原油価格急騰の影の主役は実は日本という話
●原油価格急騰 投機資金の監視で協調を〜産経社説から
今日(5日)の産経新聞社説から。
【主張】原油価格急騰 投機資金の監視で協調を
2008.6.4 02:33原油価格が1年前に比べ倍以上に高騰し、ガソリンの店頭価格を1リットル=170円に引き上げる給油所が相次いでいる。
要因は中国やインドなどの新興国の経済成長に伴う需要拡大だけではない。投機資金が原油市場に大量に流入し、相場を実体以上に押し上げているためだ。
この状況にブラウン英首相は「第3次石油ショックの到来」と警鐘を鳴らす。7月の洞爺湖サミットでは、主要議題の一つとして投機資金の監視強化や管理のあり方を議論する必要がある。
原油価格については、経済産業省がまとめた平成19年度版「エネルギーに関する年次報告」(白書)でも、価格の3分の1強が「需給バランス以外の要因」と指摘し、投機資金の流れに強い懸念を示している。
この投機資金の源流は、米国の低所得者向け高金利型住宅ローン(サブプライムローン)問題である。これに端を発する金融危機で株や債券が下落した。
投機資金は金融市場から原油や穀物などの商品市場に移動し、結果的に原油価格上昇に拍車がかかった。
価格の上昇はガソリンにとどまらない。食料などの生活必需品の価格も押し上げ、世界的にインフレ懸念が強まっている。日本経済も消費が抑制され、景気減速が強まりかねない情勢だ。
問題は即効性のある処方箋(せん)がなかなか見当たらないことだ。投機資金の流入を抑えるには、金融の引き締めは有力手段の一つだが、サブプライム問題が収束するまで金融緩和は持続せざるを得ない。これが各国の中央銀行のジレンマになっている。
しかし、このまま投機資金を放置しておくわけにはいくまい。米国の商品先物取引委員会は原油取引の監視強化策を発表し、一部の取引に相場操縦の疑いがあることを公表した。
投機資金は市場にダイナミズムを与えるが、その規模が過大になると価格変動を増幅し市場を不安定化させる。投機資金の監視を強めることは、市場の秩序維持には必要な措置であろう。
今度のサミットでは地球温暖化問題も討議される。長期的には脱石油が必要なのは言うまでもない。加えて、異常な水準の原油価格の抑制について、各国が知恵を絞り、協調して対処することが求められている。
http://sankei.jp.msn.com/economy/finance/080604/fnc0806040234001-n1.htm
「原油価格が1年前に比べ倍以上に高騰し、ガソリンの店頭価格を1リットル=170円に引き上げる給油所が相次いでいる」という書き出しで始まる産経社説ですが、確かに今回の原油価格急騰の裏には、「投機資金が原油市場に大量に流入し、相場を実体以上に押し上げている」ことが要因のひとつとしてあげられることでしょう。
産経社説子が指摘しているとおり、「この投機資金の源流は、米国の低所得者向け高金利型住宅ローン(サブプライムローン)問題」にあることは間違いないことでしょうし、「投機資金は市場にダイナミズムを与えるが、その規模が過大になると価格変動を増幅し市場を不安定化させる」わけで、「投機資金の監視を強めることは、市場の秩序維持には必要な措置」なのは議論の余地はないことでしょう。
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ただ、どうも日本のメディアの論説で気になるのは、今回の原油や穀物相場の急騰が「中国やインドなどの新興国の経済成長に伴う需要拡大」を背景に、米国のサブプライムローン問題をきっかけとした欧米系投資ファンドの資金流入という単純な図式化で語ろうとしている点でありまして、日本人は今回の原油価格急騰にまるで他人事のような論調ばかり目立つことであります。
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●主役は日本の投資家・商品市場に資金流入〜ピーター・クラーク英マンCEOに聞く
