木走日記

場末の時事評論

大企業は蓄えてる「内部留保」の一割でいいから社会還元してみては?

●ためこむ企業 人は減らすのに… 大手製造業16社「内部留保」33兆円〜東京新聞紙面トップ記事から

 24日付け東京新聞中日新聞)紙面トップ記事から。

ためこむ企業 人は減らすのに… 大手製造業16社「内部留保」33兆円
2008年12月24日 08時56分

 トヨタ自動車キヤノンなど日本を代表する大手製造業16社が大規模な人員削減を進める一方で、株主対策や財務基盤強化を重視した経営を続けていることが23日、共同通信社の集計で明らかになった。2008年度は純利益減少が必至の情勢だが、16社のうち5社が増配の方針、前期実績維持とする企業も5社だった。

 利益から配当金などを引いた内部留保の16社の合計額は08年9月末で約33兆6000億円。景気回復前の02年3月期末から倍増し、空前の規模に積み上がった。

 過去の好景気による利益が、人件費に回らず企業内部にため込まれている。世界的な景気減速が続く中で、各社は内部留保などの使途について慎重に検討するとみられる。一方で08年4月以降に判明した各社の人員削減合計数は約4万人に上り、今後も人員削減を中心とするリストラは加速する見通しだ。

 派遣社員などで組織する労働組合は「労働者への還元が不十分なまま利益をため込んだ上、業績が不透明になった途端、安易に人減らしに頼っている」と批判している。

 減益見通しにもかかわらず増配予想を変えていないのはソニーパナソニック。これまでのところキヤノンは配当について、08年3月期実績水準を維持、トヨタ自動車は未定としている。ただ景気悪化の速さに企業が戸惑っている面もあり、今後は見直す動きが出てくるとの見方もある。

 調査対象は、キヤノンなど電機・精密9社とトヨタ自動車など自動車業界7社。02年3月期(キヤノンのみ01年12月期)と08年9月末時点の決算資料や各企業からの回答を基に集計。内部留保は法定の積立金を除く剰余金や各種の評価損益などを合計した。

中日新聞
http://www.tokyo-np.co.jp/s/article/2008122490030218.html

 うーん、「利益から配当金などを引いた内部留保の16社の合計額は08年9月末で約33兆6000億円。景気回復前の02年3月期末から倍増し、空前の規模に積み上がった」そうであります。

 「16社の合計額は08年9月末で約33兆6000億円」となると、一社当たり2兆円強でありますな。

 そうか、大企業の場合、財務体質が「筋肉質」になると「内部留保」が肥えるのかあ・・・

 そんなんこの際吐き出しちゃえばすっきりしていいのです、っと。

 ・・・

 冗談はさておき。

 記事は「過去の好景気による利益が、人件費に回らず企業内部にため込まれている」と指摘していますが、記者には申し訳ないですがなにをいまさら感がなくはないですね。

 今世紀に入ってから日本の大企業がその体質改善に勤しんできたのは周知の事実であり、その財務体質はすっかり「筋肉質」になったことは、以前の当ブログのエントリーでも取り上げたとおりであります。

(前略)

日本企業の企業体質は「筋肉質」

 確かにその通りでしょう。

 過去数年、日本企業は、過剰雇用の見直しや報酬体系の見直しの結果、企業の生み出した付加価値に占める人件費の割合である労働分配率を徹底的に低下させてきました。

 この経営改革により、昨年までは売上高経常利益率は過去最高レベルにあるほか、損益分岐点比率が低下するなど、企業体質はまさに「筋肉質」になったと言えましょう。

 少々の売上が鈍化する場合でも大幅減益に陥りにくい体質にあるといえます。

(後略)
■2008-11-03 「筋肉質」になった企業が大量の非正社員からクビを切る地獄絵が始まる より抜粋
http://d.hatena.ne.jp/kibashiri/20081103

 ここにきて自動車関連などの製造業を中心に非正規社員の人員削減問題が急浮上しているわけですが、「世界的な景気減速が続く中で、各社は内部留保などの使途について慎重に検討するとみられる」のは当然でありまして、不況時にこそ財務体質をより悪化させるような策は経営陣としては取りづらいのだろうと思われます。

 まあしかし、数万人単位の人員整理計画を急ぐ中で30兆円に及ぶ内部留保を抱えているというのは、不況に喘いでいる庶民感情からするとこれは少々目立つわけでして各経営陣としても企業イメージをいかに維持すべきか悩ましいところでありましょう。

 彼らは全て世界的規模のグローバリゼーション市場で過酷な競争を耐え抜くために、労働分配率を徹底的に低下させて財務体質を「筋肉質」にしてきたわけで、売上げが下がれば非正規社員を中心に人員整理し財務体質劣化を防ぐのは経営陣として当然の策であろうと思われ、この不況時に今更体質を変えるのは愚策であると判断してもおかしくはありますまい。

 彼ら経営者が株主や投資家の評価を気にして財務体質を劣化させまいとしているのは、グローバル企業としての企業サバイバル戦略の一環である訳で、「企業が生き残る」ことがこの未曾有の不景気の中で経営者としての第一の義務であることも、零細事業主のはしくれとして、私はよく理解できます。

 労働者保護に走り、アメリカのビッグ3のように企業の存続そのものが危ぶまれては元も子もないのも確かなのです。


 ・・・



●企業の社会的責任・CSRはどこにいった?

