木走日記

場末の時事評論

都議選も風は吹くのか民主党〜練馬選挙区で分析してみる

●驚異の16.57ポイントアップ〜静岡県知事選投票率

 6日付け毎日新聞記事から。

選挙:静岡県知事選 民主系・川勝氏が初当選 自公系・坂本氏に小差

 ◇強まる解散先送り論
 与野党が次期衆院選の「前哨戦」と位置づけた静岡県知事選が5日投開票され、民主、社民、国民新3党が推薦した静岡文化芸術大前学長、川勝平太氏(60)が自民、公明推薦の前自民党参院議員、坂本由紀子氏(60)ら3人を破り初当選した。与党は4月以降、名古屋、さいたま、千葉の政令市長選3連敗に続く主要地方選の敗北。12日投票の東京都議選に関し毎日新聞が4、5日に実施した世論調査でも民主党が第1党に躍進する勢いをみせており、与党内では衆院解散・総選挙の先送り論がさらに強まっている。

 麻生太郎首相にとっては内閣支持率の低迷で「麻生降ろし」の動きが強まる中、静岡県知事選と東京都議選を乗り切って衆院解散・総選挙に踏み切りたいところだった。

 しかし、先月18日の知事選告示後、自身の「(解散は)そう遠くない日」発言などにより閣僚・党役員人事をめぐる与党内の混乱を招き、選挙戦に水を差した。民主党側は元参院議員の出馬で支持層の分裂懸念を抱えていただけに、それでも坂本氏が敗れたことで、麻生首相の責任論が与党内で出るのは必至だ。

 自民党細田博之幹事長は5日夜、東京都内で記者団に対し「非常に残念な結果。(坂本氏に)これだけの支持があったのだから(衆院選も)頑張らないといけない」とコメントした。衆院解散時期への影響については「よく分からない。首相に聞いてみないとね」と述べるにとどめた。

 同知事選は、4期務めた石川嘉延前知事が静岡空港の立ち木問題で辞職したのに伴い行われた。過去の知事選では空港建設の是非が繰り返し問われたが、6月に開港したことで政策上の際立った争点がなくなり、衆院選の行方を占う「自公対民主」の与野党対決に注目が集まった。投票率は61・06%(前回44・49%)と有権者の関心も高かった。

 民主党は、京都府出身で、出馬表明が告示2週間前と出遅れた川勝氏の知名度不足を補おうと、鳩山由紀夫代表や菅直人代表代行、岡田克也幹事長ら「党の顔」が入れ替わり静岡県入り。

 鳩山氏は「一足先に静岡で『脱官僚天下り』の社会を作り出そう」と繰り返し、衆院選民主党が目指す政権交代と、16年続いた官僚出身の前知事県政からの転換を重ね合わせる訴えを展開した。

 同党の元参院議員、海野徹氏(60)との候補者の一本化には失敗したが、「純粋無所属」を掲げる海野氏に対し、川勝氏は「民主党」を前面に押し出し、全国的な民主党への追い風に乗って無党派層にも浸透した。

 対する坂本氏はポスターに「自民党」と印刷せず、政党色を薄める戦術をとった。細田幹事長や古賀誠選対委員長ら自民党幹部は街頭演説はせず、県内の支持団体を回るなど水面下の組織票固めに徹した。

 代わって野田聖子消費者行政担当相、小池百合子環境相知名度のある女性議員が応援に入り、「唯一の女性候補」を訴えたが届かなかった。

 一方、共産党は新人の平野定義氏(59)を公認候補として擁立したが、出馬表明が告示8日前と出遅れたことなどが響いた。【松久英子】

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 ●静岡県知事選確定得票数●

当 728,706 川勝平太 =無新<1>[民][社][国]

  713,654 坂本由紀子=無新[自][公]

  332,952 海野徹  =無新

   65,669 平野定義 =共新

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 ◇川勝平太(かわかつ・へいた)60 無新<1>
 [元]静岡文化芸術大学長[歴]国際日本文化研究センター教授▽早大
http://mainichi.jp/select/seiji/news/20090706ddm001010035000c.html

