3.3円、都道府県に約1.1円が入る。鳩山由紀夫首相は来年度税制改正でたばこ税の増税に前向きな姿勢を示している。

 地方税法の規定では、小売業者から営業所(店舗や自販機)ごとの商品発注を受けた日本たばこ産業(JT)や関連会社が、発注書類に基づいて各営業所の所在自治体に納税する。このため、複数の自治体に営業所を持つ小売業者が書類上で発注数の配分を操作すれば、特定の自治体に納税を集中させることが可能だ。書類操作をめぐって小売業者を罰する規定はない。

問題の業者は複数の自治体に営業所を持ち、泉佐野市内では自販機1台だけ。社長の男性は取材に対し、商品の大半をこの自販機の営業所名義で発注し、実際には近畿各地のパチンコ店に販売していることを認めた。

 一方、泉佐野市は企業誘致条例を07年度に改正。一つの税目で3千万円以上の納税効果がある企業に対し、3千万円を超えた分の10%を奨励金として支払う制度を08年度に始めた。問題の業者は自販機を置いた08年度に約6千万円を受け、09年度は約1億5千万円になる見通しだ。

 市は関西空港の関連事業で多額の借金を抱えている。市商工労働観光課の射手矢(いてや)光雄課長は取材に対し、たばこ税収を増やすため奨励金制度を設けたことを認め、「法的にぎりぎりの範囲で税収確保に努めた」と説明した。

 摂津市も06年度、納税効果1億円以上の企業に対して売り上げの5%の奨励金を出す条例を施行した。全国で大量のたばこを販売する東京都の業者が市役所の売店に自販機1台を置き、税収は6億数千万円から約19億円に急増。08年度の奨励金は3億円だった。竜王町は04年度、高月町は07年度に条例を施行。摂津市と同じ業者が各1台の自販機を置き、08年度の奨励金はそれぞれ6500万円、4530万円だった。(千葉正義)

http://www.asahi.com/national/update/1031/OSK200910310139.html
http://www.asahi.com/national/update/1031/OSK200910310139_01.html

 大阪府泉佐野市で、「1台のたばこ自動販売機が今年度、15億円規模の市町村たばこ税を市にもたらすことが関係者への取材でわかった」そうであります。

 で、「問題の業者は複数の自治体に営業所を持ち、泉佐野市内では自販機1台だけ。社長の男性は取材に対し、商品の大半をこの自販機の営業所名義で発注し、実際には近畿各地のパチンコ店に販売していることを認めた」のであります。

 このインチキ詐欺まがいのカラクリは、業者にとっては高額の奨励金を自治体からもらえるのでうまみ満点であり、自治体にとっても「税収は6億数千万円から約19億円に急増」(摂津市)とオイシイ訳です。

 つまるところ地方のパチンコホールで消費されるタバコ税は地方には落ちず、このインチキによって悪徳業者と「法的にぎりぎりの範囲で税収確保に努めた」(泉佐野市射手矢(いてや)光雄課長)という確信犯悪徳自治体に落ちていたという訳です。

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 ふう。

 タバコ税にパチンコ業界。

 その「依存症産業へその緒関係」を税収確保に利用して黙認してきた一部地方自治体のインチキ体質。

 たばこ税を欧州並みにするならば、長妻さん、この反吐の出そうな自治体がらみのインチキも一掃していただきたいです。



(木走まさみず)