原油価格が1年前に比べ倍以上に高騰しているこの状況は、確かに「第3次石油ショックの到来」(ブラウン英首相)と表現しても過言ではないわけですし、商品先物運用に投資している欧米ヘッジファンド各社は空前の売り上げと利益を上げております。
例えば商品先物運用を得意とするヘッジファンド最王手、英マン・グループでは、運用資金が五月末でなんと785億ドル(約8兆円)と一年前に比べて二割強増えているようです。
しかしそのように商品市場に投資して今回の原油高騰の元凶となっている欧米ヘッジファンドの顧客が、日本人が主役であることはあまり報道されていません。
ネットでは掲載されていないようですが、昨日(4日)の日経新聞紙面の興味深い記事をテキストをおこしてご紹介しましょう。
主役は日本の投資家・商品市場に資金流入〜ピーター・クラーク英マンCEOに聞く
原油や農産物など国際商品市場に投資マネーが流れ込み、相場高に弾みがついている。商品先物運用を得意とするヘッジファンド最王手、英マン・グループのピーター・クラーク最高経営責任者(CEO)は日本経済新聞に「日本の個人マネーが運用資産拡大のけん引役だ」と述べ、日本の投資資金が大量に商品市場に流れ込んでいることを明らかにした。長期的に商品相場高は続くとの見方も示した。
−−運用資金が五月末で785億ドル(約8兆円)と一年前に比べて二割強増えた。
「マネー流入の主役はいまや日本の個人投資家だ。個人からの預かり資産430億ドルのうち日本だけで24%を占める。国別では米国や欧州各国を上回り最大だ。日本は超低金利が続き、分散投資のニーズが強い。元本保証型などリスクを抑えた商品が売れ筋だ」
−−株式や債権、商品先物市場などに分散投資する主力ファンドの前期の運用成績が三割超のプラスとなった。
「相場の流れに追随する運用手法なので、円やユーロ、原油や金属など値上がりした相場の持ち高を高めたのが功を奏した。株式相場は急落したが、商品相場は連動性が低いので、分散投資すれば特定の市場の影響は受けにくい」
−−先物ファンドが商品相場高に拍車をかけている
「短期的には相場の流れを加速させる要因になるかも知れないが、長い目でみれば金融や商品市場の取引量を増やし、流動性を高める役割を果たす。例えば今は商品相場の上昇要因だが、相場が下落すれば売り(ショート)が膨らむはずだ」
「短期的には投資マネーが相場を振幅させるかもしれないが、方向性を決めるのはあくまで実体経済だ。エネルギー相場でいえば、中国の台頭で需要が増える一方、供給体制が追いつかず、これが歴史的な高値要因となっている。需給が逼迫(ひっぱく)する状況は改善するとは考えにくく、長期的に国際商品相場全体に上昇が続くだろう」
(聞き手はロンドン=田村篤士)日本経済新聞2008年6月4日 経済2面より
ピーター・クラーク英マンCEOによれば、事実として「個人からの預かり資産430億ドルのうち日本だけで24%を占める。国別では米国や欧州各国を上回り最大」なのであります。
これは、今回の原油高が国際的には米国の低所得者向け高金利型住宅ローン(サブプライムローン)問題がひとつのきっかけであることは確かなのでしょうが、日本に限って言えば、ピーター・クラーク英マンCEOの指摘どおり「日本は超低金利が続き、分散投資のニーズが強い」という固有の問題がより大きいのであります。
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「米国の商品先物取引委員会は原油取引の監視強化策を発表し、一部の取引に相場操縦の疑いがあることを公表した」(産経社説)とおり、「投機資金は市場にダイナミズムを与えるが、その規模が過大になると価格変動を増幅し市場を不安定化させる」(産経社説)のは事実であります。
一部欧米ファンドの過熱気味の行き過ぎた「投機資金の監視を強めることは、市場の秩序維持には必要な措置」なのでありましょう。
しかしながら、それら欧米ファンドの一番のお得意先が日本の投資家であることは、我々日本人はもう少し自覚しておいたほうがよろしいでしょう。
(木走まさみず)