 川勝平太氏728,706票に対して坂本由紀子氏713,654票とは、惜敗率97.93%というまれにみる激戦ではありました。

 この票差ではちょっとした政治動向で、結果がどうころんだかわからなかったことでしょう、まあ麻生自民党にとっては不幸にも勝利の女神に見放されているとしかいえません。

 民主の分裂選挙という戦略失策があったにもかかわらずの自民惜敗ではありますが、これも民主の時の勢いが勝ったということなのでしょう。

 結果もさることながら驚かされたのはその投票率です。

 前回の44・49%から61・06%と、驚異の16.57ポイントアップであります。

 いかに静岡県民がこの選挙に関心が高かったのか、また、おそらく静岡県民だけでなくこの4年間、一度も民意が問われることなく自民党内の政権たらい回しに、多くの国民の間に広くフラストレーションが高まっていることの証左がこの投票率16.57ポイントアップという事象であると考えることもできましょう。

 この流れというか勢いが12日開票の東京都議選へとつながるのか、大いに注目されるのであります。

 ・・・



東京都議選〜カギ握る中選挙区制

 東京都議選ですが、定員127名の現有勢力は、自民48、公明22、与党で70議席に対して、民主34、共産13、生活ネットワーク4、諸派・無所属4、欠員2、といった情勢であります。

 今回の都議選で注目されているのは、はたして自公で過半数の64議席を守れるのか、また議席数第一党を民主が自民から奪えるのか、という2点であります。

 ご承知のとおり都議選は中選挙区制であり、定数2人区などの無風区もかなりあるため、自民の議席総数が現状の48から大きく後退することは起こりにくいと考えられますが、それでも8議席減の40議席あたりまで凹むとすると、自公で過半数の64議席は確保できなくなり、また第一党の座も民主に奪われることが想定されます。

 で、今回の選挙区別政党別立候補者を表としてまとめてみました。

地区(定員) 自民 民主 公明 共産 ネット 諸派・無所属
千代田区(1)  1  1     1      
中央区 (1)  1  1     1      
港区  (2)  1  1     1     2
新宿区 (4)  2  1  1  1     3
文京区 (2)  1  1     1      
台東区 (2)  1  1     1      
墨田区 (3)  1  1  1  1      
江東区 (4)  2  1  1  1     3
品川区 (4)  2  2  1  1     1
目黒区 (3)  1  2  1  1      
大田区 (8)  3  4  2  2     3
世田谷区(8)  3  3  2  1  1  1
渋谷区 (2)  1  1     1      
中野区 (4)  2  2  1  1      
杉並区 (6)  2  2  1  1  1  4
豊島区 (3)  1  1  1  1     1
北区  (4)  1  2  1  1      
荒川区 (2)  1  1  1  1     1
板橋区 (5)  2  2  1  1      
練馬区 (6)  2  3  1  1  1  3
足立区 (6)  2  2  2  1     3
葛飾区 (4)  2  2  1  1     1
江戸川区(5)  2  2  1  1     1
八王子市(5)  2  2  1  1     2
立川市 (2)  1  1     1      
武蔵野市(1)  1  1     1     1
三鷹市 (2)  1  1     1     1
青梅市 (1)  1  1     1      
府中市 (2)  1  1     1     1
昭島市 (1)  1              1
町田市 (3)  1  1  1  1     1
小金井市(1)  1  1           1
小平市 (2)  1  1     1     1
日野市 (2)  1  1     1      
西東京市(2)  1  1     1      
西多摩 (2)  2  1     1     1
南多摩 (2)  1  1     1  1   
北多摩1(3)  1  1  1  1      
北多摩2(2)  1  1     1  1   
北多摩3(2)  1  1     1      
北多摩4(2)  1  1     1      
島部  (1)  1  1            
計(127)  58 58 23 40  5 37
改選時(欠2) 48 34 22 13  4  4

 直前に民主党が無理をして公認候補を追加したために立候補者数は自民・民主ともに58名となったわけです。

 で、勝敗のポイントは大きく2つあると思います。

 ひとつは7つある一人区(現在自民が5議席非自民2議席)で民主党が何議席のばせるのか、です。

地区(定員) 自民 民主 公明 共産 ネット 諸派・無所属
千代田区(1)  1  1     1      
中央区 (1)  1  1     1      
武蔵野市(1)  1  1     1     1
青梅市 (1)  1  1     1      
昭島市 (1)  1              1
小金井市(1)  1  1           1
島部  (1)  1  1            

