木走日記

場末の時事評論

「一人の娘の存在が日本をいらつかせている」〜日本の閉鎖性を批判する米フォーブス記事

●出頭のカルデロンさん父を強制収容 母は仮放免延長〜朝日新聞

 9日付け朝日新聞記事から。

出頭のカルデロンさん父を強制収容 母は仮放免延長

 不法滞在で国外退去処分が確定後、改めて在留特別許可を求めていた埼玉県蕨市のフィリピン人、カルデロン・アランさん(36)と妻サラさん(38)が9日、東京入国管理局に出頭した。一家が3人全員の滞在を求める方針を変えなかったため、同入管はアランさんの身柄を収容した。サラさんについては、長女の滞在問題が残っているため、16日まで仮放免を延長した。

 在留期限が切れるこの日までに全員が帰国するか、長女で中学1年ののり子さん(13)だけ残るか決断するよう迫られていたが、アランさんは出頭前、「のり子のために一家で残りたい。収容という事態になっても、考えを変えるつもりはない」と改めて話した。

 この問題をめぐっては、森法相が6日、全員帰国が原則としつつ、日本で生まれ育ったのり子さんが日本で勉強することを望むなら、適法に滞在する3人の親族などが養育することを条件に、のり子さんのみ在留特別許可を認める方針を示している。一家の代理人弁護士は、両親が強制送還される場合は、のり子さんだけを日本に残す方針を明らかにしている。

 両親は92〜93年、出稼ぎのため、それぞれ他人名義のパスポートで不法入国。日本で結婚し、のり子さんを出産した。サラさんが06年に逮捕されたことをきっかけに一家は国外退去処分となり、裁判でも争ったが08年9月に敗訴が確定した。

http://www.asahi.com/national/update/0309/TKY200903090119.html

 同世代の娘を持つ父親の立場としては同情を禁じえないですが、日本政府のこれまでの不法滞在者は原則国外退去処分という方針があるかぎり、裁判の結果も敗訴であり、森法相が全員帰国が原則としつつ本人が希望すればのり子さんのみ在留特別許可を認める方針を示しているのは、せいいっぱいなのでありましょう。

 ただの期限切れのオーバーステイとは異なり「他人名義のパスポートで不法入国」という悪質性を考慮する限り、同様のケースでこれまでも何人もの国外退去処分がされてきておりこの一家だけを特別視することは政府の方針を大きく変えない限りこのシーンではできないことでしょう。

 私は本件では日本政府の取った処置はいたしかたないと消極的に評価します。

 「消極的」の意味は、私は個人的には外国人労働者とその家族に対する日本政府の不寛容政策そのものの原則に異議を唱える者であるからです。

 ただ本件では特にネット上で、一部に実にエモーショナルな過剰反応が見受けられますのが残念であります。

 13歳のこの彼女にいかような罪状があるというのか、不況の折でもありますが、少子高齢化が進むこの貿易立国である日本、もうすこし視野広くこの国の現状と将来を冷静に考えてみたいです。

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●School Girl Makes Japan Uneasy〜米フォーブス記事

 本件は海外のメディアからも注目されています。

 その中でも9日付け米フォーブス記事は興味深い視点から本件を掘り下げています。

Tokyo Dispatch
School Girl Makes Japan Uneasy
Tim Kelly, 03.08.09, 11:23 PM EDT
http://www.forbes.com/2009/03/08/tokyodispatch-japan-immigration-markets-schoolgirl.html

 ティム・ケリー記者の一人の娘の存在が日本をいらつかせているというタイトル記事ですが、記事全文をご紹介。

School Girl Makes Japan Uneasy

女生徒が日本をいらつかせる

Japan's immigration gatekeepers might do well to consider their population predicament.

日本の入国管理の門番達は、日本の人口の窮状を熟考したほうがいい。

Born in a Tokyo suburb, Noriko Calderon chatters in Japanese and at 13 looks like any other sailor-uniformed Japanese schoolgirl. To Japan's immigrations officials, however, Noriko and her alien family represents the thin edge of a wedge that threatens Japan with foreign hordes.