 しかしです。

 未曾有の不景気の中で数十兆円の内部留保金を抱えながら数万人単位の人員整理をするという行為は、彼ら大企業がつい最近まで盛んに取り組んでいた(あるいはポーズだけだったのか?)はずの企業の社会的責任の実現、CSRとはどのように整合性を取るつもりなのでしょう。

企業の社会的責任

出典: フリー百科事典『ウィキペディアWikipedia)』

企業の社会的責任(きぎょうのしゃかいてきせきにん CSR: Corporate Social Responsibility)は、企業が利益を追求するのみならず、組織活動が社会へ与える影響に責任を持ち、あらゆるステークホルダーからの要求に対して、適切な意思決定したことを指すものである。

企業の経済活動にはステークホルダーに対して説明責任が有り、説明出来なければ社会的容認が得られず、信頼のない企業は持続できないとされる。 持続可能な社会を目指すためには、企業の意思決定を判断するステークホルダー側である消費者の社会的責任(CSR:Consumer Social Responsibility)、市民の社会的責任(CSR:Citizen Social Responsibility)が必要不可欠となる。

http://ja.wikipedia.org/wiki/%E4%BC%81%E6%A5%AD%E3%81%AE%E7%A4%BE%E4%BC%9A%E7%9A%84%E8%B2%AC%E4%BB%BB

 CSRというのは、企業が利益を追求するのみならず、組織活動が社会へ与える影響に責任を持つ、つまり社会の一参加者として企業も、持続可能な未来を社会とともに築いていく責任を有するわけであります。

 日本でCSRが語られるときにしばしば持ち出される江戸時代の『近江商人の家訓』があります。

近江商人の家訓
三方よし」「売り手よし、買い手よし、世間よし」

 この未曾有の不況の中だからこそ、大企業には企業自身と株主など投資家の利益を守る自己保身策だけではない、広く社会基盤を守るマクロ的視野を持った施策が求められているのではないでしょうか。

 「世間よし」の視点を無視して「株主よし」だけでは、社会的責任を果たしているとは言えないでしょう。



●「筋肉質」な大企業は蓄えてる巨額「内部留保」の一割を社会還元してみては?

 「筋肉質」な企業の内部留保は、未曾有の不況の今こそ、余剰の雇用確保など社会還元的な施策に使われるべきではないでしょうか。

 もちろん企業が倒産しては元も子もないのでありますが、企業存続のため16社合計33兆円という内部留保の全額を留保し続ける必要があるとも思えません。

 そこで、各企業の存続を前提に内部留保の一部をマクロ的施策に回すという折衷案はいかがでしょうか。

 例えば、せめて33兆円の一割の3.3兆円でも余剰の雇用確保など社会還元的な施策に回せば、すべて「真水」なだけに、麻生政権のばら撒き2兆円定額給付金より、はるかに即効性があるはずです。

 具体的には、

 1.人員削減計画の即時凍結

 2.純利益減少中の株主対策の凍結(増配や前期実績維持をやめ、利益減少に準じて減配もしくは無配)

 3.環境関連事業など新規事業創設ならびに余剰人材活用及び新規雇用創設

 などいかがでしょうか。

 アバウトな費用試算をしますと、1.の4万人の人員削減計画凍結で、一人年1000万円の費用が発生するとして、年4000億円、例えば3年間の措置とすれば、1兆2000億円。

 2.は費用発生というより逆に少なくとも企業の利益減にはならないので試算から省きます。

 3.で、4万人の新規雇用を生むとしてやはり3年間で1兆2千億、新規事業に対する設備投資1兆円規模と試算。

 合計3兆4千億となります。

 もちろんこの試算自体は正確とはいえないでしょうが、まあこんな規模感でどうでしょう、というあくまで目安ではありますが。

 2.の正当な株主対策は当然として、短期的な採算は度外視したこれらの施策は、巨額の「内部留保」を蓄えているリーディングカンパニーでなければ体力的には不可能であります。

 政府も上記施策に対しては3年間限定で税制優遇など支援してはどうでしょう。

 ・・・

 全社とは言いません、せめて一社でもこのような視点での取り組みをぶち上げてくれませんかね。

 そのような会社が一社でも現れたら、企業イメージは一新、国民は熱烈歓迎間違いなし、国際的にも高い話題を呼びますですよね。

 で、日本の場合、一社が先行して成功すると、雪崩を打って右へ習え、ってこと、よくあると思うのですけど。

 ・・・

 無理ですか? 

 ですよね。

 ですかね。



(木走まさみず)



<関連テキスト>
■2008-11-03 「筋肉質」になった企業が大量の非正社員からクビを切る地獄絵が始まる
http://d.hatena.ne.jp/kibashiri/20081103
■2007-09-28 不思議な経済大国ニッポン
http://d.hatena.ne.jp/kibashiri/20070928