 もうひとつは定数6人以上の5つのマンモス選挙区でやはり民主党が何議席のばせるのか、です。

地区(定員) 自民 民主 公明 共産 ネット 諸派・無所属
大田区 (8)  3  4  2  2     3
世田谷区(8)  3  3  2  1  1  1
杉並区 (6)  2  2  1  1  1  4
練馬区 (6)  2  3  1  1  1  3
足立区 (6)  2  2  2  1     3

 特に大田区練馬区では民主党は定員の半数に当たる候補を擁立してきました、ここで共倒れすることなく議席を確保できるのか、大いに注目されるのであります。

 ・・・



●風は吹くのか民主党〜練馬選挙区で分析してみる

 私の地元である練馬選挙区を例にして選挙結果を予測・分析してみましょう。

 定数6に対して現職4人新人7人の11人が立候補しています。

練馬区(定数6−11)
高橋和実(自現)
  松村友昭(共現)
  村岡敏孝(諸新)
  中谷祐二(民新)
  小林健二(公新)
  中井八千代(ネ新)
  野上幸絵(民現)
  山加朱美(自現)
  中川直人(社新)
  浅野克彦(民新)
  藤野克彦(諸新)

 自民2、民主3、公明1、共産1、ネット1、社民1、諸派2という内訳です。

 民主にとって定員6人のなかで、公認3人、推薦一人(ネット)というのは正直乱立気味といっていいでしょう。

 ・・・

 前回の4年前の平成17 年7月3日の都議選の練馬選挙区での選挙結果を押さえておきます。

1.石川 よしあき(公) 52,776
2.野上 ゆきえ (民) 36,997
3.高橋 かずみ (自) 31,225
4.松村 友昭  (共) 30,927
5.やまか あけみ(自) 27,643
6.山口 文江  (ネ) 25,765
  野沢 あきら (民) 21,175
  土屋 としひろ(諸) 19,010

 4年前の練馬選挙区では投票率45.41%、投票総数245,518票の結果、自民2,民主1,公明1,共産1,ネット1が当選いたしました。

 この時の各党ごとの得票率は以下のとおりです。 

地区(定員) 自民 民主 公明 共産 ネット 諸派・無所属
練馬区 23.98 23.69 21.50 12.60 10.49 7.74

 前回この選挙区では自公で45.48%、民主が23.69%の得票率で、結果自公が3人全員当選したのに対し民主は一人当選一人落選という憂き目にあっています。

 さて、今回はこの得票率のままでは当然ないのでしょうが、それにしても3人公認とはいかにも苦しい、民主党の戦略は一見無謀なようにも思えてしまいます。

 ここで前回の直前の世論調査と今回の世論調査を考察してみます。

 6日付け読売新聞記事から。

都議選「民主に」29%、自・公は計22%…読売調査

東京都議選2009

 都議選の世論調査は、民主党候補に投票するとした人は29・4%で、16・9%の自民党を大幅に上回った。

 公明党は5・1%で、「石原知事与党」の自民、公明を合わせても22・0%にとどまった。ただ、4割以上がまだ投票先を決めておらず、情勢はなお流動的だ。

 前回都議選(2005年)の同時期の調査は、自民21・9%、民主14・3%で、選挙結果は自民48議席、民主35議席だった。今回、民主への投票を考えている人の割合は15・1ポイント増え、自民は5・0ポイント減った。公明も前回(6・7%)から1・6ポイント減。共産党は4・5%で、0・3ポイント下回った。

 都議選への関心は「大いにある」「多少はある」の合計が81%で、前回(68%)より大幅に上昇した。

 次期衆院比例選の投票先でも民主39・8%、自民20・8%となり、都民は自民に厳しい見方をしていることがうかがえる。麻生内閣の支持率は18・3%、不支持率は72・0%だった。

 調査は、無作為に作成した番号に電話をかける方法で行った。有権者在住が判明した2306世帯のうち、1444人から回答を得た(回答率63%)。

(2009年7月6日03時07分 読売新聞)
http://www.yomiuri.co.jp/politics/news/20090706-OYT1T00043.htm

