木走日記

場末の時事評論

老人医療ばかり騒がれているが、子供医療の「不平等」な現実はどうなのか?

 なんか「後期高齢者医療制度」の評判がすこぶる悪いようです。



●東京都23区では競うようにすべての区が15才までの子供の医療費をタダにしている事実

 老人医療ばかり騒がれていますが、子供医療、こっちのこの「不平等」な現実はどうよという話題から。

 不肖・木走は東京都練馬区在住でありますが、最近6年生の娘が毎週のようにいろいろな医者に母親からの指令(?)でいっていることに気付きました。

 先週までは歯医者に通い「虫歯が一本も無くなった」と自慢しておりましたが、今週は外耳炎の疑いがあると耳鼻科に行ってます。

 そういえば娘は確かにひどい花粉症でしたが、花粉症のときにも医者に行って処方してもらってました。

 なんでそんなに医者通いさせるのか不思議に思っていたところ、母親から理由を聞いてちょっと複雑な気持ちになりました。

 「練馬区では15才までの子供は医療費が全額助成、つまりタダになったからよ」

 うーん、医療費がタダになったからといって、必要ないのに医者に行かせるのもどうなのかと思いますが、母親曰く、

 「歯医者とか15才までのタダのウチに治療しておいたほうがお得だから」

 というのです、聞けば娘の友達もおおくがみんな歯医者に通っていたのだとか。

 ・・・

 ふう。

 何といえばいいのか、これは受益者としては練馬区に怒られそうですが、こういう税金の使い方はどうなんでしょうか、なにかしっくりこないのです。

 少しネットで調べてみれば、東京都23区では競うようにすべての区が15才までの子供の医療費をタダにしているのです。

 全国の全ての自治体を調べたわけではないですが、3才までの乳幼児の医療費助成はほとんどの自治体で行われていますが、その後の医療費助成は、ある自治体では義務教育前(6才)までとか、ある自治体では12才までとかまちまちなのであります。

 当たり前ですが全国では、東京都区部のような財政に余力のある自治体ばかりではなく、夕張市をはじめ深刻な財政難に直面している過疎地区も少なくありません、そのような財政余力のない自治体では15才までの子供の医療費をタダにすることなどまったく不可能なわけです。

 子供に掛かる医療費助成は、小さな子供のいる家庭にはありがたいでしょうし、少子化対策なのは理解できますが、しかし、このような行政サービスが自治体によって競わせるような方法は、自治体間の行政サービスの格差がますます拡大してしまうようで、個人的には問題があると思いました。

 このようなやり方を続けていくと、これでは財政力のある自治体と無い自治体ではますます子供の数に差がついてしまわないでしょうか。

 住む地域によって子供に掛かる医療費にこれほど差があること自体、これは検討すべきゆゆしき問題だと考えます。

 ・・・



●「後期高齢者医療制度」には、評価して良い点もあるのではないか?

 上記の子供の医療費助成の事例もそうですが、今問題になっている「後期高齢者医療制度」の問題も、国民健康保険が市区町村つまり地方自治体に押し付けられていることを抜きには語ることはできないと思います。

 一人当たりの国保医療費は自治体によって4倍もの差が発生しており、結果保険料自体も自治体によって5.4倍もの格差が生じているのです。

国民健康保険における都道府県の役割の強化(4ページ目)
市町村国保地域格差(平成14年度) 参照
http://www.mhlw.go.jp/shingi/2004/10/dl/s1022-4f.pdf

 私は、医療費の公的助成制度も医療保険制度も、もはやこれ以上地方自治体に負担させることは不可能であり、多くの自治体が財政破綻の危機に瀕していることを考えれば、保険運営はできる限り広域化していくしかないと考えています。

 個人的には、究極的には税法式導入により国で一元管理が一番望ましいとすら考えています。

 その意味で、批判が多いことは承知してますが、今回の「後期高齢者医療制度」が、各自治体から都道府県単位の「広域連合」として保険料の地域格差を少なくとも都道府県単位に丸めたことは評価したいのです。

 これでも報道によれば一番少ない青森県と神奈川県などでは、一人当たりの保険負担が2倍となっておりますが、かつての国保の5倍以上という格差に比べれば平準化されたと評価してもよいのではないでしょうか。

 メディアも野党・民主党も、今回の「後期高齢者医療制度」の不備や欠陥ばかり取り上げていますが、より本質的なことはかつての地域自治体に依存している老人医療の制度が破綻しつつあった点を忘れてはいけないと思います。

 そもそも会社勤めの扶養者たる老人は医療費ゼロ、自営業など国民保険加入者の扶養者たる老人は医療費自己負担という究極の不公正税制を正すこと、さらに自治体により拡大しつつあった一人当たり保険料負担金の平準化を図ること、今回の「後期高齢者医療制度」には、評価して良い改革も少なくないと思います。

 ・・・

 医療行政サービスを自治体に競わせるような手法はこの国の地域格差を拡大していくだけでしょう。

 子供の医療制度も今回の「後期高齢者医療制度」が目指したようにせめて都道府県単位の「広域連合」化して平準化を計る必要があると思います。

 住んでいる場所によって、子供や老人に対する医療行政サービスが違ってしまう制度など、多くの国民に支持されることはないでしょう。

 その意味で、「後期高齢者医療制度」には、評価して良い点もあるのではないでしょうか?

 あと老人医療ばかり騒がれていますが、子供医療、こっちのこの「不平等」な現実はどうして問題視されないのか、私にはよく理解できないのです。



(木走まさみず)