 東京郊外で生まれたノリコ・カルデロンはペラペラ日本語でおしゃべりする、そして13歳の他の日本人のセーラー服を着た女生徒達とそっくりである。 しかしながら、日本の入国管理局にとっては、ノリコとその外国人家族のことを、外国人の大群が日本を脅かす小さな糸口と見なしている。

That explains why Japan's gatekeepers have left her a tough choice: Leave home and travel to the Philippines with her parents, who were nabbed after living illegally in Japan for 16 years. Or, abandon her folks and stay alone on a temporary visa until she finishes school. Noriko has until Monday to decide, otherwise immigration officials will throw the whole family out.

 それによってなぜ日本の門番達が厳しい選択を彼女に課したのかを説明できる、16年間の不法滞在のうえで逮捕された両親とともに家を出てフィリピンに旅立つか、 または、彼女の両親を捨て、彼女が学校を卒業するまで、一時ビザで一人だけで滞在するかだ。ノリコは月曜日までに決めなければならない。さもなければ、入国管理官は家族全員を追放することだろう。

A closed country ruled by samurai lords until American warships forced it to open up, Japan has never fully overcome its awkward relationship with the rest of the world. The prolifigate use of "international" in business , company logos or building names attests to a keen Japanese need to be seen as a global player. Yet many still buy into the idea that they are too apart, or too unique for any non-Japanese to really fathom them. Others who are more extreme pride themselves on keeping the Japanese "race" pure so they avoid the social strains that multiracial communities must deal with.

 アメリカの軍艦でやむを得ず開国するまで,鎖国はサムライの支配下で統治されていた、以来日本は他の国々とのぎすぎすした関係を完全には一度も克服できたことはない。ビジネス用語、会社のロゴ、あるいはビルの名称に見られる「国際的(インターナショナル)」のくどいほどの乱用は、日本がグローバルなプレーヤーと見なされるための激しいニーズを証明している。しかし、まだどんな外国人にとっても彼ら日本人を理解するにはあまりに乖離しすぎているかあまりにユニークすぎるというアイディアに、大多数は賛成している。より極端な人達は日本「民族」の純潔を保つことに誇りをもっているので、彼らは多民族共同体が対処しなければならない社会的な緊張を避けようとする。

As the existence of Noriko suggests, the reality is different. Though a mere 2% of Japan's population is foreign-born, compared with one in ten in the American melting pot, foreign communities have established themselves among their Japanese hosts. How many illegal immigrants there are nobody knows exactly. The nation's 14,000 miles of coastline offers ample choice of secluded beaches for water-borne migrants to slip in.

 ノリコの存在が示すように現実は違う。人種のるつぼのアメリカの一割と比較すると日本の人口のわずか2%ではあるが外国生まれが存在し、外国人共同体は日本人集落の中に自分たちを定着させてきた。そこに何人の不法入国者がいるのか、誰も正確にはわからない。この国の1万4000マイルの海岸線は、水上輸送で密入国者がこっそり入るために人里離れている海岸の十分な選択を提供するのだ。

Though Japan's rulers are loath to admit it, the Japanese would miss foreigners if they packed their bags and left. Japan's premier company, Toyota Motor (nyse: TM - news - people ), would struggle to build its cars without them. A tenth of the workforce in Toyota City, a former textile town in central Japan that is the automotive giant's base, is non-Japanese, mostly Brazilian or Chinese. Working in factories supplying the parts and components that Toyota screws and snaps together to build its cars, they help keep the "Detroit of the East" humming.

 日本の支配者層はそれを認めるのに気が進まないようだが、もし外国人が荷物をまとめていなくなるならば、彼らがいないことで寂しい思いをすろのはむしろ日本人だろう。 日本の最高の会社であるトヨタ自動車は、彼らなしで車を造るようにもがくことになるだろう。 トヨタ市(自動車の巨人の地盤である中部日本の昔の織物の町)の労働者の10分の1は外国人であり、ほとんどブラジル人または中国人である。 彼らはトヨタが車を製造する工程でコンポーネントをねじでとめ組み立てるために工場で働いている、彼らが「東洋のデトロイト」が鼻歌を歌うのを助けているのだ。

Although that hum has grown fainter as the global recession bites, the need for more foreign hands is growing. The reason is that the Japanese are dying out. Japan's population has started to contract and by 2030 there will be 10 million fewer people. Its workforce will shed more than half a million people a year as baby boomers head into retirement and start spending taxes rather than paying them.

 その鼻歌は最悪の世界的景気後退でまったく聞こえなくなったが、しかし外国人労働力の必要性はより高まりつつある。その理由は日本人が絶滅しかけているということだ。 日本の人口は縮小し始めていて、そして、2030年までには、さらにもう1000万人が減小することであろう。労働者はベビーブームに生まれた者がリタイヤするにあたり、1年あたり500000人を越える勢いで減少するが、彼らは今後税金を納めるよりもむしろ税金を費やし始めるであろう。

Though this demographic crisis is unfolding, Japan's political leaders rarely suggest the obvious solution of importing foreigners to keep its economy ticking over. Instead, they browbeat women to have more babies. Others enthuse about a technological utopia of automation that will keep Japan foreigner free. After all, they figure, better to have granny nursed in the steely embrace of a robot than by the warm hands of a Filipino nurse.

 この人口の危機は拡大しつつあるが、日本の政治的指導者が経済を安定的に持続させるために外国人労働者を受け入れるという明確な解決法については、めったに提案しない。 代わりに彼らは、より多くの赤ん坊を生むよう女性達を威嚇する。ある者達は、日本が外国人の圧力から自由になるために、オートメーションの技術的なユートピアに夢中になっている。 つまるところ、彼らは、ロボットの鋼鉄のような抱擁でおばあさんを看病させることのほうが、フィリピン人の看護師の暖かい手よりましだと心に描いているのだ。

Though youthful Noriko is just what Japan needs, she is, it seems, not worth keeping around. Having exhausted all legal avenues to win permission to stay together in Japan, there is one last sliver of hope for the desperate family. The office of the United Nations's High Commissioner for Human Rights has made an "emergency inquiry" to Japan regarding the girl's case.

 若々しいノリコは正に日本が必要としているのだが、彼女は保護される価値がないように思われている。日本で家族団らんする許可を得るためのあらゆる法的手順は使い切ったが、破れかぶれの家族には、最後の希望のかけらが残されている。国連人権高等弁務官事務所が少女のケースに関して「緊急の問い合せ」を日本にしたのだ。

Appeals to compassion may not have worked, but questioning Japan's standing in the international community may.

 同情に訴えることはうまくいかないかもしれないが、日本の国際社会における立ち位置を質することはうまくいくかも。



(訳:木走まさみず)

 なかなか考えさせられる記事です。

 サムライ時代の鎖国以来、日本人は二言目には「国際的(インターナショナル)」と口にするがちっとも実態が伴っていない証左がこのノリコの問題なのであり、しかし世界に誇るトヨタ自動車の工場ですら大量の外国人労働者を雇用している現実があり、今は不況だがこれからさらに労働人口が減少するであろう日本の深刻な人口問題を考えれば外国人労働者は受けいらざる得ないはずだ、という論調であります。

 実にユニークな視点の記事であります。

 特に「ロボットの鋼鉄のような抱擁でおばあさんを看病させることのほうが、フィリピン人の看護師の暖かい手よりまし」あたりの描写は苦笑せざるを得ませんでした。

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 気の毒なノリコさんの件は、表層的な感情論で同情したりあるいは反発するのではなく、冷静にこの国のおかれている状況を考えるきっかけとしたいです。

 少なくとも食料をはじめ大部分の原材料を海外から輸入し続けないと存続できない貿易立国日本においては、世界各国が保護貿易など保守的な制限政策をし、自由に安全にモノを輸出入できない国際環境が構築されることで最もダメージを受けるわけです。

 いつまでもモノは輸入するがヒトは受け入れない政策を取り続けることが日本にとって本当に正しいことなのか、現実的に改めて国際的視野でもって冷静に考えるべき問題なのではないでしょうか。



(木走まさみず)