 この読売の世論調査によれば、前回は自公あわせて28.6%、民主が14.3%だった直前調査が、今回は逆転して、自公が22.0%(−6.6ポイント)、民主が29.4%(+15.1ポイント)とあります。
 主要各党の支持率は前回に比較して以下のとおりです。

自民=16・9%(今回)/21・9%(前回)=0.772倍
民主=29.4%(今回)/14.3%(前回)=2.056倍
公明=5.1%(今回)/6.7%(前回)=0.761倍
共産=4.5%(今回)/4.8%(前回)=0.938倍

 この世論調査の増減率を単純に前回の練馬選挙区の各党の得票率に掛け合わせて見ると、

地区(定員) 自民 民主 公明 共産
前回 23.98 23.69 21.50 12.60
今回 18.50 48.70 16.36 11.81

 世論調査の結果が記事にない、生活者ネットワーク、諸派は前回と同率と仮定し、自民2、民主3、公明1、共産1、ネット1、社民1、諸派2の今回の各党の候補者数で各党の推計得票率を頭割りしてポイント高い順に並べて見ます。

公明 16.36ポイント
民主 16.23
民主 16.23
民主 16.23
共産 11.81
ネット10.49
自民  9.25
自民  9.25
諸派ほか7.74

 あくまで4年前と今回の直前世論調査結果を単純に比較し、前回の得票率に按分した結果ですが、公明1議席は堅く、民主3議席も確実、残りの2議席を自民2人・共産1一人・ネット一人で争う構図となります。

 世論調査の勢いを反映すると驚くことに民主3人当選もありうるわけです。

 ・・・
 


●アキレス腱は鳩山代表の個人献金問題

 もちろん「4割以上がまだ投票先を決めておらず、情勢はなお流動的」(読売記事)なわけですし、ひとつのシミュレーションにすぎません、またこの結果がある程度あてになったとしても、おもだった組織票がなく浮動票頼みの都市部の民主党であります、このような機械的に票を按分できる保障はなにもなく、一人の候補者に票が集中し残りが共倒れという可能性だって十分あるでしょう。

 そしてもうひとつ、民主党にとってのアキレス腱は、ズバリ鳩山代表の個人献金問題でしょう。

 5日付けの朝日新聞記事から。 

内閣支持率20%、不支持68% 朝日新聞世論調査
2009年7月6日5時1分
 朝日新聞社が4、5の両日実施した緊急の全国世論調査(電話)によると、麻生内閣の支持率は20%で、前回調査(6月13、14日)の19%から横ばいだった。麻生首相自民党内の反発で党役員人事を見送り、閣僚2人を加えるのにとどめた対応に対しては、「評価しない」が68%で、「評価する」は16%止まりだった。

 また、自民党内の一部に衆院の解散・総選挙前に総裁選の実施をめざす「麻生降ろし」の動きがあることについては、「納得できない」が65%に達し、「納得できる」の22%を大きく上回っている。

 一方、民主党鳩山代表の虚偽献金問題については、同代表の対応に「納得できない」との意見が60%を占め、「納得できる」は27%にとどまった。「納得できる」は民主支持層でも41%しかおらず、「納得できない」(48%)の方が多かった。

 政党支持率は民主25%、自民24%(前回民主29%、自民22%)と差が縮まった。

http://www.asahi.com/politics/update/0705/TKY200907050224.html

 最新の朝日世論調査によれば、政党支持率が民主25%、自民24%(前回民主29%、自民22%)と差が縮まったというのです。

 そして民主党鳩山代表の虚偽献金問題については、同代表の対応に「納得できない」との意見が60%を占め、「納得できる」は27%にとどまっています。

 都議選投票日7月12日まであと6日間、このままこの問題を放置しておくとするならば、さらに民主党の支持率を落とすことも有り得ます。

 目いっぱい候補を擁立した民主党は、高い投票率とともにおもいっきり風が吹いてくれなければなりません。

 1000万有権者の都議選では1%の支持率の変動で10万の票が動いてしまいます。

 今回は『都議選も風は吹くのか民主党〜練馬選挙区で分析してみる』でありました。



(木走